53 / 101
第三章
第二十四話 秘密の特訓〜雪玉職人アロンに弟子入り
しおりを挟む
「ヤン!きょかでましたか?」
「はい、ルゼル様」
「やったー!ではアロンきょういきましょう」
「あいー」
ある日、昼前に雪が止んだので、昼食までという約束でルゼルはアロンと庭で雪遊びをする許可を得た。
弟のアロンは兄弟の中で一番熱を出しやすい子だったので、冬の外遊びには許可が必要だった。
今は冬休みも終わり、リゼルは学園に行っている。リディラはマナーの家庭教師が来ている日だ。秘密の雪玉作りの特訓にうってつけの日だった。
王宮での雪合戦以来ルゼルもアロンも雪遊びが大好きになった。特に雪玉作りが楽しい。
雪を同じだけすくっても優しく丸めると大きく軽い雪玉になる。力一杯丸めると小さくて固い雪玉になる。
「おなじのりょうなのに、ふしぎふしぎね」
雪は溶けると水になる。だけどバケツに貯めた水は手のひらで強く押しても優しく押しても量が全然変わらない。
「これは、おみずがふしぎかな?ゆきがふしぎかな?」
謎を解明するために今日も雪玉を作るのだ。クイン侯爵家の雪玉作りのプロ、アロンも一緒だ。
雪玉作りにおいてはルゼルはアロンに一目置いている。作るのが速いのだ。何しろヴァジュラの投げる速さに間に合うスピードで握れる。すごい。どうしたらあんなに速く作れるのか。今日はその謎も解きたい。だから今日はアロンに教えを請いたい。だから今日は「アロン卿」だ。
「アロンきょう、こーときましゅ」
「あい」
それぞれの従者がコートを着せる。
「アロンきょう、おぼうしかぶりましゅ」
「あい」
それぞれの従者が帽子をかぶせる、
「アロンきょう、てぶくろしましゅ」
「あい」
それぞれの従者が手袋をはめる。
「いきましゅ!」
「あいー!」
いざ、お庭へ。
降り積もったばかりの雪はサラサラしている。よく見ると雪の結晶が見える。一つ一つ形は違うのにだいたい六個のとんがりがある。これも不思議だからいつか解明しなくてはならない。
「アロンきょう、ゆきだま、おねましゅ」
「あいっ」
真面目な顔で答えると、アロンはサッとしゃがんで素早く雪玉を作った。それをルゼルに差し出して
「あい、るぅるぅ」
と言った。るぅるぅは多分ルゼルのことだ。リゼルやリディラが「ルゼル」と言うのを聴いているからるぅるぅだ。ちなみにアロンはリゼルのことは「あにゅー」リディラのことは「あねぇー」と呼ぶ。おそらくルゼルのアニューレとアネーレ呼びからきているのだろう。
「はわー。やっぱりアロンきょうはゆきだまつくりのてんさいでしゅ」
あまりの速さにルゼルは拍手喝采だ。
「アロンきょうもいちど、おねましゅ」
「あい」
ルゼルはアロンの手の動きをよく観察した。
アロンの右手が雪を掬う。掬い上げと同時に左手が上から雪を押さえる。そのまま雪玉を左に動かすと自然に左手が下になり右手が上になる。そこでキュッと優しく一回力が入っているようだ。そして足元に雪玉を置く。無駄な動きがない!
ルゼルの雪玉作りの工程は、まず右手で雪を掬う。胸の前に持ってきて左手で上から2回押さえる。左手を下にして右手で上から2回押さえる。できた雪玉を右手に持って下に置く。
アロンの作り方はルゼルのそれと全く違っていた。
アロンは流れるように雪玉を作っていた。
「アロンきょう、すてきです」
ルゼルはアロンの手際の良さに感嘆した。自分もマスターしなければ!時間は昼食までしかない!
「アロンきょう、つくりましゅよ!」
「あい!」
始めはうまく掬い上げられなかった。適量を掬うのが難しいのだ。それがうまくできると、次はキュッの力加減が難しかった。速く作ろうとすると力が入りすぎて小さくなってしまう。力が弱すぎても置いた時に雪玉が割れたり崩れたりする。こんな難しいことをアロンはやっていたのかと尊敬した。
冷たくて指先の感覚がなくなってきたころ、やっとコツが掴めた。
「ヤン、みて!じょず?」
「はい、とても良い雪玉になりましたよ」
ヤンは笑って温かいタオルでルゼルの指先を温めながら言った。
「あのね、おてて、ちょっとだけパーにしてすくうと、ちょうどいいになったの。おくときも、どん、じゃなくて、そっとがよかったの」
「そうなんですね。大発見ですね」
「うん!ひみつのとっくん、だいせいこうでしゅ。これでこんどのゆきがっせんではつよいになりましゅ」
大満足のルゼルはアロンに向かって言った。
「アロンきょう、ありがとござました!」
大好きな兄を喜ばせることができたアロンも大満足で笑っていた。
その後、手を温めてもらった二人は、昼食になるまでの短い時間で、作り上げた雪玉を二つずつ重ねて並べていった。
「ゆきだるまさんにしゅるの」
「あーい」
「けんかしないで、ならんでくださーいにしゅるの」
「あーい」
玄関先に可愛い雪だるまの列ができた。そして雪だるま一つ一つに葉や木の実でデコレーションして益々可愛い雪だるまの列にした。
学園から帰ってきたリゼルがそれを見て「可愛いっ。弟たち可愛いっ」と唸った。
出先から戻ったジゼルも「うちの息子たち、可愛いっ」と唸った。
その冬最後の雪の日の出来事だった。
「はい、ルゼル様」
「やったー!ではアロンきょういきましょう」
「あいー」
ある日、昼前に雪が止んだので、昼食までという約束でルゼルはアロンと庭で雪遊びをする許可を得た。
弟のアロンは兄弟の中で一番熱を出しやすい子だったので、冬の外遊びには許可が必要だった。
今は冬休みも終わり、リゼルは学園に行っている。リディラはマナーの家庭教師が来ている日だ。秘密の雪玉作りの特訓にうってつけの日だった。
王宮での雪合戦以来ルゼルもアロンも雪遊びが大好きになった。特に雪玉作りが楽しい。
雪を同じだけすくっても優しく丸めると大きく軽い雪玉になる。力一杯丸めると小さくて固い雪玉になる。
「おなじのりょうなのに、ふしぎふしぎね」
雪は溶けると水になる。だけどバケツに貯めた水は手のひらで強く押しても優しく押しても量が全然変わらない。
「これは、おみずがふしぎかな?ゆきがふしぎかな?」
謎を解明するために今日も雪玉を作るのだ。クイン侯爵家の雪玉作りのプロ、アロンも一緒だ。
雪玉作りにおいてはルゼルはアロンに一目置いている。作るのが速いのだ。何しろヴァジュラの投げる速さに間に合うスピードで握れる。すごい。どうしたらあんなに速く作れるのか。今日はその謎も解きたい。だから今日はアロンに教えを請いたい。だから今日は「アロン卿」だ。
「アロンきょう、こーときましゅ」
「あい」
それぞれの従者がコートを着せる。
「アロンきょう、おぼうしかぶりましゅ」
「あい」
それぞれの従者が帽子をかぶせる、
「アロンきょう、てぶくろしましゅ」
「あい」
それぞれの従者が手袋をはめる。
「いきましゅ!」
「あいー!」
いざ、お庭へ。
降り積もったばかりの雪はサラサラしている。よく見ると雪の結晶が見える。一つ一つ形は違うのにだいたい六個のとんがりがある。これも不思議だからいつか解明しなくてはならない。
「アロンきょう、ゆきだま、おねましゅ」
「あいっ」
真面目な顔で答えると、アロンはサッとしゃがんで素早く雪玉を作った。それをルゼルに差し出して
「あい、るぅるぅ」
と言った。るぅるぅは多分ルゼルのことだ。リゼルやリディラが「ルゼル」と言うのを聴いているからるぅるぅだ。ちなみにアロンはリゼルのことは「あにゅー」リディラのことは「あねぇー」と呼ぶ。おそらくルゼルのアニューレとアネーレ呼びからきているのだろう。
「はわー。やっぱりアロンきょうはゆきだまつくりのてんさいでしゅ」
あまりの速さにルゼルは拍手喝采だ。
「アロンきょうもいちど、おねましゅ」
「あい」
ルゼルはアロンの手の動きをよく観察した。
アロンの右手が雪を掬う。掬い上げと同時に左手が上から雪を押さえる。そのまま雪玉を左に動かすと自然に左手が下になり右手が上になる。そこでキュッと優しく一回力が入っているようだ。そして足元に雪玉を置く。無駄な動きがない!
ルゼルの雪玉作りの工程は、まず右手で雪を掬う。胸の前に持ってきて左手で上から2回押さえる。左手を下にして右手で上から2回押さえる。できた雪玉を右手に持って下に置く。
アロンの作り方はルゼルのそれと全く違っていた。
アロンは流れるように雪玉を作っていた。
「アロンきょう、すてきです」
ルゼルはアロンの手際の良さに感嘆した。自分もマスターしなければ!時間は昼食までしかない!
「アロンきょう、つくりましゅよ!」
「あい!」
始めはうまく掬い上げられなかった。適量を掬うのが難しいのだ。それがうまくできると、次はキュッの力加減が難しかった。速く作ろうとすると力が入りすぎて小さくなってしまう。力が弱すぎても置いた時に雪玉が割れたり崩れたりする。こんな難しいことをアロンはやっていたのかと尊敬した。
冷たくて指先の感覚がなくなってきたころ、やっとコツが掴めた。
「ヤン、みて!じょず?」
「はい、とても良い雪玉になりましたよ」
ヤンは笑って温かいタオルでルゼルの指先を温めながら言った。
「あのね、おてて、ちょっとだけパーにしてすくうと、ちょうどいいになったの。おくときも、どん、じゃなくて、そっとがよかったの」
「そうなんですね。大発見ですね」
「うん!ひみつのとっくん、だいせいこうでしゅ。これでこんどのゆきがっせんではつよいになりましゅ」
大満足のルゼルはアロンに向かって言った。
「アロンきょう、ありがとござました!」
大好きな兄を喜ばせることができたアロンも大満足で笑っていた。
その後、手を温めてもらった二人は、昼食になるまでの短い時間で、作り上げた雪玉を二つずつ重ねて並べていった。
「ゆきだるまさんにしゅるの」
「あーい」
「けんかしないで、ならんでくださーいにしゅるの」
「あーい」
玄関先に可愛い雪だるまの列ができた。そして雪だるま一つ一つに葉や木の実でデコレーションして益々可愛い雪だるまの列にした。
学園から帰ってきたリゼルがそれを見て「可愛いっ。弟たち可愛いっ」と唸った。
出先から戻ったジゼルも「うちの息子たち、可愛いっ」と唸った。
その冬最後の雪の日の出来事だった。
25
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

女神の愛し子だけど役目がありません!
猫ヶ沢山
恋愛
私は産まれてくる前、魂の時に女神様のちょっとしたミスで「女神の愛し子」となってしまった。
何か役目があるのかと思ったけれど特に無いみたい。「愛し子」なのにそれで良いのかしら?
その力が強すぎて生まれてから寝たきり状態。ただの赤ちゃんだと困るから、ちょっとだけ前世を引っ張り出された。自分の事は全然思い出せないけれど・・・。
私のために女神様がつけてくれた守護精霊フェーリと、魔法のある世界で生きていくわ!
*R15は保険です*
*進行は亀の歩みです*
*小説家になろうさんにも掲載しています*
*誤字脱字は確認してますがあったらごめんなさい*作者独自の世界観・設定です。矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです。お手柔らかにお願いします*


憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる