ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて

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「勝手に備品に魔法を付与して申し訳ないが、魔力を少量流してから飲んでみてくれないか。俺はまだ口を付けていないから、安心してほしい。」

了承してジェイデンが飲み物を口にした。

「っ!冷たいわ!」

ジェイデンのカップも拝借して、違う付与をしてもう一度差し出す。

「こちらも試してくれ。」

「こっちは温かいわ!」

「あなたが提供してくれた飲み物は両方とも常温だったから、温度を変えてみた。レストランや酒場なら喜ばれないか?」

「そうね。きっと喜んで貰えるわ。」

「では魔法の付与を宿代にして貰えないか?もちろん、俺が我儘を言っているから、値段はあなたが決めてくれ。」

「そんな!むしろこちらからお願いしたいわ!…………付与1回で2日分のお代でどうかしら?夕食も付けるわ!」

夕食代が浮くのは凄く嬉しい。
しかし予想以上に喜んで貰えたな。

「ではその条件でお願いする。ちなみにこれはどうだ?」

飲食店の必需品、冷蔵庫。
空間収納から取り出すフリをして作り出した。
三人揃って俺が作った業務用サイズの冷蔵庫をを凝視している。

「こ、これはどんな魔道具なんですか?」

さすが魔道具師、気になるんだな。

「冷蔵庫だ。中に入れたものを冷やしておけるから食材の保存ができる。何でこういう物を持っているかは聞かないでくれ。」

「こんなに大きな冷蔵庫なんて!」と叫んでテンションが凄いことになっているジェイデンをスルーして、冷凍庫も作ってみた。

「足の早い物を入れると良い。どうだろうかあっ!」

尋ねている途中で、正面から『ガシィッ』と両手を握られた。

「もう、ずっとウチに居てちょうだい!飲食店だとどうしても食材を破棄しなきゃいけない事があるでしょ?とっても心苦しかったの。それが減らせるなんて、とっても嬉しいわ。」

この宿にも冷蔵庫のような魔道具はあるが容量が小さいらしく、大容量の冷蔵庫は思いの外喜んでもらえた。

結局、カップの数が多いので、半年分の宿代を越えたら俺に付与代が支払われる事になった。
貯えが増える結果になって意外だが、非常に嬉しい。

「フェイト。気になるなら解析して良いぞ。売り出すならジェイデンが損をしないように、相談してやってくれ。」

「ふあああぁぁ」とフェイトが魔道具の世界へ飛び立ったのを横目に、ラースに声をかける。

「大工なら現場に水筒とか持ちこむよな?あんたが使ってる物の容量はどのくらいだ?」

「俺は1.5リットルのを2本使ってる。それがどうかしたか?」

「さっき、『俺には?』って言ってただろ?これでも良いか?」

中身を冷やせる水筒を2本、作って渡す。
どうせなら使って貰える物を贈りたい。

「……うん。ありがとう。うれしい。」

えらく可愛い返事が返ってきたな。
あんたの事も忘れてない。
心配いらないぞ、ラース。

「良かったわね、ラースちゃん」

「…はい。」

声をかけられて、はにかんだ笑顔を浮かべて返事をしている。
これまでに目にしていたのは『ニカッ』とした笑い方だったから、珍しい。

「どうした、ラース。えらく可愛いらしいじゃないか。」

そう声をかければ、慌てて表情を取り繕う。
ちょっと赤くなってるのバレてるぞ。

「べっ、別に良いだろ。放っといてくれ。」

今までのやり取りで、そんなことはムリだってわかってるだろうに。

「嫌だね。あんたにそんな表情かおをさせたのは俺だろ?光栄だよ。」

序でに流し目も喰らうと良い。

「お前!またその顔!俺をもて遊ぶなって!」

「本当に遊んでいると思っているのか?」

真剣な顔付きでラースを見つめる。

「っ……、違うのかよ。」

また膨れてるけど、ちょっと期待してるのわかってるぞ。
その期待に応えて、真面目な表情で答えよう。

「………………………遊んでる。」

「ほら見ろ!ってゆーか、見た?今の見た!?酷えよ!アンジェラさんも笑ってないで何とか言ってくれ!」

「青春だわ~。ラースちゃん、幸せね?」

「ダメだ、俺の味方はここには居ねぇ。」

ここで『俺の』味方が追い打ちをかける。

「もう!ラースさん。シオンさんに遊んで貰えて嬉しいって、素直に喜べば良いのに。」

「こういう遊びは喜べねえって!」

冷静じゃないラースの言葉選びには突っ込みしかできんな。

「じゃあ、どういう遊びなら喜ぶんだ?」

「そりゃあ、お前…………。」

急に黙ったな。

「どうした、ラース?」

「………………………。」

沈黙が正解だとでも思ったか。

だが、それは他の人間の場合で、俺にはむしろ悪手だ。
俺の顔面の破壊力を、その身を以て思い知ると良い。

「……ラース。」

甘く名を呼んで、立ち上がり、そっと頬を撫でて、昨夜を意識させ、唇をかすめて顎を取り、俺の顔から目を背けさせない。
見下ろされることに慣れてないだろう男を見下ろし、「ラース」ともう一度、更に甘く名を呼んで、願う形をした命令を下す。

「どうしたら喜ぶ?教えてくれ。」

「………っは、………っ。」

……いかん、効き過ぎた。
フェイトとジェイデンまでもが真っ赤になって震えている。

「すまん、やり過ぎた。許してくれ。」

慌てて手を離す。

「ぼっ、僕の心臓まで止まっちゃうかと思いました。」

「そっ、そうね、わたしもよ。シオンちゃんは見つめるだけで人を殺せちゃうわね…。度が過ぎた美しさは心臓に悪すぎるわ。…ところでラースちゃんは生きているのかしら?」

当のラースは、下を向いてまだ震えている。
ちなみに見えている耳は真っ赤だ。
俯いている意味あるのか?

「かっ、勘弁してくれ……。」

消え入りそうな声で、懇願された。
これはさすがに無視できないな。

「………わかった。次は手加減する。」

でも止めてやらない。

「っ!次もあるのか!?」

そう言いながら上げられたラースの顔は、やっぱり真っ赤で目には涙が溜まっていた。

何だその顔。

「可愛い。」

「お前、また俺を「可愛い。」からかって…」

「ラース、可愛い。」

「そ…うかよ。」

うん。
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