ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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3章 天使と仔猫と風呂と俺、マスコットを添えて

07

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突然だが、俺は風呂が好きだ。
愛していると言っても過言では無い。
疲れや心の澱がお湯に溶けて癒やされる感覚は、筆舌に尽くし難い。
風呂は心の洗濯だと言った先人の言葉は真理だと思っている。

そして俺はプールも好きだ。
プールじゃなくても水遊びは楽しい。
子どもの頃は良かった。
まだプールに入れたから。
だが10歳を過ぎて、第二次性徴期を向かえる頃にプールに入れなくなった。

プールが好きな子どもは多いと思うが、俺もそうだった。
だが俺がプールに入る…というか、水着になると周りが落ち着かなくなった。
身も蓋もないことを言うが、男子生徒は前屈みに、女子生徒(一部の男子生徒も)は内股になってしまって、授業が成立しなくなったのだ。

小学校は何とか乗り切ったが、中学校はムリだった。
プールの授業が男子と女子に別れ、俺のせいで校則が変更され、ラッシュガードを着用できるようになったがダメだった。

教師には頭を下げられた。
その時の俺は、表情が死んでいたと思う。
結局、放課後にテストだけ受けたが、教師の目は泳いでいた。
そんな状態でどうやって成績をつけるのか。
テストする意味がわからなかったし、独りでのプールは全く楽しくなかった。

その後、更衣室での隠し撮りが見つかった。
犯人は…まぁ、言わないでおく。
子どもから大人になるときの危うい色香に抗えなかった、と警察署で自供したそうだ。
警察署でも証拠の映像を確認する際に、黒山の人集りが出来たとか、出来なかったとか。
俺の着替え映像は児童ポルノでは無いのだが。

そんな俺は、当然市民プールも出禁をくらった。

市民プールがダメならレジャープールだ!と遊びに行けば、水着に着替えて直ぐに責任者に呼び出された。
もう、おわかりだろう。
こちらも出禁になった。

プールは諦めたが、めげずに銭湯に行けば、意外にもすんなり入浴できた。
ここなら通えると喜んでいたが、帰るときにもう来ないでほしいと謝罪された。

彼らの言い分はこうだ。

『大変申し訳ないが、風紀が乱れるので、当施設の利用は控えて頂きたい』

ルールやマナーを守っても、猥褻物扱いされた。

だから俺は、子どもの憧れであるウォータースライダーを体験した事が無い。
風呂好きであるにも関わらず、スーパー銭湯に入った事も無い。
そして海は自分がどんな目に遭うか恐ろしくて行けなかった。

そんな俺を癒やして慰めてくれたのが実家の温泉と、参加出来なかったコスプレ呑み会の参加者たちだった。

母の実家はかなり昔から続く武術の家なので、敷地内に『武将の隠し湯』のような温泉が涌いていて、露天風呂と内湯があったのだ。
むしろ温泉がある所に家を構えたと言うのが正しいかもしれない。
打撲や擦り傷、疲労回復などに効能があるしな。

ちなみに両親と俺が住んでいたのは藍羽家の離れだ。
なので温泉には入り放題だった。
ではなぜわざわざ銭湯に行ったのか……。
今となっては覚えていないが、多分、当時の俺は意地になっていたんだろう。

そして、プールや銭湯からの出禁に打ちひしがれる俺の為に、アケミさんや母の舎弟(?)の皆が、おじから水着での入浴の許可を取ってくれた。
露天風呂でわざわざ水着を着て、一緒になって騒いで遊んで貰ったのは良い思い出だ。

ウォーターガンがあんなに楽しい物だったとは…。
皆、既に大人だったので本気の遊びには目を瞠るものがあった。
手を抜かずに子どもだった俺の相手をしてくれた彼らには、心から感謝している。

このような事があって、俺は益々彼らと風呂が好きになった。

そんな俺が風呂に入れないなんて、悪い夢でも見ているようだ。
俺を風呂の無い国に拉致したトーマス・オグデンと、今では存在しない魔術師共に、思わず殺意が湧き上がってしまいそうだ。
遠慮せずにもっとボコボコにしてやれば良かった。
だが、奴とは関わりを持ちたく無いので積極的に報復はしない。
自重しないと決めたが、中々難しい。

そもそもなぜ風呂が無いんだ。
風呂と言う言葉は通じたのに。
到底納得できない。

「………なぜ、…風呂が、…無いんだ?」

自分でもびっくりするくらい情け無い声しか出なかった。

「……………………………。」

誰か教えてくれ。

「あのね、シオンちゃん……」と声がかかった。
どうやらジェイデンが答えてくれるらしい。
のろのろと視線を向ける。

「この国はね、常に水不足で、渇水状態なの。」

ゆっくりと言い聞かせるように告げられた。

『水不足』、『渇水』、それらは風呂の敵だ。
あとは『取水制限』も。
風呂の敵は即ち、俺の敵だ。
赦さん。
原因は叩き潰してくれる。

「ヒェっ!魔王だ……魔王が降臨したぞ!」とラースが言って怯えているが、今は無視だ。
後で覚えてろ。
「『魔王シオン』……そんなシオンさんも尊い。」と呟くフェイトは通常運転だ。

おかげで少し落ち着いた。
ありがとう、フェイト。
好きなだけ俺の顔を堪能してくれ。
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