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第四章
第十二話 きしゅうです!きしゅうされました!〜バークレイもいます。
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「兄上っ!兄上ぇ…えぐっ」
ユリアンが学園から帰ってくると玄関ホールでユリアンを待ち構えていたリオンがユリアンに走り寄りしがみついた。
「え?リオン、泣いてる?」
お互い、おかえりなさいもただいまも忘れての再会だ。
「兄上ぇ~。怖いです、怖いですぅ」
どうしたんだとリオンにしがみつかれながらリオンの従者ヤーべをユリアンは見た。しかしヤーべは首を横に振る。
幼稚園は学園と同じで基本的に従者は入れない。ヤーべの様子を見る限り、涙の原因は幼稚園での出来事だろうとユリアンは推察した。
いつものようにユリアンはリオンが落ち着くまで体勢維持で待った。しかし今日はなかなかリオンが次のアクションを起こさない。よほどのことがあったと考え、ユリアンがリオンに言う。
「抱っこする?」
「…むーぅ」
ユリアンにしがみついたままリオンが苦悩の唸り声を出した。おそらくリオンの中で「抱っこされたい。でももう幼稚園生」という葛藤が繰り広げられているのだろう。ユリアンが助け船を出す。
「私はリオンを抱っこしたいんだけど…良いかな?とっても抱っこしたいんだ」
それを聞いたリオンは顔を上げないまま「はい。いいですよ」と答えた。
抱っこしながら自室のある上階にいくのは階段があるから危険だ。ユリアンだとてまだ低学年生なのだから…察したバトラーは一階の応接間を手のひらで指し示し「あちらにお茶をご用意いたします」と言った。流石筆頭執事。
ユリアンが抱っこで応接間に移動する間もリオンは無言を貫いた。ユリアンのシャツをしっかり握り、眉間にシワを寄せている。一体なにがあったのか。
応接間に入り、バトラーがお茶やお菓子をセットすると静かに頭を下げて退室した。
誰も居なくなった頃合いでユリアンはソファに座り、リオンを膝に乗せたまま「幼稚園のお話を聞かせて」と言った。続けて「幼稚園は楽しい?」とも聞いた。リオンはコクコクと頷きながら、でもまだ顔は上げずに話し出した。
「幼稚園はルゼやアデルがいて楽しい楽しいです。でも、でも…きしゅうです。きしゅうされました。こ…怖かったです…」
きしゅう…奇襲?ユリアンが知るような奇襲なら幼稚園から既に連絡が来ているはずだ。だとしたら奇襲じゃないきしゅうなのか?
「リオン、きしゅうって?」
「きしゅうは急に急に攻めることです。あ、あぅ、シクシク…」
きしゅうは奇襲で間違いなさそうだ。ではどんな奇襲か?
「奇襲されたの?それは怖いし驚いたよね。いったい誰がリオンに奇襲をかけたの?」ここは大事だ。
「まだお名前知らない女の子からです…怖かったです…」
女の子から、奇襲?
「あ、…あぁ」
ユリアンは大体の想像ができた。お茶会でユリアンが体験する、あの女の子たちの積極的な距離感をリオンは体験したんだ、と。リオンが続ける。
「ルゼとお外のお花を見に行こうってお話して、おててをつないで歩いていたら遠く遠くからアデルが『リオン!きしゅうだー。気をつけてー!』て教えてくれて振り向いたら『リオンさまー!』って叫びながらお名前知らない女の子が怖いのお顔でドーンてしてきました。そしたら別の女の子が『ルゼルさまー!』って言ってルゼにドーンて。ビックリして怖くて泣きそうになったけど、ルゼが泣いてしまったから私は我慢したの。我慢して『ルゼにドーンてしないで』って言ったの。そしてそして、アデルが先生に言ってくれたから先生が来て女の子たちが『げんじゅうちゅういです』って言われたの」
「リオンは泣かなかったの?」
「はい。私はルゼのお背中トントンして、だいじょぶよーって言ってたの…だから、だから…ふわわぁん」
驚いたけど緊張して頑張って我慢したんだね。
「リオン、偉かったね」
「うわあぁん。兄上、きしゅう怖かったですぅ。ルゼが無事で良かったですぅう」
「うんうん。きっと女の子たちはリオンたちと仲良くしたくて少し勢いが良過ぎちゃったんだね。ビックリしたね。でもアデルが教えてくれなかったらもっとビックリしていたね」
それを聞くとリオンはハッとして顔を上げた。紫の瞳が涙で濡れている。光がいつも以上に入っていつも以上にキラキラとしている、とユリアンは思った。
「兄上の言う通りです。
アデルが教えてくれなかったらもっとビックリしたし、ルゼもお怪我したかもしれません。アデルはステキなごがくゆうです!今日はビックリしたけど幼稚園好きです」
「明日はアデルやルゼルと楽しく遊んできてね」
「はい。そしたら楽しいのお話しても良いですか?」
「もちろんだよ。楽しみにしているよ」
「はい!」
良かった。リオンが笑顔になった。
「それじゃ、お菓子をいただこうか」
「はい!」
リオンはもうニコニコだ。怖かったけどルゼルの心配もして、リオンは本当に可愛い弟だ。奇襲かけた子は一体誰なんだ?リディラの事前リサーチではそんな女の子いなかったはずなんだけどな。
それにしても女の子のアプローチが奇襲だなんて…アデルも面白い子だな。
落ち着いてはきたとはいえまだ涙目のリオンには申し訳なかったが、ユリアンは弟たちが可愛くてクスリと笑った。
翌日、ユリアンは学園でリゼルと前日の弟奇襲事件について話し合っていた。リゼルが言う。
「それ聞いたよ。というか、うちも同じ。ルゼルが私の顔見たら泣き出して…可愛いんだけど可哀想だったな」
「もちろんリディラには…?」
「確認したよ。同じクラスにそんな奇襲…ぷっ…やっぱり奇襲って言い方面白いよね。アデル君、センス良いなぁ。あ、で、奇襲かけるような子はいないって。でねリディラが『お兄様、少し考えたらわかりましたわ。あのリオンもルゼルもまだ名前を覚えていない子なんて同じクラスにはいませんわよ。一つ上のクラスの方々に違いありませんわ』って」
「なるほど!流石リディラだな!」
「ね。で、早速調べてみたらやっぱり上のクラスの子だった」
リゼルはどうやって調べたんだろう?うーん、なんか知らない方が良さそう。そこはスルーしてユリアンが続ける。
「あー、上のクラスまではリサーチしなかったもんな。というかリオンたちがあの洗礼を受けてしまったのか…」
「ホント、ショック。アロンの時は絶対守る」
「いや、アロンはお前が思うよりずっと肝が座ってるよ。それにしても奇襲って、…確かに奇襲だよね」
「ぷっ…リディラも『奇襲…確かにあれは奇襲ですわね』って真顔で納得していたよ」
そう言ってユリアンとリゼルが笑っていた。
その近くで「リディラ嬢?奇襲って何?リディラ嬢の話、有難い。でも奇襲って何?」と一人悶々と聞いているバークレイがいた。
ユリアンが学園から帰ってくると玄関ホールでユリアンを待ち構えていたリオンがユリアンに走り寄りしがみついた。
「え?リオン、泣いてる?」
お互い、おかえりなさいもただいまも忘れての再会だ。
「兄上ぇ~。怖いです、怖いですぅ」
どうしたんだとリオンにしがみつかれながらリオンの従者ヤーべをユリアンは見た。しかしヤーべは首を横に振る。
幼稚園は学園と同じで基本的に従者は入れない。ヤーべの様子を見る限り、涙の原因は幼稚園での出来事だろうとユリアンは推察した。
いつものようにユリアンはリオンが落ち着くまで体勢維持で待った。しかし今日はなかなかリオンが次のアクションを起こさない。よほどのことがあったと考え、ユリアンがリオンに言う。
「抱っこする?」
「…むーぅ」
ユリアンにしがみついたままリオンが苦悩の唸り声を出した。おそらくリオンの中で「抱っこされたい。でももう幼稚園生」という葛藤が繰り広げられているのだろう。ユリアンが助け船を出す。
「私はリオンを抱っこしたいんだけど…良いかな?とっても抱っこしたいんだ」
それを聞いたリオンは顔を上げないまま「はい。いいですよ」と答えた。
抱っこしながら自室のある上階にいくのは階段があるから危険だ。ユリアンだとてまだ低学年生なのだから…察したバトラーは一階の応接間を手のひらで指し示し「あちらにお茶をご用意いたします」と言った。流石筆頭執事。
ユリアンが抱っこで応接間に移動する間もリオンは無言を貫いた。ユリアンのシャツをしっかり握り、眉間にシワを寄せている。一体なにがあったのか。
応接間に入り、バトラーがお茶やお菓子をセットすると静かに頭を下げて退室した。
誰も居なくなった頃合いでユリアンはソファに座り、リオンを膝に乗せたまま「幼稚園のお話を聞かせて」と言った。続けて「幼稚園は楽しい?」とも聞いた。リオンはコクコクと頷きながら、でもまだ顔は上げずに話し出した。
「幼稚園はルゼやアデルがいて楽しい楽しいです。でも、でも…きしゅうです。きしゅうされました。こ…怖かったです…」
きしゅう…奇襲?ユリアンが知るような奇襲なら幼稚園から既に連絡が来ているはずだ。だとしたら奇襲じゃないきしゅうなのか?
「リオン、きしゅうって?」
「きしゅうは急に急に攻めることです。あ、あぅ、シクシク…」
きしゅうは奇襲で間違いなさそうだ。ではどんな奇襲か?
「奇襲されたの?それは怖いし驚いたよね。いったい誰がリオンに奇襲をかけたの?」ここは大事だ。
「まだお名前知らない女の子からです…怖かったです…」
女の子から、奇襲?
「あ、…あぁ」
ユリアンは大体の想像ができた。お茶会でユリアンが体験する、あの女の子たちの積極的な距離感をリオンは体験したんだ、と。リオンが続ける。
「ルゼとお外のお花を見に行こうってお話して、おててをつないで歩いていたら遠く遠くからアデルが『リオン!きしゅうだー。気をつけてー!』て教えてくれて振り向いたら『リオンさまー!』って叫びながらお名前知らない女の子が怖いのお顔でドーンてしてきました。そしたら別の女の子が『ルゼルさまー!』って言ってルゼにドーンて。ビックリして怖くて泣きそうになったけど、ルゼが泣いてしまったから私は我慢したの。我慢して『ルゼにドーンてしないで』って言ったの。そしてそして、アデルが先生に言ってくれたから先生が来て女の子たちが『げんじゅうちゅういです』って言われたの」
「リオンは泣かなかったの?」
「はい。私はルゼのお背中トントンして、だいじょぶよーって言ってたの…だから、だから…ふわわぁん」
驚いたけど緊張して頑張って我慢したんだね。
「リオン、偉かったね」
「うわあぁん。兄上、きしゅう怖かったですぅ。ルゼが無事で良かったですぅう」
「うんうん。きっと女の子たちはリオンたちと仲良くしたくて少し勢いが良過ぎちゃったんだね。ビックリしたね。でもアデルが教えてくれなかったらもっとビックリしていたね」
それを聞くとリオンはハッとして顔を上げた。紫の瞳が涙で濡れている。光がいつも以上に入っていつも以上にキラキラとしている、とユリアンは思った。
「兄上の言う通りです。
アデルが教えてくれなかったらもっとビックリしたし、ルゼもお怪我したかもしれません。アデルはステキなごがくゆうです!今日はビックリしたけど幼稚園好きです」
「明日はアデルやルゼルと楽しく遊んできてね」
「はい。そしたら楽しいのお話しても良いですか?」
「もちろんだよ。楽しみにしているよ」
「はい!」
良かった。リオンが笑顔になった。
「それじゃ、お菓子をいただこうか」
「はい!」
リオンはもうニコニコだ。怖かったけどルゼルの心配もして、リオンは本当に可愛い弟だ。奇襲かけた子は一体誰なんだ?リディラの事前リサーチではそんな女の子いなかったはずなんだけどな。
それにしても女の子のアプローチが奇襲だなんて…アデルも面白い子だな。
落ち着いてはきたとはいえまだ涙目のリオンには申し訳なかったが、ユリアンは弟たちが可愛くてクスリと笑った。
翌日、ユリアンは学園でリゼルと前日の弟奇襲事件について話し合っていた。リゼルが言う。
「それ聞いたよ。というか、うちも同じ。ルゼルが私の顔見たら泣き出して…可愛いんだけど可哀想だったな」
「もちろんリディラには…?」
「確認したよ。同じクラスにそんな奇襲…ぷっ…やっぱり奇襲って言い方面白いよね。アデル君、センス良いなぁ。あ、で、奇襲かけるような子はいないって。でねリディラが『お兄様、少し考えたらわかりましたわ。あのリオンもルゼルもまだ名前を覚えていない子なんて同じクラスにはいませんわよ。一つ上のクラスの方々に違いありませんわ』って」
「なるほど!流石リディラだな!」
「ね。で、早速調べてみたらやっぱり上のクラスの子だった」
リゼルはどうやって調べたんだろう?うーん、なんか知らない方が良さそう。そこはスルーしてユリアンが続ける。
「あー、上のクラスまではリサーチしなかったもんな。というかリオンたちがあの洗礼を受けてしまったのか…」
「ホント、ショック。アロンの時は絶対守る」
「いや、アロンはお前が思うよりずっと肝が座ってるよ。それにしても奇襲って、…確かに奇襲だよね」
「ぷっ…リディラも『奇襲…確かにあれは奇襲ですわね』って真顔で納得していたよ」
そう言ってユリアンとリゼルが笑っていた。
その近くで「リディラ嬢?奇襲って何?リディラ嬢の話、有難い。でも奇襲って何?」と一人悶々と聞いているバークレイがいた。
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