1 / 48
第1話 夢
しおりを挟む
俺は幼い頃から読書が趣味だ。
その影響だろう、度々読んだ物語に似た世界の夢を見ていた。
だからきっと、今も夢を見ているに違いない。
「クリスティーナ・フォン・クロイツァー。君との婚約を破棄する」
「殿下、なぜそんなことを仰るのですか?」
だがこれは明らかにおかしい。
西洋の宮殿的な舞踏会場のような場所で、見ず知らずの男女が婚約破棄がどうこう言い合ってるのは、俗に言う”婚約破棄”系物語のワンシーンだと思う。……が、俺はそれ系統の物語を試しに読んだことはあっても、眼前の男女の容姿や名前に覚えがない。
最近は異世界転生系の物語をよく読んでいるが、婚約破棄のシーンはどの物語にもなく、試し読みした程度の物語の内容などあまり覚えていなかった。
なのに、なぜこんなにも鮮明な夢を見ているのだろうか。
それにしてもこのご令嬢、僅かに青みがかったほぼ黒とも言える宵闇色の髪なのだが、髪型がツインテドリルだったりする。
所謂”悪役令嬢”なのだろうが、そういった髪型は金髪がするものだと思っているため、なんだか新鮮に思えた。
そして、血を連想させるような真紅の瞳が潤んでおり、思わず魅入ってしまうほど魅惑的に感じる。
一方の殿下と言われていた王子様的な男性もまた、濡羽色という言葉が似合う艷やかな黒髪だ。
如何にも西洋顔の王子様が、これまた金髪でないのはイメージに反するが、そういった世界観の物語なのだろう。
「クリス、君はエルーシアに随分と酷いことをしていたようだな」
王子様の隣にいるピンク髪の子がエルーシアで、きっとヒロインなのだろう。
ふるふる震えて、如何にも被害者ですという態度だ。
俺は常々思っていた。
婚約を破棄するということは、破棄する側も婚約者がいる状況なのだから、立場がどうであれ二股をしているクズなのではないだろうか、と。
そしてヒロインも、婚約者がいる男性に言い寄っているのだから、その行為もクズのすることだと思う。
なのに、ヒロンが王子様と結ばれると『幸せになって良かったね』などと思う人たちがいる。
その感覚が俺にはわからなかった。
とはいえ最近は、そんなクズ共にざまぁする物語が流行っているようだ。――読まないけど知ってた。
俺としても、それが正常だと思う。――だから試し読みしてみた。
それもあって、俺の目の前で繰り広げられている茶番は、悪役令嬢がざまぁする展開になってほしいのだが、悪役令嬢は衛兵に拘束されてしまった。
「君のお祖父様は度重なる失策もあり、宰相の座を降ろされた。今までのようにクロイツァー家の名でどうにかすることもできない。今回の沙汰は追って知らされると思うが、君は蛮族王ルドルフの元へ送られることになるだろう」
悪役令嬢は連行され行ってしまい、これで一件落着のようだ。
どうやら悪役令嬢の祖父が失脚したようなので、逆転はない模様。
俺としては、ヒロインではなく悪役令嬢に幸せになってもらいたかっただけに、非常に残念に思う。
それはそうと、俺の立ち位置はどうなってるんだ?
俺が見る夢は、常に登場する人物視点なのだが、今回は俯瞰で様子を見ている。
そもそも夢の中で、『俺は今夢を見ている』と思ったことはなく、目が覚めたら夢だったことに気づいていたのだ。
しかし今、俺は明らかに知らない世界にいて、夢を見ていると実感している。
全然意味がわからないんだが。
そんなことを思っていると、不意に意識が遠のいていった。
「――…………んぁ~あ……」
俺は今日も今日とてのんびりと目を覚ます。
そしてベッドの上でゆっくりと上半身を起こすと、背中にズキリとした痛みを感じた。
「なんで背中が痛いんだ? ってか、あれはやっぱ夢だったか。それにしても、あの物語は記憶にないんだよな」
そんなことを独りごちりながら寝ぼけ眼をこすると、視界の先に見覚えのない景色が広がっていた。
「ここ何処? え、何? 部屋の趣味は悪くないけど、こんな部屋知らねーぞ」
目に映ったのは、名門侯爵家の嫡男たる俺からすると、豪華さという点ではやや物足りない室内。
部屋の造り自体は無骨ながらも、質の良さそうな調度品が悪目立ちしないように飾られていて、俺好みの部屋ではある。
だが、俺の記憶にはない初見の部屋でもあった。
「侯爵家にこんな部屋あったっけ? ……ってか、侯爵家って何?」
俺はパニックに陥った。
なにやら記憶が錯乱しているのだ。
「落ち着け俺! ゆっくり記憶を遡れ!」
ヒッヒッフーと呼吸をし、息を整えながら記憶を整理する。
「俺は日本人……だった。 そうだ、俺は日本人だったんだ。でも――」
18歳の誕生日と高校卒業を控えた冬のある日、一対多という喧嘩とも呼べないリンチにあった。
川辺にいるだけでも凍えそうな気温の中、殴られて意識が朦朧としている状態で、俺は川へ突き落とされたのだ。
呼吸もままならず、動いてくれない体は無駄に感覚だけは研ぎ澄まされ、痛みや苦しさを嫌というほど感じさせたれた。
冷水の突き刺すような痛みや、すぐそこに見える水面に顔を出すことさえできない無力さは、本当に辛く苦しいものだった……。
「てっきりあれで俺の人生が終わったと思ったら、転生してたんだよな……」
凍えるような川の中で息絶えたはずの俺は、生まれたての赤子として目覚めた。
日本人時代の記憶を持ったまま。
「そうだ、俺は日本人から転生してたんだ。……ん、でもこの部屋は俺の知らない部屋だよな? あれ、転生してから俺はどうしてたんだっけ?」
俺は真剣に自身の記憶を探り、しばらくしてようやく思い出した。
愛読していた物語とは少し違う世界観だが魔法のある世界で、俺は名門侯爵家の次期当主たる嫡男として転生したのだ。
とはいえ、物語の主人公のような無双をしていたわけでもなければ、知識チートで何かを成したわけでもはない。
俺は名門侯爵家唯一の子として育ち、何不自由のない生活を送り、ただ怠惰に生き、日々を無為に過ごすだけだった。
だがそんな生活も、突如邸に現れた兵に拘束されたことで終わる。
王国の宰相である父と、国王の妹で侯爵家に降嫁してきた母は、あろうことか王位簒奪を目論んでいたらしい。
だがその謀は王家に筒抜けだったようで、何も知らない両親たちは泳がされており、行動を開始するやいなや、即座に鎮圧されたとのこと。
結果、連座で一族郎党が処罰されることとなり、何も知らなかった俺も、侯爵家の嫡男として処罰の対象となっていた……というわけだ。
独房に入れられた俺はそんな説明をされるも、自分は関係ないと暴れるが、殴られてあっさり気絶してしまう。
目を覚ますと、鉄柱に鎖で縛り付けられて処刑場に搬送されている最中だった。
またもや『何もしていない』と騒ぎ出した俺に対し、偉そうな風体の男が話しかけてきた。
『たしかに貴様は、貴族として何もしていない。しかし、人としてしてはならぬことをしていた。貴様は従者を道具のように使い、甚振り、時には死なせていた』
『従者は俺に従う者だ! 主の命令を全うできない者に仕置をして何が悪い!?』
『従者だからと何をしてもよい訳が無かろう。従者と言えど血の通った人間だ。感情を持った人間だということを、貴様はわかっていない』
『それがどうした!』
『貴様の両親の企みは、貴様の悪行と共に密告された。貴様の言う仕置に耐えかねた従者からだ』
『なっ?!』
『貴様は愚かだ。貴族家に仕える者なら誰もが盲目的に忠誠を誓い、己の命も惜しまず差し出す、そんな風に思っていたのだろう。だが実際は逆だ。従者は貴様に死んでほしいと願っていた。結果として密告という行動を起こし、こうして貴様は捕まり、処刑される。もっと積極的な者がおったら、貴様は邸で寝首をかかれていただろうな』
『……そ、そんな訳あるか!』
『一つだけ忠告してやる。民を蔑ろにする貴族に未来はない。民を慮り、民を守ることで、貴族は貴族として存在していられるのだ。仕えるに相応しいと思える主であれば、民は自らの意志で忠誠を誓う。貴様がすべきことは仕置ではなく、主として相応しいと認められるような努力だったわけだ』
『なぜ俺がそんな努力をしなければならない!』
『おっと、忠告も今更な話であった。貴様はこれから死ぬのだから、努力する必要などなかったな』
『ふ、ふざけるな! 俺は王位簒奪に加担していない! たしかに俺は従者に仕置をした。それは認めるが、殺されるようなことでもないだろうが?! それに俺はまもなく18歳になる。次期侯爵の権利を正式に得るんだぞ! そうなれば――』
『もういい、黙れ』
言葉を遮った男に殴りつけられ、俺はまたもや簡単に意識を飛ばしてしまう。
気絶してからどれくらい経ったのか不明だが、熱気にうなされた俺が意識を取り戻した。
鉄柱に括り付けられた俺の体は、王宮前広場に高く掲げられている。
しかも、足元のに置かれた可燃物から炎が燃え上がり、煤けた煙が立ち昇っている状況だ。
俺が現状に気づくと、思い出したかのように体が悲鳴を上げた。
五感に支障はないが、身動きの取れない状態で足元から轟々と立ち昇る炎に体を焼かれ、熱された鉄柱が背中を焼く。
酸素を求めて呼吸をしても、余計に苦しくなるだけの煙が肺を焼いてくる。
抗おうにも抗う術もなく、俺はじわじわと迫りくる死をただ受け入れるのみ。
本当に嫌だった。耐えきれなかった。『殺すならひと思いに殺してくれ』そう思うも炎と煙に蹂躙され、永遠とも感じられる地獄のような責め苦を味わった末に、俺は再び命を落とした……はず――
「なのにどうして……どうして俺は生きているんだ?」
当然の疑問が俺の脳内を埋め尽くす。
「もしかして俺は、二度目の転生をした、のか?」
すると――
その影響だろう、度々読んだ物語に似た世界の夢を見ていた。
だからきっと、今も夢を見ているに違いない。
「クリスティーナ・フォン・クロイツァー。君との婚約を破棄する」
「殿下、なぜそんなことを仰るのですか?」
だがこれは明らかにおかしい。
西洋の宮殿的な舞踏会場のような場所で、見ず知らずの男女が婚約破棄がどうこう言い合ってるのは、俗に言う”婚約破棄”系物語のワンシーンだと思う。……が、俺はそれ系統の物語を試しに読んだことはあっても、眼前の男女の容姿や名前に覚えがない。
最近は異世界転生系の物語をよく読んでいるが、婚約破棄のシーンはどの物語にもなく、試し読みした程度の物語の内容などあまり覚えていなかった。
なのに、なぜこんなにも鮮明な夢を見ているのだろうか。
それにしてもこのご令嬢、僅かに青みがかったほぼ黒とも言える宵闇色の髪なのだが、髪型がツインテドリルだったりする。
所謂”悪役令嬢”なのだろうが、そういった髪型は金髪がするものだと思っているため、なんだか新鮮に思えた。
そして、血を連想させるような真紅の瞳が潤んでおり、思わず魅入ってしまうほど魅惑的に感じる。
一方の殿下と言われていた王子様的な男性もまた、濡羽色という言葉が似合う艷やかな黒髪だ。
如何にも西洋顔の王子様が、これまた金髪でないのはイメージに反するが、そういった世界観の物語なのだろう。
「クリス、君はエルーシアに随分と酷いことをしていたようだな」
王子様の隣にいるピンク髪の子がエルーシアで、きっとヒロインなのだろう。
ふるふる震えて、如何にも被害者ですという態度だ。
俺は常々思っていた。
婚約を破棄するということは、破棄する側も婚約者がいる状況なのだから、立場がどうであれ二股をしているクズなのではないだろうか、と。
そしてヒロインも、婚約者がいる男性に言い寄っているのだから、その行為もクズのすることだと思う。
なのに、ヒロンが王子様と結ばれると『幸せになって良かったね』などと思う人たちがいる。
その感覚が俺にはわからなかった。
とはいえ最近は、そんなクズ共にざまぁする物語が流行っているようだ。――読まないけど知ってた。
俺としても、それが正常だと思う。――だから試し読みしてみた。
それもあって、俺の目の前で繰り広げられている茶番は、悪役令嬢がざまぁする展開になってほしいのだが、悪役令嬢は衛兵に拘束されてしまった。
「君のお祖父様は度重なる失策もあり、宰相の座を降ろされた。今までのようにクロイツァー家の名でどうにかすることもできない。今回の沙汰は追って知らされると思うが、君は蛮族王ルドルフの元へ送られることになるだろう」
悪役令嬢は連行され行ってしまい、これで一件落着のようだ。
どうやら悪役令嬢の祖父が失脚したようなので、逆転はない模様。
俺としては、ヒロインではなく悪役令嬢に幸せになってもらいたかっただけに、非常に残念に思う。
それはそうと、俺の立ち位置はどうなってるんだ?
俺が見る夢は、常に登場する人物視点なのだが、今回は俯瞰で様子を見ている。
そもそも夢の中で、『俺は今夢を見ている』と思ったことはなく、目が覚めたら夢だったことに気づいていたのだ。
しかし今、俺は明らかに知らない世界にいて、夢を見ていると実感している。
全然意味がわからないんだが。
そんなことを思っていると、不意に意識が遠のいていった。
「――…………んぁ~あ……」
俺は今日も今日とてのんびりと目を覚ます。
そしてベッドの上でゆっくりと上半身を起こすと、背中にズキリとした痛みを感じた。
「なんで背中が痛いんだ? ってか、あれはやっぱ夢だったか。それにしても、あの物語は記憶にないんだよな」
そんなことを独りごちりながら寝ぼけ眼をこすると、視界の先に見覚えのない景色が広がっていた。
「ここ何処? え、何? 部屋の趣味は悪くないけど、こんな部屋知らねーぞ」
目に映ったのは、名門侯爵家の嫡男たる俺からすると、豪華さという点ではやや物足りない室内。
部屋の造り自体は無骨ながらも、質の良さそうな調度品が悪目立ちしないように飾られていて、俺好みの部屋ではある。
だが、俺の記憶にはない初見の部屋でもあった。
「侯爵家にこんな部屋あったっけ? ……ってか、侯爵家って何?」
俺はパニックに陥った。
なにやら記憶が錯乱しているのだ。
「落ち着け俺! ゆっくり記憶を遡れ!」
ヒッヒッフーと呼吸をし、息を整えながら記憶を整理する。
「俺は日本人……だった。 そうだ、俺は日本人だったんだ。でも――」
18歳の誕生日と高校卒業を控えた冬のある日、一対多という喧嘩とも呼べないリンチにあった。
川辺にいるだけでも凍えそうな気温の中、殴られて意識が朦朧としている状態で、俺は川へ突き落とされたのだ。
呼吸もままならず、動いてくれない体は無駄に感覚だけは研ぎ澄まされ、痛みや苦しさを嫌というほど感じさせたれた。
冷水の突き刺すような痛みや、すぐそこに見える水面に顔を出すことさえできない無力さは、本当に辛く苦しいものだった……。
「てっきりあれで俺の人生が終わったと思ったら、転生してたんだよな……」
凍えるような川の中で息絶えたはずの俺は、生まれたての赤子として目覚めた。
日本人時代の記憶を持ったまま。
「そうだ、俺は日本人から転生してたんだ。……ん、でもこの部屋は俺の知らない部屋だよな? あれ、転生してから俺はどうしてたんだっけ?」
俺は真剣に自身の記憶を探り、しばらくしてようやく思い出した。
愛読していた物語とは少し違う世界観だが魔法のある世界で、俺は名門侯爵家の次期当主たる嫡男として転生したのだ。
とはいえ、物語の主人公のような無双をしていたわけでもなければ、知識チートで何かを成したわけでもはない。
俺は名門侯爵家唯一の子として育ち、何不自由のない生活を送り、ただ怠惰に生き、日々を無為に過ごすだけだった。
だがそんな生活も、突如邸に現れた兵に拘束されたことで終わる。
王国の宰相である父と、国王の妹で侯爵家に降嫁してきた母は、あろうことか王位簒奪を目論んでいたらしい。
だがその謀は王家に筒抜けだったようで、何も知らない両親たちは泳がされており、行動を開始するやいなや、即座に鎮圧されたとのこと。
結果、連座で一族郎党が処罰されることとなり、何も知らなかった俺も、侯爵家の嫡男として処罰の対象となっていた……というわけだ。
独房に入れられた俺はそんな説明をされるも、自分は関係ないと暴れるが、殴られてあっさり気絶してしまう。
目を覚ますと、鉄柱に鎖で縛り付けられて処刑場に搬送されている最中だった。
またもや『何もしていない』と騒ぎ出した俺に対し、偉そうな風体の男が話しかけてきた。
『たしかに貴様は、貴族として何もしていない。しかし、人としてしてはならぬことをしていた。貴様は従者を道具のように使い、甚振り、時には死なせていた』
『従者は俺に従う者だ! 主の命令を全うできない者に仕置をして何が悪い!?』
『従者だからと何をしてもよい訳が無かろう。従者と言えど血の通った人間だ。感情を持った人間だということを、貴様はわかっていない』
『それがどうした!』
『貴様の両親の企みは、貴様の悪行と共に密告された。貴様の言う仕置に耐えかねた従者からだ』
『なっ?!』
『貴様は愚かだ。貴族家に仕える者なら誰もが盲目的に忠誠を誓い、己の命も惜しまず差し出す、そんな風に思っていたのだろう。だが実際は逆だ。従者は貴様に死んでほしいと願っていた。結果として密告という行動を起こし、こうして貴様は捕まり、処刑される。もっと積極的な者がおったら、貴様は邸で寝首をかかれていただろうな』
『……そ、そんな訳あるか!』
『一つだけ忠告してやる。民を蔑ろにする貴族に未来はない。民を慮り、民を守ることで、貴族は貴族として存在していられるのだ。仕えるに相応しいと思える主であれば、民は自らの意志で忠誠を誓う。貴様がすべきことは仕置ではなく、主として相応しいと認められるような努力だったわけだ』
『なぜ俺がそんな努力をしなければならない!』
『おっと、忠告も今更な話であった。貴様はこれから死ぬのだから、努力する必要などなかったな』
『ふ、ふざけるな! 俺は王位簒奪に加担していない! たしかに俺は従者に仕置をした。それは認めるが、殺されるようなことでもないだろうが?! それに俺はまもなく18歳になる。次期侯爵の権利を正式に得るんだぞ! そうなれば――』
『もういい、黙れ』
言葉を遮った男に殴りつけられ、俺はまたもや簡単に意識を飛ばしてしまう。
気絶してからどれくらい経ったのか不明だが、熱気にうなされた俺が意識を取り戻した。
鉄柱に括り付けられた俺の体は、王宮前広場に高く掲げられている。
しかも、足元のに置かれた可燃物から炎が燃え上がり、煤けた煙が立ち昇っている状況だ。
俺が現状に気づくと、思い出したかのように体が悲鳴を上げた。
五感に支障はないが、身動きの取れない状態で足元から轟々と立ち昇る炎に体を焼かれ、熱された鉄柱が背中を焼く。
酸素を求めて呼吸をしても、余計に苦しくなるだけの煙が肺を焼いてくる。
抗おうにも抗う術もなく、俺はじわじわと迫りくる死をただ受け入れるのみ。
本当に嫌だった。耐えきれなかった。『殺すならひと思いに殺してくれ』そう思うも炎と煙に蹂躙され、永遠とも感じられる地獄のような責め苦を味わった末に、俺は再び命を落とした……はず――
「なのにどうして……どうして俺は生きているんだ?」
当然の疑問が俺の脳内を埋め尽くす。
「もしかして俺は、二度目の転生をした、のか?」
すると――
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
辺境領の底辺領主は知識チートでのんびり開拓します~前世の【全知データベース】で、あらゆる危機を回避して世界を掌握する~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に転生したリューイは、前世で培った圧倒的な知識を手にしていた。
辺境の小さな領地を相続した彼は、王都の学士たちも驚く画期的な技術を次々と編み出す。
農業を革命し、魔物への対処法を確立し、そして人々の生活を豊かにするため、彼は動く。
だがその一方、強欲な諸侯や闇に潜む魔族が、リューイの繁栄を脅かそうと企む。
彼は仲間たちと協力しながら、領地を守り、さらには国家の危機にも立ち向かうことに。
ところが、次々に襲い来る困難を解決するたびに、リューイはさらに大きな注目を集めてしまう。
望んでいたのは「のんびりしたスローライフ」のはずが、彼の活躍は留まることを知らない。
リューイは果たして、すべての敵意を退けて平穏を手にできるのか。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる