37 / 101
第三章
第十二話 騎士団、歌う〜騎士団は強いだけじゃないぞ。
しおりを挟む
「おうた、たのしでしゅ」
ルゼルは学園参観以来すっかり歌が気に入ってしまった。何かに集中すると鼻歌のように覚えた讃美歌を歌っている。鼻歌レベルではないその歌声に使用人たちも聴き入ってしまう。
それはそれで良いのだが、素晴らし過ぎてルゼルの異能さが目立ってしまう。屋敷内なら良いが、外では心配だ。もう少し年齢に合った歌を歌ってもらいたい。
そんな思いから、シャロンはアロンやルゼルといる時に童謡を沢山歌うようになった。使用人たちにも来客のない時は仕事中に歌うことを許可した。ルゼルたちクイン家の子どもたちは使用人の仕事場に顔を出すことが多かったからだ。
とにかく歌の種類を数で聴かせる作戦だ。あえて音楽家庭教師を雇うより沢山の歌を知ることができる。
「♪かえるのうたがー、きこえてくるよー」
「♪さいたー、さいたー、ちゅーいっぷーの、はながー」
「♪ぞーしゃん、ぞーしゃん、おはながながいのねー」
ルゼルはどんどん歌を覚えた。
同時にクイン家にも変化が生まれた。使用人たちの仕事の手際が良くなったのだ。
例えば洗濯で手を動かす時に歌を歌うとリズム良く手が動く。一曲歌い終わると次の工程…という具合に同じ職種で足並みが揃いだし、結果効率が良くなった。しかも、歌うと気分も良い。たまに歌詞を間違うと笑ってしまうし、時々替え歌にして笑ったりもして楽しい。
使用人たちの間で、この仕事にはこの歌が合うなど編み出され、いつしか、持ち場ごとのテーマソングのような歌ができた。
こうしてルゼルは沢山の歌を覚えた。
ある日、リオンと共にヴァジュラの遊び相手として呼ばれた時にリオンとルゼルでヴァジュラに歌を聴かせようという話になった。
「ゔぁじゅらでんか、りおんと、かえるのおうた、うたましゅね」
「ゔぁじゅら殿下、きいててくださいね」
二人は輪唱で歌った。
「♪かーえーるーのーうーたーがー」
「♪かーえーるーのーうーたーがー」
輪唱はなんだか面白い。
ヴァジュラも手を叩いて喜んでいる。最後の
「♪くわっくわっくわー」
ではヴァジュラ大爆笑だ。自らも「くわーっ!」と言って手を叩いた。
「もっかー!」
ヴァジュラがもう一回とリクエストした。
歌い終わるとまたヴァジュラがアンコールしてくる。しまいには三人で蛙の真似をして跳ねながら歌った。楽しかったし、見ている護衛騎士や従者たちも楽しんでいた。
「楽しそうだな」
学園から戻ったマグヌスが二人が来ていると聞いてやってきた。
「あにー!」どーん。まずヴァジュラがマグヌスに飛びついた。
「まぐぬす殿下にりおん・こーくがごあいさつします」
「まぐにゅしゅでんかに、るぜる・くいんが、ごあいさちゅしましゅ」
「うん。ルゼルが沢山歌を覚えたとリゼルから聞いている。他には何が歌えるんだ?」
「ぞーしゃんとか、ちゅーいっぷとか、むしゅんでひらいてとか…」
ルゼルが指を折々思い出しながら答える。そういえばルゼルはチョキを練習したとも言っていたなと思い出したマグヌスが不意に聞く。
「ルゼル、何歳だ?」
「みっちゅでしゅ!」
「おお!」
ちゃんと指を伸ばして3本出していた。ルゼルも得意げだ。
「あにー、あにー」
ヴァジュラがヤキモチをやいている。
「うん、ヴァジュラはいつくだ?」
「あにー!」ヴァジュラはわかっているかいないかわからないが、いくつと聞かれると指を一本出すパターンがついていた。
「ゔぁじゅらでんか!しゅごいでしゅ!」
それを見たルゼルがまたヴァジュラに憧れた。
ヴァジュラが「もっかー、くわっくわっ」とリクエストするのを見たマグヌスが、ハタと閃いて言った。
「リオン、ルゼル、学園で歌ったあの歌を歌えるか?」
「はい」
二人は讃美歌を歌った。二人のハーモニーは学園で聴いた時より上達していた。
「えっ…」
思わずと言った声が侍女や護衛騎士たちから漏れた。空気が澄むような歌声だった。なんだろう、これは。
騎士のキーツが素早くルゼルの新しい従者ヤンを見た。ヤンはキーツの視線に気づくと薄く笑って頷いた。クイン家はルゼルのこの歌声の魅力を心得ているという事だ。
マグヌスはこの歌声を録音家に録音させていた。母王妃に聴かせるためだ。二人の歌声の威力は不十分な録音機の技術でもしっかりと伝わっていた。
「まぁまぁまぁ!あの子たちの歌声はなんて素晴らしいの!」
マグヌスの思った通り母王妃は大満足だ。マグヌスも嬉しい。
「二人の歌う普通の童謡も可愛らしいのですが、このようなゆったりした曲はなんとも言えない趣きが感じられるのです」
「ええ、本当に。何かしらこの落ち着く気持ちは…あら…」
王妃マディは歌声を聴きながら宙を見て何か考えているようだったが、不意に
「そうだわ。それが良いわ」
と言ったかと思うと、マグヌスを抱きしめ
「ありがとう、マグ!思いついたわ!」
と微笑んだ。
王国騎士団は闘うだけでなく、災害地での力仕事や病院での治療補助の仕事もしている。
病院運営は王妃の権限だった。大戦争以降傷病者が増え、人手は慢性的に足りない上、長くなる病院生活で気持ちが滅入る患者が増える一方だった。騎士団だけでなく看護師らも患者と話をして気持ちのケアをしているが、何しろ手が足りない。
それをマグヌスの聴かせた歌声でマディは閃いたのだ。歌だ!歌なら一度に沢山の人の対応ができる。しかも聴いた歌声からは癒しを感じた。これだ。絶対これだ。マディには確信があった。
すぐに騎士団に歌の練習が課された。
「う、歌ですか?」
最初は戸惑っていた騎士たちだが、歌ってみると気持ち良い。しかもうまくハモれると非常に気持ち良い。練習も恥ずかしかったが、楽しみになってきた。
いざ病院で余暇の時間に歌を披露すると患者たちの受けが良かった。そればかりか医療従事者たちにも評判が良かった。反応があると騎士団としても嬉しい。やり甲斐を感じるようになってきた。
騎士団は患者に合わせて歌を変えるという工夫も始めた。若い人たちが多い時は流行りの歌を、年配者が多い時は懐かしい童謡などといった感じだ。
やがて患者たちも一人の時間に歌ったり、仲間でハモリをしてみたりと、以前より少し病院内が明るくなった。
歌には気持ちを穏やかにする力がある。
この認識はマード国全体に広がっていった。やがて楽器による病院演奏会なども催されるようになり、医療現場に新しい治癒の道を示すものとなった。
ルゼルは学園参観以来すっかり歌が気に入ってしまった。何かに集中すると鼻歌のように覚えた讃美歌を歌っている。鼻歌レベルではないその歌声に使用人たちも聴き入ってしまう。
それはそれで良いのだが、素晴らし過ぎてルゼルの異能さが目立ってしまう。屋敷内なら良いが、外では心配だ。もう少し年齢に合った歌を歌ってもらいたい。
そんな思いから、シャロンはアロンやルゼルといる時に童謡を沢山歌うようになった。使用人たちにも来客のない時は仕事中に歌うことを許可した。ルゼルたちクイン家の子どもたちは使用人の仕事場に顔を出すことが多かったからだ。
とにかく歌の種類を数で聴かせる作戦だ。あえて音楽家庭教師を雇うより沢山の歌を知ることができる。
「♪かえるのうたがー、きこえてくるよー」
「♪さいたー、さいたー、ちゅーいっぷーの、はながー」
「♪ぞーしゃん、ぞーしゃん、おはながながいのねー」
ルゼルはどんどん歌を覚えた。
同時にクイン家にも変化が生まれた。使用人たちの仕事の手際が良くなったのだ。
例えば洗濯で手を動かす時に歌を歌うとリズム良く手が動く。一曲歌い終わると次の工程…という具合に同じ職種で足並みが揃いだし、結果効率が良くなった。しかも、歌うと気分も良い。たまに歌詞を間違うと笑ってしまうし、時々替え歌にして笑ったりもして楽しい。
使用人たちの間で、この仕事にはこの歌が合うなど編み出され、いつしか、持ち場ごとのテーマソングのような歌ができた。
こうしてルゼルは沢山の歌を覚えた。
ある日、リオンと共にヴァジュラの遊び相手として呼ばれた時にリオンとルゼルでヴァジュラに歌を聴かせようという話になった。
「ゔぁじゅらでんか、りおんと、かえるのおうた、うたましゅね」
「ゔぁじゅら殿下、きいててくださいね」
二人は輪唱で歌った。
「♪かーえーるーのーうーたーがー」
「♪かーえーるーのーうーたーがー」
輪唱はなんだか面白い。
ヴァジュラも手を叩いて喜んでいる。最後の
「♪くわっくわっくわー」
ではヴァジュラ大爆笑だ。自らも「くわーっ!」と言って手を叩いた。
「もっかー!」
ヴァジュラがもう一回とリクエストした。
歌い終わるとまたヴァジュラがアンコールしてくる。しまいには三人で蛙の真似をして跳ねながら歌った。楽しかったし、見ている護衛騎士や従者たちも楽しんでいた。
「楽しそうだな」
学園から戻ったマグヌスが二人が来ていると聞いてやってきた。
「あにー!」どーん。まずヴァジュラがマグヌスに飛びついた。
「まぐぬす殿下にりおん・こーくがごあいさつします」
「まぐにゅしゅでんかに、るぜる・くいんが、ごあいさちゅしましゅ」
「うん。ルゼルが沢山歌を覚えたとリゼルから聞いている。他には何が歌えるんだ?」
「ぞーしゃんとか、ちゅーいっぷとか、むしゅんでひらいてとか…」
ルゼルが指を折々思い出しながら答える。そういえばルゼルはチョキを練習したとも言っていたなと思い出したマグヌスが不意に聞く。
「ルゼル、何歳だ?」
「みっちゅでしゅ!」
「おお!」
ちゃんと指を伸ばして3本出していた。ルゼルも得意げだ。
「あにー、あにー」
ヴァジュラがヤキモチをやいている。
「うん、ヴァジュラはいつくだ?」
「あにー!」ヴァジュラはわかっているかいないかわからないが、いくつと聞かれると指を一本出すパターンがついていた。
「ゔぁじゅらでんか!しゅごいでしゅ!」
それを見たルゼルがまたヴァジュラに憧れた。
ヴァジュラが「もっかー、くわっくわっ」とリクエストするのを見たマグヌスが、ハタと閃いて言った。
「リオン、ルゼル、学園で歌ったあの歌を歌えるか?」
「はい」
二人は讃美歌を歌った。二人のハーモニーは学園で聴いた時より上達していた。
「えっ…」
思わずと言った声が侍女や護衛騎士たちから漏れた。空気が澄むような歌声だった。なんだろう、これは。
騎士のキーツが素早くルゼルの新しい従者ヤンを見た。ヤンはキーツの視線に気づくと薄く笑って頷いた。クイン家はルゼルのこの歌声の魅力を心得ているという事だ。
マグヌスはこの歌声を録音家に録音させていた。母王妃に聴かせるためだ。二人の歌声の威力は不十分な録音機の技術でもしっかりと伝わっていた。
「まぁまぁまぁ!あの子たちの歌声はなんて素晴らしいの!」
マグヌスの思った通り母王妃は大満足だ。マグヌスも嬉しい。
「二人の歌う普通の童謡も可愛らしいのですが、このようなゆったりした曲はなんとも言えない趣きが感じられるのです」
「ええ、本当に。何かしらこの落ち着く気持ちは…あら…」
王妃マディは歌声を聴きながら宙を見て何か考えているようだったが、不意に
「そうだわ。それが良いわ」
と言ったかと思うと、マグヌスを抱きしめ
「ありがとう、マグ!思いついたわ!」
と微笑んだ。
王国騎士団は闘うだけでなく、災害地での力仕事や病院での治療補助の仕事もしている。
病院運営は王妃の権限だった。大戦争以降傷病者が増え、人手は慢性的に足りない上、長くなる病院生活で気持ちが滅入る患者が増える一方だった。騎士団だけでなく看護師らも患者と話をして気持ちのケアをしているが、何しろ手が足りない。
それをマグヌスの聴かせた歌声でマディは閃いたのだ。歌だ!歌なら一度に沢山の人の対応ができる。しかも聴いた歌声からは癒しを感じた。これだ。絶対これだ。マディには確信があった。
すぐに騎士団に歌の練習が課された。
「う、歌ですか?」
最初は戸惑っていた騎士たちだが、歌ってみると気持ち良い。しかもうまくハモれると非常に気持ち良い。練習も恥ずかしかったが、楽しみになってきた。
いざ病院で余暇の時間に歌を披露すると患者たちの受けが良かった。そればかりか医療従事者たちにも評判が良かった。反応があると騎士団としても嬉しい。やり甲斐を感じるようになってきた。
騎士団は患者に合わせて歌を変えるという工夫も始めた。若い人たちが多い時は流行りの歌を、年配者が多い時は懐かしい童謡などといった感じだ。
やがて患者たちも一人の時間に歌ったり、仲間でハモリをしてみたりと、以前より少し病院内が明るくなった。
歌には気持ちを穏やかにする力がある。
この認識はマード国全体に広がっていった。やがて楽器による病院演奏会なども催されるようになり、医療現場に新しい治癒の道を示すものとなった。
15
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

女神の愛し子だけど役目がありません!
猫ヶ沢山
恋愛
私は産まれてくる前、魂の時に女神様のちょっとしたミスで「女神の愛し子」となってしまった。
何か役目があるのかと思ったけれど特に無いみたい。「愛し子」なのにそれで良いのかしら?
その力が強すぎて生まれてから寝たきり状態。ただの赤ちゃんだと困るから、ちょっとだけ前世を引っ張り出された。自分の事は全然思い出せないけれど・・・。
私のために女神様がつけてくれた守護精霊フェーリと、魔法のある世界で生きていくわ!
*R15は保険です*
*進行は亀の歩みです*
*小説家になろうさんにも掲載しています*
*誤字脱字は確認してますがあったらごめんなさい*作者独自の世界観・設定です。矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです。お手柔らかにお願いします*


憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる