異世界でスローライフを目標にしましたが、モテ期到来で先の話になりそうです。

koh

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第三章 スタンピード

第二十三話

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〈ドゴーン ドッゴーン〉
湖畔に着くと砂煙が立っていた。
音の正体はドラゴのトンファーの音だった。
ドラゴはトンファーをクルクル回しながら、カニに向かって突進していた。
攻撃する時の踏み込みで砂煙が上がる、次の瞬間トンファーの音が聞こえる。
綺麗なエフェクトを付けたら、まるで花火だなと侑は思った。

一匹のカニがエリカと腕を組んでる侑に向かって突進してくる。
侑は身じろぎもせずに突進を眺めている。
カニはあと2メートル位の所でバタリと倒れた。
遥か遠くからサラが手を振っている、カニには一本の矢が刺さっていた。
侑は手を振り返すとエリカを連れてベンチに座った。

「侑は行かなくていいの?」
エリカは侑の顔を覗きこんだ。

「あの二人の動きを見ておかないと同士討ちになりかねないからね。
それに、俺は相手にするならカニよりエリカの方がいいよ。
カニが向かって来たら倒すけどね。」
侑はエリカの頭を撫でるとアイスニードルを詠唱して地面に撃った。

アイスニードルが刺さった地面が盛り上がると、カニが現れた。
侑が鎌鼬を詠唱している間にカニは倒れた。
カニの上にはルビーが居た。

「…食べていい?」
ルビーは『余計な事をしたかな?』と遠慮気味に侑に聞いた。

「食べていいよ、討伐目的じゃないから殲滅はしないでね。」
侑はルビーに必要以上に殺さないよう指示を出した。

「うん、分かったよ。
今日は散歩だもんね。」
ルビーはカニを食べ始めた。

ドラゴが此方に向かって歩いてきた。
トンファーを腰のベルトに差して、手甲から爪を出している。

「ドラゴの手から赤い爪が生えてるよ?」
エリカは侑に魔法だよね?と聞いた。

「フレイムナイフって火属魔法で作った爪だよ。
もう少し長くてもいいかもね。」
侑は今の長さだと殴っているのと変わらない感じがした。

「侑、来たんだ?
これ凄いぞ、手に衝撃があまり伝わってこない。
前のは殴り続けると結構、手が痺れたからな。
それにトンファーもいい感じだ。」
ドラゴは大満足だと侑の前でシャドーをした。

「見た感じ、フレイムナイフが短そうだけど?」
「いや、これでいいんだよ。
最初は長めにして斬っていたんだけど、やっぱり性に合わない。
短めにして、刺したほうが俺らしいって気付いた。」
ドラゴは隣の芝生は青く見えると同じで、斬ってるのが羨ましかったけどやってみるとそうでも無かったと笑った。

「それならいいけど。
慣れてきたら、熱い炎をイメージしながら魔力を流してみな?
カニが燃えるよ。」
侑は手甲のリミットの外し方をドラゴに教えた。

「もう少し手に馴染んだら、試してみるよ。
それより気になったんだが、あの弓って付加で精密射撃かなんか付けたか?」
「飛距離アップと攻撃力アップだけだよ?
矢の方も自動帰還と属性付加しか付けてないし。
正確な射撃はサラの腕だよ。」
「サラの腕かよ、薬師より弓士の方が向いてるんじゃないか?」
「大鎌で戦ってる所を見たことないから何とも言えないな。」
侑はラピスにサラを呼んできてって頼んだ。


「何?どうしたの?」
サラがみんな集まって話をしている所に呼ばれたのが気になった。

「弓はどぉ?
気になる所はある?」
「ブランクを感じさせないいい弓だよ。
矢が勝手に戻ってくるのも良いね。
最初は矢が勝手に飛んで帰ってくるのかと思ったら違かった。」
サラはケラケラと笑った。

「サラの持ってる大鎌でカニを倒す所が見たいなって話してたんだよ。」
「別にいいけど?刀を使う人とそんなに変わらないと思うよ?」
サラは弓と矢筒をカバンにしまうと代わりに大鎌を出した。

「じゃ、ちょっと倒してくるわ。」
サラは大きめのカニに向かって行った。

大鎌を水平に構えると、上半身を捩り鎌を構えた。
その見た目はバッターボックスでボールを待つバッターの様だった。
上半身を戻す様にスイングを開始すると、鎌を振った。
カニの前で空振りした様に見えたが、攻撃は一周回ってからだった。

「良く目が回らないな。
俺には無理だわ。」
「敵に背中を向けるってすごいな、俺にも無理だよ。」
侑とドラゴが口々に洩らした。

サラは大鎌の攻撃方法のバリエーションを侑とドラゴに見せた。
横、縦、直線、攻撃は想像以上にバリエーション豊かだった。
サラの流れる様な攻撃はフィギュアスケートの様だった。

「俺ももうちょいやってくるわ。」
ドラゴもカニに向かって行った。

侑とエリカは相変わらずベンチに座って話していた。
そこに見たことの無い三人組が侑に声をかけてきた。

「兄ちゃん、楽しそうだな?
俺らにも楽しさを分けてくれよ?
とりあえず、お前の横の包帯グルグル巻きとあの鎌を持ってるのウチラにくれよ。
包帯グルグルはスタイルがいいから、顔を隠せば楽しめんだろ。
鎌を持ってるのは顔もいいしな、充分楽しんだら返してやってもいいぜ。
黙ってよこせば痛い目に会わないで済むぜ?」
三人組の一番背の高い男が言った。

「今なら聞かなかった事にしてやるから消えろよ。
まだちょっかい出すなら、容赦しないから死を覚悟しろよ?」
「はぁ?お前、女の前だからってカッコつけてる場合じゃ無いんだぞ?
状況分かってんのか?」
「聞こえなかったのか?
ちょっかい出すなら容赦しないって言ったんだが?
四対一でも負ける気がしない位の弱い物イジメはしたくないって言ってるんだが?」
「あん?弱い物イジメだと?
どっちが弱い物イジメになるか試してやんよ。
俺は弱い物イジメは嫌いじゃないから、存分に堪能するぜ。」
背の高い男が短剣を構えた。

「仕方無いな、馬鹿に付ける薬は持ってないからな。」
侑はさっさと来いと手招きをした。

「野郎、舐めやがって!」
三人組全員が短剣を構えながら、侑を取り囲む。
侑はベンチに座ったまま人差し指を湖畔入り口の茂みに向かって指した。

次の瞬間。
〈ドサッ〉
茂みに隠れていた三人組の仲間が腕を抱えて倒れている。
腕には矢が刺さっている。
サラを見ると大鎌から弓に持ち替えていた。

遠くに隠れていた仲間がやられて、三人組は一瞬怯んだ。
侑はアイスニードルを両脇の二人に短剣を持つ手と太腿に撃ち込んだ。
二人は膝から崩れ、のたうち回っている。
リーダーと思われる背の高い男は激昂して侑に短剣を振りかざそうとするが、足首に痛みを感じて下を見た。

「なんでスライムが…?」
「ルビーは猛毒持ちだからな?
遅効性だから、すぐに解毒すりゃ問題無いが放置すれば三十分後には死ぬぞ?
さっさとヒーラーに解毒を頼んだらどうだ?」
侑は冷たい目で男を見ている。

「うちにはヒーラーなんか居ない!
お前を殺して、お前ん所のヒーラーに治させる!」
男は短剣を侑に突き刺そうとしてはね返された。
侑は動いていない。
動いたのはエリカだった。
エリカはナイフを手に持ち、エアシールドを張っていた。
侑はエリカの頭を撫でると立ち上がり、短剣を握っている男の手を踏み潰した。

『侑、何か落ちてたニャー。』
オニキスが茂みの近くで倒れていた男を咥えてきた。

「はぁ?ソードキャットだと?
お前は何モンなんだよ?」
手を潰された男は短剣を持ち替えようとしていた。

「おいおい、まだ身の程が分かんねぇのかよ?
いい加減自分の馬鹿さに気付けよ…」
侑は呆れた顔で男を見ている。

「フザケるな!
お前の様なヤサ男に負ける訳がねぇ。
どうせお前一人じゃ俺より弱いんだろ!」
「放っといても毒で死ぬけど、トドメをさしてやるよ。」
侑はカバンから、厄切丸と土龍を出した。
二本をベルトに差すと、鞘から抜いた。
刀身には侑の魔力が溢れているのか、ユラユラと蜃気楼の様な揺らめきが見える。
土龍の刃紋の龍は今にも動き出しそうだ。

「待て、待ってくれ!」
男は刀を見てたじろいだ。

侑は聞く耳を持たず、腕を切り落とした。
男は斬られた感覚がなく、ただ熱いと感じていたが転がっている自分の腕を見て斬られたと認識した。
侑は他の三人も同様に腕を切り落とした。

「これで自分達が弱いって分かったか?
身の程知らずの馬鹿はやめて、道の端っこで迷惑かからないように大人しくしてろよ。」
侑は刀に付いた血を振り落として鞘にしまった。

サラやドラゴはやり過ぎじゃ無いかとドン引きしている。
エリカだけは最初から側に居て話を聞いていたから侑がどれだけ怒っているのか知っていた。
だから、侑が殺さなくて良かったと安堵している。

「もう勘弁してくれ。
俺が悪かったよ、命だけは助けてくれ。」
「それが人にものを頼む態度か?」
侑の怒りは収まっていない。

「申し訳ありませんでした。
お願いですから助けて下さい。」
「侑、もう許してあげなよ。」
声をかけたのはエリカだった。
他の二人は普段からは想像つかない侑の豹変に呆然としている。

「エリカは最初から聞いていただろ?
あれだけの事を言われて許せるのか?」
侑はエリカに対しての言葉が許せない。
エリカも同じ気持ちだと思っていた。

「私も侑と同じ位怒ってるよ?
侑の怒ってる気持ちは凄く嬉しいし、私も許せる訳ないよ。
でもね、侑がくだらない事で人を殺すよりかはいいよ。
侑が人を殺す事を躊躇って死んじゃうのは嫌だけど、だからってくだらない理由で人を殺しちゃ駄目だよ。」
エリカは侑の目を見て説得する。

「ちっ、エリカに免じて許してやるよ。
腕を持って一列に並べよ。」
侑は男達が一列に並ぶとエクストラヒールで腕を治した。
背の高い男の毒はハイキュアで解毒した。

「本当に申し訳ありませんでした。
二度とこんな事は致しません。」
男達は頭を下げて、侑に許しを乞う。
リーダーらしき背の高い男だけは他の男と比べて反省が無い様に見えた。

『…こいつにつられて、調子に乗っていた感じだな。』

「今回は許してやるよ。
二度と同じ事を繰り返すなよ?
次やったら、目があった瞬間、死ぬと思えよ?」
侑は男達を許した。
男達は胸を撫で下ろしている。

「それとな、」
侑は背の高い男に向かってファイアーウォールを発動した。

男の右半身は火炎放射を浴びて、焼け爛れた。

「何するんだ!許したんじゃ無いのか?」
男は叫んだ。

「お前は別だ。
お前の事は今すぐにでも殺したい、でもエリカが殺すなと言っているから殺さない。
だから、エリカの苦しみを少しは味わえ。
お前の軽口で、どれだけの事を引き起こしたのか考えろ。
お前の火傷の痛みは時間が経てば消えるだろう、エリカは何年もその痛みに堪えてるんだぞ。
その火傷が消えて同じ事をしていたら、容赦無く殺す。
頭が悪くてもそれくらい覚えておけ。」
侑はもう行けと言うと、その場を離れた。
エリカは侑を追いかけて腕を組んだ。
ドラゴ達は後ろから付いて歩き出した。
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