50 / 93
第三章 スタンピード
第六話
しおりを挟む
「侑!恐がるな!」
バトラは喜々と侑に指導する。
「そんな事言われたって、目線高いし揺れるし。」
侑は珍しく、弱音を吐いている。
「呼吸を合わせるんだ、お前なら出来るだろ。」
何故、ランゲージを使わないんだ?
お前なら馬と喋れるだろとバトラは侑に喝を入れる。
「そんな余裕無いよ!」
侑は馬上で固まっている。
「一旦休憩にして、朝御飯を食べたら?」
メイが侑に助け舟を出す。
「メイ!侑に甘すぎないか?」
バトラは横槍を入れられて悔しい。
侑は馬から降りると、ランゲージで馬と会話を始めた。
「ごめん、痛かっただろう。」
『いや、痛くは無いんですが鞍が…』
「ずっと力を入れてたからな。」
『いっそ、鞍を外したらどうですか?』
「それって、乗りにくくない?」
『私の体に直接乗ると目線が少し下がるし、少しは緊張がほぐれるかもしれませんよ。』
「じゃ、ダメ元で試してみるか。」
「父さん!鞍外していい?」
「なんだ、もうやめるのか?」
「鞍を外して乗ってみたいんだ。」
「別に構わんが、普通は乗りにくいぞ?」
侑は鞍を外して、馬に跨った。
『侑さん、恐くないですよ。
風と戯れる感じです、私の背中から鼓動を感じて下さい。』
「さっきより恐くないな、こっちの方がしっくり来る。」
「侑、少し歩いてみろ。」
バトラは侑に手綱を手前に引いてみろと指示した。
『侑さん、少し早く歩きますよ。
上体を少し倒して、私と同じ高さの目線にしてみて下さい。』
馬は早歩きから、軽く走り出した。
『侑さん、恐いですか?』
「いや、恐くないよ。
風が気持ちいい位だよ。」
侑は馬とのコミュニケーションが取れ、乗りこなせるようになった。
「侑、それ位乗れるなら朝御飯を食べて町に行くか?」
バトラは侑にお墨付きを出した。
朝食を済ませた侑は、町に行く準備をした。
馬の近くでは、ラピスとルビーが待っていた。
「今日もポケットに居てね。」
侑は二匹をポケットに入れると馬に跨がり町を目指して走った。
駐馬場に馬を待たせ、鍛冶工房に向かった。
工房は既に火が入り、熱気が満ちていた。
中に入ると、挨拶をして作業を後ろから見学していたが工房主が声をかけてきた。
「お主の武器を見せてみろ。」
工房主はスキルで作った武器に興味があった。
侑はカバンの中から鷹丸を出して、鞘から抜いた。
「所有者登録をしてあるので、俺以外は持てません。」
侑が説明すると、
「其れには及ばん、儂も久し振りにスキルを使うからな。」
『ガハハ』と笑いながら、工房主は目を見開きスキルを発動した。
「フムフム、よく出来ておるな。
其処らの鍛冶師が作るより良い物だな。
しかし、お主も分かっているようだがこいつには魂が乗ってない。
それなりに使う分には充分だが、冒険者となり魔物を沢山倒すにはちょっと役不足だな。」
工房主は『構造解析』というスキルを使ったと侑に教えた。
「構造解析とは鑑定眼の派生スキルだ。
鑑定眼を持つお主なら、そのうち覚えられるであろう。
ついでに言うと、この刃先の指一本分位の所から折れて使えなくなるであろう。」
工房主はこの刀はそのうち折れる、しかも折れる場所まで予測した。
「この刀はやはり強度不足ですか、打ち直して強度は上がりますか?
…それとも、作り直した方が良いですか?」
侑は鷹丸が気に入っているので、折れるのだけは避けたい。
「本来、刀とは二本刀であった。
いつからか、二本扱えぬ者が一本を極めて今の形になった。
お主は二本扱うだけの力量がある筈だ。
ならばもう一本刀を打ち、二刀流を目指せば良い。
お主のスキルで作った鷹丸とやらは、打ち直す事は出来ん。
鍛冶師が打った刀と構造が違い過ぎるからの。
それは、自分で刀を打ってみれば分かる事。」
工房主はもう一本刀を作れと、そして二刀流を極めろとアドバイスした。
侑は作業台の片隅を借りてカバンの中からミスリルの塊を出した。
打ち始めようとした時に後ろから『待った』がかかった。
「お主、ミスリルだけで打つ気か?」
『そのつもりですが、余計な物を入れると弱くなりませんか?』
「そのまま打てば、鷹丸と何一つ変わらんぞ?
異なる金属の組み合わせにより、金属の持つ長所を伸ばし合い短所を補い合うそれが鍛冶の真髄だ。」
工房主はミスリルの硬さを長所でもあり短所だと言う。
硬さによる切れ味の良さ、しなりの無い粘りのなさ。
しなりの無さをカバーする軟らかい金属をミスリルとミルフィーユの様に何層にも重ねて伸ばす。
そうする事で、切れ味を落とさずしなやかなしなりを持つ刀が打てると言う。
「ミスリルに銀・鉄・炭を混ぜ打ち鍛えた物を芯鉄として、外側には不純物の無いミスリルを皮鉄として打つ。それぞれ鍛えた物を重ねて打ち鍛えると、十回の折り返し鍛えで千二十四層になる。
それ以上の折り返しは、勘と経験で進めるがやり過ぎると鍛え殺しと言って弱くなってしまうのだ。
折り返しの回数を見極め、最高の強度で刀に形成する。
それが刀鍛冶の打つ業物となる。
自らの力で、勘と経験で、目視による観察で、不純物の火花の音で、五感をすべて使い打ったものにだけ魂は宿るのだ。
「基本は教えてやる、心して打て。」
工房主は跡継ぎを育てるが如く、侑を鍛えた。
バトラは喜々と侑に指導する。
「そんな事言われたって、目線高いし揺れるし。」
侑は珍しく、弱音を吐いている。
「呼吸を合わせるんだ、お前なら出来るだろ。」
何故、ランゲージを使わないんだ?
お前なら馬と喋れるだろとバトラは侑に喝を入れる。
「そんな余裕無いよ!」
侑は馬上で固まっている。
「一旦休憩にして、朝御飯を食べたら?」
メイが侑に助け舟を出す。
「メイ!侑に甘すぎないか?」
バトラは横槍を入れられて悔しい。
侑は馬から降りると、ランゲージで馬と会話を始めた。
「ごめん、痛かっただろう。」
『いや、痛くは無いんですが鞍が…』
「ずっと力を入れてたからな。」
『いっそ、鞍を外したらどうですか?』
「それって、乗りにくくない?」
『私の体に直接乗ると目線が少し下がるし、少しは緊張がほぐれるかもしれませんよ。』
「じゃ、ダメ元で試してみるか。」
「父さん!鞍外していい?」
「なんだ、もうやめるのか?」
「鞍を外して乗ってみたいんだ。」
「別に構わんが、普通は乗りにくいぞ?」
侑は鞍を外して、馬に跨った。
『侑さん、恐くないですよ。
風と戯れる感じです、私の背中から鼓動を感じて下さい。』
「さっきより恐くないな、こっちの方がしっくり来る。」
「侑、少し歩いてみろ。」
バトラは侑に手綱を手前に引いてみろと指示した。
『侑さん、少し早く歩きますよ。
上体を少し倒して、私と同じ高さの目線にしてみて下さい。』
馬は早歩きから、軽く走り出した。
『侑さん、恐いですか?』
「いや、恐くないよ。
風が気持ちいい位だよ。」
侑は馬とのコミュニケーションが取れ、乗りこなせるようになった。
「侑、それ位乗れるなら朝御飯を食べて町に行くか?」
バトラは侑にお墨付きを出した。
朝食を済ませた侑は、町に行く準備をした。
馬の近くでは、ラピスとルビーが待っていた。
「今日もポケットに居てね。」
侑は二匹をポケットに入れると馬に跨がり町を目指して走った。
駐馬場に馬を待たせ、鍛冶工房に向かった。
工房は既に火が入り、熱気が満ちていた。
中に入ると、挨拶をして作業を後ろから見学していたが工房主が声をかけてきた。
「お主の武器を見せてみろ。」
工房主はスキルで作った武器に興味があった。
侑はカバンの中から鷹丸を出して、鞘から抜いた。
「所有者登録をしてあるので、俺以外は持てません。」
侑が説明すると、
「其れには及ばん、儂も久し振りにスキルを使うからな。」
『ガハハ』と笑いながら、工房主は目を見開きスキルを発動した。
「フムフム、よく出来ておるな。
其処らの鍛冶師が作るより良い物だな。
しかし、お主も分かっているようだがこいつには魂が乗ってない。
それなりに使う分には充分だが、冒険者となり魔物を沢山倒すにはちょっと役不足だな。」
工房主は『構造解析』というスキルを使ったと侑に教えた。
「構造解析とは鑑定眼の派生スキルだ。
鑑定眼を持つお主なら、そのうち覚えられるであろう。
ついでに言うと、この刃先の指一本分位の所から折れて使えなくなるであろう。」
工房主はこの刀はそのうち折れる、しかも折れる場所まで予測した。
「この刀はやはり強度不足ですか、打ち直して強度は上がりますか?
…それとも、作り直した方が良いですか?」
侑は鷹丸が気に入っているので、折れるのだけは避けたい。
「本来、刀とは二本刀であった。
いつからか、二本扱えぬ者が一本を極めて今の形になった。
お主は二本扱うだけの力量がある筈だ。
ならばもう一本刀を打ち、二刀流を目指せば良い。
お主のスキルで作った鷹丸とやらは、打ち直す事は出来ん。
鍛冶師が打った刀と構造が違い過ぎるからの。
それは、自分で刀を打ってみれば分かる事。」
工房主はもう一本刀を作れと、そして二刀流を極めろとアドバイスした。
侑は作業台の片隅を借りてカバンの中からミスリルの塊を出した。
打ち始めようとした時に後ろから『待った』がかかった。
「お主、ミスリルだけで打つ気か?」
『そのつもりですが、余計な物を入れると弱くなりませんか?』
「そのまま打てば、鷹丸と何一つ変わらんぞ?
異なる金属の組み合わせにより、金属の持つ長所を伸ばし合い短所を補い合うそれが鍛冶の真髄だ。」
工房主はミスリルの硬さを長所でもあり短所だと言う。
硬さによる切れ味の良さ、しなりの無い粘りのなさ。
しなりの無さをカバーする軟らかい金属をミスリルとミルフィーユの様に何層にも重ねて伸ばす。
そうする事で、切れ味を落とさずしなやかなしなりを持つ刀が打てると言う。
「ミスリルに銀・鉄・炭を混ぜ打ち鍛えた物を芯鉄として、外側には不純物の無いミスリルを皮鉄として打つ。それぞれ鍛えた物を重ねて打ち鍛えると、十回の折り返し鍛えで千二十四層になる。
それ以上の折り返しは、勘と経験で進めるがやり過ぎると鍛え殺しと言って弱くなってしまうのだ。
折り返しの回数を見極め、最高の強度で刀に形成する。
それが刀鍛冶の打つ業物となる。
自らの力で、勘と経験で、目視による観察で、不純物の火花の音で、五感をすべて使い打ったものにだけ魂は宿るのだ。
「基本は教えてやる、心して打て。」
工房主は跡継ぎを育てるが如く、侑を鍛えた。
0
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる