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十、あなただけの暗殺者

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 そんなやり取りをする中、ふと暁嵐は翠玉の手元に目をやった。
 丸い机に置かれた針と糸から、縫い物をしていたことがわかる。翠玉の手には、布袋のようなものがあった。

「ところで、なにを作っておったのじゃ?」

 暁嵐に聞かれた翠玉は、完成したものを見つめた。桃色の小花を刺繍した、小さな巾着袋。

「……知りたいなら、ついて来る?」

 翠玉は後ろを振り向くと、暁嵐を見上げて言った。
 すると暁嵐は二つ返事で頷き、二人で扉に向かった。

「いいわよ、司馬宇はここで待っといて、陛下には私がついてるんだから、大丈夫でしょ?」

 ついて来ようとする司馬宇に、翠玉がふふんと余裕の表情で言った。
 暁嵐本人も強靭な上、暗殺女王が一緒となれば、命の心配はまずないだろう。
 司馬宇は美雨や雲嵐の件について、暁嵐から事情を聞かされていた。
 そのため暗殺に関することかもしれないと察し、仕方なく譲ることにした。

「……今だけだぞ」
「ふふ、また後でね」

 翠玉は司馬宇にひらひら手を振ると、扉を開けて外に出る。

「翠風様、お出かけですか?」

 扉の横には、枕里が待機していた。
 翠玉に言われ先に休んでいた枕里だが、輿の音に気づいて急いで着替えて出てきたのだ。
 そして驚くべきことに、この枕里は、翠玉の正体を掴みかけていた。
 翠玉が暗殺に出かけた深夜、枕里は翠玉の部屋を訪れていたのだ。
 翠玉の屋敷のすぐそばにある、小さな部屋で寝泊まりしている枕里は、体調が悪いと言っていた翠玉が気になり、様子を見に行った。
 しかし屋敷の中には、翠玉の影も形もなかった。
 翠玉のことだから、なにか考えがあって行動したのかもしれないと思った枕里は、朝まで様子を見ることにした。
 するとその朝に、美雨と雲嵐が遺体で発見されたわけだ。
 細かい経緯や手口など、枕里にはなに一つわからないが、もしかしたら翠玉が、事を収めるために……やったのではないかと思った。
 それ以来、枕里の翠玉への憧れは加速し、最強の推しへと進化を遂げた。

「ええ、すぐに帰ってくるから、枕里は茶菓子でも用意しといてくれる? 枕里と、司馬宇の分もね」
「承知いたしましたあっ! 行ってらっしゃいませっ!」

 暁嵐が来る時間によって、食事や間食の時間も変わる。
 女官や宦官に同じ食事を与える、そんな変わり者の皇妃は翠玉くらいだろう。
 枕里は翠玉の指示に目を輝かせると、頭を深々と下げて二人を見送った。
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