後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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十、あなただけの暗殺者

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 寅の刻を過ぎた頃、まだ外は薄暗い。
 皆寝静まっており、外にいるのは数少ない門番や見回りだけだ。
 彼らは翠玉と暁嵐の姿を見ると、足を止めて頭を下げた。
 翠玉が向かったのは、後宮の中腹部にある書庫だった。
 だが、目的地はその裏側、書庫の建物の影になった部分だ。
 翠玉が足を止めると、暁嵐もそれに従った。

「凛玲が受け取った、手付けがここにあるはずよ」

 暁嵐は暗殺の詳細について、すべて翠玉から聞いている。
 だから今から翠玉がなにをするのか、大体予想はついた。

「掘り出すのか? じゃが、このような特徴のない場所で、どこに埋めたかわかるのか?」
「わかるわよ、ここの部分だけ、少し赤土が混じってるでしょ、その下だって」

 暁嵐は目を細めて見てみるものの、まったく違いがわからない。
 ただでさえ辺りが薄暗いのに、同じ土しか見えなかった。

「……まったくわからぬ」
「まぁ、わかられたら困るからね」

 翠玉は夜目が利く上、微妙な違いを見分けることができる。
 請負人から実行人へ、こうして依頼料が渡っていき、新たな暗殺者の育成費用となるのだ。
 翠玉は右腕の衣の袖を上げると、指の先を尖らせて、目印の土にすっと刺し込んだ。
 柔らかな菓子に鋭利な刃物を刺し込むよう、翠玉の手は滑らかに土に埋まっていく。
 肘の辺りまで土が来くると、翠玉は中にあった丸く硬いものを摘んだ。
 そしてゆっくりと持ち上げると、腕を引き上げた。
 翠玉の人差し指と親指が挟んでいたのは、瞳ほどの大きさの楕円形をした蒼玉だった。

「さすが、お金持ちね……これ、どうする?」

 薄闇に光を帯びる稀石に、暁嵐はふんと鼻を鳴らした。
 自分を殺すために元妻が献上したものなど、見ていて気持ちのいいものではない。

「返さずともよい、戻しどころもないゆえ」
「じゃあ、これと一緒にしまおうかしら、元は凛玲の報酬だしね」

 翠玉は上げていた袖を直すと、巾着を持った方の手で、衣の帯から小瓶を取り出した。
 小指ほどの大きさの、透明なガラス瓶には、白っぽい粉が入っている。
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