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3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて
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「タラシよっ!タラシがいるわっ!」
「それ、さっきはラースが言ってたな。しかし、そんなにタラシか、俺は。」
「そうですね。僕は魔道具を愛してるから耐えられますけど、普通の人はひとたまりもないと思いますよ?」
「うーん。」
「ラースちゃんをこんなにしたのに、納得してないのかしら?」
「何て言うか……俺のはある種、顔芸じゃないか?」
顔面偏差値の高さで押し切った自覚あるし。
「それはないです。」
「それはないわね。」
フェイトとジェイデンが揃って言う。
「凄かったのは顔だけじゃないもの。纏う空気がもう……何て言うか、支配者だったわ…。」
「わかります。」
「他人事みたいに言ってられるのは今だけだぞ、アンジェラさん。あんたもそのうち俺みたいな目にあうに決まってる。」
お、復活したのか。
「それは…経験してみたいような、遠慮したいような…。」
「もう止めよう。これ以上この話は危険だ。それよりもハンターギルド行かなくて良いのかよ。ギルドカード、必要だろ?」
確かにな。
「これからギルドに行くの?だったらわたしも一緒に行くわ。」
「何かあるのか?」
「シオンちゃんの実力、気になるじゃない?あとは、わたしが居ればギルドマスターに待ち時間無しで会えるわよ。さっき言っていたわたしの兄なんだけれどね、きっとあなたと手合わせしたいって言うはずよ。どうかしら?」
俺が一人で訪ねても、会えないかもしれないし、聞きたい事もあるから丁度良い。
「ではよろしく頼む。フェイトとラースはこの後どうするんだ?」
「シオンさんが手合わせしてるとこ見たいです!僕も付いていって良いですか?」
頷いて答え、ラースの言葉を待つ。
「俺も行くよ。」
「今更だが、仕事は良いのか?」
「あー、ルジェに伝言頼んであるから大丈夫だ。」
何だろう…、仕事を休ませてしまった事より、ルジェがちゃんと伝言を伝えられるかの方が心配だ。
「何考えてるかわかったが、さすがに伝言くらい大丈夫だろ。」
朝っぱらから叫んでたし、どうなんだろう。
ラースが大丈夫だと言うなら俺には何も言える事はないが。
「じゃあ皆で行きましょうか。」
ジェイデンの言葉で立ち上がり、宿を出る。
さすがに4人、横並びで歩くのは他の通行人の迷惑になるので、自然と二人ずつに分かれた。
フェイトとラースが前を歩き、後ろをジェイデンと俺が付いて行く。
「初対面の君にあんなにあっさりバレてしまうなんて、結構ショックです。指先も靴も今度からは気を付けるようにしますよ。でもなぜ君はわたしの至らなかった所に気付けたのですか?宜しければ、後学のために教えてくれませんか?」
「簡単だよ、ジェイデン。自ら望んで『アンジェラ』と同じように振る舞う人と、生きる手段として装っている人を知っていたからだ。それに、そんな話し方しないでくれ。警戒されているようで距離を感じてしまう。」
アンジェラママは距離が近かったからな。
「わかったよ、シオンくん。」
「シオン。」
「ふふっ。シオン。」
笑い方は同じなんだな。
「何と言えば良いか…。あなたの装いは自ら望んで…と言うか、おしゃれを楽しんでいない印象を受けたんだ。好きでしているのなら、もっと気合いが入っていたんじゃないかな?爪や靴なんて、他人と差を付ける絶好のパーツだと思うんだ。俺が慕う人は、なりたい自分になる努力を惜しまなかったし、それを楽しんでいたよ。あなたはどうだ?」
ね、アケミさん、あなたはいつも楽しそうだった。
新作の化粧品が発売されれば嬉しそうに「似合うかしら?」と聞いてきた。
そうなるまでに重ねた苦労を、俺に見せたことは無かったけれど。
ジェイデンが少し考えてから答えを返してきた。
「確かにそうかもしれない。話し方も所作もかなり練習したんだよ?でも楽しいから練習したんじゃ無かったね。その、生きるために装っていた人も、わたしとは違うのかな?」
「違う。プライドを持ってやっていたからな。彼もバーのママなんだ。最初は家族と折り合いが悪くて放置されたいから、男性だけど、女性のように振る舞い始めたと教えてくれたよ。」
ジェイデンの顔色が変わってきた。
「でもそういうのはやっぱりわかるみたいで、バーは流行らなったんだって。色々試行錯誤して人気店のママを研究したら、自分は手を抜いていたとしか思えなくなったんだと。でも望んで女性らしくは振る舞えないから、仕事として、プロとして女性のように振る舞う事に決めたんだそうだ。不自由じゃないのか?と聞いた事があるが、『他人から押し付けられた不自由じゃないし、不自由だとしても、自分のために、自分で選んだ不自由だから不満は無いよ』って笑っていた。カッコイイだろ?」
「………そうだね。」
「その後、家族と和解したけど女装は辞めなかったんだ。なぜか尋ねたら、『この格好だから話してもらえる事や、話してくれる人が居るの。重雄じゃなくてレイラに会いに来てくれてるのに、辞めるわけにはいかないでしょ?』ってキレイな顔で笑ってた。ちなみに『重雄』が親から貰った名前で、『レイラ』がバーのママのときの名前な。ジェイデンにも居るんじゃないのか?アンジェラだから慕ってくれる人。」
「……そんな人居るかな?」
「宿のスタッフがそうだろう。雰囲気が良かったし、慕われてると思う。俺もアンジェラママは好きだよ。纏う空気や、距離感に、押し付けない優しさを感じるし。……ジェイデンだけに価値があるんじゃない。アンジェラだってあなたの一部だ。あなたの努力の結果だ。だからそんな、泣きそうな顔しないでくれ。」
「………うん。ありがとう。」
「ごめん、ハンカチ持って無いんだ。」
「ふふっ、大丈夫。自分で持っているよ。」
「そうか。」
「…ね、シオン。その…、レイラさんとは恋人だったのかい?離れ離れになって寂しくない?」
ああ、今度は俺が泣きそうだ。
「それ、さっきはラースが言ってたな。しかし、そんなにタラシか、俺は。」
「そうですね。僕は魔道具を愛してるから耐えられますけど、普通の人はひとたまりもないと思いますよ?」
「うーん。」
「ラースちゃんをこんなにしたのに、納得してないのかしら?」
「何て言うか……俺のはある種、顔芸じゃないか?」
顔面偏差値の高さで押し切った自覚あるし。
「それはないです。」
「それはないわね。」
フェイトとジェイデンが揃って言う。
「凄かったのは顔だけじゃないもの。纏う空気がもう……何て言うか、支配者だったわ…。」
「わかります。」
「他人事みたいに言ってられるのは今だけだぞ、アンジェラさん。あんたもそのうち俺みたいな目にあうに決まってる。」
お、復活したのか。
「それは…経験してみたいような、遠慮したいような…。」
「もう止めよう。これ以上この話は危険だ。それよりもハンターギルド行かなくて良いのかよ。ギルドカード、必要だろ?」
確かにな。
「これからギルドに行くの?だったらわたしも一緒に行くわ。」
「何かあるのか?」
「シオンちゃんの実力、気になるじゃない?あとは、わたしが居ればギルドマスターに待ち時間無しで会えるわよ。さっき言っていたわたしの兄なんだけれどね、きっとあなたと手合わせしたいって言うはずよ。どうかしら?」
俺が一人で訪ねても、会えないかもしれないし、聞きたい事もあるから丁度良い。
「ではよろしく頼む。フェイトとラースはこの後どうするんだ?」
「シオンさんが手合わせしてるとこ見たいです!僕も付いていって良いですか?」
頷いて答え、ラースの言葉を待つ。
「俺も行くよ。」
「今更だが、仕事は良いのか?」
「あー、ルジェに伝言頼んであるから大丈夫だ。」
何だろう…、仕事を休ませてしまった事より、ルジェがちゃんと伝言を伝えられるかの方が心配だ。
「何考えてるかわかったが、さすがに伝言くらい大丈夫だろ。」
朝っぱらから叫んでたし、どうなんだろう。
ラースが大丈夫だと言うなら俺には何も言える事はないが。
「じゃあ皆で行きましょうか。」
ジェイデンの言葉で立ち上がり、宿を出る。
さすがに4人、横並びで歩くのは他の通行人の迷惑になるので、自然と二人ずつに分かれた。
フェイトとラースが前を歩き、後ろをジェイデンと俺が付いて行く。
「初対面の君にあんなにあっさりバレてしまうなんて、結構ショックです。指先も靴も今度からは気を付けるようにしますよ。でもなぜ君はわたしの至らなかった所に気付けたのですか?宜しければ、後学のために教えてくれませんか?」
「簡単だよ、ジェイデン。自ら望んで『アンジェラ』と同じように振る舞う人と、生きる手段として装っている人を知っていたからだ。それに、そんな話し方しないでくれ。警戒されているようで距離を感じてしまう。」
アンジェラママは距離が近かったからな。
「わかったよ、シオンくん。」
「シオン。」
「ふふっ。シオン。」
笑い方は同じなんだな。
「何と言えば良いか…。あなたの装いは自ら望んで…と言うか、おしゃれを楽しんでいない印象を受けたんだ。好きでしているのなら、もっと気合いが入っていたんじゃないかな?爪や靴なんて、他人と差を付ける絶好のパーツだと思うんだ。俺が慕う人は、なりたい自分になる努力を惜しまなかったし、それを楽しんでいたよ。あなたはどうだ?」
ね、アケミさん、あなたはいつも楽しそうだった。
新作の化粧品が発売されれば嬉しそうに「似合うかしら?」と聞いてきた。
そうなるまでに重ねた苦労を、俺に見せたことは無かったけれど。
ジェイデンが少し考えてから答えを返してきた。
「確かにそうかもしれない。話し方も所作もかなり練習したんだよ?でも楽しいから練習したんじゃ無かったね。その、生きるために装っていた人も、わたしとは違うのかな?」
「違う。プライドを持ってやっていたからな。彼もバーのママなんだ。最初は家族と折り合いが悪くて放置されたいから、男性だけど、女性のように振る舞い始めたと教えてくれたよ。」
ジェイデンの顔色が変わってきた。
「でもそういうのはやっぱりわかるみたいで、バーは流行らなったんだって。色々試行錯誤して人気店のママを研究したら、自分は手を抜いていたとしか思えなくなったんだと。でも望んで女性らしくは振る舞えないから、仕事として、プロとして女性のように振る舞う事に決めたんだそうだ。不自由じゃないのか?と聞いた事があるが、『他人から押し付けられた不自由じゃないし、不自由だとしても、自分のために、自分で選んだ不自由だから不満は無いよ』って笑っていた。カッコイイだろ?」
「………そうだね。」
「その後、家族と和解したけど女装は辞めなかったんだ。なぜか尋ねたら、『この格好だから話してもらえる事や、話してくれる人が居るの。重雄じゃなくてレイラに会いに来てくれてるのに、辞めるわけにはいかないでしょ?』ってキレイな顔で笑ってた。ちなみに『重雄』が親から貰った名前で、『レイラ』がバーのママのときの名前な。ジェイデンにも居るんじゃないのか?アンジェラだから慕ってくれる人。」
「……そんな人居るかな?」
「宿のスタッフがそうだろう。雰囲気が良かったし、慕われてると思う。俺もアンジェラママは好きだよ。纏う空気や、距離感に、押し付けない優しさを感じるし。……ジェイデンだけに価値があるんじゃない。アンジェラだってあなたの一部だ。あなたの努力の結果だ。だからそんな、泣きそうな顔しないでくれ。」
「………うん。ありがとう。」
「ごめん、ハンカチ持って無いんだ。」
「ふふっ、大丈夫。自分で持っているよ。」
「そうか。」
「…ね、シオン。その…、レイラさんとは恋人だったのかい?離れ離れになって寂しくない?」
ああ、今度は俺が泣きそうだ。
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