ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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5章 風呂とかき氷と甘々の目撃者たち

『コフレ』の裏側にて

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「お休みの方も集まってくれてありがとう。早速だけどコレを見て下さい。」

「そっ、それは!」

今日出勤して一部始終を見ていたスタッフがざわめく。

雑貨店『コフレ』のスタッフルームにて緊急ミーティングが開かれた。
しかも急遽休日のスタッフにまで招集がかかった特別なもの。

「そうです。あの方が持ち込まれた物です。」

わたしの前に置いたキャニスターとフローティングキャンドルに視線が集まりました。

「えーとセリーヌ、あの方って誰なんだい?」

共同オーナーで生産部門の責任者でもあるわたしの夫から質問がとんできました。

「昨日、アレナド様がご兄弟揃って連れられていらっしゃった方です。お名前はシオンさんとおっしゃいます。」

「ああ、話だけは聞いてるよ。凄い美人さんなんだってね。」

「そのとおりです。そのシオンさんから商品の販売を打診されました。まずはこちらから…。」

準備してあった水が入っているガラスの器にフローティングキャンドルを浮かべ、火を灯します。
するとふんわりと優しい香りが漂い始めました。

「ふむ、とても可愛らしくていいじゃないか。ウチのアロマキャンドルより香りは控え目かな?」

「そのようですね…。皆さんの感想も聞かせてください。」

「はいっ!とってもカワイイと思います!!」

「水に浮いただけなのにキャンドルに高級感が出たと思います。」

「贈り物にしたら喜んでもらえそうですね。」

やはり好評です。

「ではいつもどおり製作は任せますね。ちなみに商品として店頭で販売を開始したら、あのお三方が来店して購入して下さるとお約束して頂きました。絶対に話題になりますから宣伝にもなりますよ。」

パチパチと皆さんが拍手をしてくれましたが、本番はここからです。

「では次です。お休みの方にまで集まってもらったのは、スタッフ間に遺恨を残さないためです。これからデリケートな質問をしますが、嫌なら答えなくても良いです。ですがその方は権利を放棄したと見倣します。よろしい方は挙手を。」

全員が手を挙げたのを確認してキャニスターを前に押し出します。

「わたしたちのお店の奥では夜のお薬を販売していますが、それとは使用感が違う潤滑剤だそうです。これをスタッフで試して欲しいと下さいました。一つはわたしが指に取ってしまったので残りは4つです。使ってみたい方に渡しますが、使用した感想を聞かせてもらいます。」

「はい!質問があります。それを使うのは、夜のパートナーが居ない人でも大丈夫ですか?」

「良い質問ですね。あの方は利き手の世話になるときもイイと思うとおっしゃいました。もちろん感想さえ聞かせてもらえるなら一人で使って頂いて結構です。では他に無いようですから、欲しい方は挙手を「「「「「はいっ!!」」」」」お願い…………全員ですか。では籤でも引いてもらいましょうかね。」

それから嘗てないほど熱い籤引きが繰り広げられたのは仕方ないことでしょう。
勝者は歓喜し、敗者は滂沱の涙を流しました。

敗れたスタッフに商品化したら使えると言って慰めようとしましたが、「あの方が持ち込まれた物が欲しいんですぅ~!」と返されてしまいました。
その気持ちはわかります。
わたしだって…はっ!

翌日、ローションを持ち帰った全員から「是非とも早急に商品化をっ!」と詰め寄られてびっくりしましたが、その気持ちも良くわかります。
今までの物の使用感が「ぬるり」だとすると、シオンさんが下さった物は「にゅるんにゅるん」でした。
わたしも、夫も……とにかく凄く良かったので、さっそく滞在先の宿へ手紙を届けてもらいました。

シオンさん…いえ、シオンさま。
あなたさまのご来店、スタッフ一同首を長くしてお待ちしております。





しかし、人間変わるときは変わるものですね。
メルヴィン・アレナド様、ジェイデン・アレナド様には現役のハンターであった頃からご来店頂いた事がありましたが、お店の奥のご利用は一度もありませんでした。
閨の事を話題にされるのを避けていらっしゃるのかと思っていましたが、違ったようです。

シオンさまと香りを選ばれる様子は初々しくて、まるで初恋に浮かれる青年のようでした。
失礼ですが、その様子は大変お可愛らしかったです。

何故わたしがこのような思いを抱くかと言えば、お二方のを務めた方に夜のお薬を調合したことがあったからです。

あの特別な方々に抱かれるのだから、お薬の香りも特別に、専用にしたい…とのことでした。
その繋がりでその……お二方のサイズ感も何となく存じておりましたから、シオンさまに対してあのようなことを申し上げてしまったのですが……。
しかしお相手の誰からも特別と思われるお二方は、誰のことも自らの特別にすることはありませんでした。

そのお二方にも遂にシオンさまという特別な方がお出来になった…。
お薬をお求めの際はお二方が余りにシオンさまに夢中で少し心配してしまいましたが、翌日のシオンさまのご様子から相思相愛だと伝わってきて、勝手ながらとても嬉しく思いました。

お二方はSランクハンターとして、国の騎士でも手に負えない魔獣や化物から民衆を守ってくださっていました。
引退した今でも討伐に出てくださっているわたしたちの英雄です。
その英雄たちに愛し愛される方が現れた。
わたしは守って頂いた分、お三方の幸せをお祈りいたします。

差し当たってはシオンさまのご依頼を完璧に遂行いたしましょう。
わたしにできることでサポートさせて頂きますから、商品化までもう少しお待ち下さいね。
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