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透明な夢のスタートライン
桐崎クリスタル 第2戦前日の東京逃走劇
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未来ノ島からの冷たい海風とは一線を画す東京の喧騒と熱気が、柳とクリスを包み込む。
高層ビルが立ち並ぶ都市の空気は、機械と人の息遣いが混じり合ったような独特の温度を持っていた。二人はこのまばゆいほどに発展したメガシティの中で、一つの重要な使命を帯びていた。
目的は、クリスの二回目の練習試合と、その対戦相手の渋川レンからの依頼を叶えることにある。荷物の届け先への訪問。
渋川レンはネオトラバースの中で柳の強力なライバルでありながら、時折柳に協力を求めることがある謎多き人物だ。幼年ルールのスターライトチェイスの頃に本土に呼び出し、一時的に柳の師匠のような役割をしたこともある。その荷物は、本土ではなかなか手に入らない高額で特殊な装置を含んでおり、渋川には不可欠なものであるらしい。
「……わー、やっぱ日本の中心はスケール大きいわー」
「立地条件もあって、今じゃ世界最大のメガシティだからね……」
服装は部活動にふさわしくジャージだった。これは部指定のもので、スポーティかつ機能的だ。軽量で動きやすい材質の未来ノ島高専ネオトラバース部ジャージは、部員たちに概ね好評。
学園の区分けの中で、高専のシンボルカラーである鮮やかなブルーと白が基調である。クリスの着用しているスポーティなタイトフィットのトップスには、通気性を考慮したメッシュのディテールが施されており、動きを妨げない柔軟性がある。下は同じ色合いのショートパンツを合わせ、機能性と快適さを兼ね備えたランニングシューズを合わせれば完璧なアンサンブルを形成できる。
「都市部は照り返しが眩しいよね。やっぱ夏用のシャツにしてきて良かった」
「都市部って……未来ノ島のほうが未来的といえば未来的だよね、クリスはこっちの方が好み?」
「ここは方向性が違うでしょお! 島は無駄が無さすぎて……というか整然としてる」
「うん、そうか……そういうこと」
一方の柳はクリスと同様のネオトラバースジャージを着用しているが、やや落ち着いたデザインだった。ダークブルーとグレーの色使いで、サポート要員の中心メンバーであることを示すエンブレムが、洗練されたアクセントとして加えられている。
「確かに、この都市は渦巻くエネルギーが混沌としていて、それでもどこか秩序立って組み上がってる。それは人の多さと努力のなせる技だよね」
彼は足元にクッション性が高く長時間の使用に耐えるスポーツシューズを選び、パフォーマンスの最適化を図っている。
本土に降り立った際、周囲は高度な交通システムと未来的な建築で満ちており、二人の出身地である未来ノ島とは異なる刺激と活気に満ちていた。
クリスらとそう歳が変わらない新しい存在である未来ノ島こそが技術的に最新ではあるのだが、やはり本質的に全ての中心として打ち据えられているこの土地は、格別にエネルギッシュである。
新しい環境に適応しながら、学園の部活動報告用ドローンの案内に従い、目的地へと向かう。
『報告をお願いしま~すワン!』
ドローンは彼らの動きを常にモニタリングし、その様子を学園にリアルタイムで報告していた。
この音声の妙なユーモアは、まさに教育機関所有のドローンであることを表しているとクリスは感じた。もうそんな年ではない。柳のパーソナルデータを反映してなのか、彼の家に住んでいるパグを模している。余計な機能だ。
「報告。目的の駅に到着。外泊予約済地点に予定通り向かいます。一時的にドローンをオフ。GPSモードで荷物に入って」
一定の報告義務を終えるとドローンは柳が所持して、その後は彼らに自由時間が与えられることになっていた。
『ヒュウゥ~!おつかれさまでした~!ワン!』
なんだ、その取ってつけたような語尾は。
指示通りにドローンが飛んで翼を格納し、すっぽりと柳のバッグに収まる。もちろん、未成年者のみの外泊となるため、GPS等の内蔵が義務付けられている。
今日は混雑が予想され、未成年健全育成法により高校生相当として許されている時間内の島への帰宅が厳しいことから、今夜はこの本土で一泊することになっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すごい、忙しい街だね~」
クリスは周囲を見渡しながら言った。光り輝く広告板や縦横無尽に走る自動運転車の流れに釘付けになる。
継続使用を前提として全てが整備された未来ノ島の町とは異なり、東京の街角は旧時代から変わらず、絶え間なく動き続けている。造り、壊す。その繰り返しで変化している。
柳は荷物をしっかりと抱えながら応じた。
「でもここのエネルギーは、何か新しいことを始めるのにちょうど良い気がするよ」
柳はしばしば新しい環境に触れることでインスピレーションを得るタイプだ。元気がないせいで表面化しないが、本当は芸術家タイプなのかもしれない。彼の微笑みに、クリスも少し安堵を覚える。
東京スカイタワーからの眺望は、クリスにとって異界の光景だった。
未来ノ島の規律正しく整然と配置された人工の風景とは対照的に、目の前に広がるのは無限に続く高層ビルの海だ。人間活動の躍動感に満ち溢れた、東京の心臓部。伝統と最新技術。人工と自然。全てが一緒になって混ざり合い、地に広がる人の海を飲み込んでいる。
それらの生命力が、現在はるか上空にいる二人には入り組んだ陽光として映る。
眼下に波打つのは、金属とガラスの起伏が光り輝く、途切れることのない都市のパルス。
待ち合わせまで時間が余り、タワー展望台を訪れていた。世界最大級の電波塔は、今この瞬間も情報の中継地点となり、人々の生活を彩っている。
展望台内には観光客に向けた各言語の同時音声が常時流され、クリスと柳はそれぞれが知る数言語の聴覚認識の選択を求められた。それらを全てオフにすると母国語のアナウンスだけが流れ始め、時折ムーディーなBGMが挟まれる。人工知能にカップルだと思われているらしい。
「すごいね。ずっと遠くまで、いっぱいビルが続いてるよ」
柳が隣で静かに頷きながら答える。
「平地が少ないからね。僕らの島は人工島だ。本来なら島というのは、この関東平野以外の本土の、その自然に作られた土地のように起伏に富んだ場所だ。設計段階から計算され尽くしていたんだっていうことが、この景色を見てよくわかるよね」
柳の瞳には月明かりが反射したような銀灰色が深く輝き、心に秘めた感情がわずかに窺える。
「これまで何度か訪れたこの景色が、今日は何故か新鮮に感じるな」
それはおそらく、クリスと共にここに立っているからだろう。
クリスは彼の隣でその言葉に耳を傾けながら、彼が今この瞬間に感じているものが何かを把握しようとした。
「うん……」
ゆっくりと頷き、不安を抑えて柳を捉える。
ふたりの間にはわずかな距離しかなく、クリスはほんの少し身を寄せると、柳の肩に自然と自分のそれが触れてしまうほどだった。
「……きれいだね」
自然を調和させようという意思が長い時代の変化を経て、この街に働いているのだろう。かつての人々と、今現在の人の意志。未来を紡ごうという思想は、ふたりの島もこの国の中心地も同一だった。
「……ほら、あそこ。前に来たときは、あの大きなグリーンのカーテンはなかったよ」
この広大な都市にも小さな緑の場所が点在し、それがどれほど大切か、柳は言葉ではなく静かな視線で語っているようだった。
彼は慈しむように目を細めている。
クリスは、内心で考える。彼のこの優しさは、被っている仮面ではない。真の内面から溢れ出る温もりなのだと。
幼い頃の彼は涙もろく、おびえやすい少年だった。だがそれは同時に、感情豊かで人を信じ、愛情を深く表現できる心の持ち主であることを意味していた。……今は遠く、その柳のシルエットだけを微かに視認しようとする日々だ。
クリスは柳の優しさが、いつの日か彼自身にも向けられる日のことを願っていた。
やがて景色から目を離し、柳の足はエレベーターホールへと向かう。足元は毛足の短いカーペットが覆い、彼の靴音を吸収した。
「行く?」
「……ん。そうだね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼下がりの東京は、穏やかな日差しに包まれていた。
「さて、行こうか。せっかくだから歩こう。今日は移動が長くて、座ってばかりだったね」
「おー、そうそう。お尻が平らになるかと思った!」
クリスは柳の後をついて歩きながら、周囲の新しい景色に目を向けた。
「んー、気持ちいいね」
「雨、降らなくてよかった。最高の観光日和だよ」
高層ビルが立ち並び、その間を風がやさしく通り抜ける。通りの木々は都市のオアシスのように、緑豊かで穏やかな陰を作っていた。敷地から外に出ようとすると、アナウンスが流れる。観光客向けの内容だった。
『観光スポットについては、観光案内カウンターへ! 人気声優の音声を使用したコンシェルジュロボットが……』
光が街を明るく照らし、人々の活気が感じられる。
エレベーターホールから降り、スカイタワーの影から歩出たクリスは、柳と共にその明るい午後の光の中で一瞬目を細めた。
柳は広い通りを見渡しながら伸びをし、リラックスした声を出す。
「うーん……! クリス、行きたいところある? ご飯食べようか」
首を振って答え、クリスは少し不安に思っていたことを問いかけた。
「ねえ、今日会う人って、柳のプロ仲間なんだよね? どんな人? 私あんまりプロ選手のこと知らないから、失礼にならないかな」
「大丈夫だよ。僕がちゃんとフォローする。それに、渋川レン選手は、そういうことを気にしない人だよ」
柳の声には安心感があり、クリスを励ますような暖かさがあった。
「渋川、レン……何か他のところで、聞いたことがあるような?」
記憶を辿ってみようとするが、引っ掛かりの原因がわからない。
「変わった人でね。この荷物を僕の手で届ける約束だ」
柳は肩にかけたバッグを軽く叩きながら言った。彼の表情には渋川レンとの出会いを楽しみにしているような期待をかすかに感じられた。二人は交差点を渡り、喧騒から少し離れた静かな路地へと足を進める。
周囲の雑踏から一瞬で切り離された静寂が心地よく、クリスは新しい環境の中で少しずつリラックスしていく自分を感じていた。
折角なのでと、もんじゃ焼きの店に二人は入った。
鉄板とヘラを使って食事を楽しみ、渋川レンの自宅への道筋を確認した。荷物の中身が気になったが、多分クリスの知らないジャンルの機械だ。
荷物は柳によって厳重に梱包されていた。その中身は最新技術の装置が含まれており、その価値は測り知れないだろう。ドローンやシステムに任せず、柳自身に運ばせるくらいだ。
クリスと柳がその荷物を携え都市の通りを進む中、クリスらは何者かに追跡されていることに、まだ気づいていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
賑やかな繁華街を抜けた頃、突然影から飛び出した数人の男たちが二人の前を遮った。
彼らはチンピラじみた風貌で、手には明らかに対象を脅すための棒や鎖が握られていた。本土にはチンピラが生息しているのか。こんな古い映画のようなシチュエーションがありえるのか。
男たちの一人が声を荒らげた。
「その荷物、今すぐ渡せ! お前らが何持ってるか知ってんだからな!」
柳はクリスを背後に守りながら冷静に状況を評価しているようだった。
「……クリス、僕の後ろにいて……」
「う、うん」
荷物の中身が特定されていることに彼は驚いていたが、表情は平静を保ったままだった。迅速に考え、どうにかしてこの状況から逃れる方法を模索している。
「落ち着いてね。クリス」
柳は低く囁きクリスに目配せをして、逃走の準備を促した。
しかし、チンピラたちは逃げる隙を与えようとはしなかった。
一人が前に進み出、柳に向かって鎖を振り回し始めた。柳はクリスを守るため、身を挺して鎖の一撃をかわした。当たる直前に彼はクリスに荷物を手渡す。
「……ッ痛」
「柳!」
その隙にクリスは荷物を抱え、細い裏路地へと駆け込んだ。
「大丈夫、行くよ! 全速力ね!」
逃げる足音がエコーするように近くの階段を響き渡り、柳とクリスは命からがら追手からの脱出を試みる。
息が上がり、クリスの足は焦燥によってさらに速度を増していった。
眼の前に突如として現れた重厚な扉を柳は迷わず強い蹴りで開け放ち、そのままその足を引っ掛け内側から力強く閉めた。
「抜けて!」
「うん!」
状況の緊急性を瞬時に判断し、柳の異常な反射神経が発揮される。この行動は彼の卓越した運動能力と、緊急時の素早い判断力を如実に示していた。
クリスがドアを素早く抜けたことを確認した瞬間、閉めながら彼の手は自然と動き、扉に備え付けられていたサムターン錠をガチャリと音を立てて施錠する。
動作が終わると同時に柳は再び走り出し、場違いな感想を口にした。
「へえ、物理ロックだ。しかもサムターン。初めてかけたかも!」
顔には笑みさえ浮かんでいる。
クリスはその余裕のあるコメントに頭を振りながら、怒りと不安を交えて叫んだ。
「なんでそんな余裕なの? そんなもの逃げ切ってからいくらでも回せばいいのに!」
「いくらでもって、鍵なんだから一回でいいんだよ」
「なんなの?! 天然なの?! しかもド天然なの?!」
柳はクリスの叫びに小さく苦笑いを浮かべつつ、追手の怒号と足音が遠ざかるのを確認しながら答えた。
「うん、ごめんごめん。でも、安全を確保するのも大事だからね。さあ、このまま走ろうね」
彼は軽く後ろを振り返りながらクリスに目配せをし、前方へと目を向けて再び速度を上げた。必死に走る。
「追え! 逃がすな!」
男たちの叫び声が街に響き渡る。
柳はクリスの後を追いながら、クリスが無事に逃げ切れるよう後方から迫りくる男たちを引きつけるらしい。自身の身体能力を最大限に活かし、何度も敵の攻撃を巧みにかわしながら、クリスとの距離を保った。
「捕まれってんだよ!」
「無理ですね」
突如翻って到達した相手をゴミ箱に飛び込ませ、死角から飛び出して翻弄する。
「おわ!」
三人の追手がもんどり打って積まれていた荷物と団子になった。
「あ……すみません。お大事に」
この一連の混乱とパニックの中、クリスは恐怖とアドレナリンに突き動かされながらも柳が与えた指示に従い、何とか安全な場所を目指して必死に走り続ける。
柳の計画通り、二人はやがて追手を巧みに振り切り、ひとまずの安全を確保することに成功した。
「平気?クリス」
「柳ぃ! もーやだ、やだやだ怖い~!」
裏路地を曲がるたびに柳は周囲を警戒し、今はクリスの手をしっかりと握り締めていた。
「大丈夫、一緒にいるからね。持っててくれてありがとう」
「ううー、なんなのその余裕……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突然、眼前に数人の男が現れた。
その様子は荷物に対する明らかな関心を示している。追手に違いない。忙しい日になってしまった。もんじゃ焼きもまだ消化しきっていないのに。
「おい、その荷物を置いていけ!」
一人の男が大声で叫びながらこちらに近づく。彼の目は貪欲で、手には危険を予感させる何かを握っていた。見慣れない道具だったが、昔作られたというヤクザ映画の中で見覚えがあった。平面上では認識したことがある。
柳はクリスを背後に隠しながら、状況を把握しようとした。この場所では部が悪い。
「……なにかの間違いでは」
薄笑いを浮かべ平静に答えたが、緊急の対策を練る。
クリスの走力、疲労度、自分の運動能力、反射神経、目的地までの距離、地理、彼らの人数、持っている武器の数と種類、気象条件は良好。雨も降らなかったので、多少無茶なコースどりをしても切り抜けられる。
しかし、男たちは一歩も退かない。
人数は増え、次第に柳とクリスを取り囲む形となった。時間が経つほど不利になる。一人が前に出て荷物に手を伸ばそうとした瞬間、柳は迅速に行動に移った。
「クリス、走れ!」
「うん!」
クリスは柳の言葉に従い、再び足を動かし始めた。彼女は速い。そのあたりにいるようなチンピラに捕まるような脚力ではない。
柳は今再び自ら囮となり、注意を引きつけることでクリスの逃げる時間を稼ぐ。
歩道に設置されたベンチの背もたれを足がかりにして、柳が体を捻りながら跳躍すると、丁度まとめて襲ってきたチンピラたちが絡まってベンチに座った。いや、座れていない。寝ている?
やがて十分な混乱を作れたことを確信すると全力でまだ立っていた彼らの仲間を撒き、最短距離でクリスに追いつく。
道が入り組んでいたせいで、柳が最短距離のパルクールじみた動きを発揮することで追いつくことができた。
クリスは追われ慣れていないため、正直なコースを取る。
「クリス、大丈夫?」
「あんたこそ……えっ、追いつくの早……」
柳は荷物を彼女から一旦受け取った。
また新たな追手が怒号を上始める。そろそろ方をつけて渋川レンの自宅にたどり着かなければならないだろう。
「やだやだやだやだ! なんなの? 警察沙汰?! 本土観光のついでにパルクールとかほんとゴメンなんですけど!」
「安心して、クリス。不法侵入はしないようにするから……」
「そういう意味じゃなぁーい!」
柳は一旦クリスの前へ進み出て、箱を掲げる。その中身は彼らをこの状況に追い込んだ原因でもある、特別なヘッドセット。
「クリス、準備はいい?」
柳が彼女に声をかけると、クリスは緊張の表情を浮かべながらも頷いた。迅速に行動を起こす。時間は少ないからだ。
箱をクリスの方向へと向け、そして彼女に向かって力強く投げた。
「キャッチ!」
声が響く。クリスは反射的に両手を前に出し、空中を舞う箱を見事にキャッチした。
「きゃあ!」
箱は軽いが、クリスは抱き込むようにしながら守っている。
「ナイス!」
「なにやってんの?!」
彼女はしっかりと箱を抱え直し、柳が先導するままに急速に動き出した。思った通り、クリスが後ろを気にして怖がることなく、追手との距離を広げることができているようだ。
「投げていいの?! これ!」
「大丈夫だよ、クリス。見ての通り、厳重すぎるくらい梱包してあるから!」
「それってこういうときのための備えじゃないと思うんですけど~!」
半泣きになりながらも、クリスは柳に対する信頼を失ってはいない。それでも、箱を守るためにはどんな行動も正当化されるとは思えないという心情が透けて見える。
柳は社交的な振る舞いに隠されたクリスのこういった真面目さが好ましく思え、にっこりと微笑んだ。
足早に路地を抜け、視界に捕まらないよう隠れながら移動を続けた。柳は周囲を慎重に観察しつつ、クリスを安全な方向へと導く。時折背後を振り返り、追手の動きを確認することも忘れない。
やがて、未来的な都市景観と古代の遺構が不思議に共存する地区に足を踏み入れた。
ビルの隙間から漏れるぎらつく日光が、無機質なクロームの表面と古びた石造りの壁を照らし出している。
「……こっちでいいんだっけ?」
「うーん……いいんだけど、二人でスムーズに抜け出すには、ちょっと違う道を行く必要があるかも……」
路地は、デジタルプロジェクションと古典的な彫刻が入り交じる非現実的な光景で覆われている。
壁一面に投影されたホログラフィックアートは通行人の動きに反応して変化し、未来都市の生活が息づいているかのような錯覚を生み出していた。
これらのディスプレイからは、過去の広告やアニメーションが随時更新され、現代のデータと組み合わさりながら新しい物語を紡ぎ出している。
地面は部分的に透明なガラス張りで、その下には光ファイバーケーブルが複雑に絡み合い、都市のデータの流れを視覚化していた。
「わー、なんか……映画の中みたい」
「昭和時代の?」
「うん……柳、みたことない?」
「あるけど……」
人々が歩くたびに地面が微妙に色を変えることで、その地点のデータ通信量を示している。これは、この地域がいかに高度な情報通信技術に支えられているかを象徴している。
また、空にはドローンが飛び交い、時折その羽ばたきが金属的な音を響かせていた。彼らの存在は都市の住人にとっては日常の一部となっている。
この地区の古い部分では、霧散する水蒸気が常に漂い、それがネオン風ライトに照らされて幻想的な景色を作り出していた。
錆びた鉄の階段、古びた木製のドア、そして時折顔を出す石畳が、この場所がかつて何であったかの記憶を静かに保持している。
人気はあるが静かだ。古い住宅のガラス戸から、室内犬が反応して吠えていた。
「あ……ごめんね、わんちゃん。今は静かにして……」
クリスと柳がこの異質な景観を背に逃走を続ける中、彼らの背後では未来と過去が不可解なほど調和し、都市の多層的な歴史が現在に息づいている。
この一帯の独特な環境は、彼らの隠れる場所としてだけでなく、二人が直面する現実の複雑さを象徴しているかのようだった。
「クリス、向こうにしよう。こっちは多分大勢来る」
「うう、わかった……」
そもそも、このように複数のチンピラじみた男たちに追われているのには理由があった。
クリスの公式戦出場に備え、柳はネオトラバース関連の知人や友人に練習相手になって欲しいと連絡していた。
夏の大会を前に学生選手のスケジュールは厳しく、皆自身の練習で手一杯だ。社会人も、夏休みに向けたスケジュール調整で本業が忙しいとの返信が多数。
プロ仲間の友人にも申し込んだが、なかなかスケジュール調整がうまくいかなかった。
プロなら尚更、初心者相手の練習試合などしていられないというのがそもそもの本音だろう。柳のサポートがあるとはいえ、とても初心者相手に練習試合を承諾する者は現れないと思われた。
そこに返信があったのが、渋川レンだった。
彼はこの荷物を柳自ら運搬してくることを条件に、初心者であるクリスとの練習試合を引き受けてくれたのだった。
「……ストップ」
柳は立ち止まって周囲の状況を評価し、クリスを安全な場所へと導く最適な経路を計算した。
「こっち!」
「うん……!」
通りの反対側に追手が数名。彼らは合図しながら走ってきた。指笛が響く。今どきそのテクニックを使う一派がいるとは。
「このやろ!」
「オンナつれて逃げ切れると思うな!」
「左走って! 追いつくから」
「あっ?! えっ、柳、箱は?!」
「僕が持つ」
この時柳は敵の目を欺くために一時的に反対方向へと走り出し、クリスには直接的な危険が及ばないよう計算した行動をとった。言った通りにすぐ合流する。
柳はクリスが状況の重圧に押しつぶされそうになっているのを察知していた。呼吸は速く、手はわずかに震えている。そのため、ただ逃げるだけでは彼女の不安が増すだけだと感じた。
静かな通りを抜け、追手との距離を確認すると、柳は突然クリスの手を引いて人目のつかない狭い場所に彼女を引き込んだ。
「……クリス、ちょっと」
壁に背を預けさせ、クリスの顔をやさしく両手で包むと、そのほっぺたに優しいキスをする。突然の行動に、クリスの目がぱちくりと大きく開いた。
「……落ち着いた?」
クリスは瞬間的に言葉を失い、「へぁ…」としか返事ができなかった。
しかし、その小さな接触が奇妙に心を落ち着ける効果を持っていたようで、彼女は少しずつ呼吸を整え始める。
クリスはぼんやりとした顔でこちらを見上げる。柳はにっこりと笑いながら言った。
「懐かしいなあ。小さい時、僕が泣いてるときにクリスってよく、こうしてくれたよね」
その言葉にクリスは驚きと懐かしさで一瞬言葉を失ったが、また走り出した柳にすぐに追いついた。
「もうすぐ撒けるとおもうよ」
「……ほんと?」
「うん、本当」
柳はクリスの手を取り、再び加速する。
クリスも引っ張られるままにその速度に合わせていった。周囲の景色がぼやける中、ふたりの心は幼い日の思い出によって束の間の安堵を得ていた。
背後からの足音は、追いかけてくる脅威の近さを彼らに思い出させる。柳は周囲の動きを瞬時に把握しながら、クリスタルを安全に導くための最適なルートを計算していた。
柳が次に追手をかわし、クリスと共に狭い裏路地に身を隠した際には、ネオトラバースプレイヤーとしてのスキルをフルに活用する場面となった。
突然前方から別の追手が現れ、柳とクリスの進路を遮った。
この追手はデバイスを通じて仲間と連携し、先回りして待ち伏せていたようだった。柳は追手の位置を素早く把握し、接触を避けるため瞬時に反応して横へと大きく身を躱した。
「おらぁ!」
「あれっ……」
しかし追手も俊敏で、突如足を伸ばして柳の進路を塞ぐように動く。
柳はそれに素早く対応し、足を高く跳ね上げて追手の挑発的な蹴りをかわした。だが、その瞬間柳の足がわずかに引っかかり、バランスを崩してしまった。
「よっしゃ!」
「あっ……」
「柳!」
クリスが心配そうに叫ぶ声が背後から響く。
「よいしょ」
しかし柳は地面に倒れることなく、素早く体を捻って足を回し、向き直りながら立ち直り、足元を固めて再び走り出した。
「……え、あ……?」
そばにいた追手は突然眼の前を横切った柳の体を見送り、何が起きたかわかっていない。
「大丈夫、クリス。走ろう!」
「え? ……えっ?」
柳はクリスの手を引き、前へと力強く引っ張り始める。
「でも、なんで?」
クリスが息を切らしながら尋ねる。柳は笑いながら答えた。
「ネオトラバースでの戦いに慣れすぎてるんだ。今みたいに反射神経を研ぎ澄ませようとすると、現実の世界での人間の動きがどうしても遅く感じてしまうんだよ。それでタイミングを合わせるのが難しくて……躓いちゃったんだ」
「なにそれ……体育の授業だけじゃなく?」
クリスは呆れたように言った。
「どう違うの?」
「……あのさ、ネオトラプレイヤーって、みんなそんな化け物みたいなの?」
「まあ、僕たちはちょっと変? かもね」
柳はまた軽く笑った。
柳は彼女の手を再び引き、静かに言った。
「大丈夫、もうすぐだからね」
安心感を得たように微笑んだクリスは人通りの少ない裏通りを通り抜けながら、目的地に向かって急ぎ足で進む。
「クリスって、高いところ大丈夫だよね?」
クリスは少し躊躇いながらも頷いた。
「え? え、ああ、うん」
「そっか。しっかり持っててね!」
柳は荷物を手渡し、クリスと荷物を一緒に抱えると通路の端へ歩み寄る。そして何の前触れもなくそこから飛び降りた。
空中でクリスの透明な声が悲鳴に変わる。
続けて何階もの高さを一瞬で駆け下りる間、柳はクリスをしっかりと支え続け、適切な位置で安全に着地した。地面に足をつけた途端クリスをそっと下ろし、彼女の状態を確認する。
「大丈夫?クリス」
「もうやだぁ…」
クリスの声は震えていた。追手を避けるためのこの急な行動に、彼女の恐怖が逆に増してしまったようだ。
「高いところ、平気って言ったじゃない」
「高いところが平気なのと、飛び降りても平気なのは全然違うー!」
「……ごめんね」
心底申し訳無く、柳はクリスに目を合わせた。
「もう安全だと思う。渋川さんのところに行こうか」
クリスは深呼吸をし、周囲を見渡した。
高所からの急降下がもたらしたアドレナリンが徐々に体から抜けていくのを感じながら、柳はクリスを案内した。
二人はその場を立ち去り、渋川レンの待つ場所へと向かった。
高層ビルが立ち並ぶ都市の空気は、機械と人の息遣いが混じり合ったような独特の温度を持っていた。二人はこのまばゆいほどに発展したメガシティの中で、一つの重要な使命を帯びていた。
目的は、クリスの二回目の練習試合と、その対戦相手の渋川レンからの依頼を叶えることにある。荷物の届け先への訪問。
渋川レンはネオトラバースの中で柳の強力なライバルでありながら、時折柳に協力を求めることがある謎多き人物だ。幼年ルールのスターライトチェイスの頃に本土に呼び出し、一時的に柳の師匠のような役割をしたこともある。その荷物は、本土ではなかなか手に入らない高額で特殊な装置を含んでおり、渋川には不可欠なものであるらしい。
「……わー、やっぱ日本の中心はスケール大きいわー」
「立地条件もあって、今じゃ世界最大のメガシティだからね……」
服装は部活動にふさわしくジャージだった。これは部指定のもので、スポーティかつ機能的だ。軽量で動きやすい材質の未来ノ島高専ネオトラバース部ジャージは、部員たちに概ね好評。
学園の区分けの中で、高専のシンボルカラーである鮮やかなブルーと白が基調である。クリスの着用しているスポーティなタイトフィットのトップスには、通気性を考慮したメッシュのディテールが施されており、動きを妨げない柔軟性がある。下は同じ色合いのショートパンツを合わせ、機能性と快適さを兼ね備えたランニングシューズを合わせれば完璧なアンサンブルを形成できる。
「都市部は照り返しが眩しいよね。やっぱ夏用のシャツにしてきて良かった」
「都市部って……未来ノ島のほうが未来的といえば未来的だよね、クリスはこっちの方が好み?」
「ここは方向性が違うでしょお! 島は無駄が無さすぎて……というか整然としてる」
「うん、そうか……そういうこと」
一方の柳はクリスと同様のネオトラバースジャージを着用しているが、やや落ち着いたデザインだった。ダークブルーとグレーの色使いで、サポート要員の中心メンバーであることを示すエンブレムが、洗練されたアクセントとして加えられている。
「確かに、この都市は渦巻くエネルギーが混沌としていて、それでもどこか秩序立って組み上がってる。それは人の多さと努力のなせる技だよね」
彼は足元にクッション性が高く長時間の使用に耐えるスポーツシューズを選び、パフォーマンスの最適化を図っている。
本土に降り立った際、周囲は高度な交通システムと未来的な建築で満ちており、二人の出身地である未来ノ島とは異なる刺激と活気に満ちていた。
クリスらとそう歳が変わらない新しい存在である未来ノ島こそが技術的に最新ではあるのだが、やはり本質的に全ての中心として打ち据えられているこの土地は、格別にエネルギッシュである。
新しい環境に適応しながら、学園の部活動報告用ドローンの案内に従い、目的地へと向かう。
『報告をお願いしま~すワン!』
ドローンは彼らの動きを常にモニタリングし、その様子を学園にリアルタイムで報告していた。
この音声の妙なユーモアは、まさに教育機関所有のドローンであることを表しているとクリスは感じた。もうそんな年ではない。柳のパーソナルデータを反映してなのか、彼の家に住んでいるパグを模している。余計な機能だ。
「報告。目的の駅に到着。外泊予約済地点に予定通り向かいます。一時的にドローンをオフ。GPSモードで荷物に入って」
一定の報告義務を終えるとドローンは柳が所持して、その後は彼らに自由時間が与えられることになっていた。
『ヒュウゥ~!おつかれさまでした~!ワン!』
なんだ、その取ってつけたような語尾は。
指示通りにドローンが飛んで翼を格納し、すっぽりと柳のバッグに収まる。もちろん、未成年者のみの外泊となるため、GPS等の内蔵が義務付けられている。
今日は混雑が予想され、未成年健全育成法により高校生相当として許されている時間内の島への帰宅が厳しいことから、今夜はこの本土で一泊することになっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すごい、忙しい街だね~」
クリスは周囲を見渡しながら言った。光り輝く広告板や縦横無尽に走る自動運転車の流れに釘付けになる。
継続使用を前提として全てが整備された未来ノ島の町とは異なり、東京の街角は旧時代から変わらず、絶え間なく動き続けている。造り、壊す。その繰り返しで変化している。
柳は荷物をしっかりと抱えながら応じた。
「でもここのエネルギーは、何か新しいことを始めるのにちょうど良い気がするよ」
柳はしばしば新しい環境に触れることでインスピレーションを得るタイプだ。元気がないせいで表面化しないが、本当は芸術家タイプなのかもしれない。彼の微笑みに、クリスも少し安堵を覚える。
東京スカイタワーからの眺望は、クリスにとって異界の光景だった。
未来ノ島の規律正しく整然と配置された人工の風景とは対照的に、目の前に広がるのは無限に続く高層ビルの海だ。人間活動の躍動感に満ち溢れた、東京の心臓部。伝統と最新技術。人工と自然。全てが一緒になって混ざり合い、地に広がる人の海を飲み込んでいる。
それらの生命力が、現在はるか上空にいる二人には入り組んだ陽光として映る。
眼下に波打つのは、金属とガラスの起伏が光り輝く、途切れることのない都市のパルス。
待ち合わせまで時間が余り、タワー展望台を訪れていた。世界最大級の電波塔は、今この瞬間も情報の中継地点となり、人々の生活を彩っている。
展望台内には観光客に向けた各言語の同時音声が常時流され、クリスと柳はそれぞれが知る数言語の聴覚認識の選択を求められた。それらを全てオフにすると母国語のアナウンスだけが流れ始め、時折ムーディーなBGMが挟まれる。人工知能にカップルだと思われているらしい。
「すごいね。ずっと遠くまで、いっぱいビルが続いてるよ」
柳が隣で静かに頷きながら答える。
「平地が少ないからね。僕らの島は人工島だ。本来なら島というのは、この関東平野以外の本土の、その自然に作られた土地のように起伏に富んだ場所だ。設計段階から計算され尽くしていたんだっていうことが、この景色を見てよくわかるよね」
柳の瞳には月明かりが反射したような銀灰色が深く輝き、心に秘めた感情がわずかに窺える。
「これまで何度か訪れたこの景色が、今日は何故か新鮮に感じるな」
それはおそらく、クリスと共にここに立っているからだろう。
クリスは彼の隣でその言葉に耳を傾けながら、彼が今この瞬間に感じているものが何かを把握しようとした。
「うん……」
ゆっくりと頷き、不安を抑えて柳を捉える。
ふたりの間にはわずかな距離しかなく、クリスはほんの少し身を寄せると、柳の肩に自然と自分のそれが触れてしまうほどだった。
「……きれいだね」
自然を調和させようという意思が長い時代の変化を経て、この街に働いているのだろう。かつての人々と、今現在の人の意志。未来を紡ごうという思想は、ふたりの島もこの国の中心地も同一だった。
「……ほら、あそこ。前に来たときは、あの大きなグリーンのカーテンはなかったよ」
この広大な都市にも小さな緑の場所が点在し、それがどれほど大切か、柳は言葉ではなく静かな視線で語っているようだった。
彼は慈しむように目を細めている。
クリスは、内心で考える。彼のこの優しさは、被っている仮面ではない。真の内面から溢れ出る温もりなのだと。
幼い頃の彼は涙もろく、おびえやすい少年だった。だがそれは同時に、感情豊かで人を信じ、愛情を深く表現できる心の持ち主であることを意味していた。……今は遠く、その柳のシルエットだけを微かに視認しようとする日々だ。
クリスは柳の優しさが、いつの日か彼自身にも向けられる日のことを願っていた。
やがて景色から目を離し、柳の足はエレベーターホールへと向かう。足元は毛足の短いカーペットが覆い、彼の靴音を吸収した。
「行く?」
「……ん。そうだね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼下がりの東京は、穏やかな日差しに包まれていた。
「さて、行こうか。せっかくだから歩こう。今日は移動が長くて、座ってばかりだったね」
「おー、そうそう。お尻が平らになるかと思った!」
クリスは柳の後をついて歩きながら、周囲の新しい景色に目を向けた。
「んー、気持ちいいね」
「雨、降らなくてよかった。最高の観光日和だよ」
高層ビルが立ち並び、その間を風がやさしく通り抜ける。通りの木々は都市のオアシスのように、緑豊かで穏やかな陰を作っていた。敷地から外に出ようとすると、アナウンスが流れる。観光客向けの内容だった。
『観光スポットについては、観光案内カウンターへ! 人気声優の音声を使用したコンシェルジュロボットが……』
光が街を明るく照らし、人々の活気が感じられる。
エレベーターホールから降り、スカイタワーの影から歩出たクリスは、柳と共にその明るい午後の光の中で一瞬目を細めた。
柳は広い通りを見渡しながら伸びをし、リラックスした声を出す。
「うーん……! クリス、行きたいところある? ご飯食べようか」
首を振って答え、クリスは少し不安に思っていたことを問いかけた。
「ねえ、今日会う人って、柳のプロ仲間なんだよね? どんな人? 私あんまりプロ選手のこと知らないから、失礼にならないかな」
「大丈夫だよ。僕がちゃんとフォローする。それに、渋川レン選手は、そういうことを気にしない人だよ」
柳の声には安心感があり、クリスを励ますような暖かさがあった。
「渋川、レン……何か他のところで、聞いたことがあるような?」
記憶を辿ってみようとするが、引っ掛かりの原因がわからない。
「変わった人でね。この荷物を僕の手で届ける約束だ」
柳は肩にかけたバッグを軽く叩きながら言った。彼の表情には渋川レンとの出会いを楽しみにしているような期待をかすかに感じられた。二人は交差点を渡り、喧騒から少し離れた静かな路地へと足を進める。
周囲の雑踏から一瞬で切り離された静寂が心地よく、クリスは新しい環境の中で少しずつリラックスしていく自分を感じていた。
折角なのでと、もんじゃ焼きの店に二人は入った。
鉄板とヘラを使って食事を楽しみ、渋川レンの自宅への道筋を確認した。荷物の中身が気になったが、多分クリスの知らないジャンルの機械だ。
荷物は柳によって厳重に梱包されていた。その中身は最新技術の装置が含まれており、その価値は測り知れないだろう。ドローンやシステムに任せず、柳自身に運ばせるくらいだ。
クリスと柳がその荷物を携え都市の通りを進む中、クリスらは何者かに追跡されていることに、まだ気づいていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
賑やかな繁華街を抜けた頃、突然影から飛び出した数人の男たちが二人の前を遮った。
彼らはチンピラじみた風貌で、手には明らかに対象を脅すための棒や鎖が握られていた。本土にはチンピラが生息しているのか。こんな古い映画のようなシチュエーションがありえるのか。
男たちの一人が声を荒らげた。
「その荷物、今すぐ渡せ! お前らが何持ってるか知ってんだからな!」
柳はクリスを背後に守りながら冷静に状況を評価しているようだった。
「……クリス、僕の後ろにいて……」
「う、うん」
荷物の中身が特定されていることに彼は驚いていたが、表情は平静を保ったままだった。迅速に考え、どうにかしてこの状況から逃れる方法を模索している。
「落ち着いてね。クリス」
柳は低く囁きクリスに目配せをして、逃走の準備を促した。
しかし、チンピラたちは逃げる隙を与えようとはしなかった。
一人が前に進み出、柳に向かって鎖を振り回し始めた。柳はクリスを守るため、身を挺して鎖の一撃をかわした。当たる直前に彼はクリスに荷物を手渡す。
「……ッ痛」
「柳!」
その隙にクリスは荷物を抱え、細い裏路地へと駆け込んだ。
「大丈夫、行くよ! 全速力ね!」
逃げる足音がエコーするように近くの階段を響き渡り、柳とクリスは命からがら追手からの脱出を試みる。
息が上がり、クリスの足は焦燥によってさらに速度を増していった。
眼の前に突如として現れた重厚な扉を柳は迷わず強い蹴りで開け放ち、そのままその足を引っ掛け内側から力強く閉めた。
「抜けて!」
「うん!」
状況の緊急性を瞬時に判断し、柳の異常な反射神経が発揮される。この行動は彼の卓越した運動能力と、緊急時の素早い判断力を如実に示していた。
クリスがドアを素早く抜けたことを確認した瞬間、閉めながら彼の手は自然と動き、扉に備え付けられていたサムターン錠をガチャリと音を立てて施錠する。
動作が終わると同時に柳は再び走り出し、場違いな感想を口にした。
「へえ、物理ロックだ。しかもサムターン。初めてかけたかも!」
顔には笑みさえ浮かんでいる。
クリスはその余裕のあるコメントに頭を振りながら、怒りと不安を交えて叫んだ。
「なんでそんな余裕なの? そんなもの逃げ切ってからいくらでも回せばいいのに!」
「いくらでもって、鍵なんだから一回でいいんだよ」
「なんなの?! 天然なの?! しかもド天然なの?!」
柳はクリスの叫びに小さく苦笑いを浮かべつつ、追手の怒号と足音が遠ざかるのを確認しながら答えた。
「うん、ごめんごめん。でも、安全を確保するのも大事だからね。さあ、このまま走ろうね」
彼は軽く後ろを振り返りながらクリスに目配せをし、前方へと目を向けて再び速度を上げた。必死に走る。
「追え! 逃がすな!」
男たちの叫び声が街に響き渡る。
柳はクリスの後を追いながら、クリスが無事に逃げ切れるよう後方から迫りくる男たちを引きつけるらしい。自身の身体能力を最大限に活かし、何度も敵の攻撃を巧みにかわしながら、クリスとの距離を保った。
「捕まれってんだよ!」
「無理ですね」
突如翻って到達した相手をゴミ箱に飛び込ませ、死角から飛び出して翻弄する。
「おわ!」
三人の追手がもんどり打って積まれていた荷物と団子になった。
「あ……すみません。お大事に」
この一連の混乱とパニックの中、クリスは恐怖とアドレナリンに突き動かされながらも柳が与えた指示に従い、何とか安全な場所を目指して必死に走り続ける。
柳の計画通り、二人はやがて追手を巧みに振り切り、ひとまずの安全を確保することに成功した。
「平気?クリス」
「柳ぃ! もーやだ、やだやだ怖い~!」
裏路地を曲がるたびに柳は周囲を警戒し、今はクリスの手をしっかりと握り締めていた。
「大丈夫、一緒にいるからね。持っててくれてありがとう」
「ううー、なんなのその余裕……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突然、眼前に数人の男が現れた。
その様子は荷物に対する明らかな関心を示している。追手に違いない。忙しい日になってしまった。もんじゃ焼きもまだ消化しきっていないのに。
「おい、その荷物を置いていけ!」
一人の男が大声で叫びながらこちらに近づく。彼の目は貪欲で、手には危険を予感させる何かを握っていた。見慣れない道具だったが、昔作られたというヤクザ映画の中で見覚えがあった。平面上では認識したことがある。
柳はクリスを背後に隠しながら、状況を把握しようとした。この場所では部が悪い。
「……なにかの間違いでは」
薄笑いを浮かべ平静に答えたが、緊急の対策を練る。
クリスの走力、疲労度、自分の運動能力、反射神経、目的地までの距離、地理、彼らの人数、持っている武器の数と種類、気象条件は良好。雨も降らなかったので、多少無茶なコースどりをしても切り抜けられる。
しかし、男たちは一歩も退かない。
人数は増え、次第に柳とクリスを取り囲む形となった。時間が経つほど不利になる。一人が前に出て荷物に手を伸ばそうとした瞬間、柳は迅速に行動に移った。
「クリス、走れ!」
「うん!」
クリスは柳の言葉に従い、再び足を動かし始めた。彼女は速い。そのあたりにいるようなチンピラに捕まるような脚力ではない。
柳は今再び自ら囮となり、注意を引きつけることでクリスの逃げる時間を稼ぐ。
歩道に設置されたベンチの背もたれを足がかりにして、柳が体を捻りながら跳躍すると、丁度まとめて襲ってきたチンピラたちが絡まってベンチに座った。いや、座れていない。寝ている?
やがて十分な混乱を作れたことを確信すると全力でまだ立っていた彼らの仲間を撒き、最短距離でクリスに追いつく。
道が入り組んでいたせいで、柳が最短距離のパルクールじみた動きを発揮することで追いつくことができた。
クリスは追われ慣れていないため、正直なコースを取る。
「クリス、大丈夫?」
「あんたこそ……えっ、追いつくの早……」
柳は荷物を彼女から一旦受け取った。
また新たな追手が怒号を上始める。そろそろ方をつけて渋川レンの自宅にたどり着かなければならないだろう。
「やだやだやだやだ! なんなの? 警察沙汰?! 本土観光のついでにパルクールとかほんとゴメンなんですけど!」
「安心して、クリス。不法侵入はしないようにするから……」
「そういう意味じゃなぁーい!」
柳は一旦クリスの前へ進み出て、箱を掲げる。その中身は彼らをこの状況に追い込んだ原因でもある、特別なヘッドセット。
「クリス、準備はいい?」
柳が彼女に声をかけると、クリスは緊張の表情を浮かべながらも頷いた。迅速に行動を起こす。時間は少ないからだ。
箱をクリスの方向へと向け、そして彼女に向かって力強く投げた。
「キャッチ!」
声が響く。クリスは反射的に両手を前に出し、空中を舞う箱を見事にキャッチした。
「きゃあ!」
箱は軽いが、クリスは抱き込むようにしながら守っている。
「ナイス!」
「なにやってんの?!」
彼女はしっかりと箱を抱え直し、柳が先導するままに急速に動き出した。思った通り、クリスが後ろを気にして怖がることなく、追手との距離を広げることができているようだ。
「投げていいの?! これ!」
「大丈夫だよ、クリス。見ての通り、厳重すぎるくらい梱包してあるから!」
「それってこういうときのための備えじゃないと思うんですけど~!」
半泣きになりながらも、クリスは柳に対する信頼を失ってはいない。それでも、箱を守るためにはどんな行動も正当化されるとは思えないという心情が透けて見える。
柳は社交的な振る舞いに隠されたクリスのこういった真面目さが好ましく思え、にっこりと微笑んだ。
足早に路地を抜け、視界に捕まらないよう隠れながら移動を続けた。柳は周囲を慎重に観察しつつ、クリスを安全な方向へと導く。時折背後を振り返り、追手の動きを確認することも忘れない。
やがて、未来的な都市景観と古代の遺構が不思議に共存する地区に足を踏み入れた。
ビルの隙間から漏れるぎらつく日光が、無機質なクロームの表面と古びた石造りの壁を照らし出している。
「……こっちでいいんだっけ?」
「うーん……いいんだけど、二人でスムーズに抜け出すには、ちょっと違う道を行く必要があるかも……」
路地は、デジタルプロジェクションと古典的な彫刻が入り交じる非現実的な光景で覆われている。
壁一面に投影されたホログラフィックアートは通行人の動きに反応して変化し、未来都市の生活が息づいているかのような錯覚を生み出していた。
これらのディスプレイからは、過去の広告やアニメーションが随時更新され、現代のデータと組み合わさりながら新しい物語を紡ぎ出している。
地面は部分的に透明なガラス張りで、その下には光ファイバーケーブルが複雑に絡み合い、都市のデータの流れを視覚化していた。
「わー、なんか……映画の中みたい」
「昭和時代の?」
「うん……柳、みたことない?」
「あるけど……」
人々が歩くたびに地面が微妙に色を変えることで、その地点のデータ通信量を示している。これは、この地域がいかに高度な情報通信技術に支えられているかを象徴している。
また、空にはドローンが飛び交い、時折その羽ばたきが金属的な音を響かせていた。彼らの存在は都市の住人にとっては日常の一部となっている。
この地区の古い部分では、霧散する水蒸気が常に漂い、それがネオン風ライトに照らされて幻想的な景色を作り出していた。
錆びた鉄の階段、古びた木製のドア、そして時折顔を出す石畳が、この場所がかつて何であったかの記憶を静かに保持している。
人気はあるが静かだ。古い住宅のガラス戸から、室内犬が反応して吠えていた。
「あ……ごめんね、わんちゃん。今は静かにして……」
クリスと柳がこの異質な景観を背に逃走を続ける中、彼らの背後では未来と過去が不可解なほど調和し、都市の多層的な歴史が現在に息づいている。
この一帯の独特な環境は、彼らの隠れる場所としてだけでなく、二人が直面する現実の複雑さを象徴しているかのようだった。
「クリス、向こうにしよう。こっちは多分大勢来る」
「うう、わかった……」
そもそも、このように複数のチンピラじみた男たちに追われているのには理由があった。
クリスの公式戦出場に備え、柳はネオトラバース関連の知人や友人に練習相手になって欲しいと連絡していた。
夏の大会を前に学生選手のスケジュールは厳しく、皆自身の練習で手一杯だ。社会人も、夏休みに向けたスケジュール調整で本業が忙しいとの返信が多数。
プロ仲間の友人にも申し込んだが、なかなかスケジュール調整がうまくいかなかった。
プロなら尚更、初心者相手の練習試合などしていられないというのがそもそもの本音だろう。柳のサポートがあるとはいえ、とても初心者相手に練習試合を承諾する者は現れないと思われた。
そこに返信があったのが、渋川レンだった。
彼はこの荷物を柳自ら運搬してくることを条件に、初心者であるクリスとの練習試合を引き受けてくれたのだった。
「……ストップ」
柳は立ち止まって周囲の状況を評価し、クリスを安全な場所へと導く最適な経路を計算した。
「こっち!」
「うん……!」
通りの反対側に追手が数名。彼らは合図しながら走ってきた。指笛が響く。今どきそのテクニックを使う一派がいるとは。
「このやろ!」
「オンナつれて逃げ切れると思うな!」
「左走って! 追いつくから」
「あっ?! えっ、柳、箱は?!」
「僕が持つ」
この時柳は敵の目を欺くために一時的に反対方向へと走り出し、クリスには直接的な危険が及ばないよう計算した行動をとった。言った通りにすぐ合流する。
柳はクリスが状況の重圧に押しつぶされそうになっているのを察知していた。呼吸は速く、手はわずかに震えている。そのため、ただ逃げるだけでは彼女の不安が増すだけだと感じた。
静かな通りを抜け、追手との距離を確認すると、柳は突然クリスの手を引いて人目のつかない狭い場所に彼女を引き込んだ。
「……クリス、ちょっと」
壁に背を預けさせ、クリスの顔をやさしく両手で包むと、そのほっぺたに優しいキスをする。突然の行動に、クリスの目がぱちくりと大きく開いた。
「……落ち着いた?」
クリスは瞬間的に言葉を失い、「へぁ…」としか返事ができなかった。
しかし、その小さな接触が奇妙に心を落ち着ける効果を持っていたようで、彼女は少しずつ呼吸を整え始める。
クリスはぼんやりとした顔でこちらを見上げる。柳はにっこりと笑いながら言った。
「懐かしいなあ。小さい時、僕が泣いてるときにクリスってよく、こうしてくれたよね」
その言葉にクリスは驚きと懐かしさで一瞬言葉を失ったが、また走り出した柳にすぐに追いついた。
「もうすぐ撒けるとおもうよ」
「……ほんと?」
「うん、本当」
柳はクリスの手を取り、再び加速する。
クリスも引っ張られるままにその速度に合わせていった。周囲の景色がぼやける中、ふたりの心は幼い日の思い出によって束の間の安堵を得ていた。
背後からの足音は、追いかけてくる脅威の近さを彼らに思い出させる。柳は周囲の動きを瞬時に把握しながら、クリスタルを安全に導くための最適なルートを計算していた。
柳が次に追手をかわし、クリスと共に狭い裏路地に身を隠した際には、ネオトラバースプレイヤーとしてのスキルをフルに活用する場面となった。
突然前方から別の追手が現れ、柳とクリスの進路を遮った。
この追手はデバイスを通じて仲間と連携し、先回りして待ち伏せていたようだった。柳は追手の位置を素早く把握し、接触を避けるため瞬時に反応して横へと大きく身を躱した。
「おらぁ!」
「あれっ……」
しかし追手も俊敏で、突如足を伸ばして柳の進路を塞ぐように動く。
柳はそれに素早く対応し、足を高く跳ね上げて追手の挑発的な蹴りをかわした。だが、その瞬間柳の足がわずかに引っかかり、バランスを崩してしまった。
「よっしゃ!」
「あっ……」
「柳!」
クリスが心配そうに叫ぶ声が背後から響く。
「よいしょ」
しかし柳は地面に倒れることなく、素早く体を捻って足を回し、向き直りながら立ち直り、足元を固めて再び走り出した。
「……え、あ……?」
そばにいた追手は突然眼の前を横切った柳の体を見送り、何が起きたかわかっていない。
「大丈夫、クリス。走ろう!」
「え? ……えっ?」
柳はクリスの手を引き、前へと力強く引っ張り始める。
「でも、なんで?」
クリスが息を切らしながら尋ねる。柳は笑いながら答えた。
「ネオトラバースでの戦いに慣れすぎてるんだ。今みたいに反射神経を研ぎ澄ませようとすると、現実の世界での人間の動きがどうしても遅く感じてしまうんだよ。それでタイミングを合わせるのが難しくて……躓いちゃったんだ」
「なにそれ……体育の授業だけじゃなく?」
クリスは呆れたように言った。
「どう違うの?」
「……あのさ、ネオトラプレイヤーって、みんなそんな化け物みたいなの?」
「まあ、僕たちはちょっと変? かもね」
柳はまた軽く笑った。
柳は彼女の手を再び引き、静かに言った。
「大丈夫、もうすぐだからね」
安心感を得たように微笑んだクリスは人通りの少ない裏通りを通り抜けながら、目的地に向かって急ぎ足で進む。
「クリスって、高いところ大丈夫だよね?」
クリスは少し躊躇いながらも頷いた。
「え? え、ああ、うん」
「そっか。しっかり持っててね!」
柳は荷物を手渡し、クリスと荷物を一緒に抱えると通路の端へ歩み寄る。そして何の前触れもなくそこから飛び降りた。
空中でクリスの透明な声が悲鳴に変わる。
続けて何階もの高さを一瞬で駆け下りる間、柳はクリスをしっかりと支え続け、適切な位置で安全に着地した。地面に足をつけた途端クリスをそっと下ろし、彼女の状態を確認する。
「大丈夫?クリス」
「もうやだぁ…」
クリスの声は震えていた。追手を避けるためのこの急な行動に、彼女の恐怖が逆に増してしまったようだ。
「高いところ、平気って言ったじゃない」
「高いところが平気なのと、飛び降りても平気なのは全然違うー!」
「……ごめんね」
心底申し訳無く、柳はクリスに目を合わせた。
「もう安全だと思う。渋川さんのところに行こうか」
クリスは深呼吸をし、周囲を見渡した。
高所からの急降下がもたらしたアドレナリンが徐々に体から抜けていくのを感じながら、柳はクリスを案内した。
二人はその場を立ち去り、渋川レンの待つ場所へと向かった。
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