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1章 同意のない召喚は犯罪
06
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子爵の愛妻さんのお母さんが亡くなる前の数年間、先々代のオグデン伯爵の妻の一人だった。
お母さんは子爵家の婿だった前夫との間にできた幼い娘をつれてオグデン伯爵家に嫁いだ。
だが子爵夫人が先代オグデン伯爵の義兄弟と言う訳ではないのがややこしい。
子爵夫人はオグデン家に籍を移さなかったからだ。
そのため母親の死後は実家であるブラント子爵家に戻り、お母さんのお姉さんの養子になった。
その後、子爵を婿にとって共同で子爵位を継ぎ、家族と幸せに暮らしていた。
つまり、先代伯爵とは数年同じ敷地内で暮らしただけの関係で、現伯爵とは何の関わりも無い。
それなのに、育ててやった恩を返せと半ば脅迫されたらしい。
伯爵家からの要請という名の強制を子爵家では断れず、家族のために三年間なんとか耐えてきたが、そろそろ限界なのだろう。
俺はもう、子爵が不憫で仕方ない。
こうなったらオグデン伯爵家被害者の会を結成するのもいいかもしれない。
会長 フィリップ・ブラント子爵
副会長 ブラント子爵夫人
会員 ブラント子爵の子どもたち、子爵の義母、俺
うん、できた。
それにしてもオグデン伯爵家の直系血族の少なさはどうなんだ?
一夫多妻、一妻多夫、どちらもこの大陸では普通らしいのに。
先代も、他の直系血族たちも消されたんじゃないのか。
子爵は召喚魔法は禁忌だと言っていた。
長い時間をかけて召喚魔法を使う下地を作り、出来の悪い子どもだけを残して優秀な血族を排除したのでは…。
でなければあんなバカとクズを煮詰めたみたいな人間などできあがらないんじゃ…。
俺の考え過ぎで、小説や映画に毒されてるだけだろうか。
だがトーマス・オグデンもある意味では被害者の可能性があるのか。
どっちにしても許さんが。
成人してるってことだし、全て自己責任だ。
さらに俺にとってはオグデン一族も当主の教育を放棄したのだから同罪だ。
嫌がらせくらいしてやりたい。
再び被害者の会に思考が飛びかけるが、まだ聞きたいことが残っているので切り替える。
「次の質問をしても?あなたは先ほど召喚魔法は禁忌だと言っていた。それについて教えてほしい。」
「召喚魔法自体に問題があるのではない。召喚された人間が異世界から来た場合に問題がある。…というか、世界の壁を越えさせることに問題がある、というのが正しいか。」
異世界に召喚された俺の旗色が悪くなりそうな流れだが、努めて顔色を変えずに先を待つ。
「まず、召喚魔法は召喚主が求める人間、人材と言ってもいいが、それを呼び寄せる魔法だ。召喚された人間を召喚者と呼ぶが、召喚者がこの大陸の者なら本来は禁忌には当たらない。許可なく連れて来ることに人道的な問題はあるが。…ここまでは良いか。」
子爵を見つめ、静かに頷く。
「問題が起こるのは世界を越えて召喚者がやって来た場合だ。一説には召喚者たちは世界の狭間で強力な能力を授かるらしい。人間を世界の壁を越えられるように強化した副産物、若しくは自力で壁を越える力だ。その力はギフトと呼ばれ持て囃された。」
世界の狭間…そんなものは無かったから、世界の壁を越えられる何かが俺にはあったということか。
「過去に召喚者を騙して戦争の道具とした国が大陸にあったのだ。戦争が終わったら相応しい謝礼を渡し、元の世界に還すとな。その召喚者は帰る為ならと、自分を殺し、幾つもの国を滅ぼした。元々、戦うことを生業としていたその召喚者は瞬く間に全ての敵を消し去った。しかし召喚者を還す術などは存在しない。帰還がかなわないと知った召喚者は、騙した国を文字通り何もない土地にして自害した。魂だけになっても還りたいと。」
お茶で唇を湿らせて子爵は続ける。
「その後、世界の壁を越えた召喚は大陸全土で禁止されたのは当然だろう。しかし大陸内の召喚は禁止されなかった。野蛮だが望む人材獲得の重要な手段だったからだ。しかし誰もが正しく召喚魔法を扱える訳ではない。誤った大陸内召喚で世界の壁を越えた召喚者がやって来ることが度々あり、悲劇が繰り返された結果、全ての召喚魔法が禁止され、禁忌とされた。しかし君は召喚されてここにやって来た。事態の重要度がわかったかい?」
神妙な面持ちで頷きながら考える。
元々魔法のない世界の住人だが、世界の壁を越えた魔法が存在する世界で使えるようになった。
ということは世界の壁を越えることや、魔術師が設定した条件が、この世界で魔法を使えることだったのだろうか。
世界の壁を越える条件はともかく、魔術師の条件が分からないのは困るな。
厄介事のニオイがする。
奴らは隷属魔法を準備していたし、召喚者を駒として使いたかったのは間違い無い。
特定の人物を喚びたかったのか、世界の壁を越えた者なら誰でも良かったのか。
どちらにしても召喚魔法の精度が低くて、大陸内召喚の失敗に巻き込まれた可能性は残るが。
「君はこの大陸を知らないと言った。この大陸の他にもこの世界には大陸があるとされているが、そちらから来たのか………世界の壁を越えて来たのか。」
子爵が俺を見つめていた。
「まぁ現状、君が召喚された証拠は暗い闇の中だ。野暮なことは聞くまい。」
お母さんは子爵家の婿だった前夫との間にできた幼い娘をつれてオグデン伯爵家に嫁いだ。
だが子爵夫人が先代オグデン伯爵の義兄弟と言う訳ではないのがややこしい。
子爵夫人はオグデン家に籍を移さなかったからだ。
そのため母親の死後は実家であるブラント子爵家に戻り、お母さんのお姉さんの養子になった。
その後、子爵を婿にとって共同で子爵位を継ぎ、家族と幸せに暮らしていた。
つまり、先代伯爵とは数年同じ敷地内で暮らしただけの関係で、現伯爵とは何の関わりも無い。
それなのに、育ててやった恩を返せと半ば脅迫されたらしい。
伯爵家からの要請という名の強制を子爵家では断れず、家族のために三年間なんとか耐えてきたが、そろそろ限界なのだろう。
俺はもう、子爵が不憫で仕方ない。
こうなったらオグデン伯爵家被害者の会を結成するのもいいかもしれない。
会長 フィリップ・ブラント子爵
副会長 ブラント子爵夫人
会員 ブラント子爵の子どもたち、子爵の義母、俺
うん、できた。
それにしてもオグデン伯爵家の直系血族の少なさはどうなんだ?
一夫多妻、一妻多夫、どちらもこの大陸では普通らしいのに。
先代も、他の直系血族たちも消されたんじゃないのか。
子爵は召喚魔法は禁忌だと言っていた。
長い時間をかけて召喚魔法を使う下地を作り、出来の悪い子どもだけを残して優秀な血族を排除したのでは…。
でなければあんなバカとクズを煮詰めたみたいな人間などできあがらないんじゃ…。
俺の考え過ぎで、小説や映画に毒されてるだけだろうか。
だがトーマス・オグデンもある意味では被害者の可能性があるのか。
どっちにしても許さんが。
成人してるってことだし、全て自己責任だ。
さらに俺にとってはオグデン一族も当主の教育を放棄したのだから同罪だ。
嫌がらせくらいしてやりたい。
再び被害者の会に思考が飛びかけるが、まだ聞きたいことが残っているので切り替える。
「次の質問をしても?あなたは先ほど召喚魔法は禁忌だと言っていた。それについて教えてほしい。」
「召喚魔法自体に問題があるのではない。召喚された人間が異世界から来た場合に問題がある。…というか、世界の壁を越えさせることに問題がある、というのが正しいか。」
異世界に召喚された俺の旗色が悪くなりそうな流れだが、努めて顔色を変えずに先を待つ。
「まず、召喚魔法は召喚主が求める人間、人材と言ってもいいが、それを呼び寄せる魔法だ。召喚された人間を召喚者と呼ぶが、召喚者がこの大陸の者なら本来は禁忌には当たらない。許可なく連れて来ることに人道的な問題はあるが。…ここまでは良いか。」
子爵を見つめ、静かに頷く。
「問題が起こるのは世界を越えて召喚者がやって来た場合だ。一説には召喚者たちは世界の狭間で強力な能力を授かるらしい。人間を世界の壁を越えられるように強化した副産物、若しくは自力で壁を越える力だ。その力はギフトと呼ばれ持て囃された。」
世界の狭間…そんなものは無かったから、世界の壁を越えられる何かが俺にはあったということか。
「過去に召喚者を騙して戦争の道具とした国が大陸にあったのだ。戦争が終わったら相応しい謝礼を渡し、元の世界に還すとな。その召喚者は帰る為ならと、自分を殺し、幾つもの国を滅ぼした。元々、戦うことを生業としていたその召喚者は瞬く間に全ての敵を消し去った。しかし召喚者を還す術などは存在しない。帰還がかなわないと知った召喚者は、騙した国を文字通り何もない土地にして自害した。魂だけになっても還りたいと。」
お茶で唇を湿らせて子爵は続ける。
「その後、世界の壁を越えた召喚は大陸全土で禁止されたのは当然だろう。しかし大陸内の召喚は禁止されなかった。野蛮だが望む人材獲得の重要な手段だったからだ。しかし誰もが正しく召喚魔法を扱える訳ではない。誤った大陸内召喚で世界の壁を越えた召喚者がやって来ることが度々あり、悲劇が繰り返された結果、全ての召喚魔法が禁止され、禁忌とされた。しかし君は召喚されてここにやって来た。事態の重要度がわかったかい?」
神妙な面持ちで頷きながら考える。
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ということは世界の壁を越えることや、魔術師が設定した条件が、この世界で魔法を使えることだったのだろうか。
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どちらにしても召喚魔法の精度が低くて、大陸内召喚の失敗に巻き込まれた可能性は残るが。
「君はこの大陸を知らないと言った。この大陸の他にもこの世界には大陸があるとされているが、そちらから来たのか………世界の壁を越えて来たのか。」
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「まぁ現状、君が召喚された証拠は暗い闇の中だ。野暮なことは聞くまい。」
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