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第三章
第十八話 帰りの馬車にて〜図鑑制作会議です。素敵な図鑑を作ります。
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楽しかった海の別邸を後に、馬車で王都に向かい始めた。馬車のメンバーは行きと同じだ。帰りに寄る貴族の邸は行きとは違うクイン侯爵家の親戚のところばかりだ。本当にクイン侯爵家は親戚が多い。
どこに行っても美幼児たちに驚かれるが、そこには触れず歓迎された。クイン家は本当に空気を読む。おかげで子どもたちは伸び伸び楽しい旅程になっている。
馬車の中のリオンとルゼルは、行きよりもおしゃべりが弾んでいる。
「かえったら、アロンにおはなしするの?」
と、リオンが聞く。
「うん。あろんにも、父ゆえにも母にえにもおはなししゅるの!いーっぱいいっぱいたのしかったよーって」
ルゼルは両手を挙げ、くるくる回して話す。
「こんどはアロンもいっしょがいいね」
「うん。あろんにうみ、みせたいでしゅ…なみにきをつけることも」
ルゼルは波にさらわれた怖さを思い出していた。アロンが同じ思いをするなんてかわいそうで耐えられない。
「うぐっ」
ルゼルは急に泣きそうになった。もちろんリオンにはルゼルがなんで泣きそうなのかわかる。
「るぜ!アロンにうみのずかん、つくってあげよう。そしたらこわくないよ」
「はわ!うん!なみはあぶないでしゅよーとか、かいはきれいよーとか、かくのね?」
「そう。アロンが、うみすきになるずかん」
きゃー。楽しそうだ。話を聞いているリディラも「これは良いものができそう」と目がキラキラした。
「何を書くのか少し決めてみたら?」
リディラが好奇心もあり言ってみた。
「はい!」
二人は図鑑の内容を話し合った。リディラの侍女がアイディアを書き留める役だ。
「んとんと、さいしょに、うみはひろーくて、おっきーいってかくの」
「しょれから、うみはとくゆうのかおりがしゅるの。しおのかおりっていうの」
「でも、かおりはしょっぱくなかったね」
「うん。あ、うみはしょっぱいっていうのもかくの」
結局リオンは海のしょっぱさを確かめずにいた。ちょっと怖かったからだ。ルゼルは相変わらず海のしょっぱさを知る生還者ルゼルだ。かっこいい。次に行った時こそは…とリオンは思う。
「しょれから、かいはうらがきらきら」
「かいはたくさんわれてる」
「おすなはさらさら、だけどくふうでかたくなる」
「かたくなると、とんねるつくれる」
「…とんねる、どしてぺちゃんこにならなかったのかな、あなあけたのに」
「うん、ふしぎね」
「なかで、おててつないだのおもしろかったね」
きゃはは。思い出して二人は笑った。
「それからー、たべるものでとくゆうのいろになるかいがいた」
「ばしょがちがうととくゆうがある」
「かには、よこあるきしゅる」
「かには、けんかしない」
「かには、なかない」
可愛らしい会話が続く。リディラも侍女もニコニコして聴いていた。
「てつのふねは、うみにうかぶ。ふりょく」
「ふりょくをつかえば、てつはおそらもとべるかもしれない」
「ものは、ちかいとはやくみえて、とおいとおそくみえる」
「え?」
声を出したのはリディラだ。侍女の手も少し止まった。
「ね。あれはふしぎのはっけんね」
「ちょっと待って。そこ詳しく教えて」
「うん、あのねあねーれ、かにがあるくむこうがわに、おふねがみえたの」
リオンとルゼルの説明はこうだ。
海でカニと遊んでいた時、カニの向こう側遠くに船が見えた。二つを重ねて見ると、カニが船を追い越すように見えた。だが、どう考えてもカニが船より速いとは思えない。そこでハタと気づいた。重ねて見ると船とカニが同じ大きさに見える。そんなはずはない。ということは、距離が関係している。
「ちかいとおおきくみえて、とおいとちいさくみえるの」
「だから、ちかくにみえるものは、とおくにみえるものより、はやくみえるの」
「はっけんしたんだよねー」
「ねー」
二人は浮力についても話した。浮力を利用すればきっと空を飛ぶ船も作れると。
「それは気球のことではないの?」
「ききゅうはうえーにいくだけです」
「ふりょくはきっとてつのふねをおそらでまえーにうごかしまちゅ」
「ねー」
3歳の発想?3歳の発見?
…楽しそうだから、良いことにしましょう…。リディラはとりあえず考えることはやめた。
その後二人は図鑑の表紙は何色にしようかとか、題名は何にしようかと馬車に揺られる間はずっと図鑑制作会議をしていた。
二人の手作り図鑑は「海の図鑑」と名付けられ、海の説明や注意すること(波から逃げること)、海の生き物、海の遊び、海で発見したことなどにまとめられアロンに渡された。
アロンの喜びを見たリオンとルゼルはとても嬉しかった。少しお休みしていた自分たちの「好きなもの図鑑」も進めることにした。アロンにもまた違う図鑑を書いてやりたい。もっと絵も字も練習しなければ。
アロンに渡された海の図鑑を見たクイン侯爵ジゼルは「これは良いのでは?幼稚園開設に合わせて、全国的に子ども向け図鑑シリーズを発行するべきでは?」と新たな商売に着手した。
今までは図鑑というと字の読める年齢からのものしかなかった。しかしルゼルたちの作った図鑑を見た時、絵だけでわかる図鑑があると字が読めなくても知識を得られる可能性があることや、知識欲を刺激することに役立つと思えたからだ。
子ども図鑑シリーズは絵の他はその物の名前が書いてあるだけのシンプルな図鑑となったが、これが絵本同様、文字を学びたい平民の女性層に受け、大ヒットシリーズとなった。
数年後には子どもが生まれたお祝いの定番プレゼントになった。活版業界は絵本のブームもあり業績を伸ばしに伸ばす業界となっていった。
どこに行っても美幼児たちに驚かれるが、そこには触れず歓迎された。クイン家は本当に空気を読む。おかげで子どもたちは伸び伸び楽しい旅程になっている。
馬車の中のリオンとルゼルは、行きよりもおしゃべりが弾んでいる。
「かえったら、アロンにおはなしするの?」
と、リオンが聞く。
「うん。あろんにも、父ゆえにも母にえにもおはなししゅるの!いーっぱいいっぱいたのしかったよーって」
ルゼルは両手を挙げ、くるくる回して話す。
「こんどはアロンもいっしょがいいね」
「うん。あろんにうみ、みせたいでしゅ…なみにきをつけることも」
ルゼルは波にさらわれた怖さを思い出していた。アロンが同じ思いをするなんてかわいそうで耐えられない。
「うぐっ」
ルゼルは急に泣きそうになった。もちろんリオンにはルゼルがなんで泣きそうなのかわかる。
「るぜ!アロンにうみのずかん、つくってあげよう。そしたらこわくないよ」
「はわ!うん!なみはあぶないでしゅよーとか、かいはきれいよーとか、かくのね?」
「そう。アロンが、うみすきになるずかん」
きゃー。楽しそうだ。話を聞いているリディラも「これは良いものができそう」と目がキラキラした。
「何を書くのか少し決めてみたら?」
リディラが好奇心もあり言ってみた。
「はい!」
二人は図鑑の内容を話し合った。リディラの侍女がアイディアを書き留める役だ。
「んとんと、さいしょに、うみはひろーくて、おっきーいってかくの」
「しょれから、うみはとくゆうのかおりがしゅるの。しおのかおりっていうの」
「でも、かおりはしょっぱくなかったね」
「うん。あ、うみはしょっぱいっていうのもかくの」
結局リオンは海のしょっぱさを確かめずにいた。ちょっと怖かったからだ。ルゼルは相変わらず海のしょっぱさを知る生還者ルゼルだ。かっこいい。次に行った時こそは…とリオンは思う。
「しょれから、かいはうらがきらきら」
「かいはたくさんわれてる」
「おすなはさらさら、だけどくふうでかたくなる」
「かたくなると、とんねるつくれる」
「…とんねる、どしてぺちゃんこにならなかったのかな、あなあけたのに」
「うん、ふしぎね」
「なかで、おててつないだのおもしろかったね」
きゃはは。思い出して二人は笑った。
「それからー、たべるものでとくゆうのいろになるかいがいた」
「ばしょがちがうととくゆうがある」
「かには、よこあるきしゅる」
「かには、けんかしない」
「かには、なかない」
可愛らしい会話が続く。リディラも侍女もニコニコして聴いていた。
「てつのふねは、うみにうかぶ。ふりょく」
「ふりょくをつかえば、てつはおそらもとべるかもしれない」
「ものは、ちかいとはやくみえて、とおいとおそくみえる」
「え?」
声を出したのはリディラだ。侍女の手も少し止まった。
「ね。あれはふしぎのはっけんね」
「ちょっと待って。そこ詳しく教えて」
「うん、あのねあねーれ、かにがあるくむこうがわに、おふねがみえたの」
リオンとルゼルの説明はこうだ。
海でカニと遊んでいた時、カニの向こう側遠くに船が見えた。二つを重ねて見ると、カニが船を追い越すように見えた。だが、どう考えてもカニが船より速いとは思えない。そこでハタと気づいた。重ねて見ると船とカニが同じ大きさに見える。そんなはずはない。ということは、距離が関係している。
「ちかいとおおきくみえて、とおいとちいさくみえるの」
「だから、ちかくにみえるものは、とおくにみえるものより、はやくみえるの」
「はっけんしたんだよねー」
「ねー」
二人は浮力についても話した。浮力を利用すればきっと空を飛ぶ船も作れると。
「それは気球のことではないの?」
「ききゅうはうえーにいくだけです」
「ふりょくはきっとてつのふねをおそらでまえーにうごかしまちゅ」
「ねー」
3歳の発想?3歳の発見?
…楽しそうだから、良いことにしましょう…。リディラはとりあえず考えることはやめた。
その後二人は図鑑の表紙は何色にしようかとか、題名は何にしようかと馬車に揺られる間はずっと図鑑制作会議をしていた。
二人の手作り図鑑は「海の図鑑」と名付けられ、海の説明や注意すること(波から逃げること)、海の生き物、海の遊び、海で発見したことなどにまとめられアロンに渡された。
アロンの喜びを見たリオンとルゼルはとても嬉しかった。少しお休みしていた自分たちの「好きなもの図鑑」も進めることにした。アロンにもまた違う図鑑を書いてやりたい。もっと絵も字も練習しなければ。
アロンに渡された海の図鑑を見たクイン侯爵ジゼルは「これは良いのでは?幼稚園開設に合わせて、全国的に子ども向け図鑑シリーズを発行するべきでは?」と新たな商売に着手した。
今までは図鑑というと字の読める年齢からのものしかなかった。しかしルゼルたちの作った図鑑を見た時、絵だけでわかる図鑑があると字が読めなくても知識を得られる可能性があることや、知識欲を刺激することに役立つと思えたからだ。
子ども図鑑シリーズは絵の他はその物の名前が書いてあるだけのシンプルな図鑑となったが、これが絵本同様、文字を学びたい平民の女性層に受け、大ヒットシリーズとなった。
数年後には子どもが生まれたお祝いの定番プレゼントになった。活版業界は絵本のブームもあり業績を伸ばしに伸ばす業界となっていった。
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