金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第一話 ウサギ卿は天使を子守りする〜天使は王子を癒す

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 今日もリオンとルゼルはウサギ卿のお世話に来ている。
 今日は3歳になって初めてウサギ卿に会う。きちんとご挨拶をしなくては。
 「うさぎきょう、りろん・こーくは3さいになりました。これからは、りろんじゃなくて『わたし』っていいます。でも、りろんてわかってください」
 リオンは一人称が変わることでウサギ卿に自分を認識してもらえなくなるかもしれないと心配している。
 護衛騎士たちは、リオンの一人称が「私」になることに少し寂しさを感じて聞いていた。
 「うさぎきょう、るじぇるも『わたし』でしゅ」
 えっ?ルゼル天使も一人称変えちゃうの?というか変えられるの?と騎士たちがチラリと従者を見た。ルゼルの従者はニコニコしている。多分全然『私』呼びできていないのだろう。なぜか安心した。

 蛙に出会ってから、二人がウサギ卿といる時の過ごし方が少し変わった。
 お世話はきちんとしている。その後の過ごし方だ。今まではお世話が終わると少しだけウサギ卿とたわむれておしまいになっていたが、たわむれた後、それぞれに思う時間の使い方をしていた。
 リオンはウサギ卿の動きを以前より真剣に見るようになった。
 「かえるみたの、びっくりしたの。しらないいきものだったから。だから、うさぎきょうにも、しらないとこまだあるかもしれないの」
 なるほど、知らない生き物がいたことで、知ってるつもりのウサギでも知らないことがまだまだあるかもという発想か。秀才一家の一員の中でもリオンはより一層の秀才肌なのだろう。
 しゃがんで頬を手で支えながら観察するリオンの紫の目は真剣だ。
 ウサギ卿は今日も真っ白でふかふかしている。
 手触りもいい。葉を食べるときの鼻と口の動きがかわいらしい。長い耳をあちこち動かしているのもお洒落だ。
 でも、それはいつもと同じだ。
 「うさぎきょう、もしかして、おそらとべる?」
 「うさぎきょう、りろんのおはなしわかる?…あ、のおはなしわかる?」
 リオンが小声でウサギ卿に秘密を聞くように話しかけている。
 可愛い。語尾の「ましゅ」がなくなっているが、まだまだ可愛い。

 一方のルゼルは、リオンがウサギ卿を観察している間はもっぱら草の下を探すようになった。
 あの日以来、まだ一回しか蛙に会えていない。
 「けろけろっ。けろけろっ」
 鳴き真似をして呼び出す作戦だ。ルゼルはすっかり蛙を気に入ったようだ。
 しゃがんで葉を持ち上げて覗きこんではケロケロ言っている。
 「かえる、あいたい」

 「私はお前たちに会いたかったぞ」
 ルゼルの言葉に応えるようにそう言って現れたのはマグヌスだった。
 「あ、まぐぬすでんか、りろん・こーくがごあいさつします」
 ああ、ついに殿下呼びになってしまったか。しかし自分の名前が言えないのは可愛い。いい名前を公爵はつけた。
 「まぐにゅすでんか、るじぇる・くいんでしゅ」
 え?ルゼルも殿下呼び?こちらは意外だった。なんだか残念極まりない。

 マグヌスは6歳になったので秋から初等学園に通うことになった。そのため、基礎知識を予習する毎日で少々疲れていた。今日は二人が来ていると聞いて癒されに来たのだ。癒しを求める6歳児。王子業はなかなかハードだ。
 「何をしていたんだ?」
 「うさぎきょうです!」
 「かえるでしゅ!」
 二人同時に答えた。言った言葉は違うが目の輝きが同じだ。
 「あははっ。ウサギ卿とカエルがどうした?」
 「うさぎきょうは、もしかしたらおそらとべるかもです」
 「かえる、みどりのけろけろ!」
 また二人同時に話し出した。手足をパタパタさせてマグヌスに伝えようとする姿はとにかく可愛い。

 二人を見て楽しげな王子も可愛い。

 こうしてウサギ卿はリオンとルゼルを子守りし、リオンとルゼルはマグヌスを癒す。
 ヴァジュラの情操教育のためのウサギ卿はもっと多くの子どもたちの情操を育てていた。
 
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