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君に逢いたかった、ありがとうを言いたかった
チキンケバブサンドとスイーツサンド
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「大丈夫かよ」
「……悪いな、長岡も……心配かけて」
長岡は、仮眠と休憩に使われている部屋からよろよろと出てきた清宮流磨に声をかけた。人員の再配置が落ち着き、残っているメンバーは食事や制作の相談に入っている。
「いや、驚いてんだけど? 清宮体力ありすぎだろ」
彼は平常時の校内のような心地よいざわめきの中でようやく一息ついたところだった。あいにく広報班メンバーに半決定している流磨は発熱しているらしく、妹との話し合いとメディカルチェックの後は横になっていた。しかし本人はウイルス性の感染症ではないと強く主張するあたり、動かずにはいられないらしい。
「我儘言って申し訳ねーけど、多分今が踏ん張りどころだと思う、俺の……」
どうしても起きると言って聞かないため、広報班確定メンバーは予定より早くふたりを迎え入れる準備をしていたところだった。そういえば、妹は?
「そうい……」
「お兄ちゃん、止まんない、で……!」
妹の玲緒奈が、長岡から見て流磨を挟んだ向かいにいた。どうやら流磨を支えて歩くつもりのようだが、彼女はかなり小柄で、長身で筋肉質な兄を支えるには心許ない。流磨も熱のせいなのかふらふらと妹に寄りかかってしまい、口調があやふやだ。
「手伝うよ。ごめん、出てきた時清宮の体で見えなくて……あ、妹さんも清宮か」
「れおもいるし、流磨でいい……」
「わ、わかった」
「ありがとうございます、長岡さん」
「いいよ、小さい子には大変だろ。……あ、変な意味じゃなくて」
学年の違う玲緒奈は、今は校舎も違う。知り合いの少ないこの場所では、ただでさえ孤独を深めやすいだろう。
「いえ、やっぱり大変でした。誰かに声をかけてから、部屋を出れば良かったですね」
気遣いの中、兄と妹はようやく部専用電脳体験室に入り、席についた。長岡がさりげなく椅子を引いた時、髪を括ったリリアがケータリングを大量に抱えて引き戸を開く。
「おー、流磨! 大丈夫かよ? 玲緒奈も。メシだぜー! アタシのマム特製、チキンケバブサンドとスイーツサンド! 数は多めだから各自好きなように取って~」
大きな箱の中で、キャベツとトマト、チキンケバブ、フルーツ、白いクリームが色とりどりに咲いている。制作班より早い段階で多忙な電脳体験室の面々は、食事という身近な娯楽に頬を緩ませた。
「ほれほれ、お食べ!」
まずは妹分の玲緒奈に、リリアは1つずつ手渡してやった。
「わあ! 嬉しい! 甘いもの大好きなんです!」
リリアは頭を撫でてやりながら、自分の分のスイーツサンドをひょいと持った。
「アタシのも食う?」
「えっ」
鞠也がわかっていたかのように現れ、薄型デバイスを畳んでリリアの後頭部を叩いた。ぱん、と小気味良い衝撃音が響く。
「もぉ、リリアは玲緒奈ちゃんを困らせないの! わかるでしょう、女の子のそういう、微妙な気持ち」
「へへ……だって可愛いし、玲緒奈」
リリアに脇腹をくすぐられひとしきり笑った後に、玲緒奈はようやくチキンケバブサンドを包んでいた紙を開いて、全粒粉のパンを頬張った。いつも艶々で内巻きの黒髪が、立て続けの不安でケアをする余裕もなかったのか、奔放に跳ねている。
「こんなにたくさん……あとでお金払わせてちょうだい」
鞠也は気づいた。これは街角で売っていれば間違いなく流行るようなおいしい惣菜パンだ。励ましやサービスにしても、対価として代金を払いたくなる。だが、リリアはひらひらと左手を振りながら、チキンに齧り付いて彼女に返答する。
「お代はいいって。廃棄になっちゃうよりはよっぽどいいから! やっぱりシステムトラブルの影響で、島の外からのお客さん少ないらしくて。地元客ばっかで今日暇なんだって」
「あ、お客さんきてるんですね」
「逆に馴染みが手伝うって言ってきて、仕事とられて暇とか言ってたぜー」
椅子をくるくると回して、リリアは黒髪で踊った。長岡は彼女を見ながら、この娘の母親なら地元の客だけでもやっていけるだろう、と感じていた。
大きな机の上には、情報処理アプリケーションの多重ウインドウが展開されている。現在ユエンは梨花や真菜らと大人に混じって会議だ。事務的な作業全般を、ヴィジョンデジタルテックスとエイジス・セキュリティの指導で行なっている。生徒側は得意分野である鞠也が中心だ。
流磨は食欲が無いのか、栄養補給ゼリーを吸っただけで力尽きていた。吐き気はないようだが、いつもしっかりと柳の横で立っている印象の彼がこうまで萎れている姿は、鞠也も心配になるほどだ。鞠也は自分の通学鞄と荷物を流磨の突っ伏す横に置き、照明の刺激から守るように影をつくってやった。
「大丈夫? 清宮くん」
「……熱なんか出したの久しぶりだ」
「ああ、慣れてないから対処法がわからない? ネオトラのプロは連続試合あるけど、違う意味でハードだったのかしら?」
鞠也は鞄の中身をごそごそと探り出す。気が紛れたのか、流磨は薄く笑いながら片腕で頭を抱え、頬杖をつくようにして顎を腕に乗せた。
「あいつは持久力の鬼だからな……」
「あったわ。これ……クリスちゃんがよく柳くんに差し入れてたものなんだけど」
シートを剥がすと冷たくなるジェルが塗布された、額に貼る湿布状のものだ。流磨は指先で摘んでパッケージを読む。
「私、試してみないかってクリスちゃんから渡されてたんだけど、使わなかったからカバンの中に入っていたのよ。よかったらどうぞ」
「うわ、気持ちい……サンキュ、効くわコレ……」
すぐに貼り付け、額に手をやる。リリアは彼の開けたパッケージをいつのまにか手にしており、小さな字で書かれた効果効能欄や成分表示を熟読していた。
「厳選してたんだなクリス……コレめっちゃいいやつじゃん」
「愛がデカすぎる」
長岡はスイーツサンドを飲み込んだところだった。彼は足りなかったらしく、流磨から受け取るとケバブサンドをもう1つ頬張り始める。
「きよ……流磨、食わねーの?」
「悪い、根岸……起きて喋ってる方が楽だけど、食欲はなくて」
「食事は楽しんでするもんだ、余裕ないときはゼリーでいいんじゃねーか?」
リリアはにっかりと笑い、教室の隅に積まれていたドリンクを流磨に差し出してやった。玲緒奈はスイーツサンドの最後の欠片を飲み込む。
「根岸さんたち、シノ先輩と同じクラスですもんね。シノ先輩は持久力ありすぎて、電脳トランジョンでこんな風になっちゃう人初めて見た感じですか?」
「普通疲れんの?」
リリアは訪ねた。ほとんど毎回柳の試合の後、彼の元へ通っていたクリスとは違い、鞠也や長岡もプレイヤーがどうなるかの知識はない。
「私やクリスちゃんは、繭から出るといつも数分間ぐだっとしてますよ。もちろんトレーニングはしてますけど」
「マジか、やっぱそこすげーんだな、東雲」
長岡は腕を伸ばして仰け反った。彼の目から見れば、柳は学業の間を縫って試合に出たとしても影響を及ぼすことなく、極めて順調に見えていた。試合中、選手は繭の中で座っているだけであり、現実ベースの身体能力が試合に直接的影響を及ぼすとはいえ、現実に体を動かしているわけではないため、疲れるわけではないと思っていたほどだった。実際、体を動かしていると脳は認識するため、厳しい試合内容であった場合は疲労感で動けなくなってしまう選手もいるのだと玲緒奈は説明する。
「お兄ちゃん島中いつも走ってるのに、持久力はシノくんに勝てないもんね」
「島中ってほどじゃねえわ……」
「シノくんが言ってたんだよ? 島中走ってるから変な道知ってるって」
「なんだアイツは……」
長岡は笑顔で玲緒奈に反応する。流磨はゼリーをもう1パック開け、あっというまに飲み込んでしまった。
「はは、東雲のやつ、そんなこと言うの?」
「そう、シノくんは意外とお茶目なんですよ」
玲緒奈はにっこりと笑う。
「試合の後でも普通に授業に出ていたし、居眠りさえも……してるのみた事ないわよ」
「持久走でも一人だけケロッとしてたよな!」
リリアと鞠也は、柳の持久力エピソードに花を咲かせた。
流磨は久しぶりのトランジョンであったことに加え、それを連続して行ったことが疲労感に拍車をかけた。更に親友の出奔という望まない結末を迎え、精神的なショックも影響してダメージが深く、今回は回復が遅れている。
「確かにショックを体は引きずってるようだが……俺は、シノが帰ってきたその後のことを考えなきゃならねーんだよ……休むのは後にしたい」
幼少期からの最も親しい友人は、欠かせない『みんなのヒーロー・東雲柳』のアピール材料となるエピソードを多数提供してくれるだろう。また流磨は親友と言われるだけあり、簡単には心を開かない柳の、数少ない理解者だ。ほぼ毎日、一緒に学生ジムへ向かう姿を長岡が見ていた。
兄妹は、クリスや柳と最も近しい。
「だから、出てきた……」
事情の深刻さをよく知る面々は、理解度の深さという必要性を見出され、今回の事態で電脳世界へのトランジョン、もしくは補佐というポジションを取ることになっている。メンタル維持は重大な問題だ。
「すげーな、妹と二人でちょっと篭ってただけで……あのまま引き篭ったっておかしくないぜ、こんな事態じゃ」
「大袈裟だ、あんま変に褒めんな……」
「アタシ、お別科使ったりはしないんだぜ? これは本当に思ってることだー、っての」
リリアはスイーツサンドを口に放りながら椅子から離れ、自分のものと一緒に兄妹の食事のゴミもひょいと回収していった。リリア、長岡、鞠也も、目の前で起きたクリスタルの搬送にはショックを受けている。一人になりたくない。今は、一緒にいなければ絶望的な未来を想像してしまいそうだった。
「……悪いな、長岡も……心配かけて」
長岡は、仮眠と休憩に使われている部屋からよろよろと出てきた清宮流磨に声をかけた。人員の再配置が落ち着き、残っているメンバーは食事や制作の相談に入っている。
「いや、驚いてんだけど? 清宮体力ありすぎだろ」
彼は平常時の校内のような心地よいざわめきの中でようやく一息ついたところだった。あいにく広報班メンバーに半決定している流磨は発熱しているらしく、妹との話し合いとメディカルチェックの後は横になっていた。しかし本人はウイルス性の感染症ではないと強く主張するあたり、動かずにはいられないらしい。
「我儘言って申し訳ねーけど、多分今が踏ん張りどころだと思う、俺の……」
どうしても起きると言って聞かないため、広報班確定メンバーは予定より早くふたりを迎え入れる準備をしていたところだった。そういえば、妹は?
「そうい……」
「お兄ちゃん、止まんない、で……!」
妹の玲緒奈が、長岡から見て流磨を挟んだ向かいにいた。どうやら流磨を支えて歩くつもりのようだが、彼女はかなり小柄で、長身で筋肉質な兄を支えるには心許ない。流磨も熱のせいなのかふらふらと妹に寄りかかってしまい、口調があやふやだ。
「手伝うよ。ごめん、出てきた時清宮の体で見えなくて……あ、妹さんも清宮か」
「れおもいるし、流磨でいい……」
「わ、わかった」
「ありがとうございます、長岡さん」
「いいよ、小さい子には大変だろ。……あ、変な意味じゃなくて」
学年の違う玲緒奈は、今は校舎も違う。知り合いの少ないこの場所では、ただでさえ孤独を深めやすいだろう。
「いえ、やっぱり大変でした。誰かに声をかけてから、部屋を出れば良かったですね」
気遣いの中、兄と妹はようやく部専用電脳体験室に入り、席についた。長岡がさりげなく椅子を引いた時、髪を括ったリリアがケータリングを大量に抱えて引き戸を開く。
「おー、流磨! 大丈夫かよ? 玲緒奈も。メシだぜー! アタシのマム特製、チキンケバブサンドとスイーツサンド! 数は多めだから各自好きなように取って~」
大きな箱の中で、キャベツとトマト、チキンケバブ、フルーツ、白いクリームが色とりどりに咲いている。制作班より早い段階で多忙な電脳体験室の面々は、食事という身近な娯楽に頬を緩ませた。
「ほれほれ、お食べ!」
まずは妹分の玲緒奈に、リリアは1つずつ手渡してやった。
「わあ! 嬉しい! 甘いもの大好きなんです!」
リリアは頭を撫でてやりながら、自分の分のスイーツサンドをひょいと持った。
「アタシのも食う?」
「えっ」
鞠也がわかっていたかのように現れ、薄型デバイスを畳んでリリアの後頭部を叩いた。ぱん、と小気味良い衝撃音が響く。
「もぉ、リリアは玲緒奈ちゃんを困らせないの! わかるでしょう、女の子のそういう、微妙な気持ち」
「へへ……だって可愛いし、玲緒奈」
リリアに脇腹をくすぐられひとしきり笑った後に、玲緒奈はようやくチキンケバブサンドを包んでいた紙を開いて、全粒粉のパンを頬張った。いつも艶々で内巻きの黒髪が、立て続けの不安でケアをする余裕もなかったのか、奔放に跳ねている。
「こんなにたくさん……あとでお金払わせてちょうだい」
鞠也は気づいた。これは街角で売っていれば間違いなく流行るようなおいしい惣菜パンだ。励ましやサービスにしても、対価として代金を払いたくなる。だが、リリアはひらひらと左手を振りながら、チキンに齧り付いて彼女に返答する。
「お代はいいって。廃棄になっちゃうよりはよっぽどいいから! やっぱりシステムトラブルの影響で、島の外からのお客さん少ないらしくて。地元客ばっかで今日暇なんだって」
「あ、お客さんきてるんですね」
「逆に馴染みが手伝うって言ってきて、仕事とられて暇とか言ってたぜー」
椅子をくるくると回して、リリアは黒髪で踊った。長岡は彼女を見ながら、この娘の母親なら地元の客だけでもやっていけるだろう、と感じていた。
大きな机の上には、情報処理アプリケーションの多重ウインドウが展開されている。現在ユエンは梨花や真菜らと大人に混じって会議だ。事務的な作業全般を、ヴィジョンデジタルテックスとエイジス・セキュリティの指導で行なっている。生徒側は得意分野である鞠也が中心だ。
流磨は食欲が無いのか、栄養補給ゼリーを吸っただけで力尽きていた。吐き気はないようだが、いつもしっかりと柳の横で立っている印象の彼がこうまで萎れている姿は、鞠也も心配になるほどだ。鞠也は自分の通学鞄と荷物を流磨の突っ伏す横に置き、照明の刺激から守るように影をつくってやった。
「大丈夫? 清宮くん」
「……熱なんか出したの久しぶりだ」
「ああ、慣れてないから対処法がわからない? ネオトラのプロは連続試合あるけど、違う意味でハードだったのかしら?」
鞠也は鞄の中身をごそごそと探り出す。気が紛れたのか、流磨は薄く笑いながら片腕で頭を抱え、頬杖をつくようにして顎を腕に乗せた。
「あいつは持久力の鬼だからな……」
「あったわ。これ……クリスちゃんがよく柳くんに差し入れてたものなんだけど」
シートを剥がすと冷たくなるジェルが塗布された、額に貼る湿布状のものだ。流磨は指先で摘んでパッケージを読む。
「私、試してみないかってクリスちゃんから渡されてたんだけど、使わなかったからカバンの中に入っていたのよ。よかったらどうぞ」
「うわ、気持ちい……サンキュ、効くわコレ……」
すぐに貼り付け、額に手をやる。リリアは彼の開けたパッケージをいつのまにか手にしており、小さな字で書かれた効果効能欄や成分表示を熟読していた。
「厳選してたんだなクリス……コレめっちゃいいやつじゃん」
「愛がデカすぎる」
長岡はスイーツサンドを飲み込んだところだった。彼は足りなかったらしく、流磨から受け取るとケバブサンドをもう1つ頬張り始める。
「きよ……流磨、食わねーの?」
「悪い、根岸……起きて喋ってる方が楽だけど、食欲はなくて」
「食事は楽しんでするもんだ、余裕ないときはゼリーでいいんじゃねーか?」
リリアはにっかりと笑い、教室の隅に積まれていたドリンクを流磨に差し出してやった。玲緒奈はスイーツサンドの最後の欠片を飲み込む。
「根岸さんたち、シノ先輩と同じクラスですもんね。シノ先輩は持久力ありすぎて、電脳トランジョンでこんな風になっちゃう人初めて見た感じですか?」
「普通疲れんの?」
リリアは訪ねた。ほとんど毎回柳の試合の後、彼の元へ通っていたクリスとは違い、鞠也や長岡もプレイヤーがどうなるかの知識はない。
「私やクリスちゃんは、繭から出るといつも数分間ぐだっとしてますよ。もちろんトレーニングはしてますけど」
「マジか、やっぱそこすげーんだな、東雲」
長岡は腕を伸ばして仰け反った。彼の目から見れば、柳は学業の間を縫って試合に出たとしても影響を及ぼすことなく、極めて順調に見えていた。試合中、選手は繭の中で座っているだけであり、現実ベースの身体能力が試合に直接的影響を及ぼすとはいえ、現実に体を動かしているわけではないため、疲れるわけではないと思っていたほどだった。実際、体を動かしていると脳は認識するため、厳しい試合内容であった場合は疲労感で動けなくなってしまう選手もいるのだと玲緒奈は説明する。
「お兄ちゃん島中いつも走ってるのに、持久力はシノくんに勝てないもんね」
「島中ってほどじゃねえわ……」
「シノくんが言ってたんだよ? 島中走ってるから変な道知ってるって」
「なんだアイツは……」
長岡は笑顔で玲緒奈に反応する。流磨はゼリーをもう1パック開け、あっというまに飲み込んでしまった。
「はは、東雲のやつ、そんなこと言うの?」
「そう、シノくんは意外とお茶目なんですよ」
玲緒奈はにっこりと笑う。
「試合の後でも普通に授業に出ていたし、居眠りさえも……してるのみた事ないわよ」
「持久走でも一人だけケロッとしてたよな!」
リリアと鞠也は、柳の持久力エピソードに花を咲かせた。
流磨は久しぶりのトランジョンであったことに加え、それを連続して行ったことが疲労感に拍車をかけた。更に親友の出奔という望まない結末を迎え、精神的なショックも影響してダメージが深く、今回は回復が遅れている。
「確かにショックを体は引きずってるようだが……俺は、シノが帰ってきたその後のことを考えなきゃならねーんだよ……休むのは後にしたい」
幼少期からの最も親しい友人は、欠かせない『みんなのヒーロー・東雲柳』のアピール材料となるエピソードを多数提供してくれるだろう。また流磨は親友と言われるだけあり、簡単には心を開かない柳の、数少ない理解者だ。ほぼ毎日、一緒に学生ジムへ向かう姿を長岡が見ていた。
兄妹は、クリスや柳と最も近しい。
「だから、出てきた……」
事情の深刻さをよく知る面々は、理解度の深さという必要性を見出され、今回の事態で電脳世界へのトランジョン、もしくは補佐というポジションを取ることになっている。メンタル維持は重大な問題だ。
「すげーな、妹と二人でちょっと篭ってただけで……あのまま引き篭ったっておかしくないぜ、こんな事態じゃ」
「大袈裟だ、あんま変に褒めんな……」
「アタシ、お別科使ったりはしないんだぜ? これは本当に思ってることだー、っての」
リリアはスイーツサンドを口に放りながら椅子から離れ、自分のものと一緒に兄妹の食事のゴミもひょいと回収していった。リリア、長岡、鞠也も、目の前で起きたクリスタルの搬送にはショックを受けている。一人になりたくない。今は、一緒にいなければ絶望的な未来を想像してしまいそうだった。
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