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第十話 わたくしがノルン子爵領の管理者ですわ
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「ぬぁ~、疲れたぁ~」
「ヴェルダンディ様、はしたないですよ!」
王都での社交シーズンが終わり、ウルドは侍女のナンナと執事のバルドルらを伴い、亡き祖母から受け継いだ子爵領に赴いていた。
「だって疲れたんだもん」
「せめてお着替えを済ませてからダラけてください!」
「はぁ~い」
ナンナはくりっとした茶色の瞳の可愛らしい侍女だが、近頃は目を細め、その目尻を吊り上げている時間が増加中だ。
すっかりナンナに頭の上がらないウルドが、この子爵を訪れたのは今回が初めてである。しかし、祖母の存命時にヴェルダンディは何度か顔を出しているので、彼女を出迎えた子爵領の家臣からは、躊躇いがちではあったが『お久しぶりでございます』や『ご立派になられましたね』などと、彼女を懐かしむような声がかけられていた。
十年前からヴェルダンディの従者をしているバルドルも、子爵領には何度も付き添っていたため、大半の家臣とは顔見知りのようだ。
ウルドたち一行が子爵領に到着した翌日、主だった子爵領の家臣と領主館に勤める従者を、領主館の大広間に集めた。
「はじめましての者、お久しぶりの者、わたくしがこのノルン子爵領を管理するヴェルダンディ・イスベルグですわ。今後はこの地に腰を据えて活動する予定よ。よろしくお願いするわね」
にこやかに語るウルドの言葉を、集まった者たちは誰もが緊張した面持ちで聞き、
主の挨拶に応え、全員が慇懃に礼をする。
その後は、主だった家臣以外は通常業務に戻し、これから顔合わせを行なう予定だ。
「――以上が、ノルン領の主だった役職者でございます」
「ありがとうナリ。――わたくしは領地運営に慣れていないの。最初は家宰であるナリに教えてもらいながら、手探りでの運営となるでしょうね。今は少し厳しい状況だけれども、より良い領となるよう努力は惜しまないわ。皆が一致団結し、この領を盛り上げげてちょうだいね」
ノルン子爵領を取り仕切っている家宰のナリから家臣の紹介を受け、改めてウルドが挨拶し、顔合わせは終了した。
「わたくし、農地や鉱山の採掘場を見ても取れ高など分からないのだけれど、一応は視察をしてみたいの。ナリに手配を任せて良いかしら?」
「それが私の役目でございます」
「そう。ではお願いね」
「お任せください、お嬢様」
ウルドをお嬢様と呼ぶのは四十代半ばくらいの男性で、少々肥えた体で商人のような笑顔を浮かべる愛嬌のある家宰、ナリだ。
ノルン領の先代の家宰はナリの父であったが、先代当主であるヴェルダンディの祖母が永眠した後に引退したため、家宰補佐をしていたナリがヴェルダンディに任命され、現在の家宰を務めている。勿論、ウルドがヴェルダンディになる前の話なので、任命の経緯は後で知ったことだ。
「あら、すごく良い部屋ね」
領主の執務室に入ったウルドは、贅の限りを尽くした豪華な部屋とは違う、派手さはないが調度品がセンス良く配置されているのを見て、亡くなった祖母の人柄が分かるこの部屋を一発で気に入った。
「ヴェルダンディ様、この部屋が気に入ったのでしたら、少し腰を落ち着けて、書類に軽くお目を通しては如何ですか?」
「バルドルの言うとおりね。その前にナンナ、お茶を淹れてもらってもいい」
「すぐご用意いたします」
当初の予定では、顔合わせが終わったら部屋に戻ってのんびりするはずだったのだが、執務室が気に入ったウルドはここでお茶を飲みながら寛いでいると――
「お嬢様、シアルフィ男爵家から使いの者がきております」
「あら、何かしら? 応接室に通しておいて頂戴」
「かしこまりました」
領主館の侍従長が来客を告げてきたのでウルドは応接室に向かい、男爵家の使いの者と顔を合わせことに。
「スルーズの使者なのね。どれどれ」
使者から手紙を受け取ったウルドは、早速目を通した。
「スルーズったら、遊びにくるとは聞いていたけれども、既にこちらに来ているのね。随分と気の早いこと」
「お嬢様は暫くこちらに滞在予定であり、お声掛けがあればすぐに伺えるようにしておくとのことです」
「そう。それなら待たせるのも可愛そうだわ。明日でも大丈夫かしら?」
「可能と伺っております」
ウルドの妹分的存在のスルーズは、ノルン子爵領の南に位置するシアルフィ男爵領に普段は滞在している。
地理に疎いウルドは、シアルフィ男爵領がノルン子爵領と接しているなどと知らず、スルーズはノルン子爵領がヴェルダンディの所有する領地だと知らなかった。
王都を立つ前にお互いがそのことを知り、スルーズはノルン子爵領へ遊びに行く宣言をしていたのだが、自身の到着早々に訪れてくるとはウルドも予想していなかったため、彼女の積極性に少々驚いている。
それでも迷惑がることもなく、ウルドは最短でスルーズと会うことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヴェルダンディ様、いきなり押し掛けてきてしまい、申し訳ございませんでした」
「わたくしは構わないのよ。でも、スルーズは久しぶりの実家でのんびりしなくて良かったの?」
「ノルン領はお隣でしたが、一度も来たことがなかったので、ヴェルダンディ様がいるのであれば行くしかないと思いました。なので、問題ないです!」
早速遊びにきたスルーズは、終始笑顔でウルドと相対している。可愛い妹分が笑顔でいると、ウルドもまた優しい気持ちになり、慈愛の笑みを深めた。
そして、家宰のナリに頼んでいた領内の視察は、翌日から出発となっていたので、スルーズも一緒に行くかと問うと、彼女は二つ返事で了承。
その結果、視察を兼ねた小旅行の予定となった。
スルーズとのお茶を楽しんだウルドは執務室に戻り、帳簿と睨めっこしている執事のバルドルに声を掛ける。
「暗号の解読はどう?」
「まだ完璧ではありませんが、大まかには判明しました」
「やっぱり、正式な帳簿と照らし合わせると分かり易かった?」
「そうですね」
バルドルにはヴェルダンディが書いていた冊子と、領主館にあった帳簿を使い、資金の流れを調査させていた。
ヴェルダンディの冊子は、彼女だけが分かる記号で記されていたため、大凡の検討はついていたが確信には至れなかったからだ。
「それと、やはり税収が減っております。大奥様が亡くなられた年は殆ど変化がありませんでしたが、翌年から徐々に減り、ここ二年はかなり厳しいことになっておりました」
「うーん、災害でもあったのかしら?」
「それは分かりかねます」
「そうなると、視察で確認するしかないわね」
王都にいる間にも、ノルン領の税収が減っていることは何となく分かっていた。しかし、大体が憶測であったため、現地にこないと判断ができなかったのだ。
また、領民はさておき、家臣がヴェルダンディをどう思っているのか知らないことも、ウルドの懸案事項の一つであった。
それらを確認するために、ウルドが領地に足を伸ばしたのは必然と言えよう。
過去にヴェルダンディがノルン子爵領を訪れたのは、まだ第二王子との婚約がなされていなかった九歳時が最後であった。それ即ち、『氷の魔女』と呼ばれて悪評が広まってから、一度も領に足を運んでいないということだ。
十歳時に婚約が決まり、その直後に祖母が亡くなり、間を置かずににノルン領の管理権を得たヴェルダンディだが、その頃から明るく朗らかな少女から、笑わない子へと変貌していたと言われている。
時期的に、婚約と祖母の死が近かったため、そのどちらが原因だったと思われているが、真実を知るヴェルダンディはもういない。
ただ一つ言えるのは、ノルン領の者が最後にヴェルダンディと顔を合わせた頃は、まだ悪評が広まる前であった、ということだ。
「バルドルから見て、ここの従者の反応はどう感じた?」
「誰もが強張っていたのは確かです。しかし、従者が主人に対して緊張するのは当然のこと。それを踏まえると、悪評の所為とは決めつけられません」
「その辺りも早急に調べたいわね」
「一刻も早くに信者を増やしますのでご安心を」
「…………」
ウルドが自身の評判を気にするのは、頂点に経つ者としての求心力も然ることながら、税収に違和感を覚えたからだ。
ヴェルダンディが賢かったことを知っているウルドは、彼女ならつまらないミスはしていないだろう、と確信めいた自信がある。
むしろ、そんなヴェルダンディですら税収を下げていたのは、天災による不運があったのだろう。仮にそうでなければ、人災であった可能性が高い。そう考えている。
だが、人災とは何か?
思い浮かぶのは、ヴェルダンディの悪評により忠誠心が下がり、生産力も下がったなど、ヴェルダンディ自身に起因する可能性。
そしてもう一点、着服や横領だ。
ウルドは前世で領地運営をしていた。しかし、ウルドは研究に没頭していたため、領地の舵取りは家臣に任せていたのだ。
その当時、税収が著しく減ったことがあり、調べたら着服している者がいたという苦い経験をしている。
過去にそのような経験があったため、一応はそれらも考慮し、推察しているのだ。
「何にしても、視察には時間が掛かるのだから、その間に調べられることは調べましょう」
「可能であれば、ヴェルダンディ様が信頼できる者を増やしたいですね。現状ではどうしても人手が足りません。洗脳するにも、ヴェルダンディ様に悪感情を持っていない方が楽ですので、その辺りを見極めるにも時間がかかります」
バルドルはトンデモ発言をしれっと言ってのけるので、ウルドは気が重くなる。
「洗脳とか怖いこと言わないでほしいのだけれど……」
「間違えました。信仰心を高める……でした」
「…………」
バルドルとの会話は疲れると判断したウルドは、冊子と帳簿を照らし合わせる作業に没頭することにした。
領地での生活は始まったばかりで、まだまだ分からないことだらけのウルドだが、分からなからこその遣り甲斐を感じ、楽しい生活ができそうだと希望に胸を膨らませる。
とはいえ、信者問題には一抹の不安を覚えずにはいられなウルドであった。
「ヴェルダンディ様、はしたないですよ!」
王都での社交シーズンが終わり、ウルドは侍女のナンナと執事のバルドルらを伴い、亡き祖母から受け継いだ子爵領に赴いていた。
「だって疲れたんだもん」
「せめてお着替えを済ませてからダラけてください!」
「はぁ~い」
ナンナはくりっとした茶色の瞳の可愛らしい侍女だが、近頃は目を細め、その目尻を吊り上げている時間が増加中だ。
すっかりナンナに頭の上がらないウルドが、この子爵を訪れたのは今回が初めてである。しかし、祖母の存命時にヴェルダンディは何度か顔を出しているので、彼女を出迎えた子爵領の家臣からは、躊躇いがちではあったが『お久しぶりでございます』や『ご立派になられましたね』などと、彼女を懐かしむような声がかけられていた。
十年前からヴェルダンディの従者をしているバルドルも、子爵領には何度も付き添っていたため、大半の家臣とは顔見知りのようだ。
ウルドたち一行が子爵領に到着した翌日、主だった子爵領の家臣と領主館に勤める従者を、領主館の大広間に集めた。
「はじめましての者、お久しぶりの者、わたくしがこのノルン子爵領を管理するヴェルダンディ・イスベルグですわ。今後はこの地に腰を据えて活動する予定よ。よろしくお願いするわね」
にこやかに語るウルドの言葉を、集まった者たちは誰もが緊張した面持ちで聞き、
主の挨拶に応え、全員が慇懃に礼をする。
その後は、主だった家臣以外は通常業務に戻し、これから顔合わせを行なう予定だ。
「――以上が、ノルン領の主だった役職者でございます」
「ありがとうナリ。――わたくしは領地運営に慣れていないの。最初は家宰であるナリに教えてもらいながら、手探りでの運営となるでしょうね。今は少し厳しい状況だけれども、より良い領となるよう努力は惜しまないわ。皆が一致団結し、この領を盛り上げげてちょうだいね」
ノルン子爵領を取り仕切っている家宰のナリから家臣の紹介を受け、改めてウルドが挨拶し、顔合わせは終了した。
「わたくし、農地や鉱山の採掘場を見ても取れ高など分からないのだけれど、一応は視察をしてみたいの。ナリに手配を任せて良いかしら?」
「それが私の役目でございます」
「そう。ではお願いね」
「お任せください、お嬢様」
ウルドをお嬢様と呼ぶのは四十代半ばくらいの男性で、少々肥えた体で商人のような笑顔を浮かべる愛嬌のある家宰、ナリだ。
ノルン領の先代の家宰はナリの父であったが、先代当主であるヴェルダンディの祖母が永眠した後に引退したため、家宰補佐をしていたナリがヴェルダンディに任命され、現在の家宰を務めている。勿論、ウルドがヴェルダンディになる前の話なので、任命の経緯は後で知ったことだ。
「あら、すごく良い部屋ね」
領主の執務室に入ったウルドは、贅の限りを尽くした豪華な部屋とは違う、派手さはないが調度品がセンス良く配置されているのを見て、亡くなった祖母の人柄が分かるこの部屋を一発で気に入った。
「ヴェルダンディ様、この部屋が気に入ったのでしたら、少し腰を落ち着けて、書類に軽くお目を通しては如何ですか?」
「バルドルの言うとおりね。その前にナンナ、お茶を淹れてもらってもいい」
「すぐご用意いたします」
当初の予定では、顔合わせが終わったら部屋に戻ってのんびりするはずだったのだが、執務室が気に入ったウルドはここでお茶を飲みながら寛いでいると――
「お嬢様、シアルフィ男爵家から使いの者がきております」
「あら、何かしら? 応接室に通しておいて頂戴」
「かしこまりました」
領主館の侍従長が来客を告げてきたのでウルドは応接室に向かい、男爵家の使いの者と顔を合わせことに。
「スルーズの使者なのね。どれどれ」
使者から手紙を受け取ったウルドは、早速目を通した。
「スルーズったら、遊びにくるとは聞いていたけれども、既にこちらに来ているのね。随分と気の早いこと」
「お嬢様は暫くこちらに滞在予定であり、お声掛けがあればすぐに伺えるようにしておくとのことです」
「そう。それなら待たせるのも可愛そうだわ。明日でも大丈夫かしら?」
「可能と伺っております」
ウルドの妹分的存在のスルーズは、ノルン子爵領の南に位置するシアルフィ男爵領に普段は滞在している。
地理に疎いウルドは、シアルフィ男爵領がノルン子爵領と接しているなどと知らず、スルーズはノルン子爵領がヴェルダンディの所有する領地だと知らなかった。
王都を立つ前にお互いがそのことを知り、スルーズはノルン子爵領へ遊びに行く宣言をしていたのだが、自身の到着早々に訪れてくるとはウルドも予想していなかったため、彼女の積極性に少々驚いている。
それでも迷惑がることもなく、ウルドは最短でスルーズと会うことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヴェルダンディ様、いきなり押し掛けてきてしまい、申し訳ございませんでした」
「わたくしは構わないのよ。でも、スルーズは久しぶりの実家でのんびりしなくて良かったの?」
「ノルン領はお隣でしたが、一度も来たことがなかったので、ヴェルダンディ様がいるのであれば行くしかないと思いました。なので、問題ないです!」
早速遊びにきたスルーズは、終始笑顔でウルドと相対している。可愛い妹分が笑顔でいると、ウルドもまた優しい気持ちになり、慈愛の笑みを深めた。
そして、家宰のナリに頼んでいた領内の視察は、翌日から出発となっていたので、スルーズも一緒に行くかと問うと、彼女は二つ返事で了承。
その結果、視察を兼ねた小旅行の予定となった。
スルーズとのお茶を楽しんだウルドは執務室に戻り、帳簿と睨めっこしている執事のバルドルに声を掛ける。
「暗号の解読はどう?」
「まだ完璧ではありませんが、大まかには判明しました」
「やっぱり、正式な帳簿と照らし合わせると分かり易かった?」
「そうですね」
バルドルにはヴェルダンディが書いていた冊子と、領主館にあった帳簿を使い、資金の流れを調査させていた。
ヴェルダンディの冊子は、彼女だけが分かる記号で記されていたため、大凡の検討はついていたが確信には至れなかったからだ。
「それと、やはり税収が減っております。大奥様が亡くなられた年は殆ど変化がありませんでしたが、翌年から徐々に減り、ここ二年はかなり厳しいことになっておりました」
「うーん、災害でもあったのかしら?」
「それは分かりかねます」
「そうなると、視察で確認するしかないわね」
王都にいる間にも、ノルン領の税収が減っていることは何となく分かっていた。しかし、大体が憶測であったため、現地にこないと判断ができなかったのだ。
また、領民はさておき、家臣がヴェルダンディをどう思っているのか知らないことも、ウルドの懸案事項の一つであった。
それらを確認するために、ウルドが領地に足を伸ばしたのは必然と言えよう。
過去にヴェルダンディがノルン子爵領を訪れたのは、まだ第二王子との婚約がなされていなかった九歳時が最後であった。それ即ち、『氷の魔女』と呼ばれて悪評が広まってから、一度も領に足を運んでいないということだ。
十歳時に婚約が決まり、その直後に祖母が亡くなり、間を置かずににノルン領の管理権を得たヴェルダンディだが、その頃から明るく朗らかな少女から、笑わない子へと変貌していたと言われている。
時期的に、婚約と祖母の死が近かったため、そのどちらが原因だったと思われているが、真実を知るヴェルダンディはもういない。
ただ一つ言えるのは、ノルン領の者が最後にヴェルダンディと顔を合わせた頃は、まだ悪評が広まる前であった、ということだ。
「バルドルから見て、ここの従者の反応はどう感じた?」
「誰もが強張っていたのは確かです。しかし、従者が主人に対して緊張するのは当然のこと。それを踏まえると、悪評の所為とは決めつけられません」
「その辺りも早急に調べたいわね」
「一刻も早くに信者を増やしますのでご安心を」
「…………」
ウルドが自身の評判を気にするのは、頂点に経つ者としての求心力も然ることながら、税収に違和感を覚えたからだ。
ヴェルダンディが賢かったことを知っているウルドは、彼女ならつまらないミスはしていないだろう、と確信めいた自信がある。
むしろ、そんなヴェルダンディですら税収を下げていたのは、天災による不運があったのだろう。仮にそうでなければ、人災であった可能性が高い。そう考えている。
だが、人災とは何か?
思い浮かぶのは、ヴェルダンディの悪評により忠誠心が下がり、生産力も下がったなど、ヴェルダンディ自身に起因する可能性。
そしてもう一点、着服や横領だ。
ウルドは前世で領地運営をしていた。しかし、ウルドは研究に没頭していたため、領地の舵取りは家臣に任せていたのだ。
その当時、税収が著しく減ったことがあり、調べたら着服している者がいたという苦い経験をしている。
過去にそのような経験があったため、一応はそれらも考慮し、推察しているのだ。
「何にしても、視察には時間が掛かるのだから、その間に調べられることは調べましょう」
「可能であれば、ヴェルダンディ様が信頼できる者を増やしたいですね。現状ではどうしても人手が足りません。洗脳するにも、ヴェルダンディ様に悪感情を持っていない方が楽ですので、その辺りを見極めるにも時間がかかります」
バルドルはトンデモ発言をしれっと言ってのけるので、ウルドは気が重くなる。
「洗脳とか怖いこと言わないでほしいのだけれど……」
「間違えました。信仰心を高める……でした」
「…………」
バルドルとの会話は疲れると判断したウルドは、冊子と帳簿を照らし合わせる作業に没頭することにした。
領地での生活は始まったばかりで、まだまだ分からないことだらけのウルドだが、分からなからこその遣り甲斐を感じ、楽しい生活ができそうだと希望に胸を膨らませる。
とはいえ、信者問題には一抹の不安を覚えずにはいられなウルドであった。
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