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壊されたヒーロー
清宮兄妹は似ている
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「玲緒奈ぁ、あんた、いつも一人で何してるの? そんなに偉いの?」
最初に声をかけてきたのは、いつもグループの中心にいる女の子だった。その言葉に、他の二人も嗤いながら同意する。
玲緒奈は、その問いかけに直接答えることはしなかった。
そもそも、偉そうに振る舞った覚えなどない。普段から大きな態度でいると、厄介な人間が関わってくることを知っているからだ。この子たちのように。
まだ小さな頃、自分のことをいじめていた男の子たちがそうだった。
彼らは一見強者のようだったが、そのうちに自分たちこそが厄介者として扱われるようになった。その中の一人が玲緒奈のことを好いていたなどと聞いたことはあるが、誰なのか今も知らない。
そもそも知ったところで、自分をいじめていた人間の中にいた相手など、眼中にない。
小さくてかわいい、声が高くていいな。
今まで色々なことを言われたが、どれも玲緒奈が好きで身につけた特徴ではなかった。それよりも、一生懸命に身につけてきた人格や能力によって評価を受けたい。それでも、成果を示せば目立つ。出る杭は打たれるというが、兄や親友、頼れるもう一人の兄も、時折こうして理不尽な目に遭ってきた。
玲緒奈は兄を精神的支柱にして成長してきた。
いじめられて泣いていたときも、いつも兄が助けてくれた。そのうちに、年上の友人がそこに加わった。もう一人の兄ができた。
彼らは今も親しい仲だが、いくら仲がよかろうと、年齢が違えばずっと同じ場所にいることはできない。
目の前の三人は自分よりも背が高い。他の殆どの子と同じだ。怖くなんかない。一人でも。
「私、あなたたちに何度も話しかけたよね。ちゃんと話すつもりがないっていうことはすぐにわかった。だからあなた達が言っている意味が、私はよくわからない。私とのコミュニケーションを拒否するあなたたちに、私の価値を決められる権利はないよ」
玲緒奈の返答は、彼女たちを一瞬黙らせた。しかし、すぐにまた彼女たちは言葉を続ける。
「あんた、本当に思ってることあるの? いつもおとなしくて、つまらないんだよねぇ」
別の女の子が、より攻撃的な言葉を投げかけてきた。
玲緒奈の言っていることへの返答にはなっていない。ただ言いたいことを言うためだけにこの状況を作ったのだろう。ならば、会話するだけ無駄なのかもしれない。
玲緒奈はしばし、この後の対応を考える。
この子たちのことは私の生活に不要だ。だから、なるべく後に響かない方法でこの状況から抜け出したかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
流磨の足が、学校の裏庭に向かって自然と速度を増す。
普段は人の目を引かないように、冷静に、控えめに行動する彼だが、その日は違った。
昼休みのあいだ、ふらりと通りがかった中学校エリアの校舎の影から、低く、けれども確かに聞こえる、女子生徒たちの笑い声。それからそれに混じる、はっきりとは聞き取れないが、不快感を示す声が聞こえた。
裏庭の隅に目をやると、三人の女子生徒が一人の小柄な少女を囲んでいた。
その少女は、流磨のよく知った存在、妹の玲緒奈だった。
玲緒奈は背が低くても、気丈さだけは誰にも負けない。流磨は、いじめられているのではないかと心配しつつ、足を止めずに彼女たちの方へと進んだ。
玲緒奈はネオトラバース部に入部し、個人部門で活躍している。
しかし今は、競技の知識を持った教師もコーチもサポート要員もおらず、すでにプロ入りを視野に研鑽を続けている玲緒菜にとって、競技を続けるには厳しい環境だ。
いくらサイバースポーツとはいえ、繭のような大きな設備を必要とする以上は、兄との自宅でのトレーニングにも限界がある。
時折、中学校の校舎にただ一つだけある繭を使ってトレーニングを行うため、流磨は卒業後もこの中学校エリアに出入りしていた。
彼女は試合中、兄のサポートを受けて対戦相手の微妙な動きを視覚的に読み取り、その瞬間瞬間に最適な戦術を反映する能力に長けている。
また、ネオトラバースの複雑なルールを完璧に理解し、兄の指示通りに自分の体を操ることができる。
体格には恵まれていないが、彼女は複数の電脳装備を駆使して立ち回る技術を鍛え、移動速度と技を磨き続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
玲緒奈の心は、裏庭へと連れて行かれた時から、更に冷え切っていた。
彼女たちは、普段から授業中も、休み時間も、彼女を見る目が違った。言葉は必要ない。
その視線だけで、玲緒奈は彼女たちが何を考えているのかを感じ取っていた。だが、彼女たちが何を言おうと、自分を守るためにここで立ち向かうしかなかった。
「何やってんだ?」
流磨が冷静な声で問いかけると、女子生徒たちは一瞬で黙り込む。しかし、玲緒奈は違った。彼女は自分を囲んでいた女子たちをじっと見返し、一歩前に踏み出した。
「別に、おにいちゃん。私、大丈夫だから」
玲緒奈の声には、自信があふれていた。それは、ただの強がりや見栄ではなく、自分自身を信じる力から来るものだった。
深呼吸を一つ。その後、静かに、しかし力強く言い返した。
「私がどう思っているかは、そんな態度を取るのなら、余計にあなたたちには関係ない。こうして自分たちからだけ一方的に傷つけようとするのは、間違っていると思うの。私は、あなたたちの思っているような、ただの小さいだけの奴じゃないんだよ。あなたたちが言いたいことだけを私に言ったから、私は今言いたいことを言った。これでおあいこっていうことにしてあげる。でも、また変なことをしようとしてきたら、周りを巻き込んで私は大騒ぎする。以上です」
その言葉に、彼女たちは反論することができず、ただ立ち尽くした。
そして、流磨の姿をちらと見ると、何も言わずにその場を後にする。
玲緒奈は深呼吸を繰り返した。彼女は自分の中にある力を信じ、その場に立ち向かうことができた。それは彼女にとって、小さな勝利だった。
流磨は、その場に残された妹を見つめた。
彼女はいつもと変わらぬ、控えめでやわらかな笑みを浮かべていたが、その目には、自分がこれからも前に進んでいくという、揺るぎない決意が宿っているように見えた。
「れお、お前……強くなったな」
流磨はつぶやくと、玲緒奈は頷いて見せた。
「おにいちゃんがいるからねぇ」
彼女の言葉に、流磨は何も言い返せなかった。ただ、心の中で、自分も妹に負けないように、もっと強くならなければと思った。
最初に声をかけてきたのは、いつもグループの中心にいる女の子だった。その言葉に、他の二人も嗤いながら同意する。
玲緒奈は、その問いかけに直接答えることはしなかった。
そもそも、偉そうに振る舞った覚えなどない。普段から大きな態度でいると、厄介な人間が関わってくることを知っているからだ。この子たちのように。
まだ小さな頃、自分のことをいじめていた男の子たちがそうだった。
彼らは一見強者のようだったが、そのうちに自分たちこそが厄介者として扱われるようになった。その中の一人が玲緒奈のことを好いていたなどと聞いたことはあるが、誰なのか今も知らない。
そもそも知ったところで、自分をいじめていた人間の中にいた相手など、眼中にない。
小さくてかわいい、声が高くていいな。
今まで色々なことを言われたが、どれも玲緒奈が好きで身につけた特徴ではなかった。それよりも、一生懸命に身につけてきた人格や能力によって評価を受けたい。それでも、成果を示せば目立つ。出る杭は打たれるというが、兄や親友、頼れるもう一人の兄も、時折こうして理不尽な目に遭ってきた。
玲緒奈は兄を精神的支柱にして成長してきた。
いじめられて泣いていたときも、いつも兄が助けてくれた。そのうちに、年上の友人がそこに加わった。もう一人の兄ができた。
彼らは今も親しい仲だが、いくら仲がよかろうと、年齢が違えばずっと同じ場所にいることはできない。
目の前の三人は自分よりも背が高い。他の殆どの子と同じだ。怖くなんかない。一人でも。
「私、あなたたちに何度も話しかけたよね。ちゃんと話すつもりがないっていうことはすぐにわかった。だからあなた達が言っている意味が、私はよくわからない。私とのコミュニケーションを拒否するあなたたちに、私の価値を決められる権利はないよ」
玲緒奈の返答は、彼女たちを一瞬黙らせた。しかし、すぐにまた彼女たちは言葉を続ける。
「あんた、本当に思ってることあるの? いつもおとなしくて、つまらないんだよねぇ」
別の女の子が、より攻撃的な言葉を投げかけてきた。
玲緒奈の言っていることへの返答にはなっていない。ただ言いたいことを言うためだけにこの状況を作ったのだろう。ならば、会話するだけ無駄なのかもしれない。
玲緒奈はしばし、この後の対応を考える。
この子たちのことは私の生活に不要だ。だから、なるべく後に響かない方法でこの状況から抜け出したかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
流磨の足が、学校の裏庭に向かって自然と速度を増す。
普段は人の目を引かないように、冷静に、控えめに行動する彼だが、その日は違った。
昼休みのあいだ、ふらりと通りがかった中学校エリアの校舎の影から、低く、けれども確かに聞こえる、女子生徒たちの笑い声。それからそれに混じる、はっきりとは聞き取れないが、不快感を示す声が聞こえた。
裏庭の隅に目をやると、三人の女子生徒が一人の小柄な少女を囲んでいた。
その少女は、流磨のよく知った存在、妹の玲緒奈だった。
玲緒奈は背が低くても、気丈さだけは誰にも負けない。流磨は、いじめられているのではないかと心配しつつ、足を止めずに彼女たちの方へと進んだ。
玲緒奈はネオトラバース部に入部し、個人部門で活躍している。
しかし今は、競技の知識を持った教師もコーチもサポート要員もおらず、すでにプロ入りを視野に研鑽を続けている玲緒菜にとって、競技を続けるには厳しい環境だ。
いくらサイバースポーツとはいえ、繭のような大きな設備を必要とする以上は、兄との自宅でのトレーニングにも限界がある。
時折、中学校の校舎にただ一つだけある繭を使ってトレーニングを行うため、流磨は卒業後もこの中学校エリアに出入りしていた。
彼女は試合中、兄のサポートを受けて対戦相手の微妙な動きを視覚的に読み取り、その瞬間瞬間に最適な戦術を反映する能力に長けている。
また、ネオトラバースの複雑なルールを完璧に理解し、兄の指示通りに自分の体を操ることができる。
体格には恵まれていないが、彼女は複数の電脳装備を駆使して立ち回る技術を鍛え、移動速度と技を磨き続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
玲緒奈の心は、裏庭へと連れて行かれた時から、更に冷え切っていた。
彼女たちは、普段から授業中も、休み時間も、彼女を見る目が違った。言葉は必要ない。
その視線だけで、玲緒奈は彼女たちが何を考えているのかを感じ取っていた。だが、彼女たちが何を言おうと、自分を守るためにここで立ち向かうしかなかった。
「何やってんだ?」
流磨が冷静な声で問いかけると、女子生徒たちは一瞬で黙り込む。しかし、玲緒奈は違った。彼女は自分を囲んでいた女子たちをじっと見返し、一歩前に踏み出した。
「別に、おにいちゃん。私、大丈夫だから」
玲緒奈の声には、自信があふれていた。それは、ただの強がりや見栄ではなく、自分自身を信じる力から来るものだった。
深呼吸を一つ。その後、静かに、しかし力強く言い返した。
「私がどう思っているかは、そんな態度を取るのなら、余計にあなたたちには関係ない。こうして自分たちからだけ一方的に傷つけようとするのは、間違っていると思うの。私は、あなたたちの思っているような、ただの小さいだけの奴じゃないんだよ。あなたたちが言いたいことだけを私に言ったから、私は今言いたいことを言った。これでおあいこっていうことにしてあげる。でも、また変なことをしようとしてきたら、周りを巻き込んで私は大騒ぎする。以上です」
その言葉に、彼女たちは反論することができず、ただ立ち尽くした。
そして、流磨の姿をちらと見ると、何も言わずにその場を後にする。
玲緒奈は深呼吸を繰り返した。彼女は自分の中にある力を信じ、その場に立ち向かうことができた。それは彼女にとって、小さな勝利だった。
流磨は、その場に残された妹を見つめた。
彼女はいつもと変わらぬ、控えめでやわらかな笑みを浮かべていたが、その目には、自分がこれからも前に進んでいくという、揺るぎない決意が宿っているように見えた。
「れお、お前……強くなったな」
流磨はつぶやくと、玲緒奈は頷いて見せた。
「おにいちゃんがいるからねぇ」
彼女の言葉に、流磨は何も言い返せなかった。ただ、心の中で、自分も妹に負けないように、もっと強くならなければと思った。
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