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第三章
第十四話 海は不思議がいっぱいです。〜こ、怖くなんか…ないです。
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海は不思議の塊だった。
思った以上に広くて大きかった。ざぶーんの音も初めて聴く音だった。波の力は強かった。鉄の船が本当に浮かんでいた。カニは横歩きをしていた。(チョキも上手だ)
はからずも海水を飲み込む羽目になったルゼルは「うみ、しょっぱい…」を確認してしまった。
「るぜ、うみ、しょっぱーってなった?」
リオンが再確認で聞く。
ルゼルは波にさらわれた瞬間を思い出しながら
「うん。うみ、しょっぱい!」
と答える。もうルゼルは怖いより楽しいが勝り、海水のしょっぱさを知っている生還者だった。
生還者ルゼルはかっこいい。リオンもしょっぱさを確かめたい。でも海水を飲むのは少し怖い。「んーっ」足元の波を見ながら悩むリオン。視線を上げると広がる海。
そういえば海には海神様がいると絵本で読んだ。海でいたずらすると海神様が怒って怖い罰を与えるのだ。怖い罰は人によって違っていた。もし、海水を飲むことがいたずらだと思われたらどんな罰を与えられるだろう…わからない。わからないことは怖い…。どうしよう、確かめたい、怖い。ああ…。
「ふえっ…」
ふいにリオンが棒立ちのまま涙ぐんだのでルゼルは大慌てだ。
「りおんっ⁉︎…ふえっ」
おろおろしてルゼルも泣きそうになった。
それを見ていたユリアンは、何が起きたかわからないがリオンは思考が飛躍して怖くなったのだろうと察した。リオンにはよくあることなのだ。だから知らないふりして言った。
「リオン、ルゼル、砂のお山を作ろう。面白くて不思議だよ」
「おもしろくて」
「ふしぎ?」
このフレーズは二人に有効だとユリアンは知っている。
「そう。サラサラの砂でお山は作れると思う?」
リオンとルゼルは大貴族の令息だ。泥遊びや砂遊びなどしたことはない。ユリアンが砂を手にしてサラサラと流した。あのサラサラの砂でお山?お山は大きい。作れそうにない。
「おやまはおっきいです。おすなではおやまつくれないです」
泣きかけだったリオンが泣くのを忘れて言った。内心「ヨシっ」と思いながらユリアンが言う。
「大きなお山を作ることができるんだよ。少し工夫するだけで」
「くふう?」
なんだろうそれは?
「工夫というのはね、できるようにするための、ちょっと良いやり方って言う意味だよ」
「くふう」
リオンが繰り返す。インプット完了だ。
「ゆりあんにいしゃま、おしえてくだしゃい!」
ルゼルも前のめりだ。
「こっちにおいで」
ユリアンは波が届かない場所に二人を呼び、砂山作りを開始した。
まずユリアンは乾いた砂で山を作る。少し高くなったところからは砂を足しても砂が滑り落ちて高くならなかった。
「このままだといつまで経ってもお山にならない。砂の丘くらいだよね」
リオンとルゼルはウンウンと頷いて見ている。
「だから…じゃん!お水です。ここでは海水だけどね」
小さなバケツに入れた海水を見せた。
「この水を砂に少しずつ足していくと…」
ユリアンは手の中で砂と水を混ぜていく、手を開くとさっきはサラサラこぼれた砂が塊を作っていてこぼれない!
「はわっ!」
「兄上すごいです!」
「ね。これが工夫。ちょっとしたことで変わるんだ」
この工夫を使えばサラサラの砂が固まって大きな山を作れそうだ。
その後は大きな砂山作りに大興奮した。リゼルが「この山にはトンネルが作れるよ」と教えてくれるものだから、なおのこと盛り上がった。向こうとこっちでトンネルを作っていたら山の中でリオンとルゼルの手がぶつかった。もう大笑いだ。楽しくてしかたない。
砂を固める工夫を知った二人は山の他にも色々作った。
「すなの、おだんご」
「すなの、ゆきだるま」
ユリアンとリゼルも作った。
「砂のカニ。うさぎ。貝を目にしたよ」
工夫だ!貝を工夫にした!
「私はバケツをひっくり返してバケツの形の山を作った。台形山だ」
工夫だ!バケツを使った工夫だ!
兄上達はすごい!だいけいはわからないけど、すごい!
別邸に戻ってからの二人は興奮冷めやらず夕食の時間に公爵に沢山話した。
「父上!るぜが、うみはしょっぱいなのわかったの」
「かには、ちょきじょずでしゅ」
「おすなは、おみずでかたくなるの」
「くふうでしゅ」
「くふうはね、できるようにするための、ちょっといいやりかたです」
「かたいおすなで、おやまつくりました。あにゅーれは…あっ、あにゅーれはだいけいやまつくりました」
ルゼルはうっかりアニューレと言ってしまったのでちゃんと兄上と言い直したが、滑舌が良くないのでやっぱりまだアニューレに聴こえた。リゼルとリディラが微笑んでいる。もちろんユリアンは羨ましい。
「兄上は、おすなでかにとかうさぎとかつくりました!」
「しゅごいだったね」
「ねー」
二人は兄たちの作品がどんなにすごかったかとか、トンネルの中で手を繋いだ時の面白さを延々と話していた。最後に
「るぜ、おすなのおあそび、ゆきでもできるね」
「はわ!りおん!ゆきのひにしよねー」
「ねー」
二人の可愛い話をにこやかに聴いていた公爵だったが、この会話でひらめいた。
砂で作る形。雪で作る形。チラシ…。ある物で工夫。ちょっとした良いやり方…。
大戦争後、影響を受けた観光地はいくつもあった。その中には景観が観光目玉であったが戦争で景観が全く変わってしまい、景勝を売りにできず復興が停滞している地域がいくつもある。
海辺や雪のある場所ならこれを新しい観光にできるのではないか?この砂や雪を工夫した観光目玉を作り、チラシでイメージしやすく話題を広めるのだ。
♢♢♢
マード国には素晴らしい砂の芸術を見せる地方がある。砂で作った城や有名な物語のシーンを砂で作るのだ。雪の芸術を作る地方がある。雪を固めて南の動物や植物を作ったりして、雪国にないものとのギャップが話題だ。どちらも大作で芸術性が高い、けれど時間とともになくなる芸術だからシーズン中に行かないと見られなくなる。そんな評判で戦後観光地としての活気を取り戻した地域がいくつかある。その発展の裏には子どもたちの楽しい遊びと「うみ、ちょっとこわい」の経験があった。
思った以上に広くて大きかった。ざぶーんの音も初めて聴く音だった。波の力は強かった。鉄の船が本当に浮かんでいた。カニは横歩きをしていた。(チョキも上手だ)
はからずも海水を飲み込む羽目になったルゼルは「うみ、しょっぱい…」を確認してしまった。
「るぜ、うみ、しょっぱーってなった?」
リオンが再確認で聞く。
ルゼルは波にさらわれた瞬間を思い出しながら
「うん。うみ、しょっぱい!」
と答える。もうルゼルは怖いより楽しいが勝り、海水のしょっぱさを知っている生還者だった。
生還者ルゼルはかっこいい。リオンもしょっぱさを確かめたい。でも海水を飲むのは少し怖い。「んーっ」足元の波を見ながら悩むリオン。視線を上げると広がる海。
そういえば海には海神様がいると絵本で読んだ。海でいたずらすると海神様が怒って怖い罰を与えるのだ。怖い罰は人によって違っていた。もし、海水を飲むことがいたずらだと思われたらどんな罰を与えられるだろう…わからない。わからないことは怖い…。どうしよう、確かめたい、怖い。ああ…。
「ふえっ…」
ふいにリオンが棒立ちのまま涙ぐんだのでルゼルは大慌てだ。
「りおんっ⁉︎…ふえっ」
おろおろしてルゼルも泣きそうになった。
それを見ていたユリアンは、何が起きたかわからないがリオンは思考が飛躍して怖くなったのだろうと察した。リオンにはよくあることなのだ。だから知らないふりして言った。
「リオン、ルゼル、砂のお山を作ろう。面白くて不思議だよ」
「おもしろくて」
「ふしぎ?」
このフレーズは二人に有効だとユリアンは知っている。
「そう。サラサラの砂でお山は作れると思う?」
リオンとルゼルは大貴族の令息だ。泥遊びや砂遊びなどしたことはない。ユリアンが砂を手にしてサラサラと流した。あのサラサラの砂でお山?お山は大きい。作れそうにない。
「おやまはおっきいです。おすなではおやまつくれないです」
泣きかけだったリオンが泣くのを忘れて言った。内心「ヨシっ」と思いながらユリアンが言う。
「大きなお山を作ることができるんだよ。少し工夫するだけで」
「くふう?」
なんだろうそれは?
「工夫というのはね、できるようにするための、ちょっと良いやり方って言う意味だよ」
「くふう」
リオンが繰り返す。インプット完了だ。
「ゆりあんにいしゃま、おしえてくだしゃい!」
ルゼルも前のめりだ。
「こっちにおいで」
ユリアンは波が届かない場所に二人を呼び、砂山作りを開始した。
まずユリアンは乾いた砂で山を作る。少し高くなったところからは砂を足しても砂が滑り落ちて高くならなかった。
「このままだといつまで経ってもお山にならない。砂の丘くらいだよね」
リオンとルゼルはウンウンと頷いて見ている。
「だから…じゃん!お水です。ここでは海水だけどね」
小さなバケツに入れた海水を見せた。
「この水を砂に少しずつ足していくと…」
ユリアンは手の中で砂と水を混ぜていく、手を開くとさっきはサラサラこぼれた砂が塊を作っていてこぼれない!
「はわっ!」
「兄上すごいです!」
「ね。これが工夫。ちょっとしたことで変わるんだ」
この工夫を使えばサラサラの砂が固まって大きな山を作れそうだ。
その後は大きな砂山作りに大興奮した。リゼルが「この山にはトンネルが作れるよ」と教えてくれるものだから、なおのこと盛り上がった。向こうとこっちでトンネルを作っていたら山の中でリオンとルゼルの手がぶつかった。もう大笑いだ。楽しくてしかたない。
砂を固める工夫を知った二人は山の他にも色々作った。
「すなの、おだんご」
「すなの、ゆきだるま」
ユリアンとリゼルも作った。
「砂のカニ。うさぎ。貝を目にしたよ」
工夫だ!貝を工夫にした!
「私はバケツをひっくり返してバケツの形の山を作った。台形山だ」
工夫だ!バケツを使った工夫だ!
兄上達はすごい!だいけいはわからないけど、すごい!
別邸に戻ってからの二人は興奮冷めやらず夕食の時間に公爵に沢山話した。
「父上!るぜが、うみはしょっぱいなのわかったの」
「かには、ちょきじょずでしゅ」
「おすなは、おみずでかたくなるの」
「くふうでしゅ」
「くふうはね、できるようにするための、ちょっといいやりかたです」
「かたいおすなで、おやまつくりました。あにゅーれは…あっ、あにゅーれはだいけいやまつくりました」
ルゼルはうっかりアニューレと言ってしまったのでちゃんと兄上と言い直したが、滑舌が良くないのでやっぱりまだアニューレに聴こえた。リゼルとリディラが微笑んでいる。もちろんユリアンは羨ましい。
「兄上は、おすなでかにとかうさぎとかつくりました!」
「しゅごいだったね」
「ねー」
二人は兄たちの作品がどんなにすごかったかとか、トンネルの中で手を繋いだ時の面白さを延々と話していた。最後に
「るぜ、おすなのおあそび、ゆきでもできるね」
「はわ!りおん!ゆきのひにしよねー」
「ねー」
二人の可愛い話をにこやかに聴いていた公爵だったが、この会話でひらめいた。
砂で作る形。雪で作る形。チラシ…。ある物で工夫。ちょっとした良いやり方…。
大戦争後、影響を受けた観光地はいくつもあった。その中には景観が観光目玉であったが戦争で景観が全く変わってしまい、景勝を売りにできず復興が停滞している地域がいくつもある。
海辺や雪のある場所ならこれを新しい観光にできるのではないか?この砂や雪を工夫した観光目玉を作り、チラシでイメージしやすく話題を広めるのだ。
♢♢♢
マード国には素晴らしい砂の芸術を見せる地方がある。砂で作った城や有名な物語のシーンを砂で作るのだ。雪の芸術を作る地方がある。雪を固めて南の動物や植物を作ったりして、雪国にないものとのギャップが話題だ。どちらも大作で芸術性が高い、けれど時間とともになくなる芸術だからシーズン中に行かないと見られなくなる。そんな評判で戦後観光地としての活気を取り戻した地域がいくつかある。その発展の裏には子どもたちの楽しい遊びと「うみ、ちょっとこわい」の経験があった。
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