金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

文字の大きさ
上 下
65 / 101
第三章

第三十三話 マグヌス、7歳になりました。〜オールスターでお送りします。

しおりを挟む
 ユリアンの誕生日からほどなく、マグヌスが7歳になった。
 まだまだ幼いながらも姿勢の良い立ち姿、母王妃に似たルックス、父王に似た威厳ある黒髪黒瞳、両方の良いとこ取りに剣の鍛錬でできた細マッチョな身体。もちろん学業成績も上位となかなか良い王太子に育っている。
 そんな具合なのでマグヌスは国民の人気者だ。当日は国民に向け、王宮の開放庭園に向いている迎賓宮のバルコニーから数回手を振るという7歳の子どもらしからぬ誕生日を過ごした。この日は平日だったので学園は欠席しての公務だ。
 最近は写真機のおかげで王族の様子も見てわかる伝わり方をしている。絵姿ではない分、より一層親近感を覚えるのか、想像以上に人が集まっていた。そこここで「絵姿より、写真。写真より実物の方が可愛らしいわね」「やっぱり実物の方が素敵ね」「王妃様によく似ていらっしゃる」などささやかれている。その間、マグヌスは微笑みを絶やさなかった。
 バルコニーに出ていない時は貴族たちの謁見だ。大戦争から10年が過ぎても世界のマードに対する印象は戦勝国だ。大戦争を知らないマグヌスにも国内外からの祝いの謁見が絶え間なく続く。そして時間がくるとバルコニー。そしてまた謁見だ。マグヌスはこれも国の様子や各国の関係を知る良い機会だと思えているが、これを学園生になったらヴァジュラも新年の行事として参加するのかと思うと少し心配になった。ユリアンやリゼルが弟たちを心配するのとは少し違う方向で…。
 一日公務をしたマグヌスは流石に疲れていた。王太子としての責務はとりあえず果たせた。新聞記者たちの公開インタビューにも子どもらしくかつ王族らしく受け答えできていたと思う。母王妃がダメ出ししなかったから多分大丈夫だ。明日の新聞の一面になるだろう。どこで話題になるかわからないから明日の朝、全紙に目を通してから学園に行こう。そんなことを考えながら、およそ7歳児の平均的な誕生日とは程遠い誕生日をヘトヘトに疲れて一日を終えた。

 翌日の学園は大変だった。友達として純粋に贈り物をする学生から謁見できなかった親からの預かり物としての贈り物を持ってくる学生まで山ほどの学生がマグヌスのクラスに殺到した。口々に今朝の新聞を見たと話してくる。読んでおいて良かった。
 この状況には日頃介入しない遠巻きの護衛も学園側も介入せざるを得なかった。これで来年から誕生日翌日の学園生活は改善されて過ごしやすくなるだろう。ひいては数年後に入学するヴァジュラの学園生活のためにもなったはずだ。そう思うとこの二日の多忙さもすっかり報われた気になるマグヌスだった。しかも明日は休日。身内だけの誕生会がある。ユリアンとリオンは従兄弟だから毎年来ているが、今年はクイン四兄弟も呼んでもらっている。遠縁ではあるが、遠縁を持ち出したらどこまでも広がってしまうので今までは呼べなかったのだが、世の中が…正確には上位貴族たちがクイン侯爵家というか、リゼルやルゼルとマグヌスのつながりを暗に認めるようになっていたので今年はの仲良しというわかりにくい建前で招待してもらえた。政治的配慮でクイン侯爵夫妻は留守番だ。つまり、明日はたちが来る。楽しみで仕方ない。
 それをこっそり口にするマグヌスを見るユリアンとリゼルは「なんだか殿下は久しぶりに孫に会うのを楽しみにしているお祖父様みたいだな」と言うのだった。

 翌日の誕生会は、国王夫妻、ヴァジュラ、コーク公爵家とクイン侯爵兄弟の他、王弟であるホーリィ公爵家(もちろんマーリンもいる)と先王夫妻であるマグヌスの祖父ユリウスと祖母(マーリンの祖母でもある)ステラがいた。
 先王は大戦争の途中で王位を現王に譲渡した。国民に対する戦争のイメージ刷新と妙に眼力のある現王の近隣諸国に対する威圧と、現王の持つカリスマ性で士気を上げる狙いなど諸々の理由があっての譲渡だ。結果戦勝国となり、ユリウスは賢帝と呼ばれての隠居生活を満喫している。
 誕生会はこじんまり、和気藹々と進んだ。会食しながら学園での様子をマグヌスやユリアン、リゼルが語り、マーリンとリディラは「先日お茶会に可愛いウサギ様とお星様がいらした」話をした。
 会食後はマグヌスやユリアンたちによる小さな音楽会だ。
 そして…。コーク兄弟とクイン兄弟による劇の上演だ。これはリディラやユリアンの誕生会の話を聴いたマグヌスたっての希望だった。

 今日の演目は『きしだんと、りんごのき』だ。
 ユリアンとリオンとルゼルは前回と同じく騎士。リディラはお姫様の他、宿屋のおかみさんや騎士の手当てをする看護師さん、更に裏方もやった。アロンも今回は流れ星だけではない。りんごの役もやった!残りの配役はリゼルだ。

 いつもの酸っぱいレモンのりんごを食べるところでは、騎士役だけでなく、全員出てきて「すっぱーい!」と言って酸っぱい顔をして観客を大笑いさせた。ヴァジュラの笑い声は特に響いた。
 川に転がり落ちるりんごを演ったアロンはコロコロ転がりながら「ころころころころ」と言っていて演者含めて全員がホワァっとした。
 焼き鳥味のりんごの説明は特にリオンとルゼルが念入りにした。
 「これは、やきとりという、とりにくのおりょうりの味です」
 「とりにくをやいて、タレという茶色のソースをかけてにさした、おりょうりです」
 「しかも、なんと、このおりょうりは、あるいてたべるもできるのです!」
 「私たちの兄上たちが、あるいてたべるのひとを、みたのです!」
 「だから、ほんとうなのです!」
 身に覚えのある現王やアーネストや演者のユリアンとリゼルも視線が少し斜め上を見た。思い出している時の仕草だ。四人ともニコニコしている。実は先王と王弟も斜め上を見て笑っていた。
 象がりんごを食べるシーンはアロンがりんごを演り、画家ロンに描いてもらった象の絵を関節が動くよう工夫し、リディラとリゼルが二人がかりで動かした。思いがけない迫力の演出に大人たちも驚き、ヴァジュラは拍手喝采で喜んでいた。
 最後にオールスターで並び、「せーの」で手にした色紙をパッと出した。並んだ色紙を順に読むと「マグヌス殿下おめでとう」になる。手作り感のある可愛い演出だ。

 劇は大成功だ。終わると全員が笑顔で拍手をしてくれた。一番速いテンポの拍手はマディだ。マグヌスはことの他喜んでくれた。想像以上に癒された。
 劇が終わるとヴァジュラが小道具を見たがりそのまま小道具で遊び始めた。
 その様子を見ながら、マーリンがリディラに声をかけた。
 「リディラ様、とても楽しかったわ。お兄様方と小道具までお作りになって、素敵だわ」と。自分の兄は真面目なので劇は一緒にできそうにないわとも言ったが、リディラにはマーリンもノリノリで劇をするようには思えなかった。マーリンは貴賓席で観劇する方が似合う。
 先王も子どもたちに声をかけていた。
 「いや、久しぶりに楽しませてもらった。演出も素晴らしい。あの象も子どもだけで作ったそうだな」
 先王はてっきり主導権はユリアンあたりだろうと思って話していた。しかし、言葉を返したのはリオンだった。
 「はい。あのはうごいたほうが、かっこいいねってルゼルとおはなししてかんがえました」
 「ん?リオンが考えたのか?」
 「んとんと、うごいたほうがいいねってかんがえたのが私で、うごくのかんがえたのはルゼルです」
 「…ルゼルはどうやって思いついた?前に観たことがあるのかな?」
 「いいえ。でもでも。このまえリオンとかくして、かたちをたくさんしっていたらどんなものでもつくれるねって、おはなししていて」
 ルゼルはキラキラした翡翠の瞳で先王を見上げながら続ける
 「うごかすのも、をいろんなかたちにしたらべつべつにうごかせるねって。それでそれでのこと思い出して、かんせつでわけたらうごかせるねーって」
 「ねー」
 「ねー」
 「すごいよね」
 「うん。すごーいだよねー」
 関節は大切な部分ではあるが、凄さとは?この子たちは言外に何か真理に近いことを話しているのではないか?それからとは?
 その様子を見ていた王弟ホーリィ公爵が兄である現王に
 「あれが噂の二天使ですね。確かに見た目だけではない、只者ではなさそうですね」
 と深くは聞かずに笑って言った。その目は「兄上、何か大変な案件抱えましたね」と言っていた。
 「…可愛いのだがなぁ」
 と強い眼力で笑って言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の愛し子だけど役目がありません!

猫ヶ沢山
恋愛
私は産まれてくる前、魂の時に女神様のちょっとしたミスで「女神の愛し子」となってしまった。 何か役目があるのかと思ったけれど特に無いみたい。「愛し子」なのにそれで良いのかしら? その力が強すぎて生まれてから寝たきり状態。ただの赤ちゃんだと困るから、ちょっとだけ前世を引っ張り出された。自分の事は全然思い出せないけれど・・・。 私のために女神様がつけてくれた守護精霊フェーリと、魔法のある世界で生きていくわ! *R15は保険です* *進行は亀の歩みです* *小説家になろうさんにも掲載しています* *誤字脱字は確認してますがあったらごめんなさい*作者独自の世界観・設定です。矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです。お手柔らかにお願いします*

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...