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第二十一話 失態
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「あちらは、やはり勢い付いていおります」
第二王子と参加した公爵家での夜会から数日、第三王子関連の調査をしている諜報侍女のクノッチが、報告に訪れていた。
「公爵家の夜会でボンクラが仏頂面だったのが原因よね?」
「はい。公爵家と言えば、王家の血を受け継ぐお家柄。その公爵家主催の夜会で主賓の第二王子が終始不機嫌であったことは、非常に心象が悪かったようです。第三王子派としては、それを足がかりに第二王子の印象操作を行なうものかと」
ウルドとしては、第三王子が王太子になる流れは大歓迎だ。しかし、国王は第三王子派の者を反国王派と認識しているため、現状が望ましいとは言えないだろう。
それであればウルドが国王と会い、反目し合っていないことを伝えればいいと考える。
だがウルドは気付く。ここでボンクラ第二王子が不要だと国王に解らせてしまうと、罷り間違って今度は第三王子の婚約者にされてしまう可能性に。
もしそうなってしまえば本末転倒だ。
ボンクラ王子と縁が切れるのは歓迎だが、王太子妃になるのは御免被りたい。それを避けるために、万全を期して今は情報を秘匿しておくのが得策だ、とウルドは結論付けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「子爵領へ戻るのか?」
「はい。シーズン中に領で問題が起こりまして、それを解決をしなければなりません」
社交シーズンの終了を告げる王宮での夜会が終わり、ウルドは国王から呼び出されていた。
「国王とはいえ、各領地の内政へ口出しできんからな、ヴェルダンディの意思を尊重せねばならん。ラタトスクが正式な王太子であれば、王太子妃として王妃教育の名のもとに、ヴェルダンディの王宮生活を義務付けられるのだが……」
「申し訳ございません」
「まあよい。それより、こちらでもラタトスクを再教育するつもりだが、ヴェルダンディもできるだけ王都に戻り、ラタトスクとの時間を作ってもらえると助かる」
「領の死活問題となりかねない状況ゆえ、簡単にはお返事できかねます。しかしながら、陛下のご意思に添えるよう、努力を惜しまないつもりですわ」
どうにかして第二王子とヴェルダンディの婚姻を盤石のものとしたい国王だが、王太子妃でもないうえに領主であるヴェルダンディに対し、王都での生活を強いることはできない。国王の苦悩は、表情にありありと出ていた。
一方のウルドとしては、婚姻自体をご破産にしたいため、のらりくらりと躱しながら、確実に事を為せるように状況を整えたい心境なのだ。
「そこで、陛下にお願いがあります」
「言うてみい」
「王領で仕事にあぶれている民を、ノルン領に移民させていただきたのです」
ウルドは銀鉱山を父に奪われたことに付随し、起こり得るであろう問題を、領民を増やすことで対策の一つにするつもりでいる。
「うむ。それでヴェルダンディの問題が解決できるのであれば、移民の手配をしておこう」
「ありがとう存じます」
「なに、王領で人口の増加に手を焼いている地もある。ある意味難民の救済となるのだ、儂にも利がある」
国王の協力を得たウルドは、具体的な移民の数などを含めて話し合った後、国王の許を辞した。
そして、ウルドがそそくさと足を向けた先は、いつもの中庭であった。
「はぁ~、今日はいないみたいね」
中庭を眺めるベンチに腰掛け、独りごちるウルド。
数日後にはノルン領に戻らねばならない。次に王宮へ赴くのは八ヶ月後となるウルドは、もう一度フレクに会いたいと思っていた。
それから暫し中庭を眺めていたウルドだったが、残念ながらフレクに会えなかったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バルドル、住民の受け入れ態勢はどう?」
「鉱山町の方に回していた建築の職人を移動させておりますが、もうしばらく時間が必要です」
父である侯爵に銀鉱山の利権を奪われた直後から、ウルドは新たな農耕地の開拓を目指した。
国王からの移民を当てにして、早急に住人の受け入れ態勢の準備に取り掛かったが、バルドルによるとまだ時間がかかりそうだ。
「ナルヴィー、食料の備蓄状況は?」
「現状の買い付けであれは十分でありますが、住民が増えることを考えると、少々心許ないです」
「買い付けは増やせそうなの?」
「交渉は順調に行えておりますので、問題はないかと」
ただノルン領を栄えさせ、その後は第二王子との婚約をご破産にできれば良かったウルド。第三王子を上手く担ぎ上げて王太子に導く方針にしたところで、父である侯爵の横槍でノルン領の収入は減ってしまった。
父の横槍で予定が狂ってしまったため、余計な仕事がごっそり増えたウルドの現状は、”面白可笑しい生活”とはかけ離れた、非常に忙しい生活となっているのだ。
そんな忙しいウルドの許へ、シアルフィ男爵から面会を求める知らせが届いた。
「ノルン子爵、銀が我が領へ全く届かないのだが」
シアルフィ男爵の言葉に、ウルドは自領の復興のことだけを考え、協力関係にあった男爵のことをすっかり失念していたことに、本人から言われて気付いたのだ。
「申し訳ございませんわ。実は、わたくしが王都にいる間に、父に銀鉱山の利権を奪われてしまいましたの。ところで、父は男爵との契約を履行しておりませんの?」
「していれば物が届いていないなどと、わざわざ伝えに来ませんが」
尤もな話である。
「ですわよね」
「イスベルグ侯爵が契約を履行しないのであれば、我が領としては死活問題となります」
「まったくもって、申し開きのしようもございませんですわ」
「とにかく、このままであれば我が領は立ち行きません」
ノルン子爵領からの鉱物を加工し、それを販売するのがシアルフィ男爵領最大の利益であった。
元々ノルン領から輸出していた鉄を、現状ではほとんど輸出しておらず、男爵領は銀の加工が主産業となっている。その銀が入手できない以上、男爵領が立ち行かないのは必然であった。
他領の問題なので、ウルドからすれば所詮他人事だ。しかし、男爵令嬢のスルーズは可愛い妹分であり、男爵とはいわば同盟関係になる。それを、ウルドが銀鉱山を奪われる失態を犯した所為で、男爵領の危機が訪れてしまったのだ。無碍にできるはずもなかった。
「男爵の領地で、開墾に向いた土地はおありかしら?」
「まぁ、ありますな」
「でしたら、住民をお送りしますわ。それで自給率を上げてみては如何かしら?」
「自給率が上がっても、消費も一緒に上がりますが? それに開墾など、一朝一夕でできるものではありませ」
男爵の言うことは尤もだ。そこでウルドは、無利子無担保で資金援助し、その間に男爵領の地盤を強化する提案をしてみる。
自領がノルン領に負んぶに抱っこだった現状を鑑みた男爵は、ウルドの提案を受け、これを機に地盤強化を真剣に考えることにしたようだ。
シアルフィ男爵との話し合いの後は、ウルドもノルン領の地盤強化に努めていた。
しかし、領民が徐々に増えるても、開墾作業では作物を生み出さないため、食料の消費が増えて備蓄が徐々に減っている。そこへきて父である侯爵は、自身の領民を掻き集め、銀鉱山に作業員として送り込んできた。
そうなると、そこでも食材は多く消費される。
自領で収穫した物を流通させるのであれば、父の領民もお客さんとなるのだが、現状は他領から買い入れをしている状況だ。
結果的に、ノルン領の食料はなかなか満足のいく量が確保できないままであった。
「ヴェルダンディ様、ノルン領の地盤強化は予定にありましたが、やはり銀の収入が減ったのは痛手です。ヴェルダンディ様の個人資産も、シアルフィ男爵以外に多く貸し出しておりますゆえ、このままでは何れ拙いことになるやもしれません」
ウルドの財産管理を一手に引き受けているナルヴィーは、苦々しい表情で報告をしてきた。
「かなり切迫しているのかしら?」
「切迫はしておりませんが、決して楽観視はできません」
「何か現状を打破できる方策はある?」
「イスベルグ侯爵からの収益を増やせれば……。さすがに一割はおかしいですし」
通常であれば、鉱山の採掘権を得た者は、所有者である地主に対して三割から五割を納める。しかし、勝手に利権を得た侯爵は、あろうことか一割しか納めないような契約にしたのだ。
そもそも勝手に結ばれた契約であるため、本来であればウルドがそれを律儀に守る必要はない。だが、ウルドが押していなくとも、代理がノルン子爵としての印を押してしまった以上、それは正式な契約になってしまう。
返す返すも、家臣の教育を怠ったっことを後悔するウルドであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少々時間を要したが、ウルドが側近たちと四苦八苦しつつも、どうにか食料の買い付けを不足なくできるような状況を作り出し、後は安定させられるようにするだけになっていた。
そんなある日、生活に少し余裕ができはじめ、ナンナの淹れたお茶で優雅にティータイムを楽しんでいるウルドの許へ、財務を一手に引き受けているナルヴィーが慌ててやってきた。
「拙いです。最近、徐々に食料の到着が遅れいたのですが、契約を打ち切るとの報告が相次いでおります」
「どういうこと?」
「契約を交わしていた貴族たちから、自領の食料が足りないなどの理由で、契約を打ち切ると言われ、一方的に破棄されれております」
「一箇所ではなく、複数なのね?」
「はい」
(どういうこと?)
「代わりになりそうな先はありそう?」
「契約が可能そうな所とは既に契約を交わしておりましたので、敢えて交渉を避けていた所しかありませんが、当ってみます」
「それと、現在の備蓄量での遣り繰りは?」
「現状の放出量では些か厳しいです。一時期のように少し絞れば……」
(原因の解明? いや、確保が先ね)
「ナルヴィーは領民に不満が出ないギリギリの放出量の調整を。バルドルは交渉に動いて」
「「かしこまりました」」
「ナンナは諜報部隊に連絡をとって、クノッチに領へ戻るように伝えてちょうだい」
「了解です」
安定の兆しが見えてきたところでまさかの事態となり、ウルドは焦りを感じていた。
そんなウルドの許へ、側近ではない侍女から来客の知らせが届く。
(また厄介な話かしら?)
「どなたがお待ちなの?」
「フレク様と仰る方です」
侍女の言葉に、ウルドは我が耳を疑うと共に胸が高鳴るのを感じ、暫し呆然としてしまうのであった。
第二王子と参加した公爵家での夜会から数日、第三王子関連の調査をしている諜報侍女のクノッチが、報告に訪れていた。
「公爵家の夜会でボンクラが仏頂面だったのが原因よね?」
「はい。公爵家と言えば、王家の血を受け継ぐお家柄。その公爵家主催の夜会で主賓の第二王子が終始不機嫌であったことは、非常に心象が悪かったようです。第三王子派としては、それを足がかりに第二王子の印象操作を行なうものかと」
ウルドとしては、第三王子が王太子になる流れは大歓迎だ。しかし、国王は第三王子派の者を反国王派と認識しているため、現状が望ましいとは言えないだろう。
それであればウルドが国王と会い、反目し合っていないことを伝えればいいと考える。
だがウルドは気付く。ここでボンクラ第二王子が不要だと国王に解らせてしまうと、罷り間違って今度は第三王子の婚約者にされてしまう可能性に。
もしそうなってしまえば本末転倒だ。
ボンクラ王子と縁が切れるのは歓迎だが、王太子妃になるのは御免被りたい。それを避けるために、万全を期して今は情報を秘匿しておくのが得策だ、とウルドは結論付けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「子爵領へ戻るのか?」
「はい。シーズン中に領で問題が起こりまして、それを解決をしなければなりません」
社交シーズンの終了を告げる王宮での夜会が終わり、ウルドは国王から呼び出されていた。
「国王とはいえ、各領地の内政へ口出しできんからな、ヴェルダンディの意思を尊重せねばならん。ラタトスクが正式な王太子であれば、王太子妃として王妃教育の名のもとに、ヴェルダンディの王宮生活を義務付けられるのだが……」
「申し訳ございません」
「まあよい。それより、こちらでもラタトスクを再教育するつもりだが、ヴェルダンディもできるだけ王都に戻り、ラタトスクとの時間を作ってもらえると助かる」
「領の死活問題となりかねない状況ゆえ、簡単にはお返事できかねます。しかしながら、陛下のご意思に添えるよう、努力を惜しまないつもりですわ」
どうにかして第二王子とヴェルダンディの婚姻を盤石のものとしたい国王だが、王太子妃でもないうえに領主であるヴェルダンディに対し、王都での生活を強いることはできない。国王の苦悩は、表情にありありと出ていた。
一方のウルドとしては、婚姻自体をご破産にしたいため、のらりくらりと躱しながら、確実に事を為せるように状況を整えたい心境なのだ。
「そこで、陛下にお願いがあります」
「言うてみい」
「王領で仕事にあぶれている民を、ノルン領に移民させていただきたのです」
ウルドは銀鉱山を父に奪われたことに付随し、起こり得るであろう問題を、領民を増やすことで対策の一つにするつもりでいる。
「うむ。それでヴェルダンディの問題が解決できるのであれば、移民の手配をしておこう」
「ありがとう存じます」
「なに、王領で人口の増加に手を焼いている地もある。ある意味難民の救済となるのだ、儂にも利がある」
国王の協力を得たウルドは、具体的な移民の数などを含めて話し合った後、国王の許を辞した。
そして、ウルドがそそくさと足を向けた先は、いつもの中庭であった。
「はぁ~、今日はいないみたいね」
中庭を眺めるベンチに腰掛け、独りごちるウルド。
数日後にはノルン領に戻らねばならない。次に王宮へ赴くのは八ヶ月後となるウルドは、もう一度フレクに会いたいと思っていた。
それから暫し中庭を眺めていたウルドだったが、残念ながらフレクに会えなかったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バルドル、住民の受け入れ態勢はどう?」
「鉱山町の方に回していた建築の職人を移動させておりますが、もうしばらく時間が必要です」
父である侯爵に銀鉱山の利権を奪われた直後から、ウルドは新たな農耕地の開拓を目指した。
国王からの移民を当てにして、早急に住人の受け入れ態勢の準備に取り掛かったが、バルドルによるとまだ時間がかかりそうだ。
「ナルヴィー、食料の備蓄状況は?」
「現状の買い付けであれは十分でありますが、住民が増えることを考えると、少々心許ないです」
「買い付けは増やせそうなの?」
「交渉は順調に行えておりますので、問題はないかと」
ただノルン領を栄えさせ、その後は第二王子との婚約をご破産にできれば良かったウルド。第三王子を上手く担ぎ上げて王太子に導く方針にしたところで、父である侯爵の横槍でノルン領の収入は減ってしまった。
父の横槍で予定が狂ってしまったため、余計な仕事がごっそり増えたウルドの現状は、”面白可笑しい生活”とはかけ離れた、非常に忙しい生活となっているのだ。
そんな忙しいウルドの許へ、シアルフィ男爵から面会を求める知らせが届いた。
「ノルン子爵、銀が我が領へ全く届かないのだが」
シアルフィ男爵の言葉に、ウルドは自領の復興のことだけを考え、協力関係にあった男爵のことをすっかり失念していたことに、本人から言われて気付いたのだ。
「申し訳ございませんわ。実は、わたくしが王都にいる間に、父に銀鉱山の利権を奪われてしまいましたの。ところで、父は男爵との契約を履行しておりませんの?」
「していれば物が届いていないなどと、わざわざ伝えに来ませんが」
尤もな話である。
「ですわよね」
「イスベルグ侯爵が契約を履行しないのであれば、我が領としては死活問題となります」
「まったくもって、申し開きのしようもございませんですわ」
「とにかく、このままであれば我が領は立ち行きません」
ノルン子爵領からの鉱物を加工し、それを販売するのがシアルフィ男爵領最大の利益であった。
元々ノルン領から輸出していた鉄を、現状ではほとんど輸出しておらず、男爵領は銀の加工が主産業となっている。その銀が入手できない以上、男爵領が立ち行かないのは必然であった。
他領の問題なので、ウルドからすれば所詮他人事だ。しかし、男爵令嬢のスルーズは可愛い妹分であり、男爵とはいわば同盟関係になる。それを、ウルドが銀鉱山を奪われる失態を犯した所為で、男爵領の危機が訪れてしまったのだ。無碍にできるはずもなかった。
「男爵の領地で、開墾に向いた土地はおありかしら?」
「まぁ、ありますな」
「でしたら、住民をお送りしますわ。それで自給率を上げてみては如何かしら?」
「自給率が上がっても、消費も一緒に上がりますが? それに開墾など、一朝一夕でできるものではありませ」
男爵の言うことは尤もだ。そこでウルドは、無利子無担保で資金援助し、その間に男爵領の地盤を強化する提案をしてみる。
自領がノルン領に負んぶに抱っこだった現状を鑑みた男爵は、ウルドの提案を受け、これを機に地盤強化を真剣に考えることにしたようだ。
シアルフィ男爵との話し合いの後は、ウルドもノルン領の地盤強化に努めていた。
しかし、領民が徐々に増えるても、開墾作業では作物を生み出さないため、食料の消費が増えて備蓄が徐々に減っている。そこへきて父である侯爵は、自身の領民を掻き集め、銀鉱山に作業員として送り込んできた。
そうなると、そこでも食材は多く消費される。
自領で収穫した物を流通させるのであれば、父の領民もお客さんとなるのだが、現状は他領から買い入れをしている状況だ。
結果的に、ノルン領の食料はなかなか満足のいく量が確保できないままであった。
「ヴェルダンディ様、ノルン領の地盤強化は予定にありましたが、やはり銀の収入が減ったのは痛手です。ヴェルダンディ様の個人資産も、シアルフィ男爵以外に多く貸し出しておりますゆえ、このままでは何れ拙いことになるやもしれません」
ウルドの財産管理を一手に引き受けているナルヴィーは、苦々しい表情で報告をしてきた。
「かなり切迫しているのかしら?」
「切迫はしておりませんが、決して楽観視はできません」
「何か現状を打破できる方策はある?」
「イスベルグ侯爵からの収益を増やせれば……。さすがに一割はおかしいですし」
通常であれば、鉱山の採掘権を得た者は、所有者である地主に対して三割から五割を納める。しかし、勝手に利権を得た侯爵は、あろうことか一割しか納めないような契約にしたのだ。
そもそも勝手に結ばれた契約であるため、本来であればウルドがそれを律儀に守る必要はない。だが、ウルドが押していなくとも、代理がノルン子爵としての印を押してしまった以上、それは正式な契約になってしまう。
返す返すも、家臣の教育を怠ったっことを後悔するウルドであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少々時間を要したが、ウルドが側近たちと四苦八苦しつつも、どうにか食料の買い付けを不足なくできるような状況を作り出し、後は安定させられるようにするだけになっていた。
そんなある日、生活に少し余裕ができはじめ、ナンナの淹れたお茶で優雅にティータイムを楽しんでいるウルドの許へ、財務を一手に引き受けているナルヴィーが慌ててやってきた。
「拙いです。最近、徐々に食料の到着が遅れいたのですが、契約を打ち切るとの報告が相次いでおります」
「どういうこと?」
「契約を交わしていた貴族たちから、自領の食料が足りないなどの理由で、契約を打ち切ると言われ、一方的に破棄されれております」
「一箇所ではなく、複数なのね?」
「はい」
(どういうこと?)
「代わりになりそうな先はありそう?」
「契約が可能そうな所とは既に契約を交わしておりましたので、敢えて交渉を避けていた所しかありませんが、当ってみます」
「それと、現在の備蓄量での遣り繰りは?」
「現状の放出量では些か厳しいです。一時期のように少し絞れば……」
(原因の解明? いや、確保が先ね)
「ナルヴィーは領民に不満が出ないギリギリの放出量の調整を。バルドルは交渉に動いて」
「「かしこまりました」」
「ナンナは諜報部隊に連絡をとって、クノッチに領へ戻るように伝えてちょうだい」
「了解です」
安定の兆しが見えてきたところでまさかの事態となり、ウルドは焦りを感じていた。
そんなウルドの許へ、側近ではない侍女から来客の知らせが届く。
(また厄介な話かしら?)
「どなたがお待ちなの?」
「フレク様と仰る方です」
侍女の言葉に、ウルドは我が耳を疑うと共に胸が高鳴るのを感じ、暫し呆然としてしまうのであった。
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