113 / 170
5章 風呂とかき氷と甘々の目撃者たち
『コフレ』の裏側にて
しおりを挟む
「お休みの方も集まってくれてありがとう。早速だけどコレを見て下さい。」
「そっ、それは!」
今日出勤して一部始終を見ていたスタッフがざわめく。
雑貨店『コフレ』のスタッフルームにて緊急ミーティングが開かれた。
しかも急遽休日のスタッフにまで招集がかかった特別なもの。
「そうです。あの方が持ち込まれた物です。」
わたしの前に置いたキャニスターとフローティングキャンドルに視線が集まりました。
「えーとセリーヌ、あの方って誰なんだい?」
共同オーナーで生産部門の責任者でもあるわたしの夫から質問がとんできました。
「昨日、アレナド様がご兄弟揃って連れられていらっしゃった方です。お名前はシオンさんとおっしゃいます。」
「ああ、話だけは聞いてるよ。凄い美人さんなんだってね。」
「そのとおりです。そのシオンさんから商品の販売を打診されました。まずはこちらから…。」
準備してあった水が入っているガラスの器にフローティングキャンドルを浮かべ、火を灯します。
するとふんわりと優しい香りが漂い始めました。
「ふむ、とても可愛らしくていいじゃないか。ウチのアロマキャンドルより香りは控え目かな?」
「そのようですね…。皆さんの感想も聞かせてください。」
「はいっ!とってもカワイイと思います!!」
「水に浮いただけなのにキャンドルに高級感が出たと思います。」
「贈り物にしたら喜んでもらえそうですね。」
やはり好評です。
「ではいつもどおり製作は任せますね。ちなみに商品として店頭で販売を開始したら、あのお三方が来店して購入して下さるとお約束して頂きました。絶対に話題になりますから宣伝にもなりますよ。」
パチパチと皆さんが拍手をしてくれましたが、本番はここからです。
「では次です。お休みの方にまで集まってもらったのは、スタッフ間に遺恨を残さないためです。これからデリケートな質問をしますが、嫌なら答えなくても良いです。ですがその方は権利を放棄したと見倣します。よろしい方は挙手を。」
全員が手を挙げたのを確認してキャニスターを前に押し出します。
「わたしたちのお店の奥では夜のお薬を販売していますが、それとは使用感が違う潤滑剤だそうです。これをスタッフで試して欲しいと下さいました。一つはわたしが指に取ってしまったので残りは4つです。使ってみたい方に渡しますが、使用した感想を聞かせてもらいます。」
「はい!質問があります。それを使うのは、夜のパートナーが居ない人でも大丈夫ですか?」
「良い質問ですね。あの方は利き手の世話になるときもイイと思うとおっしゃいました。もちろん感想さえ聞かせてもらえるなら一人で使って頂いて結構です。では他に無いようですから、欲しい方は挙手を「「「「「はいっ!!」」」」」お願い…………全員ですか。では籤でも引いてもらいましょうかね。」
それから嘗てないほど熱い籤引きが繰り広げられたのは仕方ないことでしょう。
勝者は歓喜し、敗者は滂沱の涙を流しました。
敗れたスタッフに商品化したら使えると言って慰めようとしましたが、「あの方が持ち込まれた物が欲しいんですぅ~!」と返されてしまいました。
その気持ちはわかります。
わたしだって…はっ!
翌日、ローションを持ち帰った全員から「是非とも早急に商品化をっ!」と詰め寄られてびっくりしましたが、その気持ちも良くわかります。
今までの物の使用感が「ぬるり」だとすると、シオンさんが下さった物は「にゅるんにゅるん」でした。
わたしも、夫も……とにかく凄く良かったので、さっそく滞在先の宿へ手紙を届けてもらいました。
シオンさん…いえ、シオンさま。
あなたさまのご来店、スタッフ一同首を長くしてお待ちしております。
しかし、人間変わるときは変わるものですね。
メルヴィン・アレナド様、ジェイデン・アレナド様には現役のハンターであった頃からご来店頂いた事がありましたが、お店の奥のご利用は一度もありませんでした。
閨の事を話題にされるのを避けていらっしゃるのかと思っていましたが、違ったようです。
シオンさまと香りを選ばれる様子は初々しくて、まるで初恋に浮かれる青年のようでした。
失礼ですが、その様子は大変お可愛らしかったです。
何故わたしがこのような思いを抱くかと言えば、お二方のお相手を務めた方に夜のお薬を調合したことがあったからです。
あの特別な方々に抱かれるのだから、お薬の香りも特別に、専用にしたい…とのことでした。
その繋がりでその……お二方のサイズ感も何となく存じておりましたから、シオンさまに対してあのようなことを申し上げてしまったのですが……。
しかしお相手の誰からも特別と思われるお二方は、誰のことも自らの特別にすることはありませんでした。
そのお二方にも遂にシオンさまという特別な方がお出来になった…。
お薬をお求めの際はお二方が余りにシオンさまに夢中で少し心配してしまいましたが、翌日のシオンさまのご様子から相思相愛だと伝わってきて、勝手ながらとても嬉しく思いました。
お二方はSランクハンターとして、国の騎士でも手に負えない魔獣や化物から民衆を守ってくださっていました。
引退した今でも討伐に出てくださっているわたしたちの英雄です。
その英雄たちに愛し愛される方が現れた。
わたしは守って頂いた分、お三方の幸せをお祈りいたします。
差し当たってはシオンさまのご依頼を完璧に遂行いたしましょう。
わたしにできることでサポートさせて頂きますから、商品化までもう少しお待ち下さいね。
「そっ、それは!」
今日出勤して一部始終を見ていたスタッフがざわめく。
雑貨店『コフレ』のスタッフルームにて緊急ミーティングが開かれた。
しかも急遽休日のスタッフにまで招集がかかった特別なもの。
「そうです。あの方が持ち込まれた物です。」
わたしの前に置いたキャニスターとフローティングキャンドルに視線が集まりました。
「えーとセリーヌ、あの方って誰なんだい?」
共同オーナーで生産部門の責任者でもあるわたしの夫から質問がとんできました。
「昨日、アレナド様がご兄弟揃って連れられていらっしゃった方です。お名前はシオンさんとおっしゃいます。」
「ああ、話だけは聞いてるよ。凄い美人さんなんだってね。」
「そのとおりです。そのシオンさんから商品の販売を打診されました。まずはこちらから…。」
準備してあった水が入っているガラスの器にフローティングキャンドルを浮かべ、火を灯します。
するとふんわりと優しい香りが漂い始めました。
「ふむ、とても可愛らしくていいじゃないか。ウチのアロマキャンドルより香りは控え目かな?」
「そのようですね…。皆さんの感想も聞かせてください。」
「はいっ!とってもカワイイと思います!!」
「水に浮いただけなのにキャンドルに高級感が出たと思います。」
「贈り物にしたら喜んでもらえそうですね。」
やはり好評です。
「ではいつもどおり製作は任せますね。ちなみに商品として店頭で販売を開始したら、あのお三方が来店して購入して下さるとお約束して頂きました。絶対に話題になりますから宣伝にもなりますよ。」
パチパチと皆さんが拍手をしてくれましたが、本番はここからです。
「では次です。お休みの方にまで集まってもらったのは、スタッフ間に遺恨を残さないためです。これからデリケートな質問をしますが、嫌なら答えなくても良いです。ですがその方は権利を放棄したと見倣します。よろしい方は挙手を。」
全員が手を挙げたのを確認してキャニスターを前に押し出します。
「わたしたちのお店の奥では夜のお薬を販売していますが、それとは使用感が違う潤滑剤だそうです。これをスタッフで試して欲しいと下さいました。一つはわたしが指に取ってしまったので残りは4つです。使ってみたい方に渡しますが、使用した感想を聞かせてもらいます。」
「はい!質問があります。それを使うのは、夜のパートナーが居ない人でも大丈夫ですか?」
「良い質問ですね。あの方は利き手の世話になるときもイイと思うとおっしゃいました。もちろん感想さえ聞かせてもらえるなら一人で使って頂いて結構です。では他に無いようですから、欲しい方は挙手を「「「「「はいっ!!」」」」」お願い…………全員ですか。では籤でも引いてもらいましょうかね。」
それから嘗てないほど熱い籤引きが繰り広げられたのは仕方ないことでしょう。
勝者は歓喜し、敗者は滂沱の涙を流しました。
敗れたスタッフに商品化したら使えると言って慰めようとしましたが、「あの方が持ち込まれた物が欲しいんですぅ~!」と返されてしまいました。
その気持ちはわかります。
わたしだって…はっ!
翌日、ローションを持ち帰った全員から「是非とも早急に商品化をっ!」と詰め寄られてびっくりしましたが、その気持ちも良くわかります。
今までの物の使用感が「ぬるり」だとすると、シオンさんが下さった物は「にゅるんにゅるん」でした。
わたしも、夫も……とにかく凄く良かったので、さっそく滞在先の宿へ手紙を届けてもらいました。
シオンさん…いえ、シオンさま。
あなたさまのご来店、スタッフ一同首を長くしてお待ちしております。
しかし、人間変わるときは変わるものですね。
メルヴィン・アレナド様、ジェイデン・アレナド様には現役のハンターであった頃からご来店頂いた事がありましたが、お店の奥のご利用は一度もありませんでした。
閨の事を話題にされるのを避けていらっしゃるのかと思っていましたが、違ったようです。
シオンさまと香りを選ばれる様子は初々しくて、まるで初恋に浮かれる青年のようでした。
失礼ですが、その様子は大変お可愛らしかったです。
何故わたしがこのような思いを抱くかと言えば、お二方のお相手を務めた方に夜のお薬を調合したことがあったからです。
あの特別な方々に抱かれるのだから、お薬の香りも特別に、専用にしたい…とのことでした。
その繋がりでその……お二方のサイズ感も何となく存じておりましたから、シオンさまに対してあのようなことを申し上げてしまったのですが……。
しかしお相手の誰からも特別と思われるお二方は、誰のことも自らの特別にすることはありませんでした。
そのお二方にも遂にシオンさまという特別な方がお出来になった…。
お薬をお求めの際はお二方が余りにシオンさまに夢中で少し心配してしまいましたが、翌日のシオンさまのご様子から相思相愛だと伝わってきて、勝手ながらとても嬉しく思いました。
お二方はSランクハンターとして、国の騎士でも手に負えない魔獣や化物から民衆を守ってくださっていました。
引退した今でも討伐に出てくださっているわたしたちの英雄です。
その英雄たちに愛し愛される方が現れた。
わたしは守って頂いた分、お三方の幸せをお祈りいたします。
差し当たってはシオンさまのご依頼を完璧に遂行いたしましょう。
わたしにできることでサポートさせて頂きますから、商品化までもう少しお待ち下さいね。
10
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い



淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・
相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。
といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。
しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる