金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第三十四話 リゼル、7歳になりました。〜新しいの、考えました。

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 マグヌスの誕生日からほどなくして、今度はリゼルの7歳の誕生日がきた。
 例によってクイン侯爵家にコーク公爵家がやってきて誕生会をすることになった。
 リディラの誕生会でサプライズ上演された劇はもはや恒例となり、子どもたちも楽しんで計画をしているし、大人たちの楽しみにもなっていた。

 「今日の演目はなんだろうな」
とアーネストがジゼルに聞く。ジゼルも
 「私も気になって聞いてみたが、当日のお楽しみだと言って教えてもらえなかった。アロンすら『しー、でしゅ』と言ったよ」
と言って笑った。
 いつものように、クイン侯爵家の上演会場は子どもの遊び部屋だ。今回は仕掛けがあるらしく、今日までしばらくの間リゼルも子ども部屋立ち入り禁止となっていた。
 案内されて大人たちとリゼルが入ると、部屋の中央に天井から床まで部屋を二分するように広々と白い布が一枚張られていた。
 その手前にユリアンたちが並びニコニコとしている。ユリアンが言う。
 「ようこそ!皆様しっかり座りましたか?今から明かりを消すので、ちゃんと座っていてくださいね」
 おやおや?一体何が始まるのか?
 続けてユリアンが
 「今日の演目は『丸三角四角でリゼルの一年間』です」
と言う。丸三角四角?リゼルの一年間?
 「え?私?」
 自分はここにいるよ。どういうことかな?
 「はじまりはじまりー。ヤン、あかりをけしてー」
 始まりの合図はルゼルが出した。そして部屋が暗くなると、布の向こう側に明かりが一つ灯され白い布がハッキリ見えた。中央にアロンの姿が影となって見えている。
 「これはどうやら影絵の劇のようだな」
 「ああ、東の国では影絵の芝居小屋があると聞いたことがある。ヤンあたりの発案かな」
 アーネストとジゼルが、ソワソワしながら立っているアロンの影を見ながら話しているとナレーションが入った。ナレーションはユリアンだ。
 「これはリゼル。6歳です」
というと、アロンの影が「あい」と言って手を挙げる。
 「6歳のリゼルが大好きなのはぁ」
とナレーションが言うと、リオンの声で
 「四角!」
と聞こえると同時に、四角い形がアロンの所までやってきた。四角い紙に棒をつけてリオンが動かしているのだ。小道具を順番を間違えずに渡すのが今回のリディラの役割だ。リディラに手順を任せたので間違いは絶対起きない。全員安心して影だけに集中できる。そしてアロンが四角を手にする。ユリアンが
 「四角い本です」
 そしてアロンが本を読むフリをする。
 なるほど、リゼルの思い出を影絵で表現する演目らしい。しかもその思い出のエピソードには小物が登場し、その小物たちは丸と三角と四角で出来上がっているというものだった。
 例えば、
 「海で砂山を作りました」
 というと
 「三角!」
 とリオンが言って三角が出てくる。しっかりした三角ではなく、少し歪な三角だ。
 「ああ、この三角はリオンが描いた三角だ」
 と言ってリゼルが笑う。ユリアンの誕生日に合わせて三角の練習をするリオンを見ていたからわかる。底辺が気持ち右上がりになるのがリオンの三角なのだ。リオン曰く、早くの所に行きたくて線が先走るとのことだった。
 「砂山はどんどん大きくなりました」
 というと三角を明かりからの距離で調整し、大きくなる影を作る。
 「砂山にトンネルを掘りました」
 というと今度はルゼルが
 「丸!」
 と言って三角の一部に重ねていた丸を外してトンネルの穴のように見せる。
 「トンネルの中でルゼルの手とぶつかりました」
 というとアロンが「わー」と言って驚いて尻餅をつくという感じだ。
 歯が抜けた時のことは、アロンが口を開けたところから(実際は影として映らなかったが、アロンは目いっぱい口を開けていた)
 「四角!ぴょーん」
 「ちいさい四角!ぴょーん」
 とリオンとルゼルが言って抜けた歯の数だけ四角が飛び出した。何本も抜けたので幕の向こう側でリオンとルゼルが「いっぱいぬけて、いそがしだね」という声が聴こえてみんな笑った。
 学校での雪合戦の場面と王宮での雪合戦の場面もリオンとルゼルは大変だった。
 「丸!ゆきだま、丸!」
 「丸!ゆきだま、丸!」
 「「うわー、丸、丸、丸、丸」」
 と言いながら丸を行ったり来たりさせて忙しかった。丸をつけた棒を何本か持ってパタパタと行き来するリオンとルゼルがしっかり映り込み、みんなは大笑いだ。アロンは投げるリゼルの真似をしたり、当たって痛いのふりをしたり、なかなかの演技だ。
 「雪だるまも作りました」
 アロンが端から丸を転がす仕草をしながら歩く。端まで行くと向きを変えてまた転がす。その度に丸が大きくなっている。それを二つ重ねてバンザイしたアロンが言う。
 「!」
 アロンが「雪だるま」と言えず「ゆきまるま」と言うのが可愛くて、このシーンは絶対入れたいとリディラとルゼルが真っ先に決めたシーンだ。もちろん会場はホワァだ。
 「雪だるまに、お顔もつけました」
 というとアロンが「えいっえいっ」と言って雪だるまの顔からあらかじめはめ込んでいた形をはずす。ナレーションが
 「丸と丸でー」
 と言うと、丸を二つ外して、アロンが
 「おンめめ!」
 と言う。アロンはと言う時、「お」と「め」の間に少し「ん」が入る。これもリディラたちのツボだ。これで雪だるまに目ができた。
 「次に長四角でー」
 「おはな!」
 「次は逆さまの三角でー」
 「おくちー」
 「最後に眉毛は長四角二つでー」
 と、アロンが眉毛にあたる場所の長四角を取ると、やけに太い眉毛の雪だるまの顔になった。そしてアロンが言う。
 「ゔぁじゅらしゃまん!」
 ヴァジュラだ。あまりに似ていて不敬と思いつつ全員大笑いだ。
 確かに学園で雪だるまを作った時、ユリアンに「眉毛太い雪だるまはヴァジュラ殿下に似てるな」とは言った。そしてユリアンが「じゃ、大きい雪だるまなら国王陛下だな」と言った。あの時のことを思い出してリゼルは人の倍笑った。
 「こうして、リゼルは大きくなり」
 とナレーションが言うとアロンが明かりから少し前進し影を大きくして成長したリゼルを表現した。
 「7歳になりました」
 アロンが
 「やったー」
 とバンザイをする。その手にはいつのまに持っていたのか、「7さい」という文字を持っていた。そこで、裏方をしていたユリアン、リディラ、リオン、ルゼルも出てきて手に持った文字を明かりに照らす。
 おめでとう。と書いてあった。そして五人で、
 「リゼル、お誕生日おめでとう」
 と言い、最後にユリアンが
 「リゼル、本当におめでとう。これで私たちの『リゼルの一年間』を終わります。ありがとうございました」
 と言って全員が頭を下げて終わった。頭を下げたままルゼルが「ヤンー、明かりつけてー」と言ったので笑ってしまった。
 楽しい余興だった。大人は拍手をしながら笑顔だし、リゼルは「ありがとう!面白かった!」と言って喜んでいる。大成功だ。
 「今回の影絵はヤンの発案か?」
 と聞くジゼルにリディラが答える。
 「リオンが上手に切り抜けた三角を手にして遊んでいた時に、壁に綺麗に三角が映ったのです。それを見た時にヤンから影絵のことを聞きました。それで誕生会をしようと言ったのはルゼルです」
 「ほぅ」
 いつも、何かのきっかけがあるとリオンかルゼルのどちらかが反応し、その反応にどちらかが応用案を出してくる気がする。自分もアーネストとは仲が良いと思っているし、ユリアンとリゼルも仲が良い。だが、リオンとルゼルの関係はそれだけに収まらないもののように感じる。
 ジゼルが思考を深めているとルゼルが来て言った。
 「ね、ね、父上。アロン、じょずじょずでしたね」
 小さく拍手しながらルゼルが翡翠の瞳を向けてくる。クイン侯爵家の人間の瞳は青や緑が多いが、グレーも黒もいる。だが意外にこの翡翠はいない。親戚が多いクイン侯爵家だが、ルゼルと同じ翡翠はいないのだ。やはり何か特別な子なのだろうか。そう思っているとルゼルが言った。
 「あのね父上。がげえのれんしゅでアロンをうしろからみていて、わかったの。アロンの骨格はね、アニュー…兄上よりもずっとずっと父上に似てるの。だから私たちのなかで、いちばんがたかーくなるの。それにね、アロンのかみのけは、いまよりもっともっとがないになって、きっときっと金色になるの。母上みたいな色よ」
 …予言めいたことを言ったな。
 今はアロンの髪色は他の兄弟たちと同じ、ジゼル似の薄茶だ。髪質としてはルゼルとアロンがクルクルのくせ毛で似ている。
 「アロンとルゼルは髪質も色も似ているが、ルゼルは金色にならないのか?」
 とジゼルが聞くと、ルゼルはキョトンとした顔で不思議そうに聞いてきた。
 「…アロンと私ではぜんぜんちがうですよ。カエルとうさぎ卿くらいちがうです」
 え、そんなに?ルゼルの見る世界はどんな色をしているのか。
 「あ、とぶのほうじゃないです。といういみのほうです」
 また難しい言葉を覚えたな。
 「ものは、いろんなわけかたができるから、おはなしするのむずかしです。むぅ…」
 説明が難しいのか。「集合」概念を見つけてしまったらしいから、ルゼルならいくらでも物と物の共通項が見つけられそうだな。
 「…わかった。父上の色を見分ける目が少し修行が足りなかっただけだ。カエルとウサギ卿の説明でどれほど違うかよくわかったよ」
 そう言ってジゼルはルゼルを抱き上げた。ルゼルは安心したように笑って
 「よかったです」
 とジゼルの腕の中で小さく拍手した。
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