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第四章
第七話 知りたいルゼル〜レタスは丸いを知る
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さて、大人たちがリオンとルゼルの異能さに何度目かの驚きを受けて連日話し合いを続けていた頃、ルゼルはルゼルで深く考えていたことがある。
それは先日しゅっせきしたかいぎでリオンが言っていたことについてだ。
「しゅっしぇき…まだ言えない」考えながら口に出してポツリと言った。
…知っていることはたくさんたくさんあった方がいい。
宰相である叔父上がそう言っていたという。その言葉をルゼルは最近事あるごとに思い出していた。
自分は何をどれくらい知っているのか…目の前にあるリオン色の植物図鑑も、父上が経済ぐるぐるで与えてくれた物だ。その世の中の仕組みも海に行くまで知らなかった自分だ。お砂に水を工夫すると固くなることも知らなかった。まだまだ知らないことがあるはず。だけど何を知らないのかがわからない。
このままではいけない気がした。
「何かをたくさん知りたい…どしたら何かをたくさんたくさん知ることできるかな?」
ルゼルはうーんと唸りながら考えた。お着替えするときも、廊下をアロンと手を繋いで歩くときも、お食事のときも考えていた。
「ルゼル、どうしたの?」
眉間に皺を寄せながら食事をしているルゼルが気になったリゼルが聞いた。
「アニューレ、私は何かをたくさんたくさん知りたいの。でもでも何を知りたくなればいいのかわからないの」
今、学園は夏休み中だ。そして今日は平日だ。だから父上はお仕事でいない。母上もお友達のお茶会でいない。リゼルはいる。子どもだけの昼食だからアニューレ呼びだ。
「…なんか、哲学だな」
「てつがく?」また知らない言葉が出てきた。自分は本当に知らないことが多いと思ってルゼルは焦る。
「ルゼルはどうしてそう思うようになったの?」
そうリディラに聞かれ、ルゼルは宰相の叔父上が話していたという事を説明した。
「なるほどなぁ。うーん、叔父上は国を動かす人だから、まず何か考える具体的な事があってそこから知りたい事が派生してる気もするから…ルゼルみたいにゼロから知ることを探すのは難しいね」
「あら、お兄様、そうでもありませんわよ。好奇心さえあれば何でも知りたい物に変わりますわ」
「え?アネーレ、もしもだと?もしもだとどんなですか?」
「例えばこのサラダ」
と目の前にあるサラダに目を向ける。
「ルゼルはこのサラダの葉が何かわかる?」
「わかるます。あ、わかります」
「お」
「あ」
時々ルゼルは昔の言い回しが出ることがある。リゼルやリディラのキュンポイントだ。
「えとえと、このシャクシャクするの葉っぱは、こっちがレタスでこっちがサニーレタス言います。あとあと、これはバジル。リオン色のしょくぶつ図鑑にありました。あれ?レタスとサニーレタスは図鑑にないでした」
「そういうところよ。目の前にアレ?と思うことは沢山あるの。アレ?を探せば知りたいことに変わるわ」
すごい。さすがアネーレ。そのやり方なら知りたいことがたくさん見つかりそうです。リディラが続ける。
「ルゼルはレタスやサニーレタスがどんな形をしているか知ってる?」
「レタスの形?」
ルゼルの知っているレタスもサニーレタスも小さな形をしている。これがレタスの形ではないのか?レタスの形?と不思議に思っているとリディラが衝撃の事実を告げた。
「レタスはね、これがレタスの形ではないのよ。元々の葉はもっと大きくて、その葉が集まって丸くなっているのがレタスの形よ」
「えっ⁉︎このレタスは集めると一枚の葉っぱになるの?葉っぱが集まると丸になるの?」
え?何それ?レタスって丸いの?大きいの?どうやってこのお皿に乗る大きさにしてるの?
知りたい!
「丸いのレタスを知りたいです!どこで知ることできますか?」
…食材搬入の入り口とか厨房とか…だけど貴族、それも大貴族のクイン侯爵家の子息が行くべき場所でないからなぁ…ルゼル様がレタス畑まで行くのはさらにあり得ないしなぁ…などと給仕の使用人たちが手を動かしながら思っていると、
「そういえばお食事作るの場所、まだ行ったことないでした」
ルゼルが歌を沢山覚えた時、使用人が仕事をする場所のあちこちに行ってみたルゼルだったが、厨房は刃物があるし火も扱うので危ないからと自由な出入り禁止エリアとなっていた。しかも厨房では衛生管理を徹底していて全員マスク着用、歌は歌わないことになっていた場所だったのでルゼルも行くことがなかった。
自由な出入りはダメだけど父上の許可があれば行けるのでは?
「侯爵様の許可があればご案内いたしますよ」
執事長のモーリーが言った。
「モーリー、父上のきょか、おねがいです」
「はい、かしこまりました」
こうして翌日、ルゼルは厨房見学に行った。厨房ではモーリーと料理長の言うとこをきちんと聞くという約束でジゼルの許可はなんなく降りた。後学のためにとリゼルとリディラも同行した。みんなが行くなら行きたいとアロンも一緒になった。
夕食の支度をしている厨房は未知の世界だった。
色々な匂いと音がする。匂いは嗅いだことがないものばかりだし、音もトントン、ジュージュー、ペシペシ、ブクブクと様々だ。あちらこちらで大きな器がシュンシュンと音を立てている。モーリーが解説する。
「あれは鍋に水を入れて、熱して沸騰させている音です。あの中に食材を入れて食べやすくするのです」
「なべ…」
初めて見た器はなべ。覚えた。ねっしてふっとうはまだ謎だ。
続けて料理長が言う。
「こちらにはジャガイモを入れて茹でます。ジャガイモは固くて、そのままでは食べられないので火を通して柔らかくするのです」
水に火をつけて熱く熱く熱くしたことをねっしてふっとうというらしいと解釈した。
そして茹でる前のジャガイモを手渡してくれた。手にしたジャガイモをマジマジと見るルゼルたち。
「ジャガイモ…だいたい丸だけどでこぼこ…え?土?ねぇ、モーリー、これ土ついてます?」
「はい。ジャガイモは土の中で育つ野菜です」
「え⁉︎土の中?どうやって土の中にあるのを見つけるですか?」
「土から出ているジャガイモの葉が目印になります。ジャガイモの葉を知っている者が見れば、その下にジャガイモがあることがわかります」
「はわ!すごいの人がいるのね!」
「はい。そういう人たちがジャガイモだけ集めてジャガイモ畑にすることで葉の見分けがつかない人でもそこに行けばジャガイモが採れるように工夫しているのですよ」
「ではレタスはレタスのわかる人がレタスだけ集めてレタス畑を工夫しているの?」
「はい。左様でございます」
「はわ…」
その理屈だと、野菜の種類だけ畑があることになる。畑はきっと沢山あるはず。畑ってなんだかすごい。
感心しているとリゼルが料理長に聞いた。
「ねぇ、このジャガイモはでこぼこしているし、土もついてるけど、どんな風に綺麗にしてるの?」
確かに。お料理にでてくるジャガイモは綺麗な黄色だ。
「はい。実はジャガイモの芽は身体にあまり良くないので取り除きます。芽を取り除くついでに皮を剥くのです。今やってみますね。少しお下がりください」
そう言って料理長はジャガイモとナイフ(騎士様の剣よりずっと小さくて短い。料理長も騎士様みたいだ)を持ってささっとジャガイモを剥き始めた。
「はわわ!」
「わー!」
これにはルゼルだけでなくアロンもビックリして声を出した。
料理長の手から土のついた紐が長々と出てくる。新年会でカッコいいお兄さんが見せてくれた手品みたいだ。どうなっているのか?
「このようにジャガイモの皮を剥いてしまえば土も綺麗に処理できます」
手品じゃなくて技術だった。すごい!
ルゼルとアロンは拍手喝采だ。
その後も料理長の解説でペシペシという音はハンバーグになる塊から空気を出している音、トントンという音はまな板の上で何かを切る時の音だということもわかった。
同じ野菜の仲間でもそのまま食べられるものとジャガイモみたいに火を通さないと食べられないものがあることも知った。同じ野菜なのに不思議だ。
そしていよいよレタスだ!
「ルゼル様、こちらが調理前のレタスでございます」
「はわーっ!」
料理長が差し出したのは、緑色の葉っぱの集合体だった。葉っぱ同士が少しずつ丸みを帯びているから集まると丸になる。前にリオンと発見した、どんなものも形の集合にあらたな概念が加わった。
「形は曲がるもできる…」
レタスを持ったルゼルが呟いた。
「いかがですか?ルゼル様」
モーリーが聞いた。
「はい。本当にレタスは丸いでした!葉っぱが集まれーってして丸くなるの不思議です。もしもレタスが集まれしてなかったらレタスの葉っぱは丸くならなくて画用紙みたいになってたのかな?」
ルゼルが疑問に思った時、料理長が別の物を差し出した。
「そしてこちらがサニーレタスです」
「はわ?サニーレタスは丸くない!」
丸くないけどレタスと同じ葉っぱの集合体だ。同じ集まれをしているのにどうして形が違うのだろう?
「…アニューレ、アネーレ、ルゼルにはわからないことがたくさんたくさんあること、わかりました」
サニーレタスを持ってサニーレタスを凝視したままのルゼルがそう言った。さらに言う。
「料理長、レタスもサニーレタスもお食事の時は小さいです。どうしてですか?」
「はい。ルゼル様。それは食べやすい形に切っているからです」
と言って料理長はレタスの葉を一枚剥くと、それを洗い、まな板に乗せて切り始めた。そして切った物をルゼルに見せた。それはルゼルがよく知るレタスだった。
「知らなかった…」
レタスは丸い。それを一枚ずつはがして、洗って、食べやすい形に切っている。
ジャガイモもそうだ。土のついたジャガイモを皮を剥いて、芽を取り除いて、食べやすい大きさにして、茹でる。しかもその後味付けをすると言う。
お料理って大変。当たり前に食べていたけれどなんて色々な工夫をされていたんだろう。考えた人はすごいし、料理長は騎士様みたいだ。
騎士様みたいな料理長が言った。
「今夜のお食事はハンバーグとこれらを使った物を添えます。ジャガイモは粉吹き芋に、もちろんレタスのサラダもありますよ」
「あろ、ハンバーグしゅき」
アロンが両手を上げて喜んだ。
「お夕食には侯爵様も間に合うようですよ」
モーリーが言うのを聞いて、ルゼルは
「父上にありがとございますと、レタスは丸いだったこととジャガイモは皮を剥くことと、ちゅうぼうはすごいのお話します!」
とキラキラした翡翠の目で言った。
「私もお父様に、今度はお菓子を作る様子も見ていいか伺うわ」
とリディラが言うとアロンも負けじと
「あろ、父ーえに、はんばーぐって言う!」
と言ってみんなを笑わせた。
今夜はより一層楽しい夕食の時間となりそうだ。とモーリーは思った。
それは先日しゅっせきしたかいぎでリオンが言っていたことについてだ。
「しゅっしぇき…まだ言えない」考えながら口に出してポツリと言った。
…知っていることはたくさんたくさんあった方がいい。
宰相である叔父上がそう言っていたという。その言葉をルゼルは最近事あるごとに思い出していた。
自分は何をどれくらい知っているのか…目の前にあるリオン色の植物図鑑も、父上が経済ぐるぐるで与えてくれた物だ。その世の中の仕組みも海に行くまで知らなかった自分だ。お砂に水を工夫すると固くなることも知らなかった。まだまだ知らないことがあるはず。だけど何を知らないのかがわからない。
このままではいけない気がした。
「何かをたくさん知りたい…どしたら何かをたくさんたくさん知ることできるかな?」
ルゼルはうーんと唸りながら考えた。お着替えするときも、廊下をアロンと手を繋いで歩くときも、お食事のときも考えていた。
「ルゼル、どうしたの?」
眉間に皺を寄せながら食事をしているルゼルが気になったリゼルが聞いた。
「アニューレ、私は何かをたくさんたくさん知りたいの。でもでも何を知りたくなればいいのかわからないの」
今、学園は夏休み中だ。そして今日は平日だ。だから父上はお仕事でいない。母上もお友達のお茶会でいない。リゼルはいる。子どもだけの昼食だからアニューレ呼びだ。
「…なんか、哲学だな」
「てつがく?」また知らない言葉が出てきた。自分は本当に知らないことが多いと思ってルゼルは焦る。
「ルゼルはどうしてそう思うようになったの?」
そうリディラに聞かれ、ルゼルは宰相の叔父上が話していたという事を説明した。
「なるほどなぁ。うーん、叔父上は国を動かす人だから、まず何か考える具体的な事があってそこから知りたい事が派生してる気もするから…ルゼルみたいにゼロから知ることを探すのは難しいね」
「あら、お兄様、そうでもありませんわよ。好奇心さえあれば何でも知りたい物に変わりますわ」
「え?アネーレ、もしもだと?もしもだとどんなですか?」
「例えばこのサラダ」
と目の前にあるサラダに目を向ける。
「ルゼルはこのサラダの葉が何かわかる?」
「わかるます。あ、わかります」
「お」
「あ」
時々ルゼルは昔の言い回しが出ることがある。リゼルやリディラのキュンポイントだ。
「えとえと、このシャクシャクするの葉っぱは、こっちがレタスでこっちがサニーレタス言います。あとあと、これはバジル。リオン色のしょくぶつ図鑑にありました。あれ?レタスとサニーレタスは図鑑にないでした」
「そういうところよ。目の前にアレ?と思うことは沢山あるの。アレ?を探せば知りたいことに変わるわ」
すごい。さすがアネーレ。そのやり方なら知りたいことがたくさん見つかりそうです。リディラが続ける。
「ルゼルはレタスやサニーレタスがどんな形をしているか知ってる?」
「レタスの形?」
ルゼルの知っているレタスもサニーレタスも小さな形をしている。これがレタスの形ではないのか?レタスの形?と不思議に思っているとリディラが衝撃の事実を告げた。
「レタスはね、これがレタスの形ではないのよ。元々の葉はもっと大きくて、その葉が集まって丸くなっているのがレタスの形よ」
「えっ⁉︎このレタスは集めると一枚の葉っぱになるの?葉っぱが集まると丸になるの?」
え?何それ?レタスって丸いの?大きいの?どうやってこのお皿に乗る大きさにしてるの?
知りたい!
「丸いのレタスを知りたいです!どこで知ることできますか?」
…食材搬入の入り口とか厨房とか…だけど貴族、それも大貴族のクイン侯爵家の子息が行くべき場所でないからなぁ…ルゼル様がレタス畑まで行くのはさらにあり得ないしなぁ…などと給仕の使用人たちが手を動かしながら思っていると、
「そういえばお食事作るの場所、まだ行ったことないでした」
ルゼルが歌を沢山覚えた時、使用人が仕事をする場所のあちこちに行ってみたルゼルだったが、厨房は刃物があるし火も扱うので危ないからと自由な出入り禁止エリアとなっていた。しかも厨房では衛生管理を徹底していて全員マスク着用、歌は歌わないことになっていた場所だったのでルゼルも行くことがなかった。
自由な出入りはダメだけど父上の許可があれば行けるのでは?
「侯爵様の許可があればご案内いたしますよ」
執事長のモーリーが言った。
「モーリー、父上のきょか、おねがいです」
「はい、かしこまりました」
こうして翌日、ルゼルは厨房見学に行った。厨房ではモーリーと料理長の言うとこをきちんと聞くという約束でジゼルの許可はなんなく降りた。後学のためにとリゼルとリディラも同行した。みんなが行くなら行きたいとアロンも一緒になった。
夕食の支度をしている厨房は未知の世界だった。
色々な匂いと音がする。匂いは嗅いだことがないものばかりだし、音もトントン、ジュージュー、ペシペシ、ブクブクと様々だ。あちらこちらで大きな器がシュンシュンと音を立てている。モーリーが解説する。
「あれは鍋に水を入れて、熱して沸騰させている音です。あの中に食材を入れて食べやすくするのです」
「なべ…」
初めて見た器はなべ。覚えた。ねっしてふっとうはまだ謎だ。
続けて料理長が言う。
「こちらにはジャガイモを入れて茹でます。ジャガイモは固くて、そのままでは食べられないので火を通して柔らかくするのです」
水に火をつけて熱く熱く熱くしたことをねっしてふっとうというらしいと解釈した。
そして茹でる前のジャガイモを手渡してくれた。手にしたジャガイモをマジマジと見るルゼルたち。
「ジャガイモ…だいたい丸だけどでこぼこ…え?土?ねぇ、モーリー、これ土ついてます?」
「はい。ジャガイモは土の中で育つ野菜です」
「え⁉︎土の中?どうやって土の中にあるのを見つけるですか?」
「土から出ているジャガイモの葉が目印になります。ジャガイモの葉を知っている者が見れば、その下にジャガイモがあることがわかります」
「はわ!すごいの人がいるのね!」
「はい。そういう人たちがジャガイモだけ集めてジャガイモ畑にすることで葉の見分けがつかない人でもそこに行けばジャガイモが採れるように工夫しているのですよ」
「ではレタスはレタスのわかる人がレタスだけ集めてレタス畑を工夫しているの?」
「はい。左様でございます」
「はわ…」
その理屈だと、野菜の種類だけ畑があることになる。畑はきっと沢山あるはず。畑ってなんだかすごい。
感心しているとリゼルが料理長に聞いた。
「ねぇ、このジャガイモはでこぼこしているし、土もついてるけど、どんな風に綺麗にしてるの?」
確かに。お料理にでてくるジャガイモは綺麗な黄色だ。
「はい。実はジャガイモの芽は身体にあまり良くないので取り除きます。芽を取り除くついでに皮を剥くのです。今やってみますね。少しお下がりください」
そう言って料理長はジャガイモとナイフ(騎士様の剣よりずっと小さくて短い。料理長も騎士様みたいだ)を持ってささっとジャガイモを剥き始めた。
「はわわ!」
「わー!」
これにはルゼルだけでなくアロンもビックリして声を出した。
料理長の手から土のついた紐が長々と出てくる。新年会でカッコいいお兄さんが見せてくれた手品みたいだ。どうなっているのか?
「このようにジャガイモの皮を剥いてしまえば土も綺麗に処理できます」
手品じゃなくて技術だった。すごい!
ルゼルとアロンは拍手喝采だ。
その後も料理長の解説でペシペシという音はハンバーグになる塊から空気を出している音、トントンという音はまな板の上で何かを切る時の音だということもわかった。
同じ野菜の仲間でもそのまま食べられるものとジャガイモみたいに火を通さないと食べられないものがあることも知った。同じ野菜なのに不思議だ。
そしていよいよレタスだ!
「ルゼル様、こちらが調理前のレタスでございます」
「はわーっ!」
料理長が差し出したのは、緑色の葉っぱの集合体だった。葉っぱ同士が少しずつ丸みを帯びているから集まると丸になる。前にリオンと発見した、どんなものも形の集合にあらたな概念が加わった。
「形は曲がるもできる…」
レタスを持ったルゼルが呟いた。
「いかがですか?ルゼル様」
モーリーが聞いた。
「はい。本当にレタスは丸いでした!葉っぱが集まれーってして丸くなるの不思議です。もしもレタスが集まれしてなかったらレタスの葉っぱは丸くならなくて画用紙みたいになってたのかな?」
ルゼルが疑問に思った時、料理長が別の物を差し出した。
「そしてこちらがサニーレタスです」
「はわ?サニーレタスは丸くない!」
丸くないけどレタスと同じ葉っぱの集合体だ。同じ集まれをしているのにどうして形が違うのだろう?
「…アニューレ、アネーレ、ルゼルにはわからないことがたくさんたくさんあること、わかりました」
サニーレタスを持ってサニーレタスを凝視したままのルゼルがそう言った。さらに言う。
「料理長、レタスもサニーレタスもお食事の時は小さいです。どうしてですか?」
「はい。ルゼル様。それは食べやすい形に切っているからです」
と言って料理長はレタスの葉を一枚剥くと、それを洗い、まな板に乗せて切り始めた。そして切った物をルゼルに見せた。それはルゼルがよく知るレタスだった。
「知らなかった…」
レタスは丸い。それを一枚ずつはがして、洗って、食べやすい形に切っている。
ジャガイモもそうだ。土のついたジャガイモを皮を剥いて、芽を取り除いて、食べやすい大きさにして、茹でる。しかもその後味付けをすると言う。
お料理って大変。当たり前に食べていたけれどなんて色々な工夫をされていたんだろう。考えた人はすごいし、料理長は騎士様みたいだ。
騎士様みたいな料理長が言った。
「今夜のお食事はハンバーグとこれらを使った物を添えます。ジャガイモは粉吹き芋に、もちろんレタスのサラダもありますよ」
「あろ、ハンバーグしゅき」
アロンが両手を上げて喜んだ。
「お夕食には侯爵様も間に合うようですよ」
モーリーが言うのを聞いて、ルゼルは
「父上にありがとございますと、レタスは丸いだったこととジャガイモは皮を剥くことと、ちゅうぼうはすごいのお話します!」
とキラキラした翡翠の目で言った。
「私もお父様に、今度はお菓子を作る様子も見ていいか伺うわ」
とリディラが言うとアロンも負けじと
「あろ、父ーえに、はんばーぐって言う!」
と言ってみんなを笑わせた。
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