金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第十四話 お散歩のお勉強〜お外はドキドキがいっぱいで、焼き鳥への道は遠いです

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 幼稚園での毎日はリオンとルゼルにとって刺激的に楽しいことで溢れていた。
 幼稚園のお教室はとても小さなお部屋だ。長方形の机が二つ並んでいて、そこに四人ずつ座る。机があと二つ入ったらそれでいっぱいになるような小さなお部屋。それが4歳児のお教室だ。5歳児のお教室もほぼ同じ大きさで、それぞれ8人ずつの幼児が男女4人ずついる。
 第1期生として入園している園生たちはほぼ高位貴族の子どもか裕福な家庭の子どもだ。だから一人で出歩くことはおろか街を歩いたことのない子どもが多かった。
 リオンとルゼルもその一人だ。二人はお互いの屋敷と王宮、コーク公爵の海の別邸、王立初等学園の他はこの幼稚園しか知らない。街は馬車の中から見た事がある。その程度だ。
 「アデルはお外行ったことある?」
 リオンがアデルに聞く。
 「うん。あるよ。でも貴族街の中央広場だけ」
 貴族街というのは通称だが、いわゆる貴族御用達の店が並ぶ界隈のことだ。貴族を狙うスリなどもいるが、治安は比較的良い。対比して通称平民街と呼ばれる界隈もある。より庶民的な店が多く、人出もあり活気があるがその分トラブルもあるような場所だ。
 アデルのいう貴族街の中央広場には噴水があり、夏場はそこで子どもたちが水遊びをする。子どもたちが集まる場所なので広場にはお菓子や風船などを売る屋台があり、平和的に賑わう場所だ。
 アデルからのフレーズを聞いた二人はもちろん「「焼き鳥は?」」とくい気味に聞いた。アデルは二人の迫力に驚きながらも「やきとりぃ?」と首を傾げた。
 アデルも焼き鳥は知らないらしい。二人は焼き鳥の説明をアデルにした。もちろんアデルも、
 「あ、歩きながら…食べ…食べる?そんなことして良いの?」
 とビックリだ。
 「ね、ね、ビックリーだよね。でもでもアニューレたちは見たの!」
 「本当に歩いて食べるの人がいたのだって。それも、たーくさん!」
 「えええ⁉︎」
 いつか外を自由に歩ける日が来たら絶対に焼き鳥を探すんだとリオンとルゼルが決意表明をした時に先生が入ってきた。
 四歳児クラスの担任はカティア先生という伯爵夫人だ。先の大戦で小さな領地が戦場となり、夫であった伯爵は戦死していた。その後はカティアが持ち前の行動力で領地を立て直し、自らも貴族子女の家庭教師として職を持ち、息子二人も順調に育ち、社交界でも一目置かれる存在となった。その行動力、判断力、力量を買われての幼稚園教諭だ。
 そのカティアが朝の挨拶をすると幼稚園の楽しい一日が始まるのだ。
 「皆さん、おはようございます」
 「おはようございます」
 挨拶の後は出欠をとる。8人しかいないから見ればわかるのだが、そこに口を挟む野暮はいない。皆、これがルーティンだとわかっているからだ。
 それが終わると今日はどんなワクワクをするのかの説明が始まる。
 「はい。それでは今日することをお話しますね。今日は…」
 カティア先生がためる。皆前のめりで息を止めて先生を見ている。
 「お外を歩く練習をします」
 えー⁉︎
 ええー⁉︎
 皆声には出さずに驚いていた。
 お外を歩く練習‼︎屋台焼き鳥食べ歩きの第一歩ではないか!リオンとルゼルは人一倍前のめりだ。
 カティア先生は続ける。
 「皆さんはお庭やお城のお庭を歩いたことはあると思います。もしかしたら門から出た先の街を歩いたことがあるかもしれません。ですが、おそらくその時は使用人や護衛の者が一緒だったことと思います」
 うんうん。皆が頷いている。貴族街に行ったことがあるアデルも母と使用人が一緒だった。
 「お外と言っても今日は学園内を歩きます。それでもお外を歩く時には沢山のお約束があります。まずは学園内のお約束や気をつけるところを覚えて行きましょうね」
 「はい」
 「はい」
 皆良い声でお返事だ。
 「それではお外に行く支度をしましょう。お帽子を被って玄関ホールに行きますよ」
 
 幼稚園ではお外に行く時に帽子を被る。何故かはわからないが、そういうお約束だ。いつか理由を聞こうとリオンとルゼルは思っている。
 玄関ホールに行くと先生が二人ずつ手を繋ぐように言ったのでリオンとルゼルが手を繋いだ。そして先生のすぐ後ろだ。
 「では皆さん、中等学園のお庭に向かって歩きます。まず、お外に出たらがあるかどうか確認します。
 それは人が歩く道のことです。馬車と人が通る道や、人が通るべき道をキチンと知らしめるためのものです。歩道は色が少し違っていたり、少し高くなっていたりするので見てわかるようになっています。歩道がある時は歩道を歩くのが第一のお約束です」
 「はい」
 「はい」
 「はい?」
 疑問形はリオンとルゼルだ。
 あれ?歩道を歩くのはお約束?あれ?ヴァジュラ殿下は歩道があっても歩いてなくない?
 考えがまとまらないうちに先生が次の話を始めた。
 「歩道を歩いている時は急に走ったりしてはいけません。横道から人や馬車が来るかもしれませんし、転んで怪我をするかもしれないからです」
 またもや、あれあれ?ヴァジュラ殿下は急に走る…。
 「では歩きますよ」
 いよいよ学園内の歩道を歩き始める。こんな沢山の人数で外を歩くのは全員初めての体験だ。「あ、ごめんなさい」「ううん、だいじょぶ」「あ、ごめんなさい」「うん、へーき」少し歩くだけで前のお友達の足を踏んでしまったり、キョロキョロしているとぶつかってしまう。歩くのって、思ったより気をつけなければならないことが多い。
 そんなことを思いながら歩いていると「わー!気をつけてー!」という大きな声がした。声の方を見ると大きなボールが園生たちに向かって飛んでくるところだった。
 「きゃー!」
 「わー!」
 「んぐ…」
 反応はまちまちだったが誰もが危機を感じた。
 中等学園生の体育の授業でサッカーをしていたようだ。そのボールがそれてリオンたちの歩く列に飛んできたのだ。
 「ルゼ!」
 ボールはルゼルに真っ直ぐ飛んできた。リオンは反射的にルゼルを庇うようにルゼルにかぶさった。「リオン!だめ!」ルゼルもリオンを退かそうと押し返した。二人してお互いを心配して焦った。そして二人して来るべき衝撃に備えて目をつぶった。その時…
 パァーン
 何かが何かを弾く音がした。
 「カティア先生!」
 アデルの声がした。リオンたちに衝撃はない。はて?
 ボールはカティア先生が自らの扇で見事に弾き返していた。
 「先生…かっこいい…」
 涙目になっていた女の子たちがつぶやいた。
 「リオン様、ルゼル様、皆さんご無事ですか?」
 カティア先生が聞いた。
 「だ、だいじょぶです」
 とリオン。驚きで声が出ないルゼルはひたすらコクコクと頷くのみだ。
 「すみません‼︎皆さん!すみません!」
 ボールを蹴った学生と指導教授が慌てて走ってきた。
 教授とカティア先生が何か話をしているが、リオンとルゼルはそれどころではなかった。
 「ルゼ、ルゼ!だいじょぶ?」
 「うん、うん」それでもルゼルは涙目だ。
 「ルゼ、お外歩くの難しだね」
 「うんうん。お約束守っても、ボール来るの…門のお外はもっと危険があぶ…危ない…」
 「うんうん。馬車とか、走ってる人とか、えとえと、鳥さんとか、犬さんとか」
 「うんうん。ヴァジュラ殿下とか…」
 「うん…急に急に来るかもしれないの…」
 「横からとか」
 「後ろからとか」
 「ヴァジュラ殿下は前からでも来るね」
 「うん…ヴァジュラ殿下…歩道にいないものね」
 リオンとルゼルは改めて焼き鳥食べ歩きの野望成就のためにしっかりと学ばねばならないことがあることを自覚し、二人の会話を聞いたアデルたちは「ヴァジュラ殿下って…」となり、ルゼルは「歩道を歩かず、走り回るヴァジュラ殿下はやっぱりなんだか凄くてかっこいい」と思うのだった。
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