ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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2章 間違った使い方をされた麻袋と中の人

03

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「仕事熱心なんだな。そういう職人さんて格好良いよ。」

俺の指に嵌ってるヨーコさんの作品に目が行く。

「かっ!格好良いなんて!初めて言われました…。どうも頼りないって思われてるみたいで……。」

今度はしょぼんとしてしまった。
しかし、熱意のある職人に頼りないって酷いな。

「でも好きなんだろう?」

「はいっ!」

良い表情で笑ってくれたが、だからこそ続けられないかも…という言葉が気にかかる。

「好きこそものの上手なれって言うし。魔道具が好きって、1つの才能だよ。」

「…初めて聞きました。でも素敵な言葉ですね。」

「俺の故郷の言葉なんだ。」

微笑みあったところでフェイトの店舗と工房を兼ねる自宅が見えてきた。
その建物の前に2つの人影があった。

「知り合いか?」と聞けば「そうです。」と言うので、姿を隠していた魔法を解除してそのまま近づく。

するとこちらに気付いた背の低い方の男が叫んだ。

「フェイトっ!!遅いから心配したっ!」

「…ルジェ。それにラースさんも。どうしたんです?」

横抱きにしたままの身体が少し強張った。

「どうしたもこうしたも無いだろ!貴族のトコに行くって言うから「ストップ。」」

腕の中のフェイトがどんどん固まっていくのを感じて、イキった駄犬みたいな男を遮る。

コイツ、ダメだ。
フェイトのことが心配なのかもしれないが、俺に抱かれてる時点で普通の状態じゃないとわかるだろうに。
特に暴行された後だし、男の怒鳴り声は堪えるだろう。

「往来で怒鳴るのはやめてくれ。目立つのは彼にとっても良くない。」

静かに告げると勢い良く睨まれた。
この程度の視線など痛くも痒くもない。

「お前には関係ないだろ!黙ってろ!!」

フェイトを抱いている俺に向かって関係無いとかよく言えたな。
いよいよフェイトの身体が震えてきそうだ。
どうするか、と思っていたら背の高い方の男が間に入ってきた。

「そこまでだ、ルジェ。見るからに事情がありそうだぞ。それにフェイトが怯えてるから静かにしていろ。」

「そんなことっ「ルジェ。」」

「…わかったよ。」

ラースと呼ばれた男はまともそうだ。
止められたルジェとやらは不満タラタラだな。

「できたら中で話しを聞かせてほしいが、どうだ?」

ちゃんとフェイトに許可を求め、適度な距離を保って無理に近寄って来ない。
こっちの男なら大丈夫そうだし、逡巡しているフェイトに提案する。

「俺もだけど、この人もフェイトの嫌がることはしないと思う。見て…彼はちゃんと距離を取ってくれてるだろ?」

遠まわしにルジェの態度は良くないと匂わせる。

「ルジェも静かにさせる。」

ラースは俺の意図に気が付いたようだ。
ちゃんとそいつの手綱を握っておいてくれよ。

「…それならどうぞ。あの、裏に回ってもらえますか?」

前半はラースに、後半は俺に、フェイトが言う。

横抱きで進むには狭いので縦抱きにしてから裏口に向かう。
これはこれで恥ずかしいらしく、また顔が赤くなっている。

それを見てルジェがまた何か言おうとしたが、ラースが視線でルジェを制した。
その調子で頑張ってもらいたい。

裏口の前でフェイトをそっと降ろすと彼が指の欠けた手でドアに触れて解錠する。
魔道具職人だけあって鍵は魔道具らしい。

それにいつもの習慣で利き手で鍵に触れたと予想できる。
彼は職人なのに利き手の指を無くしたのか。

ラースの様子を窺えば、眉間に皺が寄っている。
彼もフェイトの指に気付いた。
というこは、やはり彼の指は貴族の屋敷で落とされたんだな。

傷は確かに治ったが、再生まではしていないってことか。
魔法のイメージ次第ではどうにかなるなもしれないな。

リビングに着き、ソファにフェイトを座らせてから隣に腰を下ろす。
ラースがダイニングから椅子を二脚持ってきた。

「俺とルジェはこっちの椅子を借りる。」

彼らは広めに距離を取って座った。

「じゃあ、あの、僕は何か飲み物を…。」

そう言って立ち上がろうとするフェイトの、指の欠けた手を取って言った。

「手伝うよ。」

有無を言わせない強い視線でフェイトの否定する言葉を抑えて、共に立ち上がってキッチンに向かう。

「…あの、ありがとうございます。あんまり知られたくなかったので。…あと、そこにレモン水があるのでそれをお願いします。」

消え入りそうな声で話すフェイトに代わって準備を終え、トレーにピッチャーとカップを乗せて運び、それぞれの前に置く。

数時間ぶりの水分が疲れた身体に沁みる。

「早速で悪いが、説明してもらえるか?」

ラースの目がフェイトの手元を見た。

「フェイトの友人のラースだ。大工をしていて同じ物件の仕事を受けたこともある。フェイトに何があった?キミとはどういう関係だ?」

「俺はシオン。俺の事情は俺が話しても良いと思えた人間にしか話したくない。それにフェイトのことは彼自身に許可を取ってくれ。彼が良いなら話そう。」

二人分の視線を受けてフェイトがおずおずと口を開く。

「あの、ラースさんなら大丈夫です。でもちょっと意識、無かったりしたから、シオンさんから説明してもらっても、いいですか?」

「フェイトがそう言うのなら構わない。」

俺は順を追って、あった事を話して聞かせた。
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