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第四章
第十八話 お馬さんに乗ります〜ポニオンとポニルです
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ポムポムホースを鮮やかに乗りこなせるようになった今日この頃のリオンとルゼルにまたワクワクする話が舞い込んできた。
ポニーに乗る練習だ。
本来なら貴族令息が乗馬を始めるのはもっと年齢が上がってからなのだが、二人はヴァジュラの遊び相手だ。
体力お化けのヴァジュラが乗馬練習を始めるのもそう遠くない未来だろうとのことで、先だって二人がポニーに乗る練習を始めることになったのだ。何しろヴァジュラなら無手勝流でも一発で乗りこなせそうなので、遊び相手側は乗りこなせてからでないと危険だ。アロンにはまだ早いし、ハロルドに手綱操作は危ないという判断で遊び相手の二歳組ではなく、四歳組の二人が抜擢された。
そして今日は練習初日。場所はクイン家の乗馬練習場だ。
二人はリディラが作った子ども用乗馬服を可愛らしく上品に着こなして登場。するとカメラを持って待ち構えていたリディラがシャッター音を軽やかに連発させる。
「乗馬服はポムポムホースにまたがった二人を見た時からデザインは浮かんでいたのよ。やっぱり似合うわ」
早口で言いながらリディラがカメラの角度を変えて動き回る。
リディラ渾身の乗馬服は、デザインというよりアイディアが詰まっていた。
クラバットを留めるブローチは針が危ないということからリボン結びにした。それもタオルを加工した生地で首に流れる汗の吸い取りも素早く、乾きも早い生地だ。ジャケットやズボンも要所にキルティングの裏地を付け、落馬時のクッションになるよう工夫した。生地は全部ストレッチ素材だ。動きやすいし、怪我しにくい、しかもサイズが少し小さくなってきたなと思ってもストレッチなら次の一着を誂えるまでその伸縮性で時間が稼げる。
リオンの乗馬服には胸ポケットに家紋のエンブレムが金と紫であしらわれ、ルゼルには茶と翡翠であしらわれていた。
「二人とも、動きにくいところがあったら教えてね」
二人は乗馬服開発のテストパイロットでもあった。
もちろん二人は大はしゃぎだ。
「アネーレ、すてきすてきなお洋服、ありがとございます」
「リディ姉様、私はこのお胸の家紋が好きです。私の色してます」
「あ、私も私も!ルゼル色の家紋、好きです。あとあと、お洋服の布が伸びるの好きです」
「動きやすいよねー」
「うん。これってホータイとかにできると良いなの」
「あ、そうだね、包帯!」
「あら?包帯?」
シャッターから手を離したリディラが聞く。答えるのはリオン。
「はい。あのね、ヴァジュラ殿下、おてて骨折で痛いになった時、包帯グルグルだったのだって。でねでね、肘までグルグルしたのだって。だけどね、肘は元気だったの。でもでも、グルグルしたから全然動かせなかったの。ヤダだったって言ってたの」
「肘には関節あるもんねー」
「元気なら動かしたいよね、関節だもんねー」
「ねー」
「ねー」
二人の話に最後のところはわかったようなわからなかったような気がするリディラだったが、確かに包帯が伸びない布でできていることは不便かもしれないと思った。ヴァジュラのようにソエギをする都合で肘まで巻く必要がある者もいるだろうが、曲げた状態で巻くことが良い者もいるだろう。そんな時に従来の包帯より、伸縮性のある包帯なら便利だし何より身体は立体だ。動ける包帯なら患者自身の負担も減るのでは?
「二人とも、良いアイディアよ」
リディラの緑の目が商機に光った。早速父上に話をしなければ。
リディラは二人の馬たちが来るまで待つつもりだったがマーリンのお茶会の時間になってしまった。
「アネーレ、マーリン様の所ですか?」
「そうよ。今日はタミラ様とララ様もいらっしゃるの。ルゼルたちに教えてもらった好きなもの図鑑を私たちも作っているのよ。今日は新しい図鑑を見せ合いっこするの」
タミラは子爵令嬢でリディラの茶会でガラスの小物入れを割ってしまった令嬢で、ララはその破片で怪我をした男爵令嬢だ。あれ以来四人は仲が良い。
「リディ姉様の作った図鑑、見たいです」
「あのねリオン、リディ姉様の図鑑は絵がとってもとっても綺麗綺麗なの。細かいの」
画家ロンの指導とリディラの野望とがあいまってリディラの画力は上がる一方だ。益々見たくなるリオンに必ず見せると約束をしてリディラはお茶会に出かけて行った。
リディラと入れ替わりのタイミングで二人の馬たちがやってきた。
馬といってもポニーだ。二人の体格では乗馬用の馬では子馬でも大き過ぎるので、今はポニーで練習するのだ。
「うわぁ、お馬さんです!」
「たてがみ、キラキラのお馬さんです!」
「お馬さん、来てくれてありがとございます、リオン・コークです」
「私はルゼル・クインです。お馬さんは今日お茶会とかないですか?」
これには厩舎からポニーを引いてきた使用人も乗馬指導をするナイン商社のユンも微笑んでしまった。
「あ、ユン様だ」
ユンに気づいたのはリオンだ。海の別邸でお買い物をした時にジル・ナインと共に来た男だ。
「おや、よくお分かりですね。マードでは東の国の血が入った者は見分けが難しいようですのに」
「ルゼルのお家に東の国の人、沢山沢山いるから、わかります」
リオンがにこやかに言う。ユンはチラッとルゼルの従者ヤンを見るがヤンは無表情だ。リオンの従者ヤーべはリオンを見ながら微笑んでいる。
「リオン様の目は素晴らしいですね。ではあらためまして、今日からお二人の乗馬を指導いたします、ユンです。ナイン商社からきました。よろしくお願い致します」
「リオン・コークです」ぺこり
「ルゼル・クインです」ぺこり
「ユン様、ユン様。ユン様が来てしまって、ジル様は困らないですか?」
早速リオンの質問だ。
「はい。ジルの方からこちらに伺うよう言われましたので」
「ではでは、このお馬さんたちはナイン商社のお馬さんですか?お馬さんの国はどちらですか?お馬さんのご家族はどうしてますか?」
矢継ぎ早のリオン。
「はい、このポニーたちはナイン商社のポニーです。お二人と相性の良さそうな二頭を選びました。乗馬指導も侯爵様から基礎を教える者を探してほしいとのことで、専任を探すよりお二人に面識があって乗馬経験のある自分が来た次第です」
「…アフターサービス」
と呟くルゼル。リディラがよく使うので覚えた言葉だ。
「このポニーの生まれた国はこちらマードです」
「私たちと同郷」
これもルゼル。東の国出身者が多いクイン侯爵家の使用人たちがよく使うので覚えた言葉だ。
「ポニーの家族はナイン商社の牧場で共に暮らしているものもいますが、あちこちに買われて単身でいるものもいます。どのポニーも人間とは一緒にいるので寂しくはないものと思います」
これには二人でにっこりだ。
「さて、では今日はまずポニーたちと仲良くなることから始めましょう」
ナイン商社は二頭のポニーのうち銀のたてがみの白馬をリオン用に、金のたてがみの薄茶のポニーをルゼル用にと用意したが、何も言わなくともそれぞれがそのポニーに寄って行っていた。商主ジルの目は間違いがない。
ポニーとの相性も良いようだ。ポニー側も嫌がることなく大人しく撫でられたり頬ずりされている。するとまたリオンが質問をしてきた。
「このお馬さんにお名前ありますか?」
答えたのはルゼルだ。
「お馬さんにお名前ないですよ。ね?お馬さん」
「そっか、ではではお名前どうする?ユン様、お名前つけてしまうのだいじょふですか?ずっとお馬さんだとルゼのお馬さんとわからなくなるの」
いや、名前。なぜルゼルは名前がついてないとわかったのか。なぜそれをリオンはすんなり受け入れたのか。
「は、はい。お名前はお二人につけていただいてよろしいですよ」
何故だろう。と、疑問の残るユンが二人の従者を見るがヤーべが薄く笑って首を振るだけだった。おそらくよるあることで「慣れろ」「深掘りするな」ということだろう。
あの別邸で公爵が「見たことは他言無用」と釘を刺してきた。だからこそ乗馬指導もあの場にいたユンが派遣された。了解だ。慣れるし深掘りはしない。
そう考えている間に、二頭の名前が決まった。
「ユン様、お馬さんのお名前決めました」
「何というお名前か伺っても?」
「はい。私のお馬さんはリオンのポニーだからポニオンです」
「私のお馬さんはルゼルのポニーだからポニルです」
なんと安直で可愛い名前なのか!天才的な思考回路を持ちながら、年齢相応の無邪気さがある。
このギャップはまだまだ慣れそうにないと思うユンだった。
ポニーに乗る練習だ。
本来なら貴族令息が乗馬を始めるのはもっと年齢が上がってからなのだが、二人はヴァジュラの遊び相手だ。
体力お化けのヴァジュラが乗馬練習を始めるのもそう遠くない未来だろうとのことで、先だって二人がポニーに乗る練習を始めることになったのだ。何しろヴァジュラなら無手勝流でも一発で乗りこなせそうなので、遊び相手側は乗りこなせてからでないと危険だ。アロンにはまだ早いし、ハロルドに手綱操作は危ないという判断で遊び相手の二歳組ではなく、四歳組の二人が抜擢された。
そして今日は練習初日。場所はクイン家の乗馬練習場だ。
二人はリディラが作った子ども用乗馬服を可愛らしく上品に着こなして登場。するとカメラを持って待ち構えていたリディラがシャッター音を軽やかに連発させる。
「乗馬服はポムポムホースにまたがった二人を見た時からデザインは浮かんでいたのよ。やっぱり似合うわ」
早口で言いながらリディラがカメラの角度を変えて動き回る。
リディラ渾身の乗馬服は、デザインというよりアイディアが詰まっていた。
クラバットを留めるブローチは針が危ないということからリボン結びにした。それもタオルを加工した生地で首に流れる汗の吸い取りも素早く、乾きも早い生地だ。ジャケットやズボンも要所にキルティングの裏地を付け、落馬時のクッションになるよう工夫した。生地は全部ストレッチ素材だ。動きやすいし、怪我しにくい、しかもサイズが少し小さくなってきたなと思ってもストレッチなら次の一着を誂えるまでその伸縮性で時間が稼げる。
リオンの乗馬服には胸ポケットに家紋のエンブレムが金と紫であしらわれ、ルゼルには茶と翡翠であしらわれていた。
「二人とも、動きにくいところがあったら教えてね」
二人は乗馬服開発のテストパイロットでもあった。
もちろん二人は大はしゃぎだ。
「アネーレ、すてきすてきなお洋服、ありがとございます」
「リディ姉様、私はこのお胸の家紋が好きです。私の色してます」
「あ、私も私も!ルゼル色の家紋、好きです。あとあと、お洋服の布が伸びるの好きです」
「動きやすいよねー」
「うん。これってホータイとかにできると良いなの」
「あ、そうだね、包帯!」
「あら?包帯?」
シャッターから手を離したリディラが聞く。答えるのはリオン。
「はい。あのね、ヴァジュラ殿下、おてて骨折で痛いになった時、包帯グルグルだったのだって。でねでね、肘までグルグルしたのだって。だけどね、肘は元気だったの。でもでも、グルグルしたから全然動かせなかったの。ヤダだったって言ってたの」
「肘には関節あるもんねー」
「元気なら動かしたいよね、関節だもんねー」
「ねー」
「ねー」
二人の話に最後のところはわかったようなわからなかったような気がするリディラだったが、確かに包帯が伸びない布でできていることは不便かもしれないと思った。ヴァジュラのようにソエギをする都合で肘まで巻く必要がある者もいるだろうが、曲げた状態で巻くことが良い者もいるだろう。そんな時に従来の包帯より、伸縮性のある包帯なら便利だし何より身体は立体だ。動ける包帯なら患者自身の負担も減るのでは?
「二人とも、良いアイディアよ」
リディラの緑の目が商機に光った。早速父上に話をしなければ。
リディラは二人の馬たちが来るまで待つつもりだったがマーリンのお茶会の時間になってしまった。
「アネーレ、マーリン様の所ですか?」
「そうよ。今日はタミラ様とララ様もいらっしゃるの。ルゼルたちに教えてもらった好きなもの図鑑を私たちも作っているのよ。今日は新しい図鑑を見せ合いっこするの」
タミラは子爵令嬢でリディラの茶会でガラスの小物入れを割ってしまった令嬢で、ララはその破片で怪我をした男爵令嬢だ。あれ以来四人は仲が良い。
「リディ姉様の作った図鑑、見たいです」
「あのねリオン、リディ姉様の図鑑は絵がとってもとっても綺麗綺麗なの。細かいの」
画家ロンの指導とリディラの野望とがあいまってリディラの画力は上がる一方だ。益々見たくなるリオンに必ず見せると約束をしてリディラはお茶会に出かけて行った。
リディラと入れ替わりのタイミングで二人の馬たちがやってきた。
馬といってもポニーだ。二人の体格では乗馬用の馬では子馬でも大き過ぎるので、今はポニーで練習するのだ。
「うわぁ、お馬さんです!」
「たてがみ、キラキラのお馬さんです!」
「お馬さん、来てくれてありがとございます、リオン・コークです」
「私はルゼル・クインです。お馬さんは今日お茶会とかないですか?」
これには厩舎からポニーを引いてきた使用人も乗馬指導をするナイン商社のユンも微笑んでしまった。
「あ、ユン様だ」
ユンに気づいたのはリオンだ。海の別邸でお買い物をした時にジル・ナインと共に来た男だ。
「おや、よくお分かりですね。マードでは東の国の血が入った者は見分けが難しいようですのに」
「ルゼルのお家に東の国の人、沢山沢山いるから、わかります」
リオンがにこやかに言う。ユンはチラッとルゼルの従者ヤンを見るがヤンは無表情だ。リオンの従者ヤーべはリオンを見ながら微笑んでいる。
「リオン様の目は素晴らしいですね。ではあらためまして、今日からお二人の乗馬を指導いたします、ユンです。ナイン商社からきました。よろしくお願い致します」
「リオン・コークです」ぺこり
「ルゼル・クインです」ぺこり
「ユン様、ユン様。ユン様が来てしまって、ジル様は困らないですか?」
早速リオンの質問だ。
「はい。ジルの方からこちらに伺うよう言われましたので」
「ではでは、このお馬さんたちはナイン商社のお馬さんですか?お馬さんの国はどちらですか?お馬さんのご家族はどうしてますか?」
矢継ぎ早のリオン。
「はい、このポニーたちはナイン商社のポニーです。お二人と相性の良さそうな二頭を選びました。乗馬指導も侯爵様から基礎を教える者を探してほしいとのことで、専任を探すよりお二人に面識があって乗馬経験のある自分が来た次第です」
「…アフターサービス」
と呟くルゼル。リディラがよく使うので覚えた言葉だ。
「このポニーの生まれた国はこちらマードです」
「私たちと同郷」
これもルゼル。東の国出身者が多いクイン侯爵家の使用人たちがよく使うので覚えた言葉だ。
「ポニーの家族はナイン商社の牧場で共に暮らしているものもいますが、あちこちに買われて単身でいるものもいます。どのポニーも人間とは一緒にいるので寂しくはないものと思います」
これには二人でにっこりだ。
「さて、では今日はまずポニーたちと仲良くなることから始めましょう」
ナイン商社は二頭のポニーのうち銀のたてがみの白馬をリオン用に、金のたてがみの薄茶のポニーをルゼル用にと用意したが、何も言わなくともそれぞれがそのポニーに寄って行っていた。商主ジルの目は間違いがない。
ポニーとの相性も良いようだ。ポニー側も嫌がることなく大人しく撫でられたり頬ずりされている。するとまたリオンが質問をしてきた。
「このお馬さんにお名前ありますか?」
答えたのはルゼルだ。
「お馬さんにお名前ないですよ。ね?お馬さん」
「そっか、ではではお名前どうする?ユン様、お名前つけてしまうのだいじょふですか?ずっとお馬さんだとルゼのお馬さんとわからなくなるの」
いや、名前。なぜルゼルは名前がついてないとわかったのか。なぜそれをリオンはすんなり受け入れたのか。
「は、はい。お名前はお二人につけていただいてよろしいですよ」
何故だろう。と、疑問の残るユンが二人の従者を見るがヤーべが薄く笑って首を振るだけだった。おそらくよるあることで「慣れろ」「深掘りするな」ということだろう。
あの別邸で公爵が「見たことは他言無用」と釘を刺してきた。だからこそ乗馬指導もあの場にいたユンが派遣された。了解だ。慣れるし深掘りはしない。
そう考えている間に、二頭の名前が決まった。
「ユン様、お馬さんのお名前決めました」
「何というお名前か伺っても?」
「はい。私のお馬さんはリオンのポニーだからポニオンです」
「私のお馬さんはルゼルのポニーだからポニルです」
なんと安直で可愛い名前なのか!天才的な思考回路を持ちながら、年齢相応の無邪気さがある。
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