4 / 101
第二章
閑話 あの日の『納得』を確かめる兄ユリアン〜ついでに弟が天使なことも再確認
しおりを挟む
私は弟リオンの反応が引っかかっている。
マード国第二王子ヴァジュラ様に初めてお目もじした日、リオンは赤子はどこから来るのかと問い、兄である自分は母の腹から子は生まれると教えた。その時の弟の反応のことだ。
感嘆でもキョトンでもなく、「お腹の前は?」と更に聞いてきたのだ。それに対し執事長の受け売りで「神様のところ」と答えたら妙に納得して「神様?ああ」と言ったのだ。2歳の子が。
2歳の子が「ああ」って何?自分も5歳だが…。
それにしても従兄弟のルゼルの心配は可愛かった。神様の国に坂はあるのかなどと…。うちのリオンも神様の国のお天気を聞くなど可愛かったが…とにかくあの2人は最強に可愛い。可愛すぎて心配だ。絶対悪い大人たちや怖い女の子たちに狙われてしまうだろう。おそらく父上も叔父上もその危険に気づいているはずだ。今度しっかり対策について話し合わないと…。
あ、そうだ、神様の話だった。気になるから明日の朝食の時に聞いてみよう。
翌朝。今日は大人の休みの日。お休みの日の父上と母上は私たち子どもに朝食の時間を合わせてくださる。いつもより少し遅めということ。
「おはようございます」食卓につく時にはもう父上と母上がお席に着いて何やら楽しげにお話をしていた。うちの両親は仲良しだと思う。最近友達になったバークレイの父上と母上は滅多に一緒にいないと言っていた。貴族とはそういうものなのだそうだ。…違うと思うけど言わなかった。
あ、うちの天使が登場した。眠そう。可愛い。
外では2歳のわりにしっかりしていると言われるけど、家では普通の2歳の姿を見せてくれる。この油断した寝ぼけまなこが可愛い。紫の瞳が半分しか見えない。寝癖が酷かったのか、金髪もいつもよりフワッと広がっていて天使度が上がっている。うちの弟、可愛いばっかり。可愛いしかない。
「父ゆえ、母ゆえ、兄ゆえ、おはよござましゅ」ぺこり。つむじまで可愛いって何事か。
この頃『あにゅうえ』から『兄ゆえ』と呼ばれるようになった。舌足らずの言い方が可愛かったのに少し残念。その点リゼルは良いなぁ。ルゼルはまだまだリゼルを「あにゅーれ」って呼んでる。
「いただきます」でしばらく歓談。父上と母上が今週のあれこれについて話している。執事たちから聞いた話や父上がお仕事中に私たちが母上とお出かけした話とか、とにかくお2人のお話は私たち兄弟の事が多い。時々私たちに「そうなのか?」とか「そうよね?」とか確認的に振られたり、詳しいことを聞かれたりする。それでお2人はニコニコしている。やっぱりバークレイは間違っていると思う。
おっとそうそう、忘れずに聞くことがあったんだ。
「リオン」「あい。…はい」咄嗟の返事が舌足らず。可愛い。
「ヴァジュラ様にお会いした日にリオンと神様のところのお話をしたよね」
「はい、しまちた」あ、舌足らず、可愛い。
「あの時、お腹にくる前の赤子は神様のところにいると話したら『ああ』って言ったよね」
「はい、言いまちた」あぁ、可愛い。
「あれはなんの『ああ』だったの?」
父上も母上もにこやかに聴いている。そんななかリオンは何でもないように言った。
「ゔぁじゅらしゃま、うまれたひ、あめだったでしゅ。おうひしゃま、おなかくるまえ、おそといたら、あめなの」
「あぁ」と、これは父上。「お前はヴァジュラ様が雨に濡れなかったか心配だったのか?」
「はい、そうでしゅ」
確かにあの日は雨が降っていた。というか、お帰りになった父上がヴァジュラ様が生まれたとお話になった時、雨が降っていた。王妃様のお腹に来る前に雨の中にいたら濡れただろうと心配していたら外にはいなくて神様のところにいたとわかっての『ああ』だったのか。うちの弟、優しくて可愛い。最強。
「くぅっ」可愛さに耐えきれず声が出てしまった。でも私だけではなかった。父上も給仕の者たちも執事たちも従者たちも皆それぞれの「くぅっ」を出していた。母上だけが扇で口元をお隠しになっているけれど絶対心の中で「くぅっ」と仰っているはず。
あ、そうか。ハタと気づいた。
「だからヴァジュラ様に神様のところはお天気かと聞いたの?」
「はいでしゅ。あ、はい、そうでしゅ」激カワ。リオンは続ける。
「でも、ゔぁじゅらしゃま、おそらのこと、いわないでした。しゃかもあるって。きっときっと、おしろがいいでしゅ」
うんうん、神様のところよりお城が安全て思っているのだね。と思っていたら…。
「りろん、母ゆえのおなかくるまえ、わかんないの。ここがだいしゅきで、わしゅれてしまったの。おしろ、おうしゃまも、おうひしゃまも、まぐにゅしゅしゃまもいて、あめもだいじょぶなの。きっと、ゔぁじゅらしゃま、おしろだいしゅきに、なるましゅ」
一気に持論を語り、ですよねみたいにこちらを見るリオン。外も内も天使‼︎え?『最強』の上の言葉って何?何?絶対それ!あとでバトラーに教えてもらおう。
ずきゅーん、からの、ほわわわわぁん。効果音をつけるとしたら今の食堂はこれ一択。
可愛い。うちの天使は今日も天使。
この天使の天使らしさを引き出した私の投げかけ、絶対良かったはず。後で父上と母上に「今日のリオンも可愛かったですね」ってお話に行こう。きっとお2人はうんうんて言って「お前が良い質問をしたからだ」と褒めてくださる。もしかしたらお膝に乗せてくださるかも。頭もなでてくださるかも。いつもはそんなおねだりしない。もう5歳だし兄上だからね。でも本当はもう少し甘えたいんだ。まだ5歳だからね。だけどそこにリオンが居たらお膝もなでなでもリオンにゆずるよ。だって私は兄上だし、私の方がリオンをお膝に乗せてなでたいんだから。
マード国第二王子ヴァジュラ様に初めてお目もじした日、リオンは赤子はどこから来るのかと問い、兄である自分は母の腹から子は生まれると教えた。その時の弟の反応のことだ。
感嘆でもキョトンでもなく、「お腹の前は?」と更に聞いてきたのだ。それに対し執事長の受け売りで「神様のところ」と答えたら妙に納得して「神様?ああ」と言ったのだ。2歳の子が。
2歳の子が「ああ」って何?自分も5歳だが…。
それにしても従兄弟のルゼルの心配は可愛かった。神様の国に坂はあるのかなどと…。うちのリオンも神様の国のお天気を聞くなど可愛かったが…とにかくあの2人は最強に可愛い。可愛すぎて心配だ。絶対悪い大人たちや怖い女の子たちに狙われてしまうだろう。おそらく父上も叔父上もその危険に気づいているはずだ。今度しっかり対策について話し合わないと…。
あ、そうだ、神様の話だった。気になるから明日の朝食の時に聞いてみよう。
翌朝。今日は大人の休みの日。お休みの日の父上と母上は私たち子どもに朝食の時間を合わせてくださる。いつもより少し遅めということ。
「おはようございます」食卓につく時にはもう父上と母上がお席に着いて何やら楽しげにお話をしていた。うちの両親は仲良しだと思う。最近友達になったバークレイの父上と母上は滅多に一緒にいないと言っていた。貴族とはそういうものなのだそうだ。…違うと思うけど言わなかった。
あ、うちの天使が登場した。眠そう。可愛い。
外では2歳のわりにしっかりしていると言われるけど、家では普通の2歳の姿を見せてくれる。この油断した寝ぼけまなこが可愛い。紫の瞳が半分しか見えない。寝癖が酷かったのか、金髪もいつもよりフワッと広がっていて天使度が上がっている。うちの弟、可愛いばっかり。可愛いしかない。
「父ゆえ、母ゆえ、兄ゆえ、おはよござましゅ」ぺこり。つむじまで可愛いって何事か。
この頃『あにゅうえ』から『兄ゆえ』と呼ばれるようになった。舌足らずの言い方が可愛かったのに少し残念。その点リゼルは良いなぁ。ルゼルはまだまだリゼルを「あにゅーれ」って呼んでる。
「いただきます」でしばらく歓談。父上と母上が今週のあれこれについて話している。執事たちから聞いた話や父上がお仕事中に私たちが母上とお出かけした話とか、とにかくお2人のお話は私たち兄弟の事が多い。時々私たちに「そうなのか?」とか「そうよね?」とか確認的に振られたり、詳しいことを聞かれたりする。それでお2人はニコニコしている。やっぱりバークレイは間違っていると思う。
おっとそうそう、忘れずに聞くことがあったんだ。
「リオン」「あい。…はい」咄嗟の返事が舌足らず。可愛い。
「ヴァジュラ様にお会いした日にリオンと神様のところのお話をしたよね」
「はい、しまちた」あ、舌足らず、可愛い。
「あの時、お腹にくる前の赤子は神様のところにいると話したら『ああ』って言ったよね」
「はい、言いまちた」あぁ、可愛い。
「あれはなんの『ああ』だったの?」
父上も母上もにこやかに聴いている。そんななかリオンは何でもないように言った。
「ゔぁじゅらしゃま、うまれたひ、あめだったでしゅ。おうひしゃま、おなかくるまえ、おそといたら、あめなの」
「あぁ」と、これは父上。「お前はヴァジュラ様が雨に濡れなかったか心配だったのか?」
「はい、そうでしゅ」
確かにあの日は雨が降っていた。というか、お帰りになった父上がヴァジュラ様が生まれたとお話になった時、雨が降っていた。王妃様のお腹に来る前に雨の中にいたら濡れただろうと心配していたら外にはいなくて神様のところにいたとわかっての『ああ』だったのか。うちの弟、優しくて可愛い。最強。
「くぅっ」可愛さに耐えきれず声が出てしまった。でも私だけではなかった。父上も給仕の者たちも執事たちも従者たちも皆それぞれの「くぅっ」を出していた。母上だけが扇で口元をお隠しになっているけれど絶対心の中で「くぅっ」と仰っているはず。
あ、そうか。ハタと気づいた。
「だからヴァジュラ様に神様のところはお天気かと聞いたの?」
「はいでしゅ。あ、はい、そうでしゅ」激カワ。リオンは続ける。
「でも、ゔぁじゅらしゃま、おそらのこと、いわないでした。しゃかもあるって。きっときっと、おしろがいいでしゅ」
うんうん、神様のところよりお城が安全て思っているのだね。と思っていたら…。
「りろん、母ゆえのおなかくるまえ、わかんないの。ここがだいしゅきで、わしゅれてしまったの。おしろ、おうしゃまも、おうひしゃまも、まぐにゅしゅしゃまもいて、あめもだいじょぶなの。きっと、ゔぁじゅらしゃま、おしろだいしゅきに、なるましゅ」
一気に持論を語り、ですよねみたいにこちらを見るリオン。外も内も天使‼︎え?『最強』の上の言葉って何?何?絶対それ!あとでバトラーに教えてもらおう。
ずきゅーん、からの、ほわわわわぁん。効果音をつけるとしたら今の食堂はこれ一択。
可愛い。うちの天使は今日も天使。
この天使の天使らしさを引き出した私の投げかけ、絶対良かったはず。後で父上と母上に「今日のリオンも可愛かったですね」ってお話に行こう。きっとお2人はうんうんて言って「お前が良い質問をしたからだ」と褒めてくださる。もしかしたらお膝に乗せてくださるかも。頭もなでてくださるかも。いつもはそんなおねだりしない。もう5歳だし兄上だからね。でも本当はもう少し甘えたいんだ。まだ5歳だからね。だけどそこにリオンが居たらお膝もなでなでもリオンにゆずるよ。だって私は兄上だし、私の方がリオンをお膝に乗せてなでたいんだから。
47
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

女神の愛し子だけど役目がありません!
猫ヶ沢山
恋愛
私は産まれてくる前、魂の時に女神様のちょっとしたミスで「女神の愛し子」となってしまった。
何か役目があるのかと思ったけれど特に無いみたい。「愛し子」なのにそれで良いのかしら?
その力が強すぎて生まれてから寝たきり状態。ただの赤ちゃんだと困るから、ちょっとだけ前世を引っ張り出された。自分の事は全然思い出せないけれど・・・。
私のために女神様がつけてくれた守護精霊フェーリと、魔法のある世界で生きていくわ!
*R15は保険です*
*進行は亀の歩みです*
*小説家になろうさんにも掲載しています*
*誤字脱字は確認してますがあったらごめんなさい*作者独自の世界観・設定です。矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです。お手柔らかにお願いします*


憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる