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第四章

閑話 バークレイ(嫡子の方)、出遅れて焦る〜ライバルというより壁でした。

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 密かに大好きなリディラ嬢が事業を立ち上げた。と言う噂を聞いた。すぐさまリゼルに確認する。
 「リディ…ラ嬢…が何か始めたって聞いたんだけど」
 やっぱり一息に名前が言えない。私はピュア。ドキドキする私をよそに、リゼルはサラリと答えた。
 「うん。子供服を作り始めたんだ。コンセプト決めたりデザインしてる。生地の決定もリディラだな。難しい契約なんかは母上が協力してるけど、まぁだいたい動かしてるのはリディラだよ」
 「…んぐっ」
 私、変な声出ました。噂は本当だったのか。噂では母君のアシスタント的立場でという感じだったけど、今の話ではアシスタントは母君だよね?とか頭の中を整理していたらユリアンが補足してきた。
 「生地の決定だけじゃなくて、生地の開拓も始めたいようなことリディラが言っていたけど、あれはどうなった?」
 はい?か、開拓?
 「ああ、あれね。始めるよ。ルゼルが『あの海でした時みたいな特有の布も作るんですか?』って聞いたんだよ。そしたら『それよ!あのデザインに合う生地が見つからないと思ったけど、作ればいいんだわ!』て。それはもう乗り気で、今は糸になりそうな素材探してる」
 え?開拓じゃなくて開発なの?織糸から開発するの?
 「もうリディラのアトリエ棟はデザイン画と糸でいっぱい。しばらくあのアトリエには入れないよ」
 「え?え?リディラ嬢のア、アトリエ棟?アトリエ棟?」
 わわわ。声に出てた。
 「そう。父上がリディラの誕生日にプレゼントしたんだよ。明るくて私も気に入ってるアトリエなんだけどね」
 「私もあのアトリエ好きだな。しばらく入れないのは残念」
 え?ユリアンも入ったことあるの?というかアトリエ棟を誕生日プレゼント?
 「アトリエ棟?邸内にじゃなく?」
 ちょっと想像しにくくて質問しました。これに答えたのは何故かユリアン。
 「そう。庭にポンて建てた。そしたらリディラが『いつか嫁いでこの家から出るのに、こんな立派なものを造るなんて』みたいなこと言ったんだよ。そしたら伯父上とリゼルがその日を想像して肩を落としてさ」
 ユリアンはそう言って笑った。ああ、ユリアンはリディラ嬢の誕生会に行ってたのか。そうだよな、従兄弟だもんな。羨ましい。しかも全く恋愛感情無さそうなところが余裕あって羨ましい。で、余裕のないリゼルが言う。
 「言うな、ユリアン。リディラが嫁ぐ日なんて来なくて良い」
 うわ、それ微妙。他人のお嫁さんにはなって欲しくないけど、私のところなら嫁ぐ日が来ても良い。あ?待って。もしそんなことがあったらリゼルは私のお義兄様になるの?リゼルお義兄様なの?
 「この気持ち、妹嬢のいるレイノルドならわかるよね?」
 急にリゼルに振られて慌てた。
 「え?リゼルおにいさま?」
 ヤバ。何か言わなきゃと思ったら脳内思考が言葉になって出ていた。
 「うわ、なんだよレイノルド、リディラの真似止めて」
 渋い顔したリゼルに笑うユリアン。なんかごまかせたっぽい。
 じゃなくて、リディラ嬢…出来過ぎでは?対等な出来でなくても、せめて足を引っ張る男にはなりたくない。はっ、そうだ、お義兄様に伺えば良いんだ!
 「リゼルお義兄様!リディラ嬢が嫁ぐとしたらどのような相手ならご納得ですか?」
 ああ、もう、脳内妄想と現実の境目が曖昧だ。リゼルをお義兄様って言ってるし敬語になってる。
 「あはは」
 ユリアンは笑ってるけどリゼルはしっぶーい顔だ。
 「ええ…考えたくないよ。でもなぁ、まずリディラを精神的に幸せにできる男で…」
 かなりアバウト…だけどこれはリディラ嬢の気持ち次第というところもあるから、まだアウトではない。と、思う。
 「それから経済的にも不自由させない家」
 うん。それはまぁ大丈夫。うちはそこそこ良い感じの侯爵家だ。
 「あとは、これは絶対なんだけど」
 絶対?大事なとこね。
 「私より全てにおいて上であること」
 「はぁ?」
 大きな声出ました。貴族らしからぬ声です。
 リゼルより全て上?
 「え?顔も?」
 顔もだったらもう敵わない。無理。
 「顔?そりゃ良い顔の方が良いけど、それより才能とか、努力とか、強さとか、そういうことだよ」
 「妹が欲しければ私を超えていけってこと?」
 とユリアン。
 「そういうこと。自分より弱い男になんて任せられないだろ?レイノルドもそうでしょ?妹嬢を委ねられる相手って」
 …ごめん、エリィ。考えたことないよ…。だってエリィはエリィが強いからなぁ。
 でもとにかく、リゼルを超える…か。いやぁ…うーん…。
 「リゼル、それって全部じゃなくて一つだけでもリゼルを超えていれば良いの?」
 「ええー。一つじゃなぁ…」
 「だってリゼルを超えるってなかなか難しいよ。そんなの私の知る限りユリアンと…」
 ここで間髪入れずユリアンが否定する。
 「あ、私はナイナイ。リディラ従姉妹だし、ほぼ妹で身内」
 リゼルは少し残念な顔した。あー、リゼル的にはユリアンが理想的な妹婿なのね。わかりすぎる。エリィの婿殿としてもユリアンならうちの父上も大喜びだろうしなぁ、とかぼんやり考えいたから次の台詞は我ながらほとんど無意識に出た。
 「あとは…マグヌス殿下くらいじゃない?」
 ユリアンがニヤッと笑ってリゼルを横目で見た。リゼルは目がまん丸だ。しまった。すんごい現実的な最大ライバルを見つけてしまった!マグヌス殿下だ!リアルに有り得すぎる…勝てない、勝ちたい。勝算ある?変な汗出てきた。は?考えただけで不敬?
 「うん?何?何が私くらい?」
 スッと会話に入ってきたのはマグヌス殿下だ。
 マグヌス殿下は身分はもちろん、学力もあるし、運動神経良いし、美形だし、品もあるし、性格も良い。
 …あらためて完璧じゃないか‼︎
 エリィが惚れ込むのも無理ないよ。そして確かにリゼルを超えている…。
 で、言わなくて良い説明をユリアンがする。 
 「リゼルにリディラを嫁に出すならどんな男子が良いかと聞いていたんです。ほら、リゼルはリディラを溺愛しているでしょう?それでリゼルを超える男子じゃないとダメだと」
 「いえ、ダメとは言っていません。あくまで私の理想です」
 慌ててリゼルが言う。
 「それで、私はリゼルの条件をクリアしたと言うこと?」
 マグヌス殿下は困った顔で言う。私は慌てちゃうよ。
 「すみません殿下。リゼル以上と言われてとっさに出てきたのがユリアンと殿下だったのです」
 もう平謝り。でも殿下はサラッと笑って
 「いや、光栄だよレイノルド。だけどいらぬ憶測を招くから、リディラに限らずご令嬢の話に私の名は出さないでくれないか。いらぬ矛先がご令嬢に向かないとも限らないから」
 あー、だよね。王妃様のお茶会に呼ばれているご令嬢は皆王太子妃候補だもんな。それにしてもマグヌス殿下は紳士だな。憧れちゃう。
 ここでユリアンのファインプレー。
 「殿下はリディラの相手としたらどんな男子が良いと思いますか?」
 これの答え次第で殿下がリディラ嬢をどんなふうに思っているかわかるかも。実は気になっていたんだよね。実際リゼル以上じゃないとリディラ嬢は好きにならないんじゃないかって。で、殿下はその気があるのかないのかって。
 「うーん…リディラのお相手か…」
 あ、待って殿下。殿下ってリディラ嬢を呼び捨てなの?なんかこう…ぐさって来るんだけど…。
 そんな殿下はさらにぐさって来る一言を言った。
 「…国内にはいないんじゃないか?ギリギリ、ユリアンあたりが釣り合うと思うが」
 ユリアン、微笑んで首を振ってます。
 更にこの一言で殿下はリディラ嬢に恋愛感情がなさそうと判断。ほっとする間も無く、殿下は私に爆弾投下。
 「あとは東のタクス国の第二王子あたりが釣り合いそうだな。商業が盛んな国だし、年齢も近いし、勉学も秀でていて先々は兄君の側近になるようだし、独立するときは公爵家を立ち上げることが決まっているからクイン侯爵も納得するだろう」
 待って待って、殿下待って。
 他国の王子?
 「殿下、やめてください。リディラが他国の王子に嫁ぐなんてあり得ないです!」
 いいぞリゼル!言って言って!
 「なくはないだろう?お前の家にタクス出身の使用人が多いのはそのつながりだろう?」
 「はぁ、まあ…」
 「そのつながりって?」
 あ、また無意識に言ってる私。で、解説はユリアン。
 「リゼルの家は何代か前にタクスの王女が降嫁してるんだよ」
 「ええっ‼︎」
 クイン侯爵家って何?うちも侯爵家だけど他国のお姫様なんて来たことないよ?
 にわかにリディラ嬢海外輿入れ説がリアルに…。
 ワタワタする私にユリアンが小声で言った。
 「バークレイ、頑張らないと、リディラは遠くに行ってしまうよ」
 「は?」
 ちょ、ユリアン?
 なんでバークレイと呼ぶ?じゃなくて、どういう意味?バレ…、え、やだ、やめて、恥ずかしい。
 一人ワタワタし続ける私をよそに休み時間は終わり、意味ありげに微笑むユリアンと眉間にシワを寄せて「海外はダメだ」と呟くリゼルと変わらず爽やかな殿下はそれぞれの席に戻って行った。
 …とにかく、ライバルは世界中にいると思って頑張れ!何かしらを頑張れ!私!レイノルド・バークレイ!
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