星渦のエンコーダー

山森むむむ

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罪なき日々の終着

小さな星たちの戯れ 4人の出会い 小さなてのひら

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 玲緒奈は8歳の頃、その小さな体と子供らしく高い声で、学校では特別な扱いを受けていた。

 8歳にしては小さな身長、大きく開かれた目に、艶やかでかわいらしく顔を縁取る黒髪。
 彼女の外見と振る舞いは多くの同級生から可愛らしいと評される一方で、一部の子供たちからは好意の裏返しとして疎まれることもあった。
 特に男子からの反応は複雑で、彼らの中には彼女の特徴をからかいの材料とする者もいた。

「玲緒奈、可愛い子ぶってるんじゃな~い?」
  校庭の隅で、一群の男子が玲緒奈を取り囲んでからかい始めていた。彼女の声が自然と高いことを指摘しながら、それがわざとではないかと疑う。
「声も高いし、それってわざとなの?」
「きも~い」

 玲緒奈は自分の特徴を否定しようとするが、声は自然と震えてしまう。
 「……背が小さいの、嫌だし……れおの声が高いのだって、わざとじゃないもん…」
 しかし、彼らの声はさらに大きくなり、彼女の言葉を聞き入れようとはしなかった。
 「何? 聞こえな~い!」
 玲緒奈の目には涙が溢れ、声を抑えながらも泣きじゃくり始める。
 「ふえ…」
 突然、後ろから誰かが彼女を押し、彼女はバランスを崩す。
 「清宮! 後ろ!」
 玲緒奈は混乱し、振り返ると別の方向から声が飛ぶ。
「えっ?」
「バーカ! こっちだよ!」
 彼女はまた別の方向を向き、そのたびに笑い声が高まる。
「ひ……ひどい……」
「ボーッとしてるお前が悪いんだぜー!」
 最終的に、玲緒奈は力なく地面に座り込み、小さく泣き始めてしまった。
「うえぇ……」

 周囲の子供たちの残酷さと、自分が受け入れられない現実とのギャップに玲緒奈は心を痛め、孤独を感じていた。校庭の片隅で、泣き崩れる玲緒奈の周囲にはからかいの声がまだ響いている。
 しかし、その場の空気が一変する瞬間が訪れた。突如力強い足音が響き、そこに現れたのは玲緒奈の兄、流磨だった。
「お前ら! 何やってんだ!」
 流磨の声に、いじめていた男子たちは驚きと恐怖を浮かべる。
「うわー! 逃げろ! 流磨だ!」
 一斉に逃げ出す男子たち。その中で、流磨と共にいた少年が追い払いを手伝う。
「あっち行け!」
 混乱が収まり流磨が玲緒奈の側に駆け寄ると、後ろにはもう一人、静かな少年が立っていた。
「流磨、こっち! ……君も。おいで」
「れお、ほら!」
 玲緒奈はまだ涙を抑えきれずにいたが、兄の声に少しほっとする。
「うう……」
「……やっと追い払えた」
 流磨は妹を宥めながらも安堵の息をついた。
「……ありがとう、お兄ちゃん……だあれ?」
 玲緒奈は流磨の隣にいる少年に興味津々で尋ねた。流磨は笑いながら彼を指して言う。
 「こいつは新しい友達。シノっていうんだ」

 少年は穏やかに自己紹介した。
「東雲柳だよ。みんなはシノって呼んでくれる。でも、好きに呼んでいいよ」
 玲緒奈は小さく頷き、「……うん……」と返事をした。瞳にはまだ涙の粒が残っている。
 少年は玲緒奈を優しく見つめ、彼女の不安を和らげようと声をかけてくれた。しかしその表情に違和感を感じ、玲緒奈はまだ心を開けない。
 「怖かったね。もう大丈夫だよ」
 流磨も妹に向けて励ますように言った。
「またあいつらに囲まれたら、逃げてこいよ!」

 玲緒奈はふたりに感謝の気持ちを表しながら、もう一度柳に目を向けた。
「……ありがと、お兄ちゃん……シノくん?」
 柳は微笑みながら、優しく答えてくれる。彼がポケットから出したハンカチは玲緒奈の手には大きいが、涙を全部吸い取ってくれそうな気がした。
「うん。シノくんね。れおちゃん……でいいかな?」
「うん」
 玲緒奈は力強く頷いた。兄が手をとって、笑いかけてくれる。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 日が傾きかけていて、校庭には夕焼けの柔らかな光が差し込んでいた。
 クリスは友人との話を終えた後、柳を探して校舎の周りを歩いていた。柳の姿をなかなか見つけられずにいたがようやく姿を見つけ、彼と流磨、そして一人の少女が立っているのを発見する。

 クリスの心は一気に安堵の気持ちで満たされ、駆け寄った。
「柳! やっと見つけた。いつものところにいないから! どこ行ってたの?」

 柳はクリスの声に振り返り、彼女の顔を見て安心したように微笑んだ。
「クリス。ごめんね。この子が困ってたから、流磨が助けに行くって」
 クリスの目は次に流磨と、彼が横にいる少女に向けられた。
「……流磨の? 妹?」
 流磨が頷きながら、少女を指し示した。妹がいるとは聞いていたが、もう同じ小学校に通っていたなんて。
 ということは、7歳か8歳。それにしては、随分と小さい。
 赤く泣き腫らした黒い目でクリスを見上げる姿が怯える子兎のようで、自分の行動が彼女を脅かしてしまわないか心配になった。

「ああ、玲緒奈だ」
 クリスは優しく微笑みながら少女に声をかける。 
「こんにちは、玲緒奈ちゃん。一緒に帰る?」
 玲緒奈は少し照れながらも頷き、クリスに向かって小さな声で言った。
 「うん。あの……」
 クリスは親しみを込めて、自己紹介する。
「クリスだよ。桐崎クリスタルだけど、長いからクリスで大丈夫」
「うん、クリスちゃん」
 彼女の顔には心を許した表情が浮かんだ。そうして彼ら四人は学校の門を出て、共に帰路につくことにした。

 夕日が空を赤く染める中、クリスは柳と手をつなぎ、流磨と玲緒奈は少し前を歩く。初めての友達と一緒のこの帰り道は小さな冒険のようなもので、それぞれが新しい絆を感じながら歩いた。
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