金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第一話 リオン、ルゼル、4歳になりました!①〜色々便乗。賑やかな4歳の幕開けです〜

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 ヴァジュラが負傷し、リオンたちが王宮に行く機会がなく、弟組の会う機会が少なくなっていたころの夏。リオンが4歳になり、ルゼルはそれより少し後に4歳になった。今日は2人の合同誕生会。久しぶりにリオンとルゼルが会う日だ。
 二人の誕生日が近いので、今まで両家はルゼルの誕生日が過ぎたあたりで家族とは別の二人一緒の誕生会をしていた。去年までは二人が小さかったので大人主導で開催された誕生会だったが、今年は違う。マグヌスが「ヴァジュラの快気祝いと一緒にリオンとルゼルの誕生会を宮廷でやりたい」と言ったのだ。
 普段ならそんな私的な希望を出さないマグヌスだが、負傷中でも走りたい走りたいと言っていたヴァジュラを思い切り走らせてやりたかった。できれば遊び相手のリオンたちと走らせてやりたい。そして自分も弟たちを眺めて癒されたかった。そんな王子兄弟にリオンたちの誕生会はうってつけのイベントだった。ただ王族が親戚とはいえ誕生会を主催するわけにはいかない。…というわけでヴァジュラの快気祝いというたてまえで「裏テーマ、リオンとルゼルの誕生会」が王宮で開かれた。

 「ヴァジュラ殿下ー!」
 「いたいの、ないになりましたかー⁉︎」
 久しぶりに会うヴァジュラに走り寄りながらリオンとルゼルが聞いた。2人の後からアロンが「ゔぁじゅらしゃまーん」と言って走ってくる。それを見て「うおーっ」と言って爆走しかけるヴァジュラをマグヌスが羽交締めにするように抑えた「ヴァジュラ、その勢いだとリオンたちがケガをする!」
 マグヌスとヴァジュラのやりとりを見たリオンたちはヴァジュラ復活を確信して安堵した。やはりヴァジュラは勢いがないとらしくない。
 久しぶりの再会にヴァジュラとアロンがパンプキンを始めて、つられたリオンとルゼルもパンプキンを始めた。やっと日常が戻ってきた…その場にいた全員がそう思った。

 夏の誕生会なので室内でないと体に差し障る。だがヴァジュラを思い切り走らせてやりたい。そんなマグヌスはユリアンたちにどうしたら室内でそれが叶うかと相談した。
 話し合いの末、王宮の子ども用ダンス練習室を会場に貸してもらい、そこに様々なをしてヴァジュラを走らせ、リオンとルゼルも喜ばせることにした。
 子ども用の部屋とはいえ王宮の一室を子どもの計画に貸し与えるのは許可が得られにくそうだと思っていたマグヌスたちだが、条件付きで許可は難なく降りた。その条件とは、きちんとした計画書を提出する。ということだった。
 
 マグヌスがユリアンたちと相談し、ダンス練習室を使いたがっていると小耳にはさんだ王とアーネストは「これは良い機会かも」と同じ事を考えていた。つまり、マグヌスと将来の側近候補たちとの連携プレーの練習になると思ったのだ。
 提出された計画書は驚くほど完成度が高かった。
 目的から会場選択の理由、何と何を持ち込みたいか、誰が何を手配するかなどが細かく子どもの字で書かれていた。
 アーネストはジゼルに息子ユリアンのプレゼン力を聴かされていたが、想像以上だった。「これは…早い段階の世代交代もありだな」と王が言ったほどだ。

 その計画書通りのアトラクションがダンス室に出来上がっていた。
 部屋の半分に新年会のようなシーソーやすべり台やブランコがセッティングされていた。もう半分には鏡の迷路と大人たちの歓談スペースが作られていた。迷路はマグヌスやユリアン、リゼルとその侍従や従者たちとで作り上げた力作だ。
 普通の迷路だと場所の狭さを考えると物足りないと思えたので迷路を鏡で作ることにした。広く見せる効果と混乱を目的にした。鏡と言ってもガラス製ではヴァジュラが体当たりして割れて終わる。そこでクイン家の化学班が開発した鏡のようなシートを板に貼った。試作品として出た余りなので元手がかからない。板も同様にクイン家の事業で出た余りものだ。
 シーソーなどはナイン商社のジルにユリアンが掛け合い格安でレンタルした。レンタル代は公爵家と侯爵家持ちだが、王もポケットマネーから少し出してくれていた。

 部屋の扉を開けながらマグヌスが言った。
 「今日はヴァジュラの快気祝いだ。ちょっと狭いけど、リオンたち、ヴァジュラとここで沢山遊んでやってくれ」
 「あにーっ!たすかる!」
 まずヴァジュラが吠える。そしてスタートダッシュですべり台に向かう。
 「すごいです!マグヌス殿下!ありがとございます!」
 リオンが言う。
 「はわわわわーっ‼︎」
 ルゼルは翡翠の目をキラキラさせる。
 「ん?ん?」
 絵本でしか見た事がない遊具に戸惑うアロン。
 それぞれの反応を見てマグヌスたち兄組とリディラはニコニコだ。さらにそれを眺める大人たちも自然と笑みが溢れている。

 リオンはヴァジュラを追ってすべり台に走った。とにかくヴァジュラが心配でリオンはヴァジュラから離れない。
 ルゼルはアロンに「すべり台はじゅんばんまもってならびます」とか「ブランコはアロンひとりじゃあぶないだから、んとんとアニューレかアネーレとのるのですよ」など兄貴風を吹かせている。アロンも真面目な顔で「あいっ」「あいっ」と言いつけを聴いている。
 その2人の周りをヴァジュラとリオンが何回も走り過ぎて行ったり来たりしている。もちろんヴァジュラの「あはははー」という笑い事つきだ。

 すべり台とブランコとシーソーを堪能したヴァジュラが
 「めいろ!いく!おまえたちこい!」
 と言うと、
 「ぎょいー」
 「ぎょいー」
 「ぎょいー」
 と3人が笑って続いた。
 「『御意』って言ってる?」
 とリゼル。
 「言ってるよな」
 とユリアン。
 「いつの間にそんな言葉覚えたんだ?…え?お前たちも今度から言う?」
 とマグヌス。
 一瞬黙って顔を見合わせてから3人同時に吹き出した。
 
 小さな迷路は鏡効果でとても楽しいらしかった。迷路の中から笑い声が途切れずに聴こえてくる。
 「きゃー、あっちにもこっちにもリオンがいるー」
 「るぅるぅ~。ゔぁじゅらしゃまーん。るぅるぅ~。ゔぁじゅらしゃまーん」
 「あはははー!ここだー!」どかーん。「あはははー」どかーん。
 「すごい!ルゼルがまえからも、うしろからも、よこからもみえる!兄上!兄上!すごいです!」
 その声を聴いたユリアン、
 「私たちも入ります?」
 作り上げた後、お試しに一度入っているユリアンたちは鏡迷路の面白さを知っている。だからずっとソワソワしていた。
 「よし、行こう。リディラも一緒にやろう」
 マグヌスの一声で兄組3人とリディラも迷路に入って行った。直後から笑い声が倍になった。
 「アニューレがどこかにいます!みえます!でもいません!」
 「るぅるぅ、ゔぁじゅらしゃまーん。あにゅー。あねー」
 「ここだここだー。あははは」どかーん。
 そんな中、大人たちがハッとする声が聞こえてきた。
 「リオンー、かがみはふしぎねー」
 「ねー。右と左ははんたいになるのにねー」
 「ねー、うえとしたははんたいならないねー」
 「とおくにいる人たちがいちまいにはいるねー」
 「それってさー…あ!リオンみつけた!」
 「きゃー、ルゼルいたー」
 「きゃー」
 『それって』の続きが気になる大人たちだった。
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