星渦のエンコーダー

暗がりを切り裂く試み

未来ノ島セントラルビーチ 一部の女子の熱い視線

　未来ノ島セントラルビーチに位置する「ミクノイエ」という海の家へと、柳と流磨は足を運んでいた。

　二人はカウンターで軽食を手に取りながら、賑やかな声に包まれる。周りでは、異なる背景を持つ女子たちの視線がしばしば彼らに注がれていた。梨花は暑すぎてバテてきてしまい、海の家のテーブルでかき氷を食べながら伸びていた。
　部活のメンバーたちはすぐそばのテーブルでワイワイと集まっており、新しいアクティビティの準備に興奮しているようだ。
「おーい、東雲！　清宮！　こっちこっち！」
　一際大きな声で呼ぶのは、部のチームリーダーの一人である真菜だ。彼女は両手を大きく振りながら、二人をビーチバレーのコートへと誘っている。元気なことだ。

　柳はその高身長とスポーツ万能な姿から、まるで学園ドラマの主人公のように女子生徒たちから憧れの目で見られている。
　美しいフェイスラインと優雅な物腰は、何度も交際を申し込む女子たちを生み出す。顔が良すぎるのもなかなか大変だ。
　しかし柳の断り方は常に丁寧で優しく、その態度がまた新たな憧れを呼び込むという好循環が存在していた。
　先日、彼が軽く微笑んで「今は勉強とトレーニングに集中したいんだ。ありがとう、君の気持ちは嬉しいよ」と言うと、その場にいた女子たちは一層彼に心を奪われた。

　一方で傍らの流磨は、柳と親しくしていることが彼自身の魅力を高めていた。
　メンタルコーチとしての強さとぶっきらぼうな口調は、彼の涼しげな目元とのギャップを魅力的に感じさせる要因となっている。
　真っ黒な瞳には温かみと情熱が宿っている。日々のトレーニングで鍛え上げられた体は、メンタルコーチとしてのポジションを予想させないほど筋肉質であった。
　特に高専生の間では、彼が妹の玲緒菜に厳しくも適切に指導をする姿に、尊敬と憧れが混じった眼差しが集まっている。一部の女子生徒は彼のそのギャップに心を惹かれ、「清宮くんって、意外と優しいんだよね」と小さな声で話し合っていた。気持ちはわかる。

「ちょっとバレーする？　風も気持ちいいし、いい運動になるよ！」
　真菜は続ける。
　流磨は一瞬躊躇しながらも、柳に目を向けた。柳はいつものように笑顔で頷き、流磨もそれに応じて「OK」と答えた。

「男女混合？」
「そ！　バレー部の子もいるから、パワーバランスの都合で二人はこっちのチームね！」
「ビーチバレー初めてなんだけど、俺」
「問題ないって！　ちょっと東雲と何回か打ち合ってみたら？」

　二人がビーチバレーコートへ向かうと、部活のメンバーからは歓声が上がる。
　柳はビーチバレーのボールを軽く手に取り、その流れるような動作で早速サーブを放った。流磨もそれに応じて、ボールを力強く打ち返す。
「なんだ、二人とも問題なさそうじゃん」
「うーん、そう……かな？」
「シノは合格ライン高すぎ。遊びなんだからこの辺で始めようぜ」

　ビーチでのこの一時、常に複数の出来事が並行する忙しい日常から離れたようなリラックスした時間が流れ、柳と流磨は共に笑顔を見せた。
「……よっ、と。じゃ、位置的にシノからサーブか」
「はいはい」
　この空気と友人たちの声が、彼らの心に新たな活力をもたらしているようだった。

　柳と流磨がビーチバレーボールを始めると、その動き一つ一つに小さなリアクションがあがる。
「やばぁ！　かっこよすぎ～！」
「おーい、プロ二人とバレー部じゃ、どうなるかわかんねーなこのゲーム」

　特に柳の美しいプレイスタイルと流磨の力強いスマッシュは、見る者を引きつける魔力を持っていた。
　試合は友好的な雰囲気の中で進行していた。すると柳がボールを追って砂浜を走る中、その足がふらつき、バランスを崩しかける。
「あれっ……」
　その瞬間、流磨がさりげなく横から手を差し伸べ、彼の腕を軽く掴んで支えた。
「大丈夫かよ？」
　流磨が心配そうに尋ねる。
「ああ、ありがとう。ちょっと油断したかな」
　柳が微笑みながら答えた。流磨はその背中を軽く叩く。この小さなやり取りを見ていた真菜と数名の部活のメンバーが、微笑を浮かべて二人を見守っていた。
「やだ、ちょっと大丈夫～？　てか仲良すぎ～」
「桐崎いないからっていちゃつくなよ、清宮」
「あ？　そんなんじゃねーし」
　彼らの間の信頼と友情は目に見える形で表現されており、それがチーム内の良好な雰囲気を一層強調するようだった。
　試合が再開されると、柳と流磨は更に息を合わせてプレイし、それぞれのプレーでチームを引っ張っていく。
　しかし相手チームのバレー部のメンバーに押され、勝つことはできなかった。周囲の盛り上がり方はかなり激しく、一応のイベントとして娯楽を提供できたとも言える。

　バレー部メンバーが勝利の喜びを分かち合い、コートを離れた。残された流磨と柳は海の家の前で立ち話を始める。
「惜しかったね」
「まあ、こんなもんだろ。逆にバレー部の活躍する場を提供できたと思えば」
　二人は肩を叩き合いながら笑顔で砂を払い、次のアクティビティの準備を始めた。
「流磨、スライディングしすぎ」
「お前は飛び跳ねすぎ。すげー砂飛ぶんだけど」
「それはお互い様でしょ。僕は擦り傷のことを言ってるんだけど」
「ツバ付けときゃ治るし」
「……本当につけないよね？」

　この日の出来事は、二人の間の自然な結束と部活メンバー間の友情を深める和やかな一幕として、静かに心に留まった。
……やや違う角度から見つめていた、一部の女子たちを除いては。
「……いやーええもんみたー」
「真菜、あんたナマモノはやめなって」