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第三章

閑話 コーク公爵の独り言〜宰相として立つ。父としても立つ。大事な妻は守る。

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 我が家の息子たちは賢い。親バカを抜きにしても賢い。
 我がコーク公爵家は代々秀才が輩出される家系として知られているが、地頭が良いというより努力あっての結果だと思っている。
 自分も妹もそうだったからだ。教えられたら覚えるし、忘れにくい。それは地頭というより受け身が得意なのではと思うのだ。しかも家柄的に教え方の上手な良い家庭教師もつけてもらえていた。これでできない方がおかしい。
 だが息子たちは教えられていないことも考える。

 ユリアンは視野が広く、人の気持ちを想像することができる。
 それは思いやりになることもあれば、痛いところを的確に突く武器にもなる。しかも常に冷静だ。…正直私より宰相に向いている。
 リオンは一つの状況から沢山の情報を引き出す力がある。
 自分があのくらいの頃は一つのことを知ると「なんで?」しか言わず、その答えにも「なんで?」と聞いていた。どの子どもにもある、あの時期だ。私の場合、少しそれがしつこかった。知識欲と言えば聞こえはいいが、考えたり調べたりするよりすぐに聞いていた。
 ルゼルは違う。「なんで」ではなく、一つのことから具体的な質問を矢継ぎ早にしてくるのだ。
 「それはなぜなのか?」ではなく「だとしたらこれはどうなんだろう」という思考だ。
 例えば、妻リリィラが「そろそろ髪を切ろうかしら」とか言う。「なんで?」と聞くのが子どもの頃の私だ。そして「伸びてきたから」と聞いて、また「なんで?」と聞く。その繰り返しだ。
 だがリオンはそれを聞いた時点で「人は髪を切る」ということが疑問ではなく基本情報としてインプットされる。そこからリオンの思考がスタートするのだ。
 人は髪を切るもの。だとしたら…
 「きらないと、ずっとずっとながいですか?」
 「ながいひとと、ながくないひと、なにがちがうですか?」
 「きらないと、わるいことあるましゅか?」
 などなど、自分から疑問を作っていくのだ。一時が万事そのスタイルだ。そしてそこに自分なりの矛盾を見出すと黙る…侮れない。我が息子ながら何か侮れないものを感じる。
 最も侮れないのが愛らしさだ。あのクリクリの紫の瞳で聞かれたら何でも答えてしまいそうになる。あの紫は自白剤だ。
 そこへ来て先日の参観日の0問題だ。音楽試験の話も聞いた。

 リオンは我が家系に稀に現れる真の才の持ち主かもしれない。

       ♢♢♢
 
 我がコーク家には真の才の持ち主にまつわる辛く悲しい歴史がある。

 かつて、真の才に目をつけられたご先祖が幼い時期に他国に攫われ、そのまま洗脳されその国の軍師として遺憾なく力を発揮した。
 コーク家の者であることをいくら説得してもマードには戻らなかった。そのご先祖はその国で朽ち果てたが子孫は遺さなかったという。
 
      ♢♢♢

 攫われたとはいえ、その後の縁は良きものもあっただろう。戻らなかったのはその国への恩義。そしてその国にコーク家の真の才の血を遺さないことがコーク家への矜持だったのではないかと想像している。
 それから数百年が経っているが、歴史は繰り返すという。
 現に我が国も少し前まで大戦争をしていた。くすぶっている国はまだ多い。

 今までもリオンたちの見た目で攫われかけたことが数度ある。すべて事前に対応し、事なきを得ている。しかし、美幼児コレクションで他国は動かないが、知識獲得とあれば国が動く可能性はある。
 リオンが真の才の持ち主であるかないかは問題ではない。その可能性に賭ける他国が接近することが問題だ。
 これは国として早く対策を立てるべき案件だ。…父としては一刻も早く対策を立て、実行したい案件だ。

 宰相としては、国の財産である人物の保護対策と他国対策のシミュレーションパターンを考え、実行に向けてのタイムスケジュールを組む。
 父としては、今のリオンの伸び伸びした生活を拘束せず保護対策を実践。コーク家のリオン護衛も再編成しないとな。
 夫としては、息子が国際的案件になりつつあることを悟られず、安心して息子を愛せる環境を妻に提供すること。

 忙しくなるが、やるだけだ。
 

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