金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

文字の大きさ
上 下
40 / 101
第三章

第十四話 海は不思議がいっぱいです。〜こ、怖くなんか…ないです。

しおりを挟む
 海は不思議の塊だった。
 思った以上に広くて大きかった。ざぶーんの音も初めて聴く音だった。波の力は強かった。鉄の船が本当に浮かんでいた。カニは横歩きをしていた。(チョキも上手だ)
 はからずも海水を飲み込む羽目になったルゼルは「うみ、しょっぱい…」を確認してしまった。
 「るぜ、うみ、しょっぱーってなった?」
 リオンが再確認で聞く。
 ルゼルは波にさらわれた瞬間を思い出しながら
 「うん。うみ、しょっぱい!」
 と答える。もうルゼルは怖いより楽しいが勝り、海水のしょっぱさを知っているだった。
 ルゼルはかっこいい。リオンもしょっぱさを確かめたい。でも海水を飲むのは少し怖い。「んーっ」足元の波を見ながら悩むリオン。視線を上げると広がる海。
 そういえば海には海神様うみがみさまがいると絵本で読んだ。海でいたずらすると海神様うみがみさまが怒って怖い罰を与えるのだ。怖い罰は人によって違っていた。もし、海水を飲むことがいたずらだと思われたらどんな罰を与えられるだろう…わからない。わからないことは怖い…。どうしよう、確かめたい、怖い。ああ…。
 「ふえっ…」
 ふいにリオンが棒立ちのまま涙ぐんだのでルゼルは大慌てだ。
 「りおんっ⁉︎…ふえっ」
 おろおろしてルゼルも泣きそうになった。
 それを見ていたユリアンは、何が起きたかわからないがリオンは思考が飛躍して怖くなったのだろうと察した。リオンにはよくあることなのだ。だから知らないふりして言った。
 「リオン、ルゼル、砂のお山を作ろう。だよ」
 「おもしろくて」
 「ふしぎ?」
 このフレーズは二人に有効だとユリアンは知っている。
 「そう。サラサラの砂でお山は作れると思う?」
 リオンとルゼルは大貴族の令息だ。泥遊びや砂遊びなどしたことはない。ユリアンが砂を手にしてサラサラと流した。あのサラサラの砂でお山?お山は大きい。作れそうにない。
 「おやまはおっきいです。おすなではおやまつくれないです」
 泣きかけだったリオンが泣くのを忘れて言った。内心「ヨシっ」と思いながらユリアンが言う。
 「大きなお山を作ることができるんだよ。少し工夫するだけで」
 「くふう?」
 なんだろうそれは?
 「というのはね、って言う意味だよ」
 「くふう」
 リオンが繰り返す。インプット完了だ。
 「ゆりあんにいしゃま、おしえてくだしゃい!」
 ルゼルも前のめりだ。
 「こっちにおいで」
 ユリアンは波が届かない場所に二人を呼び、砂山作りを開始した。
 まずユリアンは乾いた砂で山を作る。少し高くなったところからは砂を足しても砂が滑り落ちて高くならなかった。
 「このままだといつまで経ってもお山にならない。砂の丘くらいだよね」
 リオンとルゼルはウンウンと頷いて見ている。
 「だから…じゃん!お水です。ここでは海水だけどね」
 小さなバケツに入れた海水を見せた。
 「この水を砂に少しずつ足していくと…」
 ユリアンは手の中で砂と水を混ぜていく、手を開くとさっきはサラサラこぼれた砂が塊を作っていてこぼれない!
 「はわっ!」
 「兄上すごいです!」
 「ね。これが。ちょっとしたことで変わるんだ」
 このを使えばサラサラの砂が固まって大きな山を作れそうだ。
 その後は大きな砂山作りに大興奮した。リゼルが「この山にはトンネルが作れるよ」と教えてくれるものだから、なおのこと盛り上がった。向こうとこっちでトンネルを作っていたら山の中でリオンとルゼルの手がぶつかった。もう大笑いだ。楽しくてしかたない。
 砂を固めるを知った二人は山の他にも色々作った。
 「すなの、おだんご」
 「すなの、ゆきだるま」
 ユリアンとリゼルも作った。
 「砂のカニ。うさぎ。貝を目にしたよ」
 工夫だ!貝を工夫にした!
 「私はバケツをひっくり返してバケツの形の山を作った。台形山だ」
 工夫だ!バケツを使った工夫だ!
 兄上達はすごい!はわからないけど、すごい!

 別邸に戻ってからの二人は興奮冷めやらず夕食の時間に公爵に沢山話した。
 「父上!るぜが、うみはしょっぱいなのわかったの」
 「は、ちょきじょずでしゅ」
 「おすなは、おみずでかたくなるの」
 「でしゅ」
 「はね、です」
 「かたいおすなで、おやまつくりました。あにゅーれは…あっ、あにゅーれはつくりました」
 ルゼルはうっかりアニューレと言ってしまったのでちゃんと兄上と言い直したが、滑舌が良くないのでやっぱりまだアニューレに聴こえた。リゼルとリディラが微笑んでいる。もちろんユリアンは羨ましい。
 「兄上は、おすなでとかとかつくりました!」
 「しゅごいだったね」
 「ねー」

 二人は兄たちの作品がどんなにすごかったかとか、トンネルの中で手を繋いだ時の面白さを延々と話していた。最後に
 「るぜ、おすなのおあそび、でもできるね」
 「はわ!りおん!ゆきのひにしよねー」
 「ねー」
 二人の可愛い話をにこやかに聴いていた公爵だったが、この会話でひらめいた。
 砂で作る形。雪で作る形。チラシ…。ある物で工夫。ちょっとした良いやり方…。

 大戦争後、影響を受けた観光地はいくつもあった。その中には景観が観光目玉であったが戦争で景観が全く変わってしまい、景勝を売りにできず復興が停滞している地域がいくつもある。
 海辺や雪のある場所ならこれを新しい観光にできるのではないか?この砂や雪をした観光目玉を作り、チラシでイメージしやすく話題を広めるのだ。
 
      ♢♢♢
 
 マード国には素晴らしい砂の芸術を見せる地方がある。砂で作った城や有名な物語のシーンを砂で作るのだ。雪の芸術を作る地方がある。雪を固めて南の動物や植物を作ったりして、雪国にないものとのギャップが話題だ。どちらも大作で芸術性が高い、けれど時間とともになくなる芸術だからシーズン中に行かないと見られなくなる。そんな評判で戦後観光地としての活気を取り戻した地域がいくつかある。その発展の裏には子どもたちの楽しい遊びと「うみ、ちょっとこわい」の経験があった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の愛し子だけど役目がありません!

猫ヶ沢山
恋愛
私は産まれてくる前、魂の時に女神様のちょっとしたミスで「女神の愛し子」となってしまった。 何か役目があるのかと思ったけれど特に無いみたい。「愛し子」なのにそれで良いのかしら? その力が強すぎて生まれてから寝たきり状態。ただの赤ちゃんだと困るから、ちょっとだけ前世を引っ張り出された。自分の事は全然思い出せないけれど・・・。 私のために女神様がつけてくれた守護精霊フェーリと、魔法のある世界で生きていくわ! *R15は保険です* *進行は亀の歩みです* *小説家になろうさんにも掲載しています* *誤字脱字は確認してますがあったらごめんなさい*作者独自の世界観・設定です。矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです。お手柔らかにお願いします*

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...