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第四章
第二十五話 今年もやってきました参観日①〜毎年ビックリな保護者が来園です
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秋。初等学園の参観日のシーズンだ。
今年のクイン侯爵家は嫡男リゼルの他長女リディラも入学した。「絶対クイン侯爵様…いいえ、ジゼル様はいらっしゃるはず!」そう踏んだ保護者となったジゼルファンの元ご令嬢方が多数参加していた。アーネスト派だった元ご令嬢方ももちろんいる。つまり今年は例年以上にご婦人参加率が高い参観シーズンとなっている。
一年ぶりに見かける両家の次男、リオンとルゼルは相変わらず天使だ。初めて間近に見る者たちは当然圧倒され、去年見た者たちは勝利宣言をするようなテンションで「あらぁ、昨年は手を取られてパンプキンをなさっておられたのに…成長されましたわぁ…」などと周囲に聞こえるように呟いていた。
まず第一のざわつきはそのクイン侯爵家一行の到着だった。
クイン侯爵家の馬車が二台連なって到着した。一台目からはクイン侯爵と奥方のシャロン、それに末弟のアロンが降りてきた。二台目からは次男のルゼル、コーク公爵夫人のリリィラと公爵家次男のリオンが降りてきた。相変わらず公爵家と侯爵家は良い関係のようだ。
ここでしばらく静かなざわつきが続く。
第二のざわつきは意外な人物の登場だった。国の英雄、騎士団のキエル副団長だ。
「え?キ…キエル様?」
「キエル様よね?」
バサバサバサッ。あちらこちらで扇の開く音がする。
「え?キエル様ってお子様いらした?」
「聞いたことないわ」
「でも奥様もいらしてるわよ」
「…どなたを参観されに?」
深まる謎の中、リオンがキエルに気がついて近寄っていった。
「ふくだんちょ様!ライラ様!」
「リオン殿、お久しぶりです」
サッとひざまづいてリオンの目線に下がるキエルは絵になる。戦後キエルブームが巻き起こったというのがよくわかる。そんなキエルをルゼルは複雑な目で見ている。
「ルゼル殿、アロン殿もお元気そうでなによりです。クイン侯爵様ご夫人、コーク公爵夫人にもご挨拶申し上げます」
立ち居振る舞いの一つ一つに騎士以上の華麗さがある。
何事もないように微笑むキエルだが、ルゼルの視線がいつもより厳しいことにはもちろん気づいている。おそらく先日ユリアンが話していたことに関係するのだろう。
「ルゼル殿?」
あえてにこやかに声をかけるキエル。ジゼルたちはヤンから事情を聴いているのでルゼルの硬い表情の意味を知っている。ルゼルはキエルをキッと睨んで言った。
「ふくだんちょ様。私、ぜったいぜったい、ふくだんちょ様より強い強いになります。どしたらなれますか?」
それ、睨んでる相手に聴きます?キエルはあまりの愛らしさに笑ってしまうところだった。だが堪えた。ルゼルは本気だとわかるからだ。キエルは答える。
「強さは測れるものではないので難しいですね。例えば剣でしたら当分私はルゼル殿より強いですよ」
「うん。そうなの。だから私、困ってるの。ホンモノふくだんちょ様に勝てる戦法が見つからないの。ニセモノふくだんちょ様になら戦法あるんだけど…」
おっと、危ないです。ルゼル殿が国家機密を喋りそうです。というか、ニセモノ副団長、つまりエールなら勝てる剣筋が見えているということか?早めに話題を変えないと…
「…ルゼル殿。剣で敵わないなら、ルゼル殿の強みで強くなればよろしいのでは?例えば剣ではライラも私には敵いませんが、家の中の細々としたことは私はライラに敵いません。つまり強さの基準を何にするかによって強さは変わりますよ」
キエルは難しい話をしていると、ルゼルを初めて見る人たちは思うだろう。だか、ルゼルにはわかる。キエルは確信している。
「はい。わかりました。ふくだんちょ様のにがてーな物と私のすごいなところで勝負したら勝算あるいうことですね?」
「そうです(勝算…どこで覚えたのか)」
「ではでは、ふくだんちょ様のにがてーは何ですか?私のすごいなところは何ですか?」
「ふふっ。そこまでは教えられませんよ。ルゼル殿は私のライバルなのでしょう?」
「はっ、そでした。じゃあじゃあ、自分で見つけて強い強いになるので、待っていてください。お約束です」
「はい。お約束します」
「ふくだんちょ様、お約束は破ると悪い子って言われますよ」
「はい。破りません」
ルゼル、にっこり。
「ふくだんちょ様、ありがとごさました。リオンー!ふくだんちょ様とライバルになったよー」
「えー、ルゼ、いいなー」
「るぅるぅ、らいばる、なぁに?」
「ライバルはね、テキながらアッパレの人のこと。『貴殿がいたから私は成長したのだ』の人のことー。早く強い強いになってふくだんちょ様の脚絆をカタカタイワシメテしまうのー」
きゃー。
きゃー。
なんだこの英雄のいる平和な会話は。
どうやらルゼルは最近騎士の冒険譚を読んでいるらしい。
「キエル卿、すまない。これにはルゼルにちょっとした訳があってな。本人のプライドに関わるから詳細は言えないのだが…」
苦笑いしながらジゼルが言う。
「いえ、久しくライバルがいない生活でしたのでとても新鮮な気持ちですよ」
「うちのルゼルは手強いよ?」
「ふふふ。よく存じておりますよ」
「脚絆をカタカタ言わせるそうだよ」
「緊張しますねぇ」
「ははは」
今年も参観日が始まります。
今年のクイン侯爵家は嫡男リゼルの他長女リディラも入学した。「絶対クイン侯爵様…いいえ、ジゼル様はいらっしゃるはず!」そう踏んだ保護者となったジゼルファンの元ご令嬢方が多数参加していた。アーネスト派だった元ご令嬢方ももちろんいる。つまり今年は例年以上にご婦人参加率が高い参観シーズンとなっている。
一年ぶりに見かける両家の次男、リオンとルゼルは相変わらず天使だ。初めて間近に見る者たちは当然圧倒され、去年見た者たちは勝利宣言をするようなテンションで「あらぁ、昨年は手を取られてパンプキンをなさっておられたのに…成長されましたわぁ…」などと周囲に聞こえるように呟いていた。
まず第一のざわつきはそのクイン侯爵家一行の到着だった。
クイン侯爵家の馬車が二台連なって到着した。一台目からはクイン侯爵と奥方のシャロン、それに末弟のアロンが降りてきた。二台目からは次男のルゼル、コーク公爵夫人のリリィラと公爵家次男のリオンが降りてきた。相変わらず公爵家と侯爵家は良い関係のようだ。
ここでしばらく静かなざわつきが続く。
第二のざわつきは意外な人物の登場だった。国の英雄、騎士団のキエル副団長だ。
「え?キ…キエル様?」
「キエル様よね?」
バサバサバサッ。あちらこちらで扇の開く音がする。
「え?キエル様ってお子様いらした?」
「聞いたことないわ」
「でも奥様もいらしてるわよ」
「…どなたを参観されに?」
深まる謎の中、リオンがキエルに気がついて近寄っていった。
「ふくだんちょ様!ライラ様!」
「リオン殿、お久しぶりです」
サッとひざまづいてリオンの目線に下がるキエルは絵になる。戦後キエルブームが巻き起こったというのがよくわかる。そんなキエルをルゼルは複雑な目で見ている。
「ルゼル殿、アロン殿もお元気そうでなによりです。クイン侯爵様ご夫人、コーク公爵夫人にもご挨拶申し上げます」
立ち居振る舞いの一つ一つに騎士以上の華麗さがある。
何事もないように微笑むキエルだが、ルゼルの視線がいつもより厳しいことにはもちろん気づいている。おそらく先日ユリアンが話していたことに関係するのだろう。
「ルゼル殿?」
あえてにこやかに声をかけるキエル。ジゼルたちはヤンから事情を聴いているのでルゼルの硬い表情の意味を知っている。ルゼルはキエルをキッと睨んで言った。
「ふくだんちょ様。私、ぜったいぜったい、ふくだんちょ様より強い強いになります。どしたらなれますか?」
それ、睨んでる相手に聴きます?キエルはあまりの愛らしさに笑ってしまうところだった。だが堪えた。ルゼルは本気だとわかるからだ。キエルは答える。
「強さは測れるものではないので難しいですね。例えば剣でしたら当分私はルゼル殿より強いですよ」
「うん。そうなの。だから私、困ってるの。ホンモノふくだんちょ様に勝てる戦法が見つからないの。ニセモノふくだんちょ様になら戦法あるんだけど…」
おっと、危ないです。ルゼル殿が国家機密を喋りそうです。というか、ニセモノ副団長、つまりエールなら勝てる剣筋が見えているということか?早めに話題を変えないと…
「…ルゼル殿。剣で敵わないなら、ルゼル殿の強みで強くなればよろしいのでは?例えば剣ではライラも私には敵いませんが、家の中の細々としたことは私はライラに敵いません。つまり強さの基準を何にするかによって強さは変わりますよ」
キエルは難しい話をしていると、ルゼルを初めて見る人たちは思うだろう。だか、ルゼルにはわかる。キエルは確信している。
「はい。わかりました。ふくだんちょ様のにがてーな物と私のすごいなところで勝負したら勝算あるいうことですね?」
「そうです(勝算…どこで覚えたのか)」
「ではでは、ふくだんちょ様のにがてーは何ですか?私のすごいなところは何ですか?」
「ふふっ。そこまでは教えられませんよ。ルゼル殿は私のライバルなのでしょう?」
「はっ、そでした。じゃあじゃあ、自分で見つけて強い強いになるので、待っていてください。お約束です」
「はい。お約束します」
「ふくだんちょ様、お約束は破ると悪い子って言われますよ」
「はい。破りません」
ルゼル、にっこり。
「ふくだんちょ様、ありがとごさました。リオンー!ふくだんちょ様とライバルになったよー」
「えー、ルゼ、いいなー」
「るぅるぅ、らいばる、なぁに?」
「ライバルはね、テキながらアッパレの人のこと。『貴殿がいたから私は成長したのだ』の人のことー。早く強い強いになってふくだんちょ様の脚絆をカタカタイワシメテしまうのー」
きゃー。
きゃー。
なんだこの英雄のいる平和な会話は。
どうやらルゼルは最近騎士の冒険譚を読んでいるらしい。
「キエル卿、すまない。これにはルゼルにちょっとした訳があってな。本人のプライドに関わるから詳細は言えないのだが…」
苦笑いしながらジゼルが言う。
「いえ、久しくライバルがいない生活でしたのでとても新鮮な気持ちですよ」
「うちのルゼルは手強いよ?」
「ふふふ。よく存じておりますよ」
「脚絆をカタカタ言わせるそうだよ」
「緊張しますねぇ」
「ははは」
今年も参観日が始まります。
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