29 / 170
3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて
07
しおりを挟む
突然だが、俺は風呂が好きだ。
愛していると言っても過言では無い。
疲れや心の澱がお湯に溶けて癒やされる感覚は、筆舌に尽くし難い。
風呂は心の洗濯だと言った先人の言葉は真理だと思っている。
そして俺はプールも好きだ。
プールじゃなくても水遊びは楽しい。
子どもの頃は良かった。
まだプールに入れたから。
だが10歳を過ぎて、第二次性徴期を向かえる頃にプールに入れなくなった。
プールが好きな子どもは多いと思うが、俺もそうだった。
だが俺がプールに入る…というか、水着になると周りが落ち着かなくなった。
身も蓋もないことを言うが、男子生徒は前屈みに、女子生徒(一部の男子生徒も)は内股になってしまって、授業が成立しなくなったのだ。
小学校は何とか乗り切ったが、中学校はムリだった。
プールの授業が男子と女子に別れ、俺のせいで校則が変更され、ラッシュガードを着用できるようになったがダメだった。
教師には頭を下げられた。
その時の俺は、表情が死んでいたと思う。
結局、放課後にテストだけ受けたが、教師の目は泳いでいた。
そんな状態でどうやって成績をつけるのか。
テストする意味がわからなかったし、独りでのプールは全く楽しくなかった。
その後、更衣室での隠し撮りが見つかった。
犯人は…まぁ、言わないでおく。
子どもから大人になるときの危うい色香に抗えなかった、と警察署で自供したそうだ。
警察署でも証拠の映像を確認する際に、黒山の人集りが出来たとか、出来なかったとか。
俺の着替え映像は児童ポルノでは無いのだが。
そんな俺は、当然市民プールも出禁をくらった。
市民プールがダメならレジャープールだ!と遊びに行けば、水着に着替えて直ぐに責任者に呼び出された。
もう、おわかりだろう。
こちらも出禁になった。
プールは諦めたが、めげずに銭湯に行けば、意外にもすんなり入浴できた。
ここなら通えると喜んでいたが、帰るときにもう来ないでほしいと謝罪された。
彼らの言い分はこうだ。
『大変申し訳ないが、風紀が乱れるので、当施設の利用は控えて頂きたい』
ルールやマナーを守っても、猥褻物扱いされた。
だから俺は、子どもの憧れであるウォータースライダーを体験した事が無い。
風呂好きであるにも関わらず、スーパー銭湯に入った事も無い。
そして海は自分がどんな目に遭うか恐ろしくて行けなかった。
そんな俺を癒やして慰めてくれたのが実家の温泉と、参加出来なかったコスプレ呑み会の参加者たちだった。
母の実家はかなり昔から続く武術の家なので、敷地内に『武将の隠し湯』のような温泉が涌いていて、露天風呂と内湯があったのだ。
むしろ温泉がある所に家を構えたと言うのが正しいかもしれない。
打撲や擦り傷、疲労回復などに効能があるしな。
ちなみに両親と俺が住んでいたのは藍羽家の離れだ。
なので温泉には入り放題だった。
ではなぜわざわざ銭湯に行ったのか……。
今となっては覚えていないが、多分、当時の俺は意地になっていたんだろう。
そして、プールや銭湯からの出禁に打ちひしがれる俺の為に、アケミさんや母の舎弟(?)の皆が、おじから水着での入浴の許可を取ってくれた。
露天風呂でわざわざ水着を着て、一緒になって騒いで遊んで貰ったのは良い思い出だ。
ウォーターガンがあんなに楽しい物だったとは…。
皆、既に大人だったので本気の遊びには目を瞠るものがあった。
手を抜かずに子どもだった俺の相手をしてくれた彼らには、心から感謝している。
このような事があって、俺は益々彼らと風呂が好きになった。
そんな俺が風呂に入れないなんて、悪い夢でも見ているようだ。
俺を風呂の無い国に拉致したトーマス・オグデンと、今では存在しない魔術師共に、思わず殺意が湧き上がってしまいそうだ。
遠慮せずにもっとボコボコにしてやれば良かった。
だが、奴とは関わりを持ちたく無いので積極的に報復はしない。
自重しないと決めたが、中々難しい。
そもそもなぜ風呂が無いんだ。
風呂と言う言葉は通じたのに。
到底納得できない。
「………なぜ、…風呂が、…無いんだ?」
自分でもびっくりするくらい情け無い声しか出なかった。
「……………………………。」
誰か教えてくれ。
「あのね、シオンちゃん……」と声がかかった。
どうやらジェイデンが答えてくれるらしい。
のろのろと視線を向ける。
「この国はね、常に水不足で、渇水状態なの。」
ゆっくりと言い聞かせるように告げられた。
『水不足』、『渇水』、それらは風呂の敵だ。
あとは『取水制限』も。
風呂の敵は即ち、俺の敵だ。
赦さん。
原因は叩き潰してくれる。
「ヒェっ!魔王だ……魔王が降臨したぞ!」とラースが言って怯えているが、今は無視だ。
後で覚えてろ。
「『魔王シオン』……そんなシオンさんも尊い。」と呟くフェイトは通常運転だ。
おかげで少し落ち着いた。
ありがとう、フェイト。
好きなだけ俺の顔を堪能してくれ。
愛していると言っても過言では無い。
疲れや心の澱がお湯に溶けて癒やされる感覚は、筆舌に尽くし難い。
風呂は心の洗濯だと言った先人の言葉は真理だと思っている。
そして俺はプールも好きだ。
プールじゃなくても水遊びは楽しい。
子どもの頃は良かった。
まだプールに入れたから。
だが10歳を過ぎて、第二次性徴期を向かえる頃にプールに入れなくなった。
プールが好きな子どもは多いと思うが、俺もそうだった。
だが俺がプールに入る…というか、水着になると周りが落ち着かなくなった。
身も蓋もないことを言うが、男子生徒は前屈みに、女子生徒(一部の男子生徒も)は内股になってしまって、授業が成立しなくなったのだ。
小学校は何とか乗り切ったが、中学校はムリだった。
プールの授業が男子と女子に別れ、俺のせいで校則が変更され、ラッシュガードを着用できるようになったがダメだった。
教師には頭を下げられた。
その時の俺は、表情が死んでいたと思う。
結局、放課後にテストだけ受けたが、教師の目は泳いでいた。
そんな状態でどうやって成績をつけるのか。
テストする意味がわからなかったし、独りでのプールは全く楽しくなかった。
その後、更衣室での隠し撮りが見つかった。
犯人は…まぁ、言わないでおく。
子どもから大人になるときの危うい色香に抗えなかった、と警察署で自供したそうだ。
警察署でも証拠の映像を確認する際に、黒山の人集りが出来たとか、出来なかったとか。
俺の着替え映像は児童ポルノでは無いのだが。
そんな俺は、当然市民プールも出禁をくらった。
市民プールがダメならレジャープールだ!と遊びに行けば、水着に着替えて直ぐに責任者に呼び出された。
もう、おわかりだろう。
こちらも出禁になった。
プールは諦めたが、めげずに銭湯に行けば、意外にもすんなり入浴できた。
ここなら通えると喜んでいたが、帰るときにもう来ないでほしいと謝罪された。
彼らの言い分はこうだ。
『大変申し訳ないが、風紀が乱れるので、当施設の利用は控えて頂きたい』
ルールやマナーを守っても、猥褻物扱いされた。
だから俺は、子どもの憧れであるウォータースライダーを体験した事が無い。
風呂好きであるにも関わらず、スーパー銭湯に入った事も無い。
そして海は自分がどんな目に遭うか恐ろしくて行けなかった。
そんな俺を癒やして慰めてくれたのが実家の温泉と、参加出来なかったコスプレ呑み会の参加者たちだった。
母の実家はかなり昔から続く武術の家なので、敷地内に『武将の隠し湯』のような温泉が涌いていて、露天風呂と内湯があったのだ。
むしろ温泉がある所に家を構えたと言うのが正しいかもしれない。
打撲や擦り傷、疲労回復などに効能があるしな。
ちなみに両親と俺が住んでいたのは藍羽家の離れだ。
なので温泉には入り放題だった。
ではなぜわざわざ銭湯に行ったのか……。
今となっては覚えていないが、多分、当時の俺は意地になっていたんだろう。
そして、プールや銭湯からの出禁に打ちひしがれる俺の為に、アケミさんや母の舎弟(?)の皆が、おじから水着での入浴の許可を取ってくれた。
露天風呂でわざわざ水着を着て、一緒になって騒いで遊んで貰ったのは良い思い出だ。
ウォーターガンがあんなに楽しい物だったとは…。
皆、既に大人だったので本気の遊びには目を瞠るものがあった。
手を抜かずに子どもだった俺の相手をしてくれた彼らには、心から感謝している。
このような事があって、俺は益々彼らと風呂が好きになった。
そんな俺が風呂に入れないなんて、悪い夢でも見ているようだ。
俺を風呂の無い国に拉致したトーマス・オグデンと、今では存在しない魔術師共に、思わず殺意が湧き上がってしまいそうだ。
遠慮せずにもっとボコボコにしてやれば良かった。
だが、奴とは関わりを持ちたく無いので積極的に報復はしない。
自重しないと決めたが、中々難しい。
そもそもなぜ風呂が無いんだ。
風呂と言う言葉は通じたのに。
到底納得できない。
「………なぜ、…風呂が、…無いんだ?」
自分でもびっくりするくらい情け無い声しか出なかった。
「……………………………。」
誰か教えてくれ。
「あのね、シオンちゃん……」と声がかかった。
どうやらジェイデンが答えてくれるらしい。
のろのろと視線を向ける。
「この国はね、常に水不足で、渇水状態なの。」
ゆっくりと言い聞かせるように告げられた。
『水不足』、『渇水』、それらは風呂の敵だ。
あとは『取水制限』も。
風呂の敵は即ち、俺の敵だ。
赦さん。
原因は叩き潰してくれる。
「ヒェっ!魔王だ……魔王が降臨したぞ!」とラースが言って怯えているが、今は無視だ。
後で覚えてろ。
「『魔王シオン』……そんなシオンさんも尊い。」と呟くフェイトは通常運転だ。
おかげで少し落ち着いた。
ありがとう、フェイト。
好きなだけ俺の顔を堪能してくれ。
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・
相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。
といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。
しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・


俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる