金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第四話 ルゼル、力説する〜可愛い弟たち

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 ルゼルが頬をほんのり赤くしていつもより大きな声で話している。
 「しょれでね、しょれでね、ゔぁじゅらしゃま、はやいーはやいーなの。びゅんってはやいの!」
 ウサギ卿を追うヴァジュラを追った時の話を、ルゼルは弟のアロンに語っていた。
 アロンはヴァジュラより1ヶ月遅く生まれた。今、1歳2ヶ月ほどの赤子だ。アロンは歩けるがまだ走れない。歩く時も誰かと手を繋ぐし、よく転ぶ。運動発達は平均的な子だ。
 今日の興奮を誰かに伝えたいが、兄のリゼルはまだ学園から戻らないし、姉のリディラも母上とお出かけ中だ。だからルゼルはアロンに話すことにした。
 「ゔぁじゅらしゃま、おはな、ばんばんっ!びゅんびゅん!なの」
 両手を右から左に勢いよく動かしてヴァジュラの躍動感を再現している。ルゼルにしてみると、かつてない自分の速い動きに目をつぶってしまうほどだ。
 「ね、しゅごいしゅごいでしょ。ゔぁじゅらしゃま、かっこいーなの」
 ルゼルはアロンの座るソファの正面に立って実演しながら話していた。アロンはわかってかわからずか、良いタイミングで「あー」とか「んー」とか言って手をルゼルに向けハタハタしている。
 「ね、かっこいーね」
 ルゼルはそれを同意と受け取り笑う。
 「あとね、ゔぁじゅらしゃま、うさぎきょうのおみみ、ぐいーってしゅるの」
 ルゼルはグーにした手を上に持ち上げる素振りをする。ヴァジュラがウサギ卿の耳を掴んで持ち上げた時の再現だ。
 「ちからもち、っていうの」
 ヴァジュラの荒い動きをルゼルは力持ちと解釈している。ヴァジュラはとにかく力が強い。ルゼルが持ち上げるだけで大変な石も、ヴァジュラは軽々と投げる。これもヴァジュラに憧れている理由の一つだ。
 「しょれと、しょれとー、ゔぁじゅらしゃま、かえる、むずーってしゅるの!」
 ヴァジュラはルゼルが探してもなかなか見つけられない大好きな蛙を簡単に鷲掴みして垣根から現れる。そんなところもルゼルにはかっこよく見えるのだ。
 「ゔぁじゅらしゃまがかえるむずーってしゅると、かえる、けろけろっていわないの。ぐわっぐわっていうの!」
 ルゼルは蛙の鳴き声すら変えてしまうヴァジュラがかっこよすぎて話しながら「きゃー」と喜んでしまう。それを見てアロンが「きゃっきゃ」と笑う。
 ルゼルのヴァジュラ武勇伝はまだまだ続く。

 実はかなり前にリゼルもリディラも母シャロンも帰って来ていたが、アロンの部屋を覗くなり可愛い展開になっていることに気づくと、そのまま様子を見たくなり扉を少しだけ開けて覗いていた。
 三人は弟二人の様子を飽きることなく眺めていた。そして小声で会話する。
 「ルゼルは本当にヴァジュラ殿下と蛙が大好きなのね」と母シャロン。
 「お母様、今度刺繍を教えてくださいませ。蛙をマスターしてルゼルちゃんにハンカチをプレゼントしたいです」
 「母上、うちの庭に蛙を飼うことはできないのですか?」
 「あら、お庭に蛙は嫌だわ。でもそうね、パーティーで各国の郷土料理が好評だったから、お庭も他国の様式にするのは良いかもしれないわね。たとえば東の国のお庭には池をつくって金魚を入れるとか…」
 「金魚!」
 「東の国の綺麗な観賞魚ですよね?絶対ルゼルが喜びます!」
 「どこかの暖かい国には羽が虹色の鳥がいるって聞きましたわ」
 「それもルゼルが好きそうだな」
 「あら、温室に良いわね」
 
 クイン侯爵家が料理に続き、様々な国の様式を取り入れた庭を造り、生き物も集め、評判となり、やがて初等学園の見学会の一つ『クイン侯爵家の世界の庭と生き物観察』としてカリキュラムに組み込まれることなった。
 これがやがて動物園や植物園となって、マード国のあちこちに作られ、人々の一般的な娯楽になっていくのだった。
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