金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第六話 団長、副団長、実演!〜カッコ良すぎて!カッコ良すぎて!

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 リオンとルゼルによる騎士たちへの助言はルカたちによりすぐさまグインとキエルに報告が上がった。
 「…あのお二方の件も驚きだが、まず、お前たちが私たちの真似をしていることが驚きだ」
 とグインがルカたちをギロっと睨んだ時は誰もが視線を合わせなかった。合わせているようで焦点を合わせないようにしていた。怖いからだ。怖いとわかっていながら報告しただけでも褒めて欲しい。
 「で、お前たちは我々の真似をしながらお二方の話したことは意識していたのか?」
 つまり、耳や目を意識して真似たのかという意味だ。
 「いえ。私は団長の動きを真似ることしか意識していませんでした」とルカ。冷や汗が出ている。
 「私もです」エール。手汗がすごい。
 「ふむ…キエル、どう思う?」
 「…実際、自分ではそれほど他人より目を使っている意識はありませんね。人は私のように見えていないのでしょうか?」
 多分見えていない。キエルは天才肌だからだ。とその場にいた者は思った。
 「私は心当たりがある。音で判断している。それだけではないがな」
 グインが言った時、騎士たちは驚いた顔でチラチラとお互いを見た。
 「お前たち、このことは他言禁止。漏らしたなら首をはねる」
 さらりと言うグイン。ヒュッという騎士たち。さらにグインが続ける。
 「よし、確かめよう」

 というわけで、今日もリオンとルゼルが王宮に呼ばれた。
 「先日ルカとエールが団長と副団長の真似をしたが、全然似ていないと団長が言い、本物を見てほしいと言っている」
 という説明を二人にはした。もちろん二人は大喜びだ。

 場所は前回と同じ子ども用ダンス練習場だ。グインがいるだけで練習場が狭く感じる。
 「さて、お二方、先日ルカとエールが我々の真似をしたそうだが、今日は本当の私と副団長の模擬戦を見ていただきたい」
 「はいっ」
 「はいっ」
 「その前に、ルカとエール、私とキエルの真似をしてみろ」
 「えっ、ええーっ」
 「いや、それは…ちょっと…」
 「やれ」
 「はぃぃ」
 グインのひと睨みでルカとエールは位置についた。見守るキーツたちも緊張している。
 「いきます」
 ルカの合図で団長副団長模擬戦モノマネが始まる。
 前回と同じ剣筋、動きだ。
 「ほぅ、団長の動きをよく再現していますね」とキエル。
 「いや、エールもお前の仕草をよく再現できている。思ったより似てるな」
 二人とも顔はなんとなく笑っているが腕組みをして仁王立ちなところが怖い。
 「リオン殿、ルゼル殿、どうだ二人の動きは」
 グインが模擬戦をキラキラした目で見る二人に聞いた。紫も翡翠も瞬きを忘れている。
 「はい、団長様、お二人とも前と同じです」
 「そうか」 
 グインはそう言っただけで後は無言になった。
 ルカたちのモノマネが終わりグインたちの番になった。
 「お二人ともよく見ていてくださいよ」
 「はい」
 「はい」
 リオンもルゼルもワクワクしてドキドキしてまたワクワクしてドキドキしていた。
 ルカも背は高いがグインはそれ以上に高い。きっと迫力が違うはずだ。ビックリしないようにしなければ。
 「よし、キーツ、合図を」
 「はっ。では…始め!」
 キンッ!
 「わっ!」
 「はわわわわっ!」
 予想以上に迫力があった。動きはルカたちと同じだ。だが、何かが圧倒的に違う。何が違うんだろう…。ビックリしない準備をしていたのにビックリしてしまった。
 ここでグインがしかけた。ルカたちのモノマネにはなかった違う動きを入れてきたのだ。
 「うわっマジかよ団長」
 「あれは戦場でやる本気のヤツですよね…」
 「模擬戦ではやりませんよね、普通。仕留めにいってますよ」
 「副団長相手だからできるけど、俺たちにされたらひとたまりもないな…」
 グインの素早く大きな一振りをキエルはなんなくかわして前進してきた。
 「副団長もすごいな…引かずにあの中に入って行くんだもんな」
 やっぱり団長様と副団長様はとってもすごいらしい。ルゼルは「はわ」も忘れて見入っていた。

 二人の模擬戦が終わった。激しい動きだったが息がほとんど上がっていない。
 「はいかつりょう…おうかくまく…すごい」
 ルゼル天使が人体呪文言ってる。
 「どうでした?」
 キエルがリオンとルゼルに聞いた
 「すごいすごいで、ビュンビュンてすてきでした!」
 「とってもカッコいいでした!」
 二人とも興奮で跳ねている。
 「はははは!」
 剣を持って動いているグインを見ても怖がらないどころかこの興奮だ。普通の幼児なら泣いて悪夢まで見るレベルだ。グインはつい声を出して笑っていた。
 「これが団長と副団長の本物の模擬戦です」と言った。そして続けて、
 「この後、宰相様にリオン殿たちを案内するよう言いつかっています。私とキエルで案内しましょう」そしてルカたち騎士に向かい
 「今日はこのまま私とキエルでリオン殿たちの護衛をするから、お前たちは戻って職務につけ」と言った。
 「はい。ではリオン様、ルゼル様、失礼致します」
 「はい。騎士様ありがとございました」ぺこり。
 「騎士様、ありがとございました」ぺこり。
 リオンとルゼルは丁寧にお辞儀をして練習場を後にした。

 初めて入る宰相の執務室はお仕事の雰囲気で溢れていてとてもカッコよかった。
 「来たか二人とも」
 リオンたちが部屋に来ると、書類を扱う手を止めてアーネストがこちらを見た。
 「はい。父上。団長様と副団長様がつれてきてくださいました」
 「よし、では少し休憩しよう。私は隣の部屋で休むので皆も休憩をとってくるといい」
 執務室内で働く者たちにそう言うと、アーネストは続きの間にグイン、キエル、リオン、ルゼルの四人を案内した。メイドがお茶とクッキーやプチシュークリームなどのお菓子の用意をするとサッと退室していった。
 「ルゼル、リオン、食べて良いぞ」
 手は練習場を出る時に洗った。その後は何も触っていない。お菓子を食べて良い手だ。お腹も少し空いた。遠慮なくいただこう。
 「「いただきます」」
 「私、このシュークリーム大好き。ルゼもだよね」
 「うん。シュークリームすきぃ」
 そんな二人の横で大人たちが話を始める。まずはアーネストだ。
 「時間を取らせてすまなかったな。それでどう思う」
 「いや、むしろ時間を作っていただけて良かったです。色々確認したいのはこちらもなので」とグイン。頷きながらキエルが続ける。
 「騎士たちの真似る我々の動きは確かに良く似ていました。しかし自分が見てもすぐには団長の弱点はわかりませんでした」
 「それはお前が特殊なんだよ。お前は感覚的に闘えるから相手の弱点など意識しないんだ。自覚なしなんだよお前は」
 グインに言われてキエルは少し眉間に皺を寄せながら目をつぶった。なんと返せば良いかわからない。
 「だがそれだけに自分の知らない弱点は知っておくべきだ。そうでないと相手に知られた時の対処ができん」

 そんなやりとりを食べながら聞いていた二人は何か言いたそうな顔をしている。おそらく言いたいことはグインとキエルのなのだらろうが、先日ジゼルとした約束があるので言えないのだろう。
 それに気づいたアーネストが言った。
 「二人とも、私も団長も副団長も、二人がジゼルと約束したことを知っているよ。だから今はの話をしても大丈夫だ」
 「ホントですか?」
 リオンが紫の瞳で大人三人を順番に見ている。
 「いや、失礼。大人だけで話していて申し訳ない。それで、何か私たちの剣さばきに特別すごいところや弱点はありましたか?強くなりたいので教えてください」
 「私にも是非」
 グインとキエルが笑顔でリオンたちに言う。グインは笑顔も迫力がある。
 「父上。団長様たちにはお話しても良いんですか?」
 「ああ、団長たちには今日思ったことを話してごらん」
 アーネストも笑顔で言う。父上が言うならジゼル伯父上との約束やぶりにはならないだろう。安心したリオンとルゼルが話し出した。

 「あのね父上、ルカ卿の団長様の時は団長様お耳で色々わかるんだなーって思ったんだけど、本物団長様はお耳だけじゃなかったの。ね」
 リオンはそう言ってルゼルを見てうなずく。ルゼルも「うん」と肯定する。グインは表情を崩さなかったが内心非常に驚いていた。後半はルゼルが続ける。
 「ほんものだんちょ様、においもクンクンしてるの。だからお耳怪我しちゃダメなのと、お風邪もひいたらダメなの。アニュ…上も言ってるの、けんこうだいいちって」
 「あとあと、副団長様はやっぱりお目目が特別なの」
 「他の人よりはやくはやーくおめめが動くのよね」
 「だから副団長様は絶対絶対目隠ししたらダメなの」
 「あとあと、見えないの場所も気をつけないとなの」
 「あ、ルゼ、それ言うらしいよ。バトラーに教えてもらったの」
 「しかく」
 「うん、死角」
 「じゃあじゃあ、ふくだんちょ様はにもぜったいぜったい気をつけてくださいね。あとお日様が隠れている日も」
 「ねー」
 「ねー」
 お日様が隠れている日?はて?
 
 グインとキエルは宰相執務室を出てリオンとルゼルを警護しながら馬車まで送りに出た。馬車に乗り込む際リオンとルゼルはグインとキエルに、
 「団長様副団長様、とってもとってもかっこよかったです!ありがとごさいました」
 「だんちょ様ふくだんちょ様、すっごくすっごくカッコよかったでした!ありがとございました」
 と三回ずつ言い、どんなにカッコよかったかを馬車の中で話しながら帰りますと言って馬車に乗り込んだ。
 二人を見送った後、アーネストとグインとキエルの三人で鼎談をした。もちろん模擬戦の件だ。
 「団長、副団長、先程息子たちが話していたことについて確認をしたいのだが、実際息子たちの話はどの程度正しいと思ったか?」
 まずグイン。
 「驚きました。人が見たら私は気配を察して闘っていることがわかると思いますが、気配を音と匂いで察していることまではわからないと思っていました」
 続いてキエルだ。
 「私は話を聞いてから今までの闘い方を振り返りました。確かに戦闘中は人の動きがひどく遅いと感じていましたが、あれは私の目が速かったということなんですね…それから死角についてですが、確かにその通りでした。
 団長が感じると言った気配を私は目で察していたのです。視界に入らないと気配として察せないらしいのです」
 「しかしお前は後ろからの攻撃もかわせるよな」
 「そうです。それがお日様が関係するわけです」
 「影か…」とアーネスト。
 「はい。思い起こせば後ろからの攻撃は些細な影の動きや前にいる者たちの目線で気づいていました。あとはわずかな土の舞い上がり方…やはり目です。私は目でした」
 グインが唸った。
 「なるほど…。これほどとは。団長としては騎士たち全員の解析をしていただきたいほどだな」
 「本当に…。彼らの能力に部外者が気づく前に気づいて良かったです」
 「ルカたちのモノマネが功を奏したな…」
 グインは上を向いてキエルは下を向いてそれぞれ苦笑いをした。
 アーネストは「さて、どうしたものか…」と誰にともなく呟いて冷めた紅茶に手を伸ばした。
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