異世界でスローライフを目標にしましたが、モテ期到来で先の話になりそうです。

koh

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第三章 スタンピード

第十話

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「そろそろ報酬に移っても良いかしら?」
サラは時間を気にしてる。

「ごめん、時間を気にしてるみたいだけどこのあと用事があった?」
侑はサラが時間を見てそわそわしているのに気が付いた。

「別に用事は無いわ。
だだ、帰るのが遅くなるのが嫌なの。」
サラが少し不機嫌になる。

「そっか、家で彼氏が待ってるのか…」
侑はわざと残念そうな顔をする。

「…そんなの居ないわよ。 
……わざと言ってるでしょ? 
薬師は希少だから、狙われやすいのよ。
この前もどっかのアホ貴族に監禁されそうになったし。
暗くなると、狙われる率が高くなるのよ。」
サラはため息をついた。

「…大変だね。 
なんなら、今夜はうちに泊まる?」
侑は軽い気持ちで聞いた。

「なに、襲う気?
何でわざわざ自分から襲われに行かなきゃいけないのよ?」
サラはムッとした表情を作るが、顔は赤かった。

「いや、うちには父さんも母さんも居るしソードキャットも居るよ?
ただ、親切で言っただけなんだけど。」
侑は変な意味で捉えられた事を全力で否定した。

「両親が居るの?
貴方は転生人でしょ?
家族で転生したの?」
サラは転生人に親が居るのに驚いた。

「いや、血は繋がってないよ。
ティーターン様の使徒の夫婦が期間限定で親になってくれたんだよ。」
侑はざっくりと説明した。

「ふーん、そうなんだ。
じゃ、今夜は泊めてもらおうかな。
その方が安心だし、これから確かめにも行けるしね。」
サラは何かを確かめたいと言っている。

「話が纏まった所で、報酬の件なんだけど。
エリカの火傷の治し方についての情報であってる?」
侑は急に真顔になって、本題に入った。

「そう、ただ確かめたい事があるから話は本人に会ってからにするわ。」
サラはこれからエリカの家に行くと言った。

「分かった、行こう。」
侑は姉妹を横目にドアを開けた。

部屋から出た侑の視界に映ったものはある意味、異様な光景だった。
今まで殺気立った視線を送っていた冒険者は侑を英雄の様な眼差しで見ているし、中にはパーティを組もうと話しかけて来る者も居る。

『…あいつ、余程嫌われていて手が付けれなかったんだな。』
侑はギルドの建物の前でやったのは正解だったと思った。

エリカの家の前まで行くと、『やっぱりね』とサラは何かを確信した。

「侑君は気付かない?」

『何が?』

「気付かないなら、スライムに聞いてみたら?」

『ラピス?何か、気付いた?』

〈侑さん、言われて気付きましたけど此処は魔素濃度が高いです。〉

『ラピスが魔素濃度が高いって。』

「貴方は何とも無いの?」

『いや、別に…』

「そう、耐性が有るのかもね?
普通の人なら、肌がピリピリする位は感じるかも。」
サラは続けて話す。

「これ位魔素濃度が高いとダンジョンが生成されるまで時間の問題かもね。
後でギルマスに報告しなくちゃね。」

「そんな状態の所に住んでて平気なの?
だから、火傷が治らないの?」
侑は自分には感じないから真実味がない。

「魔素濃度が原因の一担であることは確かだと思うけど、直接の原因では無いわ。」
サラは他に原因が有ると言う。

「とにかく、本人に会ってみますか。」
侑はドアをノックしてエリカを呼ぶ。

「はい、どなたでしょう?」
中からエリカが顔を出し、侑を見ると『貴方ですか。』中へ促してくれた。

「お土産を持ってきました。」
侑はカバンの中からアップルパイを出した。

「ありがとうございます、いまお茶を淹れますね。」
エリカはアップルパイを手に持って席を立った。

「アップルパイは手作り?」
サラは甘い物に目がなかった。

「母さんの手作りだよ。」
侑は母を自慢するかの様に言った。

「ふーん、料理が得意なんだ。」

しばらくすると切ったアップルパイとお茶を持って戻ってきた。

「独りじゃ食べ切れないから、皆さんで食べましょう。」
エリカは二人の会話が聞こえていたみたいだ。

「あらためて自己紹介しますね。
薬師のサラといいます。
侑さんに依頼を出した報酬として、貴女の火傷についての情報を提供します。」
サラはお茶を一口すすり、挨拶をした。

「エリカと申します。
私なんかの為に、わざわざ足を運んでくださりありがとうございます。」
エリカもボソボソと挨拶をした。

「わざわざじゃないですよ、侑さんが作ってくれた服に見合った働きをしないと次が無いですからね。
私は有益と認識してもらう為、自分の為です。」
サラはカバンの中から服を出して、エリカに見せた。

「侑さんは服が縫えるのですか?
男の人なのに凄いですね。
それにこの様な服はトウケイで見たことがあります。
トウケイからいらっしゃったのですか?」
エリカは侑が縫ったと思っている。

「いや、俺は縫ってないですよ。
服に限らず、形のある物なら大概は作れるスキルを持ってます。」
侑は正直にスキルの話をした。

「そんなスキルの大事な話を、素性も分からない私なんかに話して良かったのですか?」
エリカはオドオドとしている。

「別に大丈夫ですよ、エリカさんには隠し事なく信用してもらいたいですから。」
侑はまず、信頼関係を作らなければ先に進まないと考えた。

「エリカさんの火傷を見せてもらっても良いですか?」
サラは現状を知りたかった。

「分かりました。」
エリカは包帯をスルスルと外していった。
包帯を全て外すと、目を背けたくなるくらいに酷い火傷だった。
しかも、その火傷は生き物のように鼓動を打っている様に見える。

侑はちょっと貸してというと、包帯を手に持ちクリーンを発動した。

所々に血が滲んでいた包帯が新品のように真っ白になるとエリカは驚いた声で言った。

「魔法も使えるのですか?!」

サラはじっと火傷を見つめていたが、何かが分かった様に『もういいですよ』と包帯を巻き始めた。

「大丈夫ですよ、自分で出来ます。」
エリカが包帯を自分で巻こうとするが、サラに止められた。

「火傷の状態を見ながら巻きますので、私が巻きます。」
サラは髪の生え際や皮膚の薄い目の周りなどを観察しながら包帯を巻いた。

流石は薬師、巻き方が綺麗だと侑は感心してる。
包帯を巻き終わるとサラはアップルパイを食べながら話し始めた。

「火鼠の大群におそわれたんですよね?
で、死体がのしかかった。
その時に、火鼠の血を沢山浴びましたか?」
サラは確認したい事が一つあった。

「はい、火傷している所は血を被った所です。」
エリカは何故分かるのか不思議だった。

「まだ推論なので、詳しく調べてからお話しますが治りますよ。 
ただし、すぐには治らないし貴女にも協力してもらわなければならない治りません。」
サラは希望の持てる言葉を口にした。

「本当に治るのですか?
私に出来ることであれば、何でも致します。
宜しくお願いします。」
諦めかけていたエリカは一筋の光が見えた気がした。

「分かりました、まずはこの家から出ましょう。 
この付近一帯は魔素濃度が高過ぎます。
そうですね、侑さんの家にしますか。 
侑さん、一人増えても大丈夫ですか?」
サラは侑の家にエリカを移すと言い始めた。

「別に大丈夫ですけど、父さんに来てもらわないと移動手段が無いですね。」
侑は一人なら馬に二人乗りで帰れるが、二人連れて帰るとなると馬がもう一頭必要だと言った。

「心配ないですよ、私も馬で来てますから。」
サラは最初から二人乗りする気は無かった。

「なら問題は無いですね、ギルドに報告をしてうちに行きましょう。 
エリカさんの荷物は俺のカバンを貸しますから、中に入れてください。
俺のカバンは無制限で入る特別製ですから、遠慮なく入れて下さいね。」

エリカはカバンを受け取ると、必要な物を入れ始めた。

「もし嫌じゃ無かったら、服とかは俺が作りますから言って下さい。」
侑はエリカの着替えが少ない事が気になった。

「私達の時と、態度が違く無い?!」
サラが侑に文句を言う。

「そんなこと無いですよ?
態度が違うのは、あの姉妹の時だけです。」
侑はため息混じりで答えた。

「そう言われてみれば……そうね。」
サラも納得した。
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