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4章 身体強化とその後のアレやコレ
08
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ロバートさんの店を後にして、再び街歩きをする。
目的地はジェイデンが選んだ雑貨屋だ。
例の薬も置いているらしい。
むしろコッチが充実しているからこの店にした雰囲気がある。
それとは別にさっきのジェイデンの様子が気になる。
どうやら期待よりも不安が先に来ているみたいだ。
「それにしてもアッサリとロバートに気に入られたな。あんなに笑ってるトコなんざ、見たことねえぞ。」
「そうね、驚いちゃったわ…。でもシオンがわたしたちの事を想ってしてくれた事も、似合う物を考えてくれた事も、とっても嬉しかったわ。」
「それはジェイデンもだろ?言い出せなかった俺に気付いてくれてありがとう。」
穏やかに微笑む彼は一途で献身的だ。
守護者である騎士には、ジェイデンこそが相応しい。
そんな彼の不安を少しでも取り除きたい。
俺とともに在って、幸せだと思ってもらえるように。
しばらく歩いて「いらっしゃいませ!」という明るい挨拶に出迎えられて雑貨屋に入る。
やはりここでも注目の的だ。
それでも「握手してくださいっ!」なんて奴は居ない。
店の中の客も、外の野次馬も、距離を空けて観察してくるだけだった。
それに雑貨屋は意外と品揃えが良いようだ。
食料品は散々だったのであまり期待はしていなかったが、嬉しい誤算だ。
庶民も利用する店のはずだが、貴石や水晶が使われている物もそれなりにある。
プレゼント用だろうか、手鏡や櫛などは見栄えが良い。
不思議に思っているとジェイデンが教えてくれた。
この国は貿易に困らない程度に鉱物資源が産出されていて、貴石類は貴族向けにはならないグレードのものや、カットされて小さくなった物が一般向けの商品になっているらしい。
こういった物を見ると二人にも何か贈りたいが、如何せん自分で稼いだ金が無い。
慰謝料で生活必需品を購入するのは被害者の権利だと割り切れるが、プレゼントを買うことは俺の矜持が許さない。
悔しい思いを封じ込め、雑貨を選ぶ。
クリーンが使えると歯ブラシや洗顔系のものは必要ないが、持っていないと落ち着かないので、タオルや剃刀などと一緒に買うことにした。
今日の朝は寝過してしまったし、目ざまし時計は忘れない。
筆記用具は羽根ペンや硝子ペン、万年筆もあった。
どれも見た目は良いが、俺にとっては手入れがネックだ。
パッと使えるボールペンやシャーペンが良かった…。
これに関しては開き直って、見た目が万年筆のボールペンを作ることにしよう。
こうしていろんな物を見てみると、知識や製作チートを発揮出来る物がなかなか無い。
俺が読んだラノベでは、硝子ペン、万年筆、パイル地のタオル、醤油や味噌なんかでボロ儲けしていたが、この世界には既に存在している。
過去に召喚された者の多さが透けて視えるようだ。
しかし、昨日の宿でのやり取りを鑑みるに、カップなどの日用品への魔法の付与は行われていなかった。
稼ぐならここか?
この国に限れば、水不足さえ解決できれば酪農を含む農業には手を出す余地はあるが、元手も無いしなんともな…。
一応、廃業した牧場や耕作放棄地を探してみるか。
養鶏ができれば、定番中の定番、マヨネーズも手に入るし。
しかし、後で聞いたらマヨネーズは家で鶏が飼える田舎で作っていた。
残念だが、自作のマヨネーズは美味いので、玉子が手に入ったらキッチンを借りて作りたい。
まあ現実的なのはひたすら討伐に出る事だ。
これなら元手も要らないし、大きな怪我さえしなければ良い。
マップを駆使して索敵もできるしな。
となると、やはり身体強化の習得が急務だな。
メルヴィンとジェイデンのためだ。
少しずつでも着実に前進しよう。
「どうした、そんな眉間にシワなんか寄せて。」
「欲しい物が無かったかしら。他のお店も行きましょうか?」
思考に没入して心配させてしまった。
「大丈夫。少し考え事をしていただけだし、必要な物は揃いそうだ。」
「ホントに少しか?えらく難しい顔してたぞ。なに考えてたんだ?」
「わたしたちには言い難いことかしら?」
メルヴィンだけじゃなくてジェイデンも逃してくれそうにないな。
格好良くはないけど、白状するか。
「んー、二人のこと。早く地位が欲しいなって。でも慌てて行動して失敗すると返って遠回りになるから、一歩は小さくなっても焦らず堅実にって自分に言い聞かせてた。」
「はあー、お前さんホントに25か?いや、見た目は間違いなくそうだけど、なあ?」
「ええ、何て言うか、しっかりし過ぎているわねぇ…。」
「目下の目標は、二人の恋人だって堂々と宣言できるようになる事だからな。」
「「こいびと…。」」
「良い響きねぇ…。」
「じゃあ今はオレらの何なんだ?」
「恋人立候補者かな?」
周りから見たら囲われた恋人だろうけど。
「堅いわ…。」
「堅いな…。」
「まあ、お前さんらしいっちゃ、らしいけどな…。」
「ええ、そうね。誠実でいてくれるのは嬉しい事だけれど…。」
「だけれど?」
物足りないのか?
「オレらも早く恋人宣言して自慢したいモンだぜ。」
「そうね!こんなにも若くて綺麗で格好良くて、しかも強くて誠実な人がわたしたちの恋人よ!ってね。」
「俺は早く愛してるって伝えたいよ。」
「はあっ!?」
「はいっ!?」
おおぅ、口から出てたか、格好悪いな。
目的地はジェイデンが選んだ雑貨屋だ。
例の薬も置いているらしい。
むしろコッチが充実しているからこの店にした雰囲気がある。
それとは別にさっきのジェイデンの様子が気になる。
どうやら期待よりも不安が先に来ているみたいだ。
「それにしてもアッサリとロバートに気に入られたな。あんなに笑ってるトコなんざ、見たことねえぞ。」
「そうね、驚いちゃったわ…。でもシオンがわたしたちの事を想ってしてくれた事も、似合う物を考えてくれた事も、とっても嬉しかったわ。」
「それはジェイデンもだろ?言い出せなかった俺に気付いてくれてありがとう。」
穏やかに微笑む彼は一途で献身的だ。
守護者である騎士には、ジェイデンこそが相応しい。
そんな彼の不安を少しでも取り除きたい。
俺とともに在って、幸せだと思ってもらえるように。
しばらく歩いて「いらっしゃいませ!」という明るい挨拶に出迎えられて雑貨屋に入る。
やはりここでも注目の的だ。
それでも「握手してくださいっ!」なんて奴は居ない。
店の中の客も、外の野次馬も、距離を空けて観察してくるだけだった。
それに雑貨屋は意外と品揃えが良いようだ。
食料品は散々だったのであまり期待はしていなかったが、嬉しい誤算だ。
庶民も利用する店のはずだが、貴石や水晶が使われている物もそれなりにある。
プレゼント用だろうか、手鏡や櫛などは見栄えが良い。
不思議に思っているとジェイデンが教えてくれた。
この国は貿易に困らない程度に鉱物資源が産出されていて、貴石類は貴族向けにはならないグレードのものや、カットされて小さくなった物が一般向けの商品になっているらしい。
こういった物を見ると二人にも何か贈りたいが、如何せん自分で稼いだ金が無い。
慰謝料で生活必需品を購入するのは被害者の権利だと割り切れるが、プレゼントを買うことは俺の矜持が許さない。
悔しい思いを封じ込め、雑貨を選ぶ。
クリーンが使えると歯ブラシや洗顔系のものは必要ないが、持っていないと落ち着かないので、タオルや剃刀などと一緒に買うことにした。
今日の朝は寝過してしまったし、目ざまし時計は忘れない。
筆記用具は羽根ペンや硝子ペン、万年筆もあった。
どれも見た目は良いが、俺にとっては手入れがネックだ。
パッと使えるボールペンやシャーペンが良かった…。
これに関しては開き直って、見た目が万年筆のボールペンを作ることにしよう。
こうしていろんな物を見てみると、知識や製作チートを発揮出来る物がなかなか無い。
俺が読んだラノベでは、硝子ペン、万年筆、パイル地のタオル、醤油や味噌なんかでボロ儲けしていたが、この世界には既に存在している。
過去に召喚された者の多さが透けて視えるようだ。
しかし、昨日の宿でのやり取りを鑑みるに、カップなどの日用品への魔法の付与は行われていなかった。
稼ぐならここか?
この国に限れば、水不足さえ解決できれば酪農を含む農業には手を出す余地はあるが、元手も無いしなんともな…。
一応、廃業した牧場や耕作放棄地を探してみるか。
養鶏ができれば、定番中の定番、マヨネーズも手に入るし。
しかし、後で聞いたらマヨネーズは家で鶏が飼える田舎で作っていた。
残念だが、自作のマヨネーズは美味いので、玉子が手に入ったらキッチンを借りて作りたい。
まあ現実的なのはひたすら討伐に出る事だ。
これなら元手も要らないし、大きな怪我さえしなければ良い。
マップを駆使して索敵もできるしな。
となると、やはり身体強化の習得が急務だな。
メルヴィンとジェイデンのためだ。
少しずつでも着実に前進しよう。
「どうした、そんな眉間にシワなんか寄せて。」
「欲しい物が無かったかしら。他のお店も行きましょうか?」
思考に没入して心配させてしまった。
「大丈夫。少し考え事をしていただけだし、必要な物は揃いそうだ。」
「ホントに少しか?えらく難しい顔してたぞ。なに考えてたんだ?」
「わたしたちには言い難いことかしら?」
メルヴィンだけじゃなくてジェイデンも逃してくれそうにないな。
格好良くはないけど、白状するか。
「んー、二人のこと。早く地位が欲しいなって。でも慌てて行動して失敗すると返って遠回りになるから、一歩は小さくなっても焦らず堅実にって自分に言い聞かせてた。」
「はあー、お前さんホントに25か?いや、見た目は間違いなくそうだけど、なあ?」
「ええ、何て言うか、しっかりし過ぎているわねぇ…。」
「目下の目標は、二人の恋人だって堂々と宣言できるようになる事だからな。」
「「こいびと…。」」
「良い響きねぇ…。」
「じゃあ今はオレらの何なんだ?」
「恋人立候補者かな?」
周りから見たら囲われた恋人だろうけど。
「堅いわ…。」
「堅いな…。」
「まあ、お前さんらしいっちゃ、らしいけどな…。」
「ええ、そうね。誠実でいてくれるのは嬉しい事だけれど…。」
「だけれど?」
物足りないのか?
「オレらも早く恋人宣言して自慢したいモンだぜ。」
「そうね!こんなにも若くて綺麗で格好良くて、しかも強くて誠実な人がわたしたちの恋人よ!ってね。」
「俺は早く愛してるって伝えたいよ。」
「はあっ!?」
「はいっ!?」
おおぅ、口から出てたか、格好悪いな。
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