金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第二章

第三話 「えいっえいっ」を初体験〜きしさまみんな、しゅごいしゅごいなの

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 マグヌスとリオン、ルゼルはキエル副団長に連れられ、剣の練習をする子どもたちのエリアに向かった。幼児3人をマグヌスの護衛とキエルと共にいた騎士たちとで囲むようにして歩く。
 練習中の騎士たちはマグヌスを見ると練習の手を止めて向き直り頭を下げかけて視線が下に移動すると驚いた顔になり止まる…を全員していた。視線の先にはリオンとルゼルがいる。
 そうなるよな、とマグヌスは苦笑いだ。
 当の2人は口に人差し指を当てて
 「しーっよ。しーっよ」
 「うん。しーっ」
 「はしるの、だめよ」
 「うん。だめね」
 と眉間にシワが寄るような真剣な顔で騎士たちの邪魔をしないようにしている。らしい。邪魔ではないが存在感を消すのは難しい。可愛すぎて無視できない。
 「何?マグヌス殿下、天使連れてる?」とどこからか聞こえてくる。連れてますよと答えたいが我慢。その他にも「マジ?」とか「えっ⁉︎」とか思わず出てしまったような声がちらほら聞こえてくる。目的地に着くまでキエルが咳払いを何度もしていた。いつもならキエルの怒声が響くところだが、流石にキエルもこの反応を無理はないと思っていて叱れなかった。何しろキエル自身がリオンとルゼルを見て言葉を失ったのだから。
 目的地の子どもの集まる練習場に着くとキエルがマグヌスに言った。
 「こちらでご覧になっていてください。もうしばらくで一度休憩に入りますので」
 そこは練習の邪魔にならない半地下の見学席とその上にある中二階のような見学席でマグヌスたちは中二階の見学席に案内された。しばらくとは多分宮廷画家が到着するまでのことだろう。キエルは空気が読める。
 練習する子どもたちは10歳以下はほぼ上位貴族の令息で14歳の少年までがそのエリアにいる。ユリアンとリゼルは最年少だ。
 リオンとルゼルは中二階の柵の前にしゃがみ込み、少し上から眺める兄たちを興奮気味に見ている。練習生の邪魔にならぬように気づかれないように見ようとしている。
 「みえる?るじぇ、兄ゆえみえる?」
 「みえゆ」
 兄をよく見ようと柵の隙間から覗いている2人の頭が兄達の動きに合わせて左右に揺れる。
 「あにゅーれ、いる。かっこい」
 「うん。兄ゆえ、いっぱいいっぱいかっこいい」
 いやいやいや、お前たちはどれだけ可愛いんだ。とマグヌス。周囲の護衛騎士たちの眉も下がりっぱなしだ。
 そこに侍従ロイと宮廷画家が到着した。同時にキエルが「休憩!」と声をかける。
 「お前たち、行っていいぞ」とマグヌスが2人に声をかけると「はいっ」と元気に返事をして2人が中二階から走り降りた。気持ちは走り降りた。実際は階段が2人には大きくて手すりにつかまって一段ごとに足を揃えて降りていた。ルゼルに至っては「んしょ、んしょ」と掛け声が出ていた。
 もちろん宮廷画家の手が勢いよく走る。

 先に兄たちの元に着いたのはリオン。
 「兄ゆえ!」
 「リオン!」
 兄に抱きつく弟をしっかり受け止める兄。感動の再会のようだが今朝も一緒に食事をした。
 「あにゅーれぇ」
 やっと到着のルゼル。
 「ルゼル!アニューレを見に来てくれたの?」
 こちらも感動の再会。
 「兄ゆえ、とってもとってもかっこいいでしゅ。えいっえいってかっこいいでしゅ」とリオンが興奮気味に語る。兄ユリアンを見上げる紫の瞳がキラキラしている。
 「ユリアン、リゼル、休憩で悪いが少し手合わせしてくれないか」
 マグヌスがリオンとルゼルに兄たちの練習を間近で見せてやりたいと思い言った。
 「はい、喜んで」

 マグヌス、ユリアン、リゼルは交代でそれぞれ手合わせをし、キエルが指導の声をかけながらリオンとルゼルに解説もしていた。
 ルゼルは「はわわぁ」を連発。リオンはユリアンから目を離すことのないまま「兄ゆえのけん、おもいでしゅか?」「兄ゆえ、まぐにゅしゅさまいたいいたいにしたら、おこられましゅか?」「兄ゆえ、もっとかっこいいになるましゅか?」と質問ぜめだった。
 キエルはそれに一つ一つ丁寧に「木剣ですがユリアン様の体格にしては重いと思います」「どのような流れで起きたものかにもよりますが、多少のお叱りは受けると思います」「ええ、ユリアン様はもっとお強くなられますよ」とにこやかに答えた。リオンはそれを聴いてしっかりうなずいていた。
 お供の騎士たちはそれを見て、副団長そんな優しく話せるの?とか、副団長そんな優しい顔できたの?とか、ルゼル天使のはわわわ可愛すぎるとか、リオン天使賢すぎない?とか思っていた。

 3人の手合わせが一段落した時、マグヌスがリオンとルゼルに言った。
 「お前たちもやってみるか?」
 「はわっ⁉︎」とルゼル。
 お供の騎士が短い木剣を差し出した。
 「ユリアン、ルゼル、良いだろう?」
 「えっ、は、はい。逆に良いのですか?」とリゼル。実は内心リオンとルゼルが剣を持ったら可愛いだろうなと思っていたのだ。
 当の2人は乗り気で「ありがとござましゅ!」と言って頭を下げている。
 短い剣をユリアンとリゼルが受け取り、「こことここを持って、しっかり持つのだよ」と教えている。
 2人は「はい」と神妙な面持ちで返事をする。持ち方を会得したのでユリアンの掛け声で素振りをすることになった。
 ところが、剣を振りかぶった勢いでルゼルは尻もち。振り下ろした勢いでリオンはペタンと座り込んでしまった。
 「…兄ゆえ、コロンてしないでした。兄ゆえ、しゅごいでしゅ」と頬を赤らめてリオンが言い、ルゼルも尻もちのままうんうんとうなずいていた。
 「どうだ?剣を持った気持ちは?」とマグヌス。
 「りろん、おてて、いっぱいだいじだいじのきもちにしてたのに、いっかいもえいっえいっできないでした。兄ゆえたち、いっぱいえいっえいっできてしゅごいでしゅ。きしさまみんな、もっとおもいのけんで、えいっえいっしてるのしゅごいしゅごいでしゅ」リオンが長文で答える。
 隣でこくこくしながら「るじぇるも」
 それを見てマグヌスは、どうだ、皆に良いもの見せたぞ、という気持ちになり、練習生たちも騎士たちも自分が誇らしくなった。
 その後、剣なしでリオンとルゼルは剣を持ったつもりで合わせた両手を上下させ「えいっえいっ」と言いながら、2人向き合って素振りの練習をしていた。時々声に合わせて足がタンっと踏み込む音がするとなんだか強くなれた気がするようで「はっ、きしさまみたい」と喜ぶのだった。

 その夜の騎士団寮の食堂は天使の話で持ちきりとなり、2人の護衛に誰がなるかで熱い論争が起きた。(決めるのは上官なのだが)
 コーク家とクイン家の夕食時の話題はつたない2歳児の興奮した兄自慢に終始し、宮廷画家たちは1人だけ参加した画家のスケッチを見て「私も行きたかった!」を口々に言い、スケッチの模写を始め、沢山の天使の絵が量産された。

 やがてそれらの絵が「宮廷画家の天使シリーズ」として国中にブームを巻き起こすことになるが、それはもう少し先のお話。もちろんマグヌスと王妃は真っ先に希望の絵画を入手していた。
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