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3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて
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「さて、ハンターについて諸々説明する前に、お前さんの事を教えてくれ。何でギルド関連の職に就きたいか、とかな。」
先に宿に戻るフェイトをラースに任せ、ギルドマスターの執務室に入り、ソファに腰を落ち着けた所でメルヴィンが口を開いた。
事情を説明するのも3回目だ。
「俺は昨日、色ボケ貴族に魔法で拉致されたんだ。」
「あ゛?」
「そのときに諸々あって、知識とか常識に欠落がある。拉致犯の貴族から慰謝料を貰ったから暫くは暮らせるが、戸籍も無いし、身元不明で身分証明書も持っていない。だから一般的な職業には就けない状況だ。」
「あ゛あ゛!?」
「それでさっき別れた二人に相談したら、国に属さないハンターギルド関連の職を勧められたんだ。身分証も手に入るしってな。」
「予想外に重たい事情だな!お前さん、よくそんなに落ち着いて居られるな…。」
それは俺も感じてる。
風呂が無いと聞いたときを除けば、だが。
「まあ、俺を拉致した貴族の屋敷を出て最初に知り合ったのが、フェイトとラースだったからな。」
「ふふっ。すっかり仲良くなって。ずっと前から友達みたいな三人だよね。あれで出会ってから24時間経ってないなんて、信じられないよ。」
「はー、そりゃまたよっぽど相性が良いんだな。ってアンジェラ!その話し方!」
「出会った直後にバレてしまって…凄いですよね。ちなみにシオンから見てメルヴィンはどうかな?」
これは思ったままをコメントして良いのか?
まあ、言いたい事はあるから言わせてもらおう。
「率直に言って酷い。色々舐めてると思った。」
「なんだとっ!」とか言ってるけど、当然だ。
「それは、どうして?」
ジェイデンは何か意図があって、俺に言わせようとしてるみたいだ。
「まず、やっつけ仕事だって、誰が見てもわかる。多分、ジェイデンが『アンジェラ』になったから、自分も『キティ』をやっているんだと思うが、クオリティの低さが結果としてジェイデンの足を引っ張っている。『アンジェラ』だけを見て気付けない奴も、『キティ』を見てからだと『アンジェラ』に疑いの目を向けるだろう。」
ぐぬぬぬぬってなってるけど、言い返してこないし、思い当たる節があるんだろうか。
取り敢えず分かりやすい例を示すことにする。
俺はアケミさん、ヨーコさん、レイラさん、重雄さんの念写を試みて、4枚の写真を精巧な絵だと言って彼らに見せた。
本当に魔法って便利だな。
「ジェイデンには少し話したが、この人が俺の服を作ってくれた人。こっちの人は、俺の小物や武器なんかを作ってくれた人。二人とも職人だが、爪の先まで美しく装っているだろう?」
「そうですね。こう…何て言うか、自分に合うものを知っている方の装いだと思います。こちらの方々から見たら、わたしはまだまだだですね。メルヴィンは………うん。何も言えないかな。」
スタートラインに立ってもいないよな。
それに、ぐぬぐぬしながらも予想外にショック受けている。
これを言ったらトドメになるかもしれない。
「メルヴィン、これを見てくれ。」
そう言ってからレイラさんと重雄さんの写真を差し出す。
「この二人は同一人物だ。この人を見て、自分をどう思う?」
彼は「ヒュッ」と息を飲んで2枚の写真を見比べている。
「ジェイデン、この人がレイラさんで、重雄さんだ。」
「この方が…」と言って、目に焼き付けるように写真を見ている。
そこには少しがっしりしているが女性に見えるレイラさんと、少しくたびれた中年の男性が写っていた。
暫くしてメルヴィンが大きな溜息をついた。
「こんな絵を見せられたら何も言えん。…だが、ジェイデンだけに苦労させるのは忍びねえ。オレぁどうすりゃ良いのかね…。」
「いくら弟のためだからって、その格好ができるあんたは凄いよ。」
いろんな意味で、だが。
良い兄貴には違いない。
「それなんだけど、わたしはもう苦労だと思っていないのです。習慣になるくらいの時間が経ちましたし、何よりどちらのわたしも認めてくれる人が現れましたから。」
俺を見て微笑むジェイデンは美しい。
「『ジェイデン』だけに価値があると思っていたけれど、そうじゃなかった。わたしだけに存在価値があった『アンジェラ』が好きだって、努力の結果だって、慕われてるって言ってもらえたのです。それにわたしの生き方の先を歩く人が居るって教えてもらったら、心の中の蟠りなんて吹き飛びました。」
メルヴィンを見つめて、静かに告げる。
「だからメルヴィンがそういう格好をしなくても、もう平気なんです。正直、申し訳なくて、心苦しいから止めてくれるとうれしい。わたしのためにしてくれているから申し訳ないけれど。」
「しかしなぁ…。」
「メルヴィン、俺はジェイデンに寄り添うのを止めろとは言ってない。その格好だけを止めたら良いと思う。」
「どういうことだ?」
ここまで来たら最後まで付き合おう。
「あんたは自分や立場に合わない格好をしているだろ。ジェイデンの希望もあるし、それを直せば良い。」
「オレだって色々考えた。だが、こんなゴツいオッサンができるそれっぽい格好が思いつかなかったんだよ。」
「取り敢えず立場を考えたら、ホットパンツは無い。あんたに取って喰われそうだって、ハンターたちは怯えているんじゃないか?」
「良くわかったね」とジェイデンが言っているが、あなたの兄貴はその言葉に傷付いてるぞ。
先に宿に戻るフェイトをラースに任せ、ギルドマスターの執務室に入り、ソファに腰を落ち着けた所でメルヴィンが口を開いた。
事情を説明するのも3回目だ。
「俺は昨日、色ボケ貴族に魔法で拉致されたんだ。」
「あ゛?」
「そのときに諸々あって、知識とか常識に欠落がある。拉致犯の貴族から慰謝料を貰ったから暫くは暮らせるが、戸籍も無いし、身元不明で身分証明書も持っていない。だから一般的な職業には就けない状況だ。」
「あ゛あ゛!?」
「それでさっき別れた二人に相談したら、国に属さないハンターギルド関連の職を勧められたんだ。身分証も手に入るしってな。」
「予想外に重たい事情だな!お前さん、よくそんなに落ち着いて居られるな…。」
それは俺も感じてる。
風呂が無いと聞いたときを除けば、だが。
「まあ、俺を拉致した貴族の屋敷を出て最初に知り合ったのが、フェイトとラースだったからな。」
「ふふっ。すっかり仲良くなって。ずっと前から友達みたいな三人だよね。あれで出会ってから24時間経ってないなんて、信じられないよ。」
「はー、そりゃまたよっぽど相性が良いんだな。ってアンジェラ!その話し方!」
「出会った直後にバレてしまって…凄いですよね。ちなみにシオンから見てメルヴィンはどうかな?」
これは思ったままをコメントして良いのか?
まあ、言いたい事はあるから言わせてもらおう。
「率直に言って酷い。色々舐めてると思った。」
「なんだとっ!」とか言ってるけど、当然だ。
「それは、どうして?」
ジェイデンは何か意図があって、俺に言わせようとしてるみたいだ。
「まず、やっつけ仕事だって、誰が見てもわかる。多分、ジェイデンが『アンジェラ』になったから、自分も『キティ』をやっているんだと思うが、クオリティの低さが結果としてジェイデンの足を引っ張っている。『アンジェラ』だけを見て気付けない奴も、『キティ』を見てからだと『アンジェラ』に疑いの目を向けるだろう。」
ぐぬぬぬぬってなってるけど、言い返してこないし、思い当たる節があるんだろうか。
取り敢えず分かりやすい例を示すことにする。
俺はアケミさん、ヨーコさん、レイラさん、重雄さんの念写を試みて、4枚の写真を精巧な絵だと言って彼らに見せた。
本当に魔法って便利だな。
「ジェイデンには少し話したが、この人が俺の服を作ってくれた人。こっちの人は、俺の小物や武器なんかを作ってくれた人。二人とも職人だが、爪の先まで美しく装っているだろう?」
「そうですね。こう…何て言うか、自分に合うものを知っている方の装いだと思います。こちらの方々から見たら、わたしはまだまだだですね。メルヴィンは………うん。何も言えないかな。」
スタートラインに立ってもいないよな。
それに、ぐぬぐぬしながらも予想外にショック受けている。
これを言ったらトドメになるかもしれない。
「メルヴィン、これを見てくれ。」
そう言ってからレイラさんと重雄さんの写真を差し出す。
「この二人は同一人物だ。この人を見て、自分をどう思う?」
彼は「ヒュッ」と息を飲んで2枚の写真を見比べている。
「ジェイデン、この人がレイラさんで、重雄さんだ。」
「この方が…」と言って、目に焼き付けるように写真を見ている。
そこには少しがっしりしているが女性に見えるレイラさんと、少しくたびれた中年の男性が写っていた。
暫くしてメルヴィンが大きな溜息をついた。
「こんな絵を見せられたら何も言えん。…だが、ジェイデンだけに苦労させるのは忍びねえ。オレぁどうすりゃ良いのかね…。」
「いくら弟のためだからって、その格好ができるあんたは凄いよ。」
いろんな意味で、だが。
良い兄貴には違いない。
「それなんだけど、わたしはもう苦労だと思っていないのです。習慣になるくらいの時間が経ちましたし、何よりどちらのわたしも認めてくれる人が現れましたから。」
俺を見て微笑むジェイデンは美しい。
「『ジェイデン』だけに価値があると思っていたけれど、そうじゃなかった。わたしだけに存在価値があった『アンジェラ』が好きだって、努力の結果だって、慕われてるって言ってもらえたのです。それにわたしの生き方の先を歩く人が居るって教えてもらったら、心の中の蟠りなんて吹き飛びました。」
メルヴィンを見つめて、静かに告げる。
「だからメルヴィンがそういう格好をしなくても、もう平気なんです。正直、申し訳なくて、心苦しいから止めてくれるとうれしい。わたしのためにしてくれているから申し訳ないけれど。」
「しかしなぁ…。」
「メルヴィン、俺はジェイデンに寄り添うのを止めろとは言ってない。その格好だけを止めたら良いと思う。」
「どういうことだ?」
ここまで来たら最後まで付き合おう。
「あんたは自分や立場に合わない格好をしているだろ。ジェイデンの希望もあるし、それを直せば良い。」
「オレだって色々考えた。だが、こんなゴツいオッサンができるそれっぽい格好が思いつかなかったんだよ。」
「取り敢えず立場を考えたら、ホットパンツは無い。あんたに取って喰われそうだって、ハンターたちは怯えているんじゃないか?」
「良くわかったね」とジェイデンが言っているが、あなたの兄貴はその言葉に傷付いてるぞ。
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