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第五章 自由奔放編

第二十四話 ブリッツフォルテ

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 俺達がレーツェル王国から戻ると、程なくしてシェーンハイト達も開拓地に到着した。師匠ら魔法使い村の皆と初めて顔を合わせた彼女達は、つつがなく挨拶を済ませる。
 これで、魔法使いが魔法を駆使して行なう開拓の作業員も、更に三人増員した。
 そのついで……ではなく予定通り、シェーンハイト達には作業をしながら、ディアナから魔法の指導を受けてもらう。

 作業現場であるこの開拓地は、渓谷入り口にほど近い場所にある。
 通常、伏魔殿の神殿はその地の中心部にあるのだが、ここの場合は伏魔殿の大半が渓谷を含む山脈に飲み込まれている。そのため、中心部が山脈にほど近い場所となっているのだ。

 そんな立地なので、中心部から少し離れた渓谷の入り口を街の外れと定め、そこに大きな砦を築き、レーツェル王国と行き来する際の関所にすることに。
 また、砦を有する街なので、この地を『ブリッツフォルテ』と命名した。

 まぁ、命名したのはシェーンハイト様なんですけどね。

 シェーンハイトが名付け親のブリッツフォルテ、その中心となる神殿から砦まで、距離にして約五キロある。砦自体を街の外壁の一部にするとなると、直径十キロの街になってしまい、辺境地の街にしては規模が大きくなり過ぎてしまう。そのため、街を囲う外壁に関しては砦だけを建設し、残りは後回しにすることにした。

 そういえば、街の中心となる神殿を掘り出した際、まさに”掘り出し物”と呼べる素晴らしいものを発見していた。
 それは地下水脈だ。
 その水源は神殿の北側にあり、地上に姿を現したことで自然の噴水のようになっており、湧き出る水量も豊富である。
 せっかくなのでこの噴水の周辺を公園にし、中央公園の南に神殿、北に領主館という配置にしてみた。

 街の中心が公園って、なんかいいよね。しかも、ど真ん中に噴水があるとか、めっちゃオシャレだし。

 なお、神殿を覆っていた土を利用して、領主館は小高い丘の上に立てることに。
 また、公園の噴水は多過ぎるくらい湧き出ているので、領主館の建つ丘の麓に城壁を築き、その城壁の周りに堀を作って湧き水を引く。更に湧き水を街中の水路に引くことも想定している。

 こうした予定は俺の願望を元に、内務相から出向してきたアルフレードが形にしてくれている。
 内務相に勤めているアルフレードは、その中でも王国直轄地の人の出入りなど、人口の管理や把握を行なっている部署に所属し、後の代官候補として『生活し易い街造り』の講習などを受けていたと言う。
 そして今、アルフレードの勉強の成果がブリッツフォルテで活かされている。

 ちなみに、俺的には代官候補など出世街道まっしぐらだと思ったのだが、アルフレードが言うには、王都から出て地方で勤務をする代官は、爵位の低い貴族の三男や四男、アルフレードのような平民が行なう仕事で、出世ではないとのことだった。

 そんな常識を教えてもらったりしつつ、開拓は順調に進む。
 途中、モルトケが魔法使い村から村人を連れてきてくれたおかげで、作業速度は大幅に向上している。
 その移動の際、ブリッツフォルテと魔法使い村の神殿間を転移陣で移動させようかと思ったが、王都の神殿本部とブリッツフォルテを繋いだ際、神殿本部と魔法使い村も繋がってしまう懸念があった。

 師匠が言うには、魔法陣に魔力が充填されているなどの前提条件が整っているのは当然とし、神殿間の転移には転移先の神殿のある地に行ったことのある人物がいないと、転移ができないのだと言う。
 そして、まずは俺がブリッツフォルテと神殿本部を転移することになるだろうから、その際に何らかの理由で、神殿本部と魔法使い村が転移可能になってしまう可能性も無きにしも非ず、と。

 それらの事情を知識として知っている師匠だが、実際には転移陣を起動させたことがなく、その原理も理解していない。だが、その地を訪れた者がいないと転移できない仕様から、その者の記憶なり何なりが関係している可能性がある。そうなると、予期せぬ事態になりかねない。
 なので、神殿本部と魔法使い村が繋がってしまう可能性を否定できない以上、魔法使い村の神殿の転移陣は、一切使用しないことを決めたのだ。

  開拓が順調に進む中、アルトゥールから年内に王都に戻り、年明けは王宮で行なわれる『新年の儀』に参加するように、と通信魔道具から連絡が届いた。

 新年の儀とは、王都で働いている貴族などが集まるものなので、自分は関係ないと思っていたのだが、アルトゥールは父に騎士爵を与える手続きをしたのだと言う。
 本来なら、ブリッツフォルテの元である伏魔殿を平定したことで、俺が叙爵する予定だったのが、開拓の関係で公にできない。
 しかし、その状況を逆に活かすのがアルトゥールだ。

 王弟曰く、俺がまだ父の庇護下にある今の内にブリッツフォルテを整備し、ある程度の形が整った段階でブリッツフォルテとアインスドルフの間にある”目隠し”伏魔殿を平定。その地を父の領地として与え、父を男爵に昇爵させる。その前段階として、今回の叙爵なのだと言う。

 というのも、俺が先に叙爵してしまうと俺の手柄になってしまうが、父の庇護下にある今なら、『父の指示で行動した』という体裁が取れる。
 そのため、平定後に一度王国へその地を献上し、その後に王国から賜る形を取ることになった。

 この措置は、俺を養子として取り上げてしまうことに対し、俺の両親へアルトゥールなりの謝罪の気持ちだと言う。俺としても、父が在地ではなく王国の男爵として領地が与えられることは、後にその爵位や領地が兄に、そして更に次世代に……と継承できるのは有り難いので、アルトゥールの公私混同な行為にも、偽善的なことは言わない。

 父が叙爵するに伴い、両親を王都に連れていくことと、新年の儀に伏魔殿平定者として父と共に参加し、新年の儀の雰囲気を覚えるのが俺の仕事のようだ。
 そして俺が王都に戻ることで、シェーンハイトも一時帰宅をすることになる。
 そんな今回の旅は、魔法の存在を知らない両親が一緒に移動するため、馬車を利用する予定だ。なので、自己強化魔法で走り抜けるより時間がかかることを考慮し、早めに行動に移す。

「アルフレード、一緒に王都へ連れて行けなくて申し訳ないけど、開拓の方は任せたよ」
「何れは代官になる身。王都へ戻れないのは当然なのでお気になさらず」
「そう言ってもらえて助かるよ。何かあったら、通信魔道具で連絡を頼むね」
「かしこまりました」

 魔法が使えないアルフレードは、開拓作業自体はできない。だが、文官として頭脳を活かした業務は、誰よりもしっかりこなしてくれている。俺がブリッツフォルテを離れても、アルフレードが残ってくれれば心配は皆無だ。

「ディアナ、皆の面倒と現場監督は頼んだよ。段取りはアルフレードと相談してね」
「任せなさい」

 魔法関係はディアナにまかせておけば問題ない。

「それじゃあ、暫く留守にするけどよろしくね」

 こうして俺達は、ブリッツフォルテを後にした。
 今回は俺と師匠、シェーンハイトと双子にエドワルダの六人で移動となる。

 アインスドルフに着くと、王都から送られてきた迎えの馬車も、丁度到着したようだ。
 通常、新年の儀に参加するのにわざわざ王都から迎えなどこない。ましてや、ここは辺境地であるメルケル領、その一番奥にあるアインスドルフなのだ。これは破格の待遇である、と言えよう。

「父さんも母さんも準備はできているようだね」

 アルトゥールは、俺に伝えるより先に父へ招待状を送っており、両親は何のことやらサッパリわからず、まさに青天の霹靂といった感じだったようだ。
 俺に状況の説明を求める父を宥《なだ》め、取り敢えず馬車に乗ってもらった。

 馬車は二台用意されており、俺と両親、それから事情を知っている師匠が同乗し、もう一台にシェーンハイトと双子、それとエドワルダが乗っている。

「王都についたら、シェーンハイト様のお父上であるアルトゥール様、つまりライツェントシルト公爵だね。その公爵から説明があると思うけど、アルトゥール様は俺をライツェントシルト公爵家に養子として迎え入れる予定なんだよ」
「なっ、ブリッツェンが公爵家に……」

 まぁ、驚くよね。

「あぁ、この話はシェーンハイト様ですら知らないから、現状は父さんと母さんの心の中で留めておいてね。俺だって父さん達に内緒にしてたくらいなんだから」
「わ、わかった」
「それと、養子の話とは別に、俺はアインスドルフの先にある領地の領主になるんだ」
「アインスドルフの先の領地? そんな場所は無いぞ」

 俺が伏魔殿を平定したことは、それこそアルトゥール……とその関係者しか知らないのだ、近くで暮らす家族でさえ知らないのは当然であった。

「既に俺が平定して、今は開拓しているんだ。そして、俺が公爵家の養子になる前に、そことアインスドルフの間にある伏魔殿を平定する予定になってる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ブリッツェンは既に伏魔殿を平定していて、更にもう一つ伏魔殿を平定する……」

 伏魔殿の平定が推奨されていない昨今、俺がアインスドルフの地を平定したのがかなり久しぶりの出来事だ。にも拘らず、俺が既に次の伏魔殿を平定しており、更にもう一つ平定予定だと言われても、父にしてみれば何のことやらサッパリだろう。

「取り敢えず聞いてよ」
「う、うむ」
「俺が領主になる前であれば、俺はまだ父さんの庇護下にある。だから、俺の治める地、ブリッツフォルテって言う名前なんだけど、そこがある程度整ったら、父さんの指示で伏魔殿を平定する」
「そんな指示は――」
「あくまでそういう体だから。っていうか、最後まで聞いて」
「す、すまん」
「そして、平定後のその地を父さんが治める。その準備として、今回はまず王国から騎士爵を賜って、伏魔殿平定後に今度は男爵に昇爵する」

 父は、「私が騎士爵どころか男爵に……」などともごもご言っているが、俺は話を進める。

「父さん、男爵は騎士爵のような一代爵ではなく、兄さんに襲爵できる爵位でしょ? それは、アルトゥール様が俺を養子にすることに対して、父さん達へのお詫びの印なんだ」
「お詫びと言われても……」

 想像を越える内容だったのだろうから、すぐに理解できないのは仕方ない。俺も一気に捲し立ててしまったし。だけど、じっくり噛み砕いて理解してもらいたいね。なに、王都まではまだまだ時間はあるさ。
 難しい顔をしている父に、俺は笑顔でそう助言する。

 なおも表情が険しい父を尻目に、久しぶりにのんびりとした馬車での旅を、両親とじっくり会話をしながら王都へ向かう。こんな旅も悪くないなと思うと、自然に顔が綻《ほころ》んだ。

 ちなみに、同乗している師匠は、なぜか気配を隠蔽していたのであった。
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