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1章 同意のない召喚は犯罪
07
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「では俺が聞こう。召喚者及び、それを知る者の義務はあるのか。」
「ない。なぜなら召喚者は存在しないはずの者だからだ。存在しない者を縛る法もまた、存在しない。」
「そうか。では、あなたが語ってくれたエピソードは皆が知っているのか?」
「その通りだ。伝承や物語にして遺すのではなく、事実を伝え抑止の力としているのだ。この大陸の通貨はフロリスというのだが、これは召喚者を騙して消滅した国の名に由来する。日常から接する物に名を移し、忘却に抗っている。…はずだったというのに。」
二人の視線がトーマス・オグデンに向かう。
モテない男の嫁を召喚されたんじゃ、召喚魔法禁止のために尽力した先人たちも浮かばれないな。
俺も被害者になったし、いい迷惑だ。
それよりも、だ。
「還る手段が存在しないのは間違いないか。」
痛ましい表情を浮かべ、「間違いない」と子爵が肯定する。
「俺は、これから、ここで、生きていくのだな………。」
思いの外、疲れた声が出てしまった。
下手に今回の召喚の真相を追求しない方が良いのかもしれない。
カラコンとウィッグを外せば別人に見えるだろうから、誰も素顔の俺が召喚者だとはわからない。
魔術師も、もう存在しないことだし。
「では子爵。魔法の誓約書は存在するか?存在するならば、是非ともトーマス・オグデンに誓約させたいことがある。」
それを聞いた子爵が執事を呼び出し、準備を申し付けた。
「どんな事を誓約させるつもりだい?」
「オグデン一族が、今後一切俺に関わらないようにさせようと思っている。」
子爵が苦笑している。
だってイヤなんだ、絡まれたりしたく無いし、仕方ない。
あんたなら俺の気持ちわかるだろう?
「待ってる間に他の話も済ませよう。まずは金銭だ。一般の民がまともな宿に泊まって一年生活できる額を要求する。ついでに通貨についても教えてほしい」
了承を得てから次に移る。
「それと屋敷の者を全員集めて魔法をかけさせてほしい。申し訳ないが、あなたにも。使用する魔法は、俺のことを俺の許可なく他者に伝えられなくするものだ。情報の漏洩を防ぐためだ、これは断られても絶対にかけさせてもらう。」
「君の身の安全のためなら致し方ないだろう。むしろそれだけで良いのか?金銭も君のこれからの人生を思えば安価に過ぎないか。」
「毟り取ってやりたい気持ちは、確かに強くある。だが、反省などしていない加害者からの金で食べる食事は美味くないだろうから、必要な分だけで良い。如何せん住む所が無いからな…これでも吹っ掛けたと思っている。」
そう話したところで扉がノックされた。
誓約書の準備が整ったらしい。
粛々と作業を進める執事に、更なる仕事が追加される。
執事さんも大変だな。
そちらを眺めていると子爵が誓約書を手ずから書き上げてくれて、俺に差し出してくる。
「内容に不備は無いだろうか?」
俺の存在を知るトーマス・オグデンは決して自らこの誓約書を持つ者、及びその所有物に近づかず、関わりを持たないこと。
オグデン一族、関係者はこの誓約書を提示されたら直ちに関わりを絶つこと。
この誓約書の譲渡は禁止すること。
誓約を違えた場合は誓約書の持ち主の望むもの(こと)を差し出す、というオマケ付きだ。
これらがトーマス・オグデン伯爵の名で明記されている。
後はトーマス本人がサインするだけだ。
「問題無い。ありがとう、気を遣ってもらったな。後は…。」
再び二人の視線がトーマス・オグデンに向けられた。
当たり前だがサインは拘束されていたら書けない。
また五月蝿くなりそうだ。
右手だけ解放できるかやってみよう。
もうアイツは俺の魔法の実験台として頑張って貰おう。
開き直ることも時には必要だ、多分。
俺たち二人の視線を受けるトーマスの表情が固まるが、無視して右手だけを解放する。
部分的にできて良かった。
猿轡まで外れていたら、喧しくて堪らなかっただろう。
子爵が近づくき、要求する。
「この誓約書に目を通してサインしろ。」
そういえば、と子爵に尋ねる。
「そいつ、腐っても伯爵なんだろう?さっきから子爵がそういう扱いをしてるけど、後々問題になったりしないのか?」
「なるだろうが、もはや構わない。こんな愚か者の後見人など、やっていられない。家族には迷惑をかけるだろうが、どうにか分かってもらう。」
気持ちは良く分かる。
今ならちょっと煽れば子爵を後見人から外すんじゃないか?
何度目かの実験だ。
予備の誓約書の用紙にペンを走らせる。
よし、書く方も問題なくできる。
子爵の解任書類を作って持って行く。
あとは煽るのみだし、子爵に書類を見せながら話しかける。
「まぁコイツが主人とか考えたくもないし、家族の皆さんもきっと分かってくれるよ。だって誰よりも近くで、ダメな上司にボロボロにされて行く子爵を見てきたんだろう?」
悪い笑顔で子爵に続きを促す。
「そうだろうか。確かに仕えたり、後見するには値しない男だが、やはり腐っても伯爵だからな…。」
「家族なら窶れて疲れ果てた子爵を犠牲にしたくないんじゃないかな?それにオグデン伯爵家って子爵の家をどうこうできるような権力とか無いんじゃないの?」
横目で確認したが、いい感じに頭に血が昇っているようだ。
猿轡を外して仕上げをしよう。
「黙って聞いていればキサマら!どこまでわたしを愚弄する気だ!!わたしより下位の者共は黙ってわたしに跪けば良いのだ。たかが子爵如きが偉そうに!煩わしいだけのキサマなど必要ない!クビにしてやる!今さら謝っても二度と雇わんからなっ!!」
その瞬間トーマス・オグデンの目の前に二枚の誓約書が差し出され、サインがなされた。
余りの単純さに引いてしまう。
「二度と雇わんというセリフは給金を払ってから言ってもらいたいな。」
「子爵、タダ働きだったのか?」
驚いて、思わず聞いてしまった。
「ない。なぜなら召喚者は存在しないはずの者だからだ。存在しない者を縛る法もまた、存在しない。」
「そうか。では、あなたが語ってくれたエピソードは皆が知っているのか?」
「その通りだ。伝承や物語にして遺すのではなく、事実を伝え抑止の力としているのだ。この大陸の通貨はフロリスというのだが、これは召喚者を騙して消滅した国の名に由来する。日常から接する物に名を移し、忘却に抗っている。…はずだったというのに。」
二人の視線がトーマス・オグデンに向かう。
モテない男の嫁を召喚されたんじゃ、召喚魔法禁止のために尽力した先人たちも浮かばれないな。
俺も被害者になったし、いい迷惑だ。
それよりも、だ。
「還る手段が存在しないのは間違いないか。」
痛ましい表情を浮かべ、「間違いない」と子爵が肯定する。
「俺は、これから、ここで、生きていくのだな………。」
思いの外、疲れた声が出てしまった。
下手に今回の召喚の真相を追求しない方が良いのかもしれない。
カラコンとウィッグを外せば別人に見えるだろうから、誰も素顔の俺が召喚者だとはわからない。
魔術師も、もう存在しないことだし。
「では子爵。魔法の誓約書は存在するか?存在するならば、是非ともトーマス・オグデンに誓約させたいことがある。」
それを聞いた子爵が執事を呼び出し、準備を申し付けた。
「どんな事を誓約させるつもりだい?」
「オグデン一族が、今後一切俺に関わらないようにさせようと思っている。」
子爵が苦笑している。
だってイヤなんだ、絡まれたりしたく無いし、仕方ない。
あんたなら俺の気持ちわかるだろう?
「待ってる間に他の話も済ませよう。まずは金銭だ。一般の民がまともな宿に泊まって一年生活できる額を要求する。ついでに通貨についても教えてほしい」
了承を得てから次に移る。
「それと屋敷の者を全員集めて魔法をかけさせてほしい。申し訳ないが、あなたにも。使用する魔法は、俺のことを俺の許可なく他者に伝えられなくするものだ。情報の漏洩を防ぐためだ、これは断られても絶対にかけさせてもらう。」
「君の身の安全のためなら致し方ないだろう。むしろそれだけで良いのか?金銭も君のこれからの人生を思えば安価に過ぎないか。」
「毟り取ってやりたい気持ちは、確かに強くある。だが、反省などしていない加害者からの金で食べる食事は美味くないだろうから、必要な分だけで良い。如何せん住む所が無いからな…これでも吹っ掛けたと思っている。」
そう話したところで扉がノックされた。
誓約書の準備が整ったらしい。
粛々と作業を進める執事に、更なる仕事が追加される。
執事さんも大変だな。
そちらを眺めていると子爵が誓約書を手ずから書き上げてくれて、俺に差し出してくる。
「内容に不備は無いだろうか?」
俺の存在を知るトーマス・オグデンは決して自らこの誓約書を持つ者、及びその所有物に近づかず、関わりを持たないこと。
オグデン一族、関係者はこの誓約書を提示されたら直ちに関わりを絶つこと。
この誓約書の譲渡は禁止すること。
誓約を違えた場合は誓約書の持ち主の望むもの(こと)を差し出す、というオマケ付きだ。
これらがトーマス・オグデン伯爵の名で明記されている。
後はトーマス本人がサインするだけだ。
「問題無い。ありがとう、気を遣ってもらったな。後は…。」
再び二人の視線がトーマス・オグデンに向けられた。
当たり前だがサインは拘束されていたら書けない。
また五月蝿くなりそうだ。
右手だけ解放できるかやってみよう。
もうアイツは俺の魔法の実験台として頑張って貰おう。
開き直ることも時には必要だ、多分。
俺たち二人の視線を受けるトーマスの表情が固まるが、無視して右手だけを解放する。
部分的にできて良かった。
猿轡まで外れていたら、喧しくて堪らなかっただろう。
子爵が近づくき、要求する。
「この誓約書に目を通してサインしろ。」
そういえば、と子爵に尋ねる。
「そいつ、腐っても伯爵なんだろう?さっきから子爵がそういう扱いをしてるけど、後々問題になったりしないのか?」
「なるだろうが、もはや構わない。こんな愚か者の後見人など、やっていられない。家族には迷惑をかけるだろうが、どうにか分かってもらう。」
気持ちは良く分かる。
今ならちょっと煽れば子爵を後見人から外すんじゃないか?
何度目かの実験だ。
予備の誓約書の用紙にペンを走らせる。
よし、書く方も問題なくできる。
子爵の解任書類を作って持って行く。
あとは煽るのみだし、子爵に書類を見せながら話しかける。
「まぁコイツが主人とか考えたくもないし、家族の皆さんもきっと分かってくれるよ。だって誰よりも近くで、ダメな上司にボロボロにされて行く子爵を見てきたんだろう?」
悪い笑顔で子爵に続きを促す。
「そうだろうか。確かに仕えたり、後見するには値しない男だが、やはり腐っても伯爵だからな…。」
「家族なら窶れて疲れ果てた子爵を犠牲にしたくないんじゃないかな?それにオグデン伯爵家って子爵の家をどうこうできるような権力とか無いんじゃないの?」
横目で確認したが、いい感じに頭に血が昇っているようだ。
猿轡を外して仕上げをしよう。
「黙って聞いていればキサマら!どこまでわたしを愚弄する気だ!!わたしより下位の者共は黙ってわたしに跪けば良いのだ。たかが子爵如きが偉そうに!煩わしいだけのキサマなど必要ない!クビにしてやる!今さら謝っても二度と雇わんからなっ!!」
その瞬間トーマス・オグデンの目の前に二枚の誓約書が差し出され、サインがなされた。
余りの単純さに引いてしまう。
「二度と雇わんというセリフは給金を払ってから言ってもらいたいな。」
「子爵、タダ働きだったのか?」
驚いて、思わず聞いてしまった。
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