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第三章
第三話 リオンのお勉強〜ユリアン力説。リオンはやっぱり天使ですっ。
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ユリアンは学園から戻るとその日の宿題をしたり予習をしたりと勉強することが日課になっている。
ユリアンは勉強が好きだ。新しいことを沢山知ることができてワクワクする。それに、自分が勉強する間、ユリアンの部屋にリオンも来て隣に座り、ユリアンを真似て勉強もどきをする。その姿が可愛くて仕方ないからだ。
「兄上、おかえりなさい」
リオンはついに兄上と言えるようになってしまった。嬉しいやら寂しいやらだ。
少し前にリゼルが「リディラがお兄様と言えるようになっちゃった」としょげていた時はなんで喜ばないのかなと思っていたが、今ならわかる。
「ただいま、リオン。今日は何をしていたの?」
寂しさを顔に出さず聞いた。
「きょうは、るじぇと、ゔぁじゅらでんかさがしました」
はて?かくれんぼかな?
「ゔぁじゅらでんか、おはなもくさも、どんどんはしります」
よくわからないけど、ヴァジュラ殿下が沢山走ることはわかった。詳しいことは後でリオンの従者のヤーべに聞こう。
とりあえずユリアンはリオンを労い、「私はお勉強するけど一緒にする?」といつものように聞いた。「はい」といつものようにリオンが答える。
聞かなくてもわかっている。リオンはそのつもりでいつも読みたい本を抱えてやって来るのだ。それも走って。おりこうなリオンは普段は屋敷内を走ったりしない。だからどれだけ毎日兄の帰りを楽しみに待っているのか考えると可愛いすぎて叫びたくなる。抑える。
「あれ?今日はご本だけではないの?」
リオンは本と一緒に紙と色鉛筆も抱えていた。
「はい。兄上とおべんきょするの。じをかきかきのおべんきょです。兄上とおんなじおんなじです」
にっこにっこで答えるリオン。そこには『兄上、大好き』のニュアンスがしっかり読み取れる。ユリアンは「リオンんんんーっ。天使っ‼︎」天井に向かってついに叫んだ。
リオンはユリアンの隣に座って
「んとんと、『み』…くるくるのじ…『っ』…ちっちゃいのむつかしです。んとんと、『か』…」
と言いながら紙に絵本の文字を書き写している。コーク公爵家の図書棟にある絵本『みっかの、だいぼうけん』という絵本だ。小人の『みっか』が薬を探して冒険する話だ。
先日ルゼルが遊びに来て、図書棟でリオンがルゼルに読み聞かせた絵本で、ルゼルがとても気に入ったと話していた。
「リオンは字も上手だね」
「るじぇに、ぷれぜんとだから、だいじだいじにかくの」
「ルゼルに?」
「はい。るじぇ、みっかのごほんだいすきなの。でもるじぇ、もってないごほんなの。だから、りおんが…あ、わたしがぷれぜんとするの」
可愛い。その上優しい。リオン完璧。
リオンは絵本の見開き分を書き写すと、端に小さく小人の絵を描いた。…小人のつもりの絵を描いた。ぐるぐる渦巻きだ。文字が大きくなりすぎて絵を描く場所がなくなってしまったのだ。だが、リオンは満足気に「うん」と言って紙を二つに折った。
「あれ?それだけなの?」とユリアン。
「はい。あのね、ごほん、じがたくさんだから、りおん、すこしずつかくの」
あ、リオンて言った。やっぱりまだ一人称リオンで良いのにな。
「だから、ひとつずつぷれぜんとするの」
ちょっとした連載だ。
「兄上、るじぇ、わーいってするかな?」
「うん。ルゼルはきっと大喜びするよ」
二人が絵を手渡す姿とそれを喜び合う姿を想像してユリアンが自然とにこやかになる。
「るじぇ、わーい、わーいになる?」
話しながらリオンが両手を挙げて『わーい』のポーズをする。ブラウスの右の袖口が色鉛筆の色になっている。一生懸命描いたなぁとユリアンは益々目尻を下げる。
「もちろんだよ。私も欲しいくらいだよ」
これは本心だ。
「兄上も、わーいわーいになります?」
「今ままでで一番のわーいになるよ」
これも本心だ。
リオンはユリアンの言葉には返事をしないで極上の笑顔だけを返した。
リオンは二つ折りにしたところ…おそらく表紙の面に緑の色鉛筆で模様とおぼしきぐるぐるを沢山描いた。そして縁を茶色の色鉛筆で枠取りした。やはり表紙のようだ。
「これ、るじぇのいろ」
楽しそうに塗っている。確かにルゼルの瞳の色と髪の色を彷彿とさせる。色鉛筆に『翡翠色』がないところが残念だ。一通り描くと紙を裏返し、裏表紙になる面に紫の渦巻きに金の枠取りを描いた。もしかして…
「これ、りおん」
そして、
「るじぇのすきなごほんだから、るじぇのいろ。るじぇとなかよしだから、りおんのいろ」
と言って紙を掲げて
「できましたー」
もう、先程から執事も従者も侍女たちもメロメロになっている。ユリアンの内心もとっくにメロメロだ。
もう、『みっかの、だいぼうけん』を好きになったルゼルに感謝したい。いや、『みっかの、だいぼうけん』を書いた作者に感謝したい。いや、その本を買って下さった父上に感謝したい。その本を買っていなかったクインの伯父上に感謝したい。クイン侯爵家にこの本があったらリオンは書かなかったから。それよりリオンを産んで下さった母上に感謝かな?紙を発明した人?文字を造った人?色鉛筆を造った人?
とにかくあらゆる方面に感謝したい。沢山の人たちの沢山のことが重なって今の可愛い天使のリオンがいる。なんて満ち足りた世界なんだ!足りないのは翡翠色の色鉛筆だ。
そう思ったユリアンは、子ども向けの色鉛筆の色の種類を増やせないかと考え、商品開発事業を展開している伯父のクイン侯爵にお願いという名のプレゼンすることにした。
「伯父上に納得していただくためには、どう説明したら良いかな」
将来につながる、ユリアンの政治的駆け引き人生の幕開けであった。
余談だが、ユリアンはリオンの従者ヤーべに昼間の出来事を聞いた。「ゔぁじゅらでんか、おはなもくさも、どんどんはしります」の意味がわかった。
ヴァジュラ殿下はなんだか規格外の王子様だ。リオンが同じ事をしたらハラハラして落ち着かないだろう。でもマグヌス殿下は落ち着いてリオンたちに声をかけて下さったようだし、笑ってヴァジュラ殿下の体当たりを受け止めたらしい。
「マグヌス殿下は器の大きさが違うな」
ユリアンは益々マグヌスに忠誠を誓うのだった。
ユリアンは勉強が好きだ。新しいことを沢山知ることができてワクワクする。それに、自分が勉強する間、ユリアンの部屋にリオンも来て隣に座り、ユリアンを真似て勉強もどきをする。その姿が可愛くて仕方ないからだ。
「兄上、おかえりなさい」
リオンはついに兄上と言えるようになってしまった。嬉しいやら寂しいやらだ。
少し前にリゼルが「リディラがお兄様と言えるようになっちゃった」としょげていた時はなんで喜ばないのかなと思っていたが、今ならわかる。
「ただいま、リオン。今日は何をしていたの?」
寂しさを顔に出さず聞いた。
「きょうは、るじぇと、ゔぁじゅらでんかさがしました」
はて?かくれんぼかな?
「ゔぁじゅらでんか、おはなもくさも、どんどんはしります」
よくわからないけど、ヴァジュラ殿下が沢山走ることはわかった。詳しいことは後でリオンの従者のヤーべに聞こう。
とりあえずユリアンはリオンを労い、「私はお勉強するけど一緒にする?」といつものように聞いた。「はい」といつものようにリオンが答える。
聞かなくてもわかっている。リオンはそのつもりでいつも読みたい本を抱えてやって来るのだ。それも走って。おりこうなリオンは普段は屋敷内を走ったりしない。だからどれだけ毎日兄の帰りを楽しみに待っているのか考えると可愛いすぎて叫びたくなる。抑える。
「あれ?今日はご本だけではないの?」
リオンは本と一緒に紙と色鉛筆も抱えていた。
「はい。兄上とおべんきょするの。じをかきかきのおべんきょです。兄上とおんなじおんなじです」
にっこにっこで答えるリオン。そこには『兄上、大好き』のニュアンスがしっかり読み取れる。ユリアンは「リオンんんんーっ。天使っ‼︎」天井に向かってついに叫んだ。
リオンはユリアンの隣に座って
「んとんと、『み』…くるくるのじ…『っ』…ちっちゃいのむつかしです。んとんと、『か』…」
と言いながら紙に絵本の文字を書き写している。コーク公爵家の図書棟にある絵本『みっかの、だいぼうけん』という絵本だ。小人の『みっか』が薬を探して冒険する話だ。
先日ルゼルが遊びに来て、図書棟でリオンがルゼルに読み聞かせた絵本で、ルゼルがとても気に入ったと話していた。
「リオンは字も上手だね」
「るじぇに、ぷれぜんとだから、だいじだいじにかくの」
「ルゼルに?」
「はい。るじぇ、みっかのごほんだいすきなの。でもるじぇ、もってないごほんなの。だから、りおんが…あ、わたしがぷれぜんとするの」
可愛い。その上優しい。リオン完璧。
リオンは絵本の見開き分を書き写すと、端に小さく小人の絵を描いた。…小人のつもりの絵を描いた。ぐるぐる渦巻きだ。文字が大きくなりすぎて絵を描く場所がなくなってしまったのだ。だが、リオンは満足気に「うん」と言って紙を二つに折った。
「あれ?それだけなの?」とユリアン。
「はい。あのね、ごほん、じがたくさんだから、りおん、すこしずつかくの」
あ、リオンて言った。やっぱりまだ一人称リオンで良いのにな。
「だから、ひとつずつぷれぜんとするの」
ちょっとした連載だ。
「兄上、るじぇ、わーいってするかな?」
「うん。ルゼルはきっと大喜びするよ」
二人が絵を手渡す姿とそれを喜び合う姿を想像してユリアンが自然とにこやかになる。
「るじぇ、わーい、わーいになる?」
話しながらリオンが両手を挙げて『わーい』のポーズをする。ブラウスの右の袖口が色鉛筆の色になっている。一生懸命描いたなぁとユリアンは益々目尻を下げる。
「もちろんだよ。私も欲しいくらいだよ」
これは本心だ。
「兄上も、わーいわーいになります?」
「今ままでで一番のわーいになるよ」
これも本心だ。
リオンはユリアンの言葉には返事をしないで極上の笑顔だけを返した。
リオンは二つ折りにしたところ…おそらく表紙の面に緑の色鉛筆で模様とおぼしきぐるぐるを沢山描いた。そして縁を茶色の色鉛筆で枠取りした。やはり表紙のようだ。
「これ、るじぇのいろ」
楽しそうに塗っている。確かにルゼルの瞳の色と髪の色を彷彿とさせる。色鉛筆に『翡翠色』がないところが残念だ。一通り描くと紙を裏返し、裏表紙になる面に紫の渦巻きに金の枠取りを描いた。もしかして…
「これ、りおん」
そして、
「るじぇのすきなごほんだから、るじぇのいろ。るじぇとなかよしだから、りおんのいろ」
と言って紙を掲げて
「できましたー」
もう、先程から執事も従者も侍女たちもメロメロになっている。ユリアンの内心もとっくにメロメロだ。
もう、『みっかの、だいぼうけん』を好きになったルゼルに感謝したい。いや、『みっかの、だいぼうけん』を書いた作者に感謝したい。いや、その本を買って下さった父上に感謝したい。その本を買っていなかったクインの伯父上に感謝したい。クイン侯爵家にこの本があったらリオンは書かなかったから。それよりリオンを産んで下さった母上に感謝かな?紙を発明した人?文字を造った人?色鉛筆を造った人?
とにかくあらゆる方面に感謝したい。沢山の人たちの沢山のことが重なって今の可愛い天使のリオンがいる。なんて満ち足りた世界なんだ!足りないのは翡翠色の色鉛筆だ。
そう思ったユリアンは、子ども向けの色鉛筆の色の種類を増やせないかと考え、商品開発事業を展開している伯父のクイン侯爵にお願いという名のプレゼンすることにした。
「伯父上に納得していただくためには、どう説明したら良いかな」
将来につながる、ユリアンの政治的駆け引き人生の幕開けであった。
余談だが、ユリアンはリオンの従者ヤーべに昼間の出来事を聞いた。「ゔぁじゅらでんか、おはなもくさも、どんどんはしります」の意味がわかった。
ヴァジュラ殿下はなんだか規格外の王子様だ。リオンが同じ事をしたらハラハラして落ち着かないだろう。でもマグヌス殿下は落ち着いてリオンたちに声をかけて下さったようだし、笑ってヴァジュラ殿下の体当たりを受け止めたらしい。
「マグヌス殿下は器の大きさが違うな」
ユリアンは益々マグヌスに忠誠を誓うのだった。
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