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第四章

第五話 二天使様のお願い。〜騎士たちはモノマネ上手

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 リオンとルゼルがおりいって騎士団にお願いがあるということで急遽王宮に来ることになった。
 しかも朝の段階で、登城したコーク宰相直々に騎士寮の食堂にいたグイン団長を訪ねてきての依頼だ。平の騎士たちのビビりようったらなかった。
 「さっ、宰相様が?」
 「こっ、公爵様が?」
 「この汚い騎士食堂に?」
 「団長、なんか悪いことしたの?」
 「てか、なんで今日に限って団長ここで食べてんの?」
 「リオン天使の父上、カッケー…」
 アーネストは人が自分を見て緊張する場面に慣れている。笑いながら騎士たちに言う。
 「食事中にすまない。私的なことで伺った。団長を責めたりしないから安心して欲しい」
 右手を軽く上げて言う宰相様はなんだかキラキラしている。団長を責めたりしないとか…その気になったら責められるってことですよね?あの強面大迫力団長を…。
 「宰相様、カッケー…」
 チラチラ聞こえる声に団長のグインは苦笑いしながら言う。
 「おはようございます宰相殿。むさ苦しい場所に何のご用で?こちらから伺いましたのに」
 グインは食事を終えて食後の紅茶を飲んでいた。カップが小さく見える。エスプレッソのカップなどはカップごと飲み込んでしまいそうだななどと思いながらグインが立ち上がりかけるのを手で制したアーネストが言う。
 「そのままで。本当に私的なことですまないが、今日リオンとルゼルの護衛担当者は時間があるかな?」
 ザワッ
 「え?ルカたちなんかやらかした?」
 「え?ルカたちなんかやらかした?」
 そこここで同じ台詞が聞こえた。アーネストにも聞こえたが聞こえないふりをして半笑いで続ける。
 「職務に差し支えなければリオンとルゼルに剣の簡単な構えと動きを教えてやって欲しいんだが。護衛担当者が難しいようなら…日を改めてでも…」
 アーネストは詳細は告げずに済ませるつもりだったが、あまりに騎士たちが『俺、時間ありますよ』『二天使様のお相手いたしますよ』『で?なにごとですか?』のアピールをキラキラした目でしているので、あえて聞こえるように言った。
 「クイン侯爵の事業に関連したことで、リオンとルゼルに騎士の真似をさせることになってだな…本人たちがやるならちゃんと基礎の動きを知りたいと言うので侯爵と私が簡単な剣の扱いを教えると言ったのだが、二人とも騎士様たちに教えていただきたいと言っているんだ。本職に子どもの相手をさせるのは心苦しいが、父親たちはクビにされたのでお願いに上がった次第だ。本来なら職務のない非番日や職務後に頼むべきなのだが…」
 アーネストが最後まで言い終わらないうちにその場が無言の「わーい」の歓喜と無音の拍手に包まれた。
 二天使が宰相様たちより自分たちを選ぶ世界線!
 カッケー宰相様より自分たちが優位に立つ世界線!
 「子どもの戯言に付き合わせて申し訳ないが、国王の許可も得ている」
 えー⁉︎国王様の許可もー⁉︎
 騎士たちは浮かれ舞い上がっていたが、グインにはわかった。国王許可が出ているとは、国王はあの二人に関することは子どもの戯言と思っていないし、何かあってもリオンとルゼルの異能さが漏れることのない対応をせよとのことだ。職務時間内というのも非番ではかえって何事かと目立たせてしまうからだろう。これは二人の護衛たちか事情を知る自分か副団長しかできないだろう。しかし団長と副団長ではことが大きくなりすぎる。
 「わかりました。今日は担当騎士五名とも出せますので」
 「有難い」

 というわけで、登城したリオンたちを出迎えてそのまま護衛担当騎士のルカ、ギン、ヨハン、キーツ、エールたちと城の子ども用ダンス練習場に来た。鏡のあるこの練習場は自分の姿を映して形を確認するのにちょうどいい。
 クイン侯爵も同行している。
 「今日は息子たちの我儘に付き合わせて申し訳ない」
 食堂で浮かれていた騎士たちと違い、護衛組はなんとなく緊張していた。宰相はクイン侯爵の事業の関連と言っていたが、それだけで国王許可やら宰相直々に団長に依頼に来るとは思えなかった。だからといって深読みはしない。なんとなく、騎士のカンだ。
 「いえ、とんでもないです。今日はキーツとヨハンがお二人のお相手をさせていただきます。私とギンとエールは護衛の方を致します」
 ルカがそう言って頭を下げると、ジゼルの足元にいたリオンとルゼルが
 「今日はよろしくお願いします」
 「おねがいします」
 と言って丁寧に頭を下げた。
 
 指導は終始和やかに進んだ。キーツは上品だし、ヨハンは物腰が柔らかい。荒っぽさがない動きをする二人がリオンたちには良いだろうという判断だ。
 二人が構えや剣さばきを実演して見せた後、リオンとルゼル二人の手を取りながら動きや姿勢の指導をしていく。
 リオンたちが使う剣は一番軽くて短い木剣だ。初めて騎士団練習場に来た時に持たせてもらったあの木剣だ。
 「あの時は、えいってできないだったけど、今できるね」
 「うんうん。えいってしてもドシンてならないね」
 二人は大感動だ。
 「それってそれってキーツ卿とヨハン卿が先生だからよね」
 「うんうん。やっぱり騎士様すごいすごいだね」
 もう騎士様たちメロメロです。
 「違いますよ、お二人が大きくなられたからですよ」
 まんざらでもない顔をしながらキーツが言うが、
 「ううん。あんよの力とか、おてての力とか、教えてもらわらないとわからないだったの」
 とルゼル。それを聞いたリオンが小声で、
 「ルゼ、はだめよ。、言うのよ。四歳よ」
 「あ、そだった」
 ほわぁ。なんか似た会話あったな。ルゼル天使が一人称ルゼルって言った時に「ルゼ、よ、三歳よ」ってリオン天使が言ってたなぁ。これよ。この感じよ、癒されるわぁ。てか、はダメだけどは良いのかぁ。
 しばらくそんな指導が続き、少し休憩を挟むことにした。
 休憩中に、リオンが護衛に当たっていたルカたちの剣筋も見たいと言ったので、ルカとギンとエールで演舞なども披露した。
 「すごい!すごいです!」
 「騎士様の剣筋がわかるのすごいです!」
 二人があまりに喜ぶので騎士たちは調子に乗った。
 「次はルカとエールが団長と副団長の真似をしますね」
 「えー!そんなこともできるですか!」
 「騎士様すごいです!」
 二人は拍手喝采だ。騎士たちも得意げだ。
 ルカとエールが剣を構えて「私が団長役でエールが副団長役です。お二方ほどの迫力はないのですが、雰囲気でご覧くださいね」と言ってグインとキエルの模擬戦の真似をした。モノマネはそっくりだったようだ。ヨハンたちが「似てる!」「いつ見てもそっくり!」と笑っている。
 その様子を見たリオンとルゼルが唐突に言った。
 「すごいね、団長様はお耳で」
 「うんうん、ふくだんちょさまはお目目なのね」
 はてな?という顔の騎士たち。
 「どういう意味でしょう?」キーツが聞いた。ハッとするジゼル。だが遅い。
 「団長様はお耳で人のいる場所や速さがわかるの」
 「ふくだんちょさまはお目目が人より広く見えるの」
 「だから団長様はえいってするときお耳を怪我したらいけないの」
 「ふくだんちょさまは目かくししてはいけないの」
 騎士たちが固まった。二天使が言ったのはルカたち騎士も知らないマード国の騎士団長と副団長の弱点てことで、万が一それが本当だとしたら…。ジゼルは少し目をそらした。
 「えっとー…」
 ルカが何か言おうとした。少し間が空いてからあらためてルカがジゼルに言った。
 「侯爵様…お二人が、なんというか…特別なことはわかっているつもりなので…その…他言はしませんので。あ、団長には話すと思いますけど…」
 他の騎士たちも無言で頷く。
 「すまない。気を遣わせる」
 ジゼルは額に手を当てながら言った。
 なんとなくただならぬ空気を読み取ったリオンがおどおどしながら
 「あのあの…いけないこと言いましたか?」
 と聞いた。それに対してジゼルは真面目な顔でリオンとルゼルに話す。
 「いいか二人とも。騎士様たちのという所やという所は絶対人には秘密にしなきゃいけないことだよ」
 「すごいもダメなんですか?」
 「そうだよ。騎士様はみんなすごいけれど、気づかれにくい特別すごいところはその騎士様のだ。そこは特別にならないようにと狙われやすくなるからね。騎士様たちが危ない目にあうのは嫌だろう?」
 「いやです!」
 「い、いやですぅ」
 ルゼルは泣きそうだ。
 「では約束だ。騎士様の特別すごいところや弱いところはむやみに人には話さないんだよ」
 「はい」
 「はいぃ」
 ジゼルは二人に話しながら、昔コーク家の真の才の持ち主が攫われて戦争で使われた才能というのもおそらくこういう所なんだろうと思い、暗い気持ちになった。
 空気の重さを変えたのはあまり空気を読まないキーツだった。
 「団長や副団長の話はともかく。私の剣さばきに何かすごいところや弱いところはありませんか?侯爵様、人に話してはいけないですが本人には良いですよね?」
 「あ、ああ、本人が希望すれば…信用できる相手に限るが…」
 「リオン様、ルゼル様、私のことは信用できますか?」
 「できます!」
 「できます!」
 「では是非教えてください。剣の腕を上げたいので参考にしたいのです」
 「あ、それ私もお願いします」ルカ。
 「私も」ヨハン。
 「私も」エール。
 「えとえと、順番にするでいいですか?」
 その後、リオンとルゼルは、キーツは動きの上品さが相手に動きが遅く見える錯覚を起こすので、素早い足さばきや移動手段を強化するといいとか、ヨハンは関節全てが柔らかく動くから手首だけで扱える剣さばきの種類を増やすべきだなど具体的な話をした。
 「どちらが指導者かわからなくなりましたね」
 そう言ってギンは笑った。
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