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1章 同意のない召喚は犯罪

05

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簀巻き伯爵を連れて行くついでに魔法の練習でもしてみようか。
俺が魔法を使えるのは分かったが、どの程度のことができるか知っておきたい。

それに魔法を使うためにいちいち《拘束》とかワードを設定していたら咄嗟の場合は間に合わないかもしれないし、細かいことも確認したい。

簀巻き伯爵を浮かせて応接室に連れて行くべく、魔法を使いたいと念じると伯爵の身体が浮き上がった。
いきなりの浮遊感に暴れられたが拘束しているので問題ない。

それよりも人間を浮かせることができたので、空を飛べるかもしれいことにテンションが上がってしまった。

だが、ワードの設定などなくても魔法が行使できるとわかったら、さっき気合いを入れて《拘束》とかやっていたのが恥ずかしくなるな…。

消滅した魔術師たちは詠唱していたし、普段はそれっぽいことを声に出して魔法を使うことにする。
声に出した方が効果を発揮するかもしれないしな。
無詠唱で使えるというのは隠しておいて、いざという時に備えよう。

考え事をしているうちに応接室に着いたが、予想を裏切らない統一感とセンスが無い空間、とだけ感想を述べておく。

つい床に転がした簀巻き伯爵を白い目で見てしまう。

新しいお茶が淹れられ、何やら筒状の紙も準備された。

「先ずはそこのオグデン伯爵に代わって謝罪を。青年には大変申し訳ないことをしてしまった。考え無しなのはわかっていたが、まさかここまでとは予想もできなかった。」

先ほどの魂の叫びの影響が残っている子爵から謝罪される。
簀巻き伯爵と子爵の関係がわからない状況で謝られても反応に困るが、子爵は真摯に対応してくれている。

「謝罪して許されることではではないが、せめて青年の帰還を支援させてほしい。」

そう言って先ほどの大きな巻物をテーブルに乗せる。
紙面を広げると、出てきたのは地図だった。
そこにはアフリカ大陸を縦に少し圧縮したような大陸が描かれていた。

そこで気付いたが、ゲームのようなマップ機能とか魔法で使えるんじゃないか。
当然ながらこの世界の土地勘など皆無だ。
迷った瞬間に終わってしまう…。
重要なことだし、後で忘れずに検証せねば。

「今我々がいるのがここ。リスティロード王国の王都、リスティスだ。青年はどこから来た?責任を持って送り届けよう。」

大陸の東側を指差した子爵からのうれしい申し出だが、俺の家は当然この大陸には無い。

「あなたの提案には感謝するが、それはどうやら難しいようだ。」

「なぜだ?もちろん送り届けるだけでなく、謝罪として金銭も渡すつもりだ。」

現金が貰えるなら助かるが、まずは子爵と俺の認識のズレを正さなくては話にならないな。

「どうやら俺はこの大陸の外から召喚されたようだ。地図にあるどの国も俺の故郷ではない。」

そんなことは考えもしなかったのか、子爵が再び頭を抱えて唸り始める。

会話が成り立つし、幸いなことに文字も読める。
書けるかはまだ分からないが。
それなら同じ言語圏から召喚されたと思い込むのも無理はない。

「だからこの大陸の文化、風俗、通貨、全て分からない。それを踏まえて、あなたにいくつか聞きたいことがある。」

もはや言葉もない子爵が落ちつくのを待って続ける。

「まずはあなたとそこに転がっている男の関係を教えてくれないか?なぜ違う貴族家のあなたがフォローを?」

「関係か…そうだな。私は彼が20歳になるか、士官するまでの補佐や後見をさせられているのだが…。」

子爵は丁寧に教えてくれた。
誰かに話を聞いてほしい、という気持ちも感じたが。

爵位は成人すると継げるが、試験を受けて士官し、知力や武力を周囲に示すか、20歳になるまでは半人前と見られる。
そのため、一人前になるまで家政・領地経営・事業などの実践を教えたり、肩代わりをする者が付く。
簀巻き伯爵の場合、子爵がそれだ。
一般的には親、引退した祖父母、おじやおば辺りだそうだ。

ちなみにこの国の成人は16歳で、各種の試験は成人する半年前から受けられるそうだ。

ついでに暦についても教えもらった。

時間は同じ。
1週は10日、1月が3週で、1年が12月。
年毎に微調整があるらしい。

簀巻き伯爵の家は領地のない宮廷貴族で、文官として働きながら事業を展開していたらしい。
しかし先代のオグデン伯爵は簀巻き野郎が成人した直後に亡くなってしまった。
爵位の継承に問題は無かったが、跡継ぎのアタマに問題があった。

簀巻き野郎は全く努力をしなかったらしい。

貴族の嗜み程度の剣術では、マメができて痛いからムリ。
勉強させれば、優秀な者を雇えば良いと曰ったのだ。
これはある意味正解だが、貴族には面子があるから却下された、と。

もうすぐ20歳になるのに半年に一度の試験には引っ掛かりもしないらしい。
当たり前だ。
秀才が努力して突破するような試験を、なにもしない輩が受かる訳がない。
不正を働こうとしても子爵が許さないだろうしな。

身内から後見人を出すのが一般的だが、血の濃い親族は少なく、厄介事しか運んでこない名ばかりの伯爵の御守りなど誰もしたくない。

そこで白羽の矢が立ったのが子爵だった。
彼からしたら寝耳に水、巻き込まれたモブ状態だっただろう。
オグデン伯爵家との関わりなど、子爵本人には無かったのだから。
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