上 下
60 / 100
第三章

閑話 弟は可愛いくて可愛いし、可愛い上に可愛い。〜お兄様、頑張って!

しおりを挟む
 初めてのお茶会は無事に終わりました。
 お兄様たちのサプライズ参加でハラハラしたけれど、出席された皆様はお兄様方のキラキラパワーに冷静だったわ。王妃様のお茶会のようにガツガツ行く方がいらっしゃらなくてかえってビックリ。これなら休日にお兄様方参加のお茶会にしても良かったかも。
 とにかく皆様とても良い令嬢方でした。

 さて、ルゼルたちの寝顔も堪能したし、報告をまとめなければ。

 まず、弟様はいらっしゃらないけど立場上お誘いしたマーリン様。お茶会早々マーリン様の抜きん出た令嬢力がハッキリしたわ。今まであまりお話ししなかったけれど素敵な方ね。知的で上品、しかも可愛らしい。マーリン様こそ王太子妃にふさわしいのに、従姉妹様というだけで候補にならないなんて…もったいないわ。万が一、他国の王妃様にでもなられたらマードの損失よ。なんとかならないかしら。王妃様に相談、と。

 リタ様は、アデル様とご一緒じゃないとなんて爽やかなんでしょう。物事はハッキリおっしゃるけれどまるで含みがなくて嫌味がなかったわ。新年会の印象とまるで別人。ルゼルたちがアデル様を好きになったようだから、近い存在のリタ様が荒々しい方なのかと心配したけど杞憂だったようね。

 男爵令嬢のララ様のおうちは事業がうなぎのぼりで経済力の面で弟様が幼稚園入園候補だと聞いたのよ。だから新年会にも出席されていたけど、あの日どこかの公爵令嬢たちに成り上がりの男爵家風情がとか嫌味を言われて泣いているのを見かけたわ。あれ何よね。同じ公爵家でもユリアン兄様やマーリン様と全然ちがっていたわ。あの時、見かねて助け舟を出したユリアン兄様に赤いお顔をされていたけど、王妃様のお茶会でユリアン兄様にむらがる令嬢たちの「きゃー」な目は全然しないでひたすらお礼を言っていたわね。今日の様子でも確かに気弱そうな方だけど、賢い方だと思うの。
 新年会でお見かけしたララ様の弟様は、ルゼルたちとは全然違うタイプでお元気な方だったけど、ララ様を慕っていて可愛らしかったわ。ララ様は少しルゼルに似たところがあるから弟様はルゼルたちと気が合うと思うのよね。
 ララ様、足のお怪我は大丈夫かしら。

 タミラ様は私の一押しの小物入れを手にしたくらいだし、絵画も私の好きな作品を一番長くご覧になっていたから、弟様どうこうより私と気が合いそう。小物入れでは申し訳ない事をしたわ。あれは私の選出ミスよ。しかもルゼルたちに見惚れて落としたそうじゃない!わかるわ!益々気が合いそう!

 エリィ様にはアロンちゃんと同い年の弟様がいらっしゃるのでお呼びしたわ。ヴァジュラ殿下のお茶会にはアロンちゃんもお呼ばれする可能性が高いもの。あの方、小物入れが割れて場が暗くなった時、タミラ様とは離れていたのに庇っていたわね。王妃様のお茶会ではマグヌス様にグイグイ行ってガンガンお姉様方に追い払われていて、それでも毎回攻め込んで、なかなか骨があると思っていたけど、やはりまっすぐな方ね。

 それにしてもルゼルとアロンちゃんの可愛かったことったらなかったわ!
 「ウサギです。道に迷いました」
 って、ちょっと待ってー!って声が出たかと思ったわ。あれ、準備段階でウサギルゼルを見ていなかったら絶対声に出ていた案件よ。
 ウサギが星と手をつないで扉にいるのよ。ウサギの妖精と星の妖精だったわ。ルゼルとアロンちゃんだってわかっている私があれだもの、タミラ様の手から力が抜けて当たり前よ。むしろマーリン様、よく普通に返せていたわ。
 それにしてもララ様のお怪我に気付いたウサギルゼル名探偵は凄かったわ…あの子、一瞬でどこまで見えていたのかしら…。

 コンコンコン。

 あら、ノック。誰かしら。
 「アネーレ、ルゼルでしゅ」
 きゃーん。ルゼルぅ。何かしら?何かしら?
 「どうぞ」冷静に…と。
 カチャ。ルゼル。ウサギじゃなくても可愛いわ。
 「アネーレ、しつれしましゅ」ぺこり。
 うん。礼儀正しい。つむじまで可愛い。
 「どうぞ、お入りなさい。なにかしら?」
 ちょっと迷っているみたいだけど、そのモジモジも可愛らしい。
 「あのあの、アネーレ。きょう、こわいのおともだちはいませんでしたか?」
 「ええ、今日のお客様方は皆様とても優しくて素敵な方々だったわ」
 「ふぅん…」
 あら、何か考えてる。小首傾げて。可愛いんだけど。可愛いんだけど⁉︎
 ユリアン兄様が「リオンはつむじまで可愛いんだ」と仰っていたけど、わかるわ。ルゼルのつむじも可愛いわ。
 「なぁに?心配なことがあったの?こちらに座ってお話しましょう?」
 素直にソファに座るルゼル。ソファに置いてある犬のぬいぐるみより小さいってなんなの?なんて可愛いの。あ、何か話し始めるわ。傾聴、傾聴。
 「アネーレ。まえみたとき、リタしゃまこわいこわいでした。でもきょうは、やさしいでした。リタしゃま、ずっとこわいじゃなかったですか?」
 新年会のリタ様のインパクトは大きかったものね。
 「リタ様は今日ずっと怖くなかったわ」
 ルゼルは「そですか。よかったでしゅ」と言ったけど、まだ心配事があるみたい。
 「アネーレ。あんよ、けがしたお姉しゃまは、うそちゅきなの?」
 「ララ様は嘘つきではないわ」
 「でも、あのお姉しゃま、ごじぶんで、うそちゅいた、いってました」
 「そうね。あのね、お母様やお父様に聞いたのだけど、嘘っていけない嘘だけではないのですって。本当ではないことを言って人を傷つける嘘と、本当のことを言うと傷つく人がいるからそれを言わないための嘘があるって」
 「うそは、ひとつじゃないの?」
 「そういうことになるわね。人を傷つける嘘はいけない嘘だけど、人を守る嘘もあるのよ。ララ様の嘘は人を守る嘘だったわね」
 もう、ルゼルったら、そんな話したらウサギが自分だったって言ってるようなものなのに。ララ様の足の怪我を見破った名探偵とは思えないスッカスカの思考じゃない。可愛いんだから。もう。
 「アネーレ。もしもで、ルゼルがアネーレしんぱいーってなって、ウサギになってアネーレをまもるのは、うそ?」
 ぎゅんっ‼︎
 自白?自白なの?それがウサギだった理由なの?私が心配で守るつもりだったの?やだ、泣きそう。そして兄上たちに自慢したい。落ち着いて私。ルゼルはなんだか心配そうにうつむいてるわよ。一人称ルゼルになりっぱなしよ。
 「ルゼルは嘘だと思うの?」
 「…ルゼルはうそじゃないの。でアネーレまもるなの」
 変装だったのねー。充分可愛い余興だったわ。
 「だけど、も、うそなのかな?」
 あぁ、そこが心配事だったのね。
 「あのねルゼル。もしも、ルゼルがアネーレを守るつもりで変装していて、その場でアネーレが嫌だなって思っていなければ、嘘だとしても優しい方の守る嘘なんじゃないかしら?」
 「…アネーレは、まいごのウサギがきたとき、やだだった?」
 またもや自白ですか?本当にあの時の名探偵と同じ人なの?ルゼル。
 「迷子のウサギ様が来たときは、皆可愛いって思ったし、ララ様のお怪我も見つけて下さったし、お庭の素敵な場所も教えていただいたから少しも嫌なところはなかったわ。むしろありがとうって言いたいくらいよ」
 あ、ルゼルのお顔が明るくなったわ。
 「ほんとですか?ウサギさんきいたらよろこびましゅ!ウサギさんにはなしてきましゅ!」
 可愛い!可愛い!可愛い!
 「アネーレ、ありがとござましゅ!アネーレだいすき!」
 ルゼルが私をぎゅってしてソファからピョンと飛び降りるとそのまま部屋の外に向かって走る。その背中に
 「お星様にもありがとうって伝えてね」
 というと、
 「わかりましたー」
 と弾んだ声で返事をして出て行ったわ。
 なにー、なにー、なにー。あの可愛さ、どうしたら良いの?
 私、さっきから何回可愛いって思った?
 足りないわ。「可愛い」じゃ、ルゼルの可愛さを説明するには足りないのよ。
 お兄様が学園に入ったらお勉強頑張って言葉の博士に新しい「可愛い」より「可愛い」の言葉を作ってもらうと仰っていたわ。
 お兄様!応援します。頑張って!早く新しい言葉を私にください!

 お茶会の報告と一緒に「頑張って」もお伝えしなくちゃ!

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

金に紫、茶に翡翠・リオンの日記

かなえ
ファンタジー
小説「金に紫、茶に翡翠」の番外編です。主人公の一人、公爵家次男のリオンが書く日記。  本編では、美幼児リオンともう一人の美幼児ルゼルが遊びながら色々経験して成長してます。  本編でのことや、ちょっとしたリオンの目線で書いている日記です。 【頻出用語の説明】 リオン・公爵家次男。金髪に紫の瞳。 ユリアン・公爵家嫡男。リオンの兄。金髪碧眼。 ルゼル・侯爵家次男。茶髪に翡翠の瞳。リオンとは従兄弟同士。 ヴァジュラ殿下・リオンが遊び相手になっている第二王子様。とにかく元気。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...