金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第二十一話 黒くてかっこいいお兄さん見つけました。〜女の子は怖くて、手品は不思議です。

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 王宮庭園の噴水は面白い。水がいっぱい出たり細く出たり、時々左右に揺れながら出たりする。それを誰も見ていなくても繰り返している。なんだか頑張り屋さんな気がしてリオンとルゼルはこの噴水が大好きなのだ。
 「ね、すてきでしょ」
 新しく友達になったアデルにリオンが言う。
 「うん。ぼく、おしろにきたのはじめてなの。さむいふゆなのに、きれいなお花もいっぱいで、すてき」
 「ほんとはね、もっとおはな、たくさんあるけど、ヴァジュラ殿下がどーんてして、なくなっちゃったの」
 「ヴァジュラでんか?」
 「うん。まぐぬす殿下のおとうと殿下よ。アデルはきょうだい、いる?」
 「うん。ぼくは、いもうとがいる」
 「私には兄上だけ」
 「には兄ゅーえと、姉ゆえと、おとうとがいるよ」
 さっきはうっかり兄上をアニューレと言ってしまったが今度はちゃんと言えたルゼルだった。
 「ルゼルはきょうだい、いっぱいなんだね」
 「うん。たのしいよ」
 その後も三人は噴水を眺めながら好きなものの話や最近知ったことの話をしていた。リオンとルゼルの話はとかとか知らない言葉が出てきてアデルには時々わからなかったが雰囲気だけでもとても楽しかった。好きなものを好きと言って話すことがこんなに楽しかったのはいつぶりだろう。
 すると突然
 「あ、こんなところにいた。もう、勝手にいなくならないでよね。どうせまた泣いてたんでしょ、このいくじなしがっ。はぐれたら叱られるのは私なんだか…ら…?」
 楽しく話していたら怒った顔をした女の子が大声でやってきて、リオンとルゼルを見ると黙って、止まって、息も止めた。目がビックリの目になっている。金髪の長い髪を縦巻きにした青みがかったグレイの瞳の女の子だ。
 「リタ…」
 アデルがびくついて言うと呪いが解けたようにリタが動き出した。
 「あ、えーと、はじめまして。リタ・ラインと申します」
 リタはリオンとルゼルに挨拶をした。
 この令嬢がリタ?本当だ。怖い。凄く怒っていたのに急に笑って挨拶するなんて怖すぎる。ルゼルは泣きそうだ。
 「ああ、ここにいたんだねリオン」
 「探しましたわよ、ルゼル」
 物陰から様子を伺っていたユリアンたちがルゼルが泣きそうなのを見てたまらずに出てきた。
 「ありがとう、君が弟たちと遊んでくれていたの?」
 リゼルがアデルに声をかける。
 「ありがとう。私はリオンの兄のユリアン・コークだよ。弟と遊んでくれたみたいだね」
 「私はルゼルの兄のリゼル・クイン。こちらは私の妹でルゼルの姉のリディラ・クインだ」
 「よろしく。リディラ・クインです」
 「あっ、はい…アデル・ライン…です」
 「あ。わ、私はリタ・ライン。アデルの従姉妹です」
 アデルもリタもビックリだ。こんな美しい集団見たことない。王宮はすごい。
 「リタ嬢、何かとても大きな声を出していたようだけど、何かあったの?」
 ユリアンがわかっていて言う。
 「あっ、いえ。アデルが居なくなって、その…心配して探していただけです」
 「そう。うちの弟たちが連れ出してしまったみたい。ごめんね」
 リゼルもわざと謝る。
 「あ、いえ、あの、いえ」
 「わかるわ。可愛い従兄弟がいなくなったら心配よね。とてもわかるわ」
 リディラがいつになくゆっくり話す。なんだか怖い。
 リタはなんとなく居づらい気分だ。
 「そういえば向こうにポニーが来ていたね。今から乗せてもらえるらしいけど、リタ嬢はそれでアデルを探していたのかな?」
 とユリアンが退場を促す。
 「はい、そうです。アデル、ポニーよ。ポニーに乗りましょう」
 「あ、うん」
 リタがアデルの手を荒々しく引っ張って去って行く。
 「アデルー。またねー」
 「アデルー。またねー」
 リオンとルゼルはちょっと怖いリタが居なくなって少しホッとしながら、でもお友達になったアデルとのお別れは残念…な気持ちで手を振った。
 「…あにゅーれ、あにゅーれのいうとおり、なんだかおんなのこ、こわいでした」
 はぁとため息をついてルゼルが言った。その横でリオンが激しく頷いていた。
 ユリアンたちが二人を見て笑いかけた瞬間。
 「あはははっ」
 ユリアンたちより先に大きな笑い声が聞こえた。誰かいる。誰だろう。リオンとルゼルが垣根の向こうを少し覗いてみた。ヴァジュラが垣根をどーんした場所だったので向こう側が見やすくなっているのだ。
 「あ!」覗いたルゼルが声をあげた。
 「かっこいいお兄さんがいます!かっこいいお兄さんみつけました!」と言ったのはリオン。
 「あははは。なにそれ、僕のことなの?」少年が現れて笑った。
 「ごめん。黙って見てるつもりだったんだけど、今ので笑っちゃったよ」
 現れた少年は少し浅黒い肌に長めの黒髪黒眼で言葉に少しクセのあるアクセントがあった。
 「君たち、噂のコーク公爵家とクイン侯爵家の子たちだよね。へぇ、間近で見ると迫力が全然違うな」
 少年は話し言葉はぶっきらぼうだが、物腰や仕草はとても品がある。リオンたちは突然現れた少年にビックリだ。
 「僕はネイル国から来てる。ラウル・ネイル。初等学園の9年生だよ」
 ネイル国から来たネイルというなら、この少年はネイル国の王子様なのではないか?
 「…王子様ですか?」
 ルゼルがストレートに聞いた。
 「あははは、うん、そう」
 ユリアンたちが緊張して頭を下げる。ネイル国はマードに隣接する小国で、大戦争での敗戦国だ。
 「失礼しました。コーク公爵家ユリアンがご挨拶申し上げます」
 「ああ、大丈夫。知ってるよ。有名人だから君たち。それに僕には硬い挨拶は不要だし。いや、ごめんね?聞くつもりなかったんだけど、弟君たち可愛いし、コーク君たちは見事な連携プレイだし、なんか面白くて笑っちゃったよ」
 「恐れ入ります」
 リゼルが言った。
 「君の弟たちはなんだか不思議で凄いね。まるきり他の子どもたちとは雰囲気が違う」
 なんだろう。ラウルは今まで会った子どもたちとは全然違う。品があるのに豪快な印象。だけどどこか影がある。
 「ごめんよ。驚かせるつもりは全然なかったんだ。僕はそろそろホールに戻らないといけないしね。ビックリさせたお詫びに…はい!」
 ラウルが空中で手をクルリと回すと、綺麗な花がその手の中に現れた。
 「はわっ⁉︎」
 ルゼルが声を出した。
 「ですか⁉︎」
 これはリオンだ、
 「ふふ、違うよ。これはこの花は会場のテーブルにあったものだよ。ね、少しは楽しめた?」
 リオンとルゼルはウンウンと頷く。
 「では、これはリディラ嬢に」
 そう言ってラウルは花をリディラに渡した。そのままリディラの手の甲に口を近づけるが、リディラが「ひゅっ」と言うのとリゼルが「やめてください」と言ってリディラの手を引くのとが同時だった。
 「ああ、ごめんね。単なる挨拶だから他意はないよ。ね。怖いから睨まないでお兄ちゃん」
 そう言ってラウルは両手を軽く上げて笑った。
 「ねぇ、学園で見かけたら声かけてよ。また違う手品をみせてあげるから」
 そう言ってラウルは手を振りながら会場に戻って行った。

 なんだかラウルは同じ王子様でも、マグヌス殿下やヴァジュラ殿下のどちらにも似ていなかった。
 「王子様、いろんなひと、いるんだね」とリオン。
 「ふしぎふしぎでした」とルゼル。
 リディラは青ざめているし、リゼルは「チャラいな」と言って怒っている。
 そんな皆を見て、ユリアンは苦笑いをしていた。
 
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