リーアと異世界ご飯

第2章：集落での初めての味

ファラギアの煮込とモチモチデザート

　リーアがパン屋を出て、ふと丘の方を見上げると、そこには村の外れに広がる緩やかな丘が見えた。少年が彼女の隣に立ち、満面の笑みを浮かべながら言った。

　「ねえ、お姉さん、あの丘の上で今夜お祭りがあるんだよ！ 毎年この時期になると、村のみんなが集まってお祝いするんだ。すごく楽しいんだよ！」

　リーアは興味津々で少年の話に耳を傾けた。旅の途中で偶然出会った村で、祭りが開かれるとはなんとも幸運だ。

　祭りと聞いただけで、胸が躍る。

　「お祭りか……どんなことをするの？」

　リーアが質問すると、少年はさらに目を輝かせて答えた。

　「いろんな料理が出るんだ！ ファラギアの肉も、串焼きじゃなくてもっと特別な煮込み料理で出てくるんだよ。じっくり煮込んで、肉が口の中でとろけるような感じになるんだ！ それから、村のおばあちゃんたちが作るお菓子もいっぱいあるんだよ！ 甘くてもちもちしてて、ぼく、それが一番楽しみなんだ。」

　リーアは少年の言葉にますます興味を引かれた。ファラギアの肉は、あの串焼きでも十分に美味しかったが、煮込み料理となれば、さらに旨みが凝縮されて、違った味わいが楽しめるだろう。

　それに、村のおばあちゃんたちが作るというお菓子も、きっとこの村の伝統的な味を体験できるに違いない。

　「それは楽しみね！」
　
　リーアは笑顔で答えた。

　「お祭りに行けるなんて、なんだかすごくラッキーだわ。」

　「そうだよ、絶対楽しいよ！」

　少年は元気いっぱいに返事をし、二人は夕方になるのを待ちながら、村の広場を後にした。

　夕方が近づき、日が沈みかけたころ、リーアと少年は再び集落の中心に戻ってきた。

　村の広場から見える丘の上では、祭りの準備が着々と進められており、色とりどりの提灯が風に揺られながら灯っていた。

　そこに漂う焚き火の香りや、遠くから聞こえる賑やかな笑い声、そして何とも言えない良い匂いがリーアを包み込んだ。

　「さあ、行こう！ お姉さん、もうすぐ始まるよ！」

　少年は興奮気味にリーアの手を引き、丘の上へと向かった。階段を上るごとに、リーアはその活気に満ちた光景に引き込まれた。

　丘の頂上に到着すると、そこには既に多くの村人たちが集まり、広場には大きな焚き火が焚かれていた。

　子供たちがその周りで楽しそうに遊び、大人たちは準備を進めながら楽しげに談笑している。焚き火の近くには大きな鍋が据えられ、何かがぐつぐつと煮込まれているのが見えた。

　「見て！ あれがファラギアの煮込みだよ！」

　少年が指差した先には、先ほど見た鍋があり、その中でじっくりと煮込まれているファラギアの肉が、湯気と共に豊かな香りを放っていた。

　「うわぁ……！ すごく良い匂いがする！」リーアはその香りに思わず息を呑んだ。スパイスやハーブがふんだんに使われているらしく、その香りが夜風に乗って広がっていた。

　鍋の近くで煮込みを作っているのは、村の年配の女性たちだった。彼女たちは経験豊富な手つきで大きな木の杓文字を使い、肉が柔らかくなるまで丁寧に煮込んでいる様子だった。

　ファラギアの肉はすでに色づき、湯気の中からその柔らかそうな姿がちらりと見え隠れしていた。

　「じっくり煮込んだファラギアの煮込みは、この村の伝統料理なんだよ。お祝いのときとか、特別な日にしか作られないんだって。」

　少年が説明を加える。リーアはその言葉を聞き、ますますその料理が食べたくなった。

　「これは絶対に食べなきゃね！」

　リーアは興奮気味に言った。

　少し待っていると、ついに村人たちが鍋の蓋を開け、煮込み料理が振る舞われる時間がやってきた。

　村の人々は集まり、女性たちが一杯一杯丁寧に木製のボウルに盛り付けていく。リーアもその列に加わり、ついに自分の番がやってきた。

　彼女の手元に渡されたボウルには、たっぷりと煮込まれたファラギアの肉が入っており、その上には色鮮やかな野菜も添えられていた。

　煮汁は黄金色に輝き、肉からはホロホロとした柔らかさが感じられた。

　リーアは一口スプーンですくい、慎重に口に運んだ。瞬間、ファラギアの肉が口の中で溶けていく感覚に、彼女は目を見開いた。

　「……うん！ これは……すごい！」

　肉は驚くほど柔らかく、噛む必要すらないほどだ。煮汁に溶け込んだスパイスとハーブの香りが、口の中で複雑に絡み合い、豊かな旨みがじんわりと広がる。

　野菜も煮汁と共に柔らかく仕上がっており、ファラギアの肉と絶妙なバランスを保っている。まさに、これまでにない味わいだった。

　「これは……本当に絶品ね！」

　リーアは心の底から感動し、少年に笑顔を向けた。

　少年も嬉しそうに微笑み

　「だろ？ 村の一番のごちそうなんだ！」

　と誇らしげに答えた。

　お祭りの夜はまだまだ続く。次にリーアが目を向けたのは、甘い香りを漂わせる小さな屋台だった。

　そこには、村のおばあちゃんたちが集まって手作りのお菓子を作っている。彼女たちは小さな餅のような形をしたお菓子を次々と並べていく。

　そのお菓子はもちもちとした外見をしており、上には砂糖やハーブがまぶされている。

　「これが村のおばあちゃんたちが作るお菓子なんだ。もちもちしてて、甘くてすごく美味しいんだよ！」

　少年が説明すると、リーアは早速そのお菓子を手に取った。おばあちゃんたちはにこやかに微笑みながら、リーアにお菓子を手渡してくれた。

　「ありがとう、いただきます！」

　リーアはお礼を言い、一口頬張った。

　その瞬間、もちもちとした食感が口の中に広がり、ほんのりとした甘さが優しく舌の上に残った。

　素朴ながらも奥深い味わいで、砂糖やハーブが絶妙にバランスを取っており、一度食べると止まらなくなる。

　「これもすごく美味しい……！ なんて優しい味なの……」

　リーアは感激しながらもう一つ手に取り、ゆっくりと味わった。

　夜が深まるにつれ、丘の上はまるで別世界のような光景に包まれていった。

　焚き火の大きな炎が、辺りを温かな光で照らし出し、その炎を囲むようにして村人たちが踊り始めた。

　太鼓や笛、弦楽器の音がリズミカルに響き渡り、それに合わせて人々の足元は軽快に動き、賑やかな笑い声と歓声が夜空に響く。音楽はまるで村全体を包み込み、リーアもその独特なリズムに引き込まれていた。

　「お姉さんも踊ろうよ！」

　少年が笑顔でリーアに手を差し出した。

　リーアは少し恥ずかしそうに笑ったが、その手を取り、彼と一緒に焚き火の周りへと歩き出した。

　音楽に合わせて、次第に村人たちの輪の中へと引き込まれ、自然と体がリズムに乗り始める。リーアは最初は戸惑っていたが、踊りの輪が広がるにつれて、彼女もその踊りの楽しさに身を任せるようになった。

　「ほら、こうやって足を動かすんだよ！」

　少年がリーアの横で手本を見せるように踊り出す。彼の動きは軽やかで、村の伝統的な踊りを身につけているのが一目でわかった。

　「なるほど、こうやってね！」

　リーアは少年に倣って足を動かし、手を振り上げて踊り始めた。最初はぎこちなかったが、次第にリズムに慣れていき、焚き火の熱を感じながら笑顔で踊る自分に気づいた。

　音楽が響く中、村人たちの喜びに満ちた笑顔が彼女の目に飛び込んでくる。老若男女問わず、みんなが一緒になって楽しむこの光景は、まるで長年の絆がここに集結したかのようだった。

　村人たちが一つにまとまって、この特別な夜を祝い、幸せを分かち合っている姿に、リーアの心も満たされていった。

　「すごいね、こんな風にみんなが一緒になってお祝いするなんて……」

　リーアは踊りながら少年に話しかけた。

　「そうだよ！ このお祭りは、毎年みんなが楽しみにしてるんだ。村の人たちは普段、畑仕事や家事で忙しいけど、この日だけはみんな一緒に踊ったり、食べたりするんだよ。」

　少年は得意げに説明しながら、さらに踊りに夢中になっていた。

　しばらく踊り続けると、村の女性たちが声を掛け合いながら、新たな料理を次々と持ち出してきた。ファラギアの煮込みはまだ人気で、湯気を立てながら鍋から湯気が立ち上る様子が見える。

　しかし、新たに並べられた料理にも目を奪われた。大きなプレートには、野菜のグリルやハーブでマリネされた魚、さらには手の込んだ焼き菓子などが盛り付けられていた。

　「お姉さん、見て！ これも美味しそうだよ！」

　少年が一皿の焼き菓子を指さした。それは、外はカリッと焼かれ、中はしっとりとした触感が感じられるものだった。甘いシロップがたっぷりとかけられ、まるで金色に輝くようだった。

　「これも食べなきゃね！」

　リーアは笑顔で返し、焼き菓子を一つ手に取った。シロップが滴り落ちるのを見て、そっと口に運ぶと、口の中でカリッとした歯ごたえのあとに広がる柔らかな食感と、シロップの濃厚な甘さが広がった。

　「うん！ これはまた別の美味しさね……」

　リーアは驚きと共に感想を漏らした。外側のカリッとした食感と、シロップの甘さが絶妙にマッチしていて、一度食べたら止まらなくなりそうなほどだ。

　「でしょ？ これ、毎年お祭りのときにしか出ないんだ。だからみんな、この日を楽しみにしてるんだよ。」

　少年も嬉しそうに頷きながら、リーアと一緒にお菓子を頬張った。

　村人たちは次々と料理を楽しみながら、焚き火の周りで踊り続け、そして思い思いに歓談していた。

　リーアは、料理と踊り、そして温かな人々との出会いにすっかり心を奪われ、この村に根付いた文化や絆に深い感銘を受けた。

　祭りの終わりが近づくにつれて、空には無数の星が輝き始めた。焚き火の明かりが消えると、村全体は静かで、穏やかな夜に包まれた。

　リーアは丘の上から広がる美しい星空を見上げ、その壮大さに思わず息を呑んだ。

　「お姉さん、今日は楽しかったね！」

　少年が少し疲れた様子で、けれども満足げに言った。

　「ええ、本当に素晴らしい夜だったわ。ありがとう、君のおかげでこんなに楽しい時間を過ごせたよ。」

　リーアは少年に感謝し、彼の小さな手を握った。少年も少し恥ずかしそうに微笑みながら、リーアの手を握り返した。