30 / 170
3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて
08
しおりを挟む
「ジェイデン、なぜ水不足なのか、教えて貰えるか?」
「え、ええ。でもその前に、殺気を抑えて貰えるかしら?ラースちゃんは仕方ないかもしれないけど、わたしですらツライわ。フェイトちゃんは………凄いわね、ある意味わたし以上だわ。」
そんなに漏れていたか。
申し訳なさを感じつつ、深呼吸して精神を落ちつける。
「すまなかった。」
「そんなになるなんて、本当にショックだったのね…。」
憐憫が滲んだ声で気遣われた。
「俺の家には温泉があったんだ。いつでも入り放題で……。」
もう、本当に辛い。
「あら、温泉ならこの国にもあるわよ。」
「っ!どこにあるんだ?」
「王都にはないし、お風呂として整備されてはいないけど、田舎の方に何ヶ所かあるわ。」
秘湯でも温泉なら良し!
「ありがとう、ジェイデン。希望が持てる。」
「風呂ってそんなに良いもんか?俺は入った事ないからわからんな。《クリーン》で用は足りるからな…。フェイトはどうだ?」
「僕もです。でもシオンさんがここまで魅了されてるんですから、とても良いものなんでしょうね。」
その通りだ、フェイト。
さすがにわかってるな。
「風呂や温泉の良さは入った者にしかわからない。だが、単に身体の汚れを落とすために入浴するのではないんだ。明日を生きる活力が得られるし、何より心も身体も気持ち良い。お湯に疲れが溶け出て行く感覚は堪らないぞ。」
他にも語れるが、風呂に入った事が無ければピンとこないだろう。
「そうね。身体の中からじんわり温まる、あの感覚………。とっても気持ち良いもの。」
「あなたは入浴の経験が?」
「ええ、ハンターの依頼で外国へ行ったときにね。」
と言う事は、この国じゃなければ風呂に入れる、と?
「そうか。ではこの国を出る事も選択肢に入ってくるな…。ハンターは国に縛られないと聞いたし、風呂文化のある所に拠点を置くのが良いか?」
「シオンさんこ「この国を出ていくのかっ、シオン!?」の国を出て行っちゃうんですか?」
ラースの剣幕に目を瞠る。
「どうした、ラース?」と問えば、はっ、として「いや、あの、……すまん」と歯切れが悪い。
「シオンさんが居なくなったら寂しいです……。」
「そんな顔しないでくれ。今すぐ出て行ける訳じゃ無いし、選択肢が増えただけだ。暫くはこの国に居るよ。」
「って事は結局出て行くんじゃねぇのかよ。」
すっかり拗ねてるじゃないか。
「何でそんなに膨れてるんだ?例え出て行ったとしても、ラースに会いたくなったら戻ってくるぞ?もちろんフェイト、ジェイデン、あなたたちにも。」
「ぐっ!ズルいぞ、その言い方!」
「僕、ついて行っちゃおうかな…。」
「ラースちゃん、遅めの青い春ね。」
「アンジェラさん!?あなたまでからかわないでくれ!」
やるな、ジェイデン。
俺もイジるか。
「もしそうなったら一緒に行こうか、フェイト?」
「良いんですか!?」
「俺も誘えよ!」
「何言ってんだ、あんたには工房があるだろう?」
俺の言葉にラースは頭を抱えながら「そうだった!」と叫んでいる。
こうも思い通りに反応されると、ニヤニヤしてしまうな。
「その顔…。また俺で遊んでんのか!」
「バレたか。俺を魔王扱いするからだ。」
「本気で拗ねるぞ!」
「あんたが拗ねても可愛くないぞ。なあ、フェイト。」
「うーん。可愛いより、子どもっぽいって感じですかね。」
「な。」
「俺、28だぞ!お前らより歳食ってんの!」
「若いって良いわぁ。」
あなたから見たら俺も子どもかな、ジェイデン。
「さて、話が前後して申し訳ないが、なぜ水不足なのか教えて貰えるか?」
「ええ。すごく単純な事なんだけど、この国の中央部はね、雨がほとんど降らないの。」
は?
じゃあどうやって水を確保してるんだ?
湧水と国境を越えてこちらに流れ下る河川か?
魔法のある世界だし、魔道具もか…。
「幸いなことに大きな地下水脈があってね、そこから魔道具を使って汲み上げてるの。でも、水脈があっても汲み上げる能力は限られてるから、お風呂みたいにたくさん水が必要なものには使えないの。建物には貯水タンクがあってね、上水用タンクに決まった量の水が送られてきて、使った水は下水タンクに溜めておくの。その水は下水道を通して集められて《クリーン》をした後で農業なんかに使われてるわ。」
風呂に回す水が無いなんて…。
涙が出そうだ。
「魔道具はどうなんだ?水は生み出せないのか?」
是非ともできると言ってほしい。
「えっと、あるにはあるんですが……。」
良くない話みたいだな…。
「費用対効果がとても悪いんです。魔道具の素材もかなり高価ですし、運用しようとすると膨大な魔力を消費します。魔法を付与したり素材を加工するので、僕の魔力はそれなりに多いのですが、それでもバケツ1杯分くらいが限界でしょうね。」
「と、いうことは…。」
「魔道具で水を生み出すのは現実的ではありません。」
魂、抜けそうだ。
「え、ええ。でもその前に、殺気を抑えて貰えるかしら?ラースちゃんは仕方ないかもしれないけど、わたしですらツライわ。フェイトちゃんは………凄いわね、ある意味わたし以上だわ。」
そんなに漏れていたか。
申し訳なさを感じつつ、深呼吸して精神を落ちつける。
「すまなかった。」
「そんなになるなんて、本当にショックだったのね…。」
憐憫が滲んだ声で気遣われた。
「俺の家には温泉があったんだ。いつでも入り放題で……。」
もう、本当に辛い。
「あら、温泉ならこの国にもあるわよ。」
「っ!どこにあるんだ?」
「王都にはないし、お風呂として整備されてはいないけど、田舎の方に何ヶ所かあるわ。」
秘湯でも温泉なら良し!
「ありがとう、ジェイデン。希望が持てる。」
「風呂ってそんなに良いもんか?俺は入った事ないからわからんな。《クリーン》で用は足りるからな…。フェイトはどうだ?」
「僕もです。でもシオンさんがここまで魅了されてるんですから、とても良いものなんでしょうね。」
その通りだ、フェイト。
さすがにわかってるな。
「風呂や温泉の良さは入った者にしかわからない。だが、単に身体の汚れを落とすために入浴するのではないんだ。明日を生きる活力が得られるし、何より心も身体も気持ち良い。お湯に疲れが溶け出て行く感覚は堪らないぞ。」
他にも語れるが、風呂に入った事が無ければピンとこないだろう。
「そうね。身体の中からじんわり温まる、あの感覚………。とっても気持ち良いもの。」
「あなたは入浴の経験が?」
「ええ、ハンターの依頼で外国へ行ったときにね。」
と言う事は、この国じゃなければ風呂に入れる、と?
「そうか。ではこの国を出る事も選択肢に入ってくるな…。ハンターは国に縛られないと聞いたし、風呂文化のある所に拠点を置くのが良いか?」
「シオンさんこ「この国を出ていくのかっ、シオン!?」の国を出て行っちゃうんですか?」
ラースの剣幕に目を瞠る。
「どうした、ラース?」と問えば、はっ、として「いや、あの、……すまん」と歯切れが悪い。
「シオンさんが居なくなったら寂しいです……。」
「そんな顔しないでくれ。今すぐ出て行ける訳じゃ無いし、選択肢が増えただけだ。暫くはこの国に居るよ。」
「って事は結局出て行くんじゃねぇのかよ。」
すっかり拗ねてるじゃないか。
「何でそんなに膨れてるんだ?例え出て行ったとしても、ラースに会いたくなったら戻ってくるぞ?もちろんフェイト、ジェイデン、あなたたちにも。」
「ぐっ!ズルいぞ、その言い方!」
「僕、ついて行っちゃおうかな…。」
「ラースちゃん、遅めの青い春ね。」
「アンジェラさん!?あなたまでからかわないでくれ!」
やるな、ジェイデン。
俺もイジるか。
「もしそうなったら一緒に行こうか、フェイト?」
「良いんですか!?」
「俺も誘えよ!」
「何言ってんだ、あんたには工房があるだろう?」
俺の言葉にラースは頭を抱えながら「そうだった!」と叫んでいる。
こうも思い通りに反応されると、ニヤニヤしてしまうな。
「その顔…。また俺で遊んでんのか!」
「バレたか。俺を魔王扱いするからだ。」
「本気で拗ねるぞ!」
「あんたが拗ねても可愛くないぞ。なあ、フェイト。」
「うーん。可愛いより、子どもっぽいって感じですかね。」
「な。」
「俺、28だぞ!お前らより歳食ってんの!」
「若いって良いわぁ。」
あなたから見たら俺も子どもかな、ジェイデン。
「さて、話が前後して申し訳ないが、なぜ水不足なのか教えて貰えるか?」
「ええ。すごく単純な事なんだけど、この国の中央部はね、雨がほとんど降らないの。」
は?
じゃあどうやって水を確保してるんだ?
湧水と国境を越えてこちらに流れ下る河川か?
魔法のある世界だし、魔道具もか…。
「幸いなことに大きな地下水脈があってね、そこから魔道具を使って汲み上げてるの。でも、水脈があっても汲み上げる能力は限られてるから、お風呂みたいにたくさん水が必要なものには使えないの。建物には貯水タンクがあってね、上水用タンクに決まった量の水が送られてきて、使った水は下水タンクに溜めておくの。その水は下水道を通して集められて《クリーン》をした後で農業なんかに使われてるわ。」
風呂に回す水が無いなんて…。
涙が出そうだ。
「魔道具はどうなんだ?水は生み出せないのか?」
是非ともできると言ってほしい。
「えっと、あるにはあるんですが……。」
良くない話みたいだな…。
「費用対効果がとても悪いんです。魔道具の素材もかなり高価ですし、運用しようとすると膨大な魔力を消費します。魔法を付与したり素材を加工するので、僕の魔力はそれなりに多いのですが、それでもバケツ1杯分くらいが限界でしょうね。」
「と、いうことは…。」
「魔道具で水を生み出すのは現実的ではありません。」
魂、抜けそうだ。
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…


○○に求婚されたおっさん、逃げる・・
相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。
といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。
しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる