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九、任務遂行
四
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雲嵐はまったく動揺しなかった。
むしろ暁嵐と美雨を見つけると、自ら進んで近づいていった。
翠玉も雲嵐の後に続くと、四人は旺玖院の道で向かい合う形で立ち止まった。
「これはこれは、兄上と皇后様、お散歩ですか?」
雲嵐は秋風を凌ぐほどの、爽やかな面持ちで声をかけた。
まるで一点の曇りもないかのような、堂々とした振る舞いだ。
これでは疾しいことはないと、勘違いしても不思議ではない。
弟に話しかけられた暁嵐は、微笑み返しながら答える。
「ああ、天気がよいのでな、散歩がてら、皇太子たちのところに顔を出すつもりじゃ」
「それはよいですね、父上と母上が来てくださったら、皇太子たちも喜ぶでしょう」
今更ながら、この二人は父であり、母でもある。楊国の次の皇帝になるであろう、皇太子たちの親で、国父と国母なのだ。
しかし、どうやらその自覚があるのは、暁嵐だけのようである。
「……二人で、なにをしていたの?」
美雨は明らかに翠玉の方を見ながら聞いた。
すると翠玉は両手を前で揃え、軽く頭を下げた。
「華殿で少しお話を」
「そう……ずいぶんと親しいようね」
にこやかだが、瞳の奥は笑っていない。
そんな美雨には目もくれず、雲嵐は暁嵐だけを見ていた。
「翠風殿は見目麗しいだけでなく、演舞のような素晴らしい特技をお持ちで、その上察しもよい……兄上が寵愛されるのも頷けます、実に魅力的な女性ですね」
翠玉は低い姿勢のまま、チラッと美雨を見上げる。
すると彼女は信じられないといった様子で、見開いた目に雲嵐を映していた。
美雨にあてつけるように、翠玉を褒め称える雲嵐。
そんな様子に、翠玉の中にある疑惑が、確信になりつつあった。
雲嵐の美雨への気持ちは、とっくに冷めきっているのではないか。
いや、そもそもそこに、情があったかも怪しいと。
「そうであろう、翠風はわしが認めた、わしだけのおなごじゃからな」
考えを巡らせる翠玉をよそに、暁嵐はあえて「わしだけ」を強調して言った。
翠玉は自分の女だと、改めて主張しているのだ。
自信たっぷりに笑う暁嵐に、余裕の微笑で応える雲嵐。
二人の間には、静かな火花が散っているように見える。
その様子を後方で見ていた枕里は、いろんな意味でドキドキしていた。
あんなすごい殿方に取り合いされるだなんて、やっぱり翠風様はすごいと、一人で変な興奮状態にあった。
むしろ暁嵐と美雨を見つけると、自ら進んで近づいていった。
翠玉も雲嵐の後に続くと、四人は旺玖院の道で向かい合う形で立ち止まった。
「これはこれは、兄上と皇后様、お散歩ですか?」
雲嵐は秋風を凌ぐほどの、爽やかな面持ちで声をかけた。
まるで一点の曇りもないかのような、堂々とした振る舞いだ。
これでは疾しいことはないと、勘違いしても不思議ではない。
弟に話しかけられた暁嵐は、微笑み返しながら答える。
「ああ、天気がよいのでな、散歩がてら、皇太子たちのところに顔を出すつもりじゃ」
「それはよいですね、父上と母上が来てくださったら、皇太子たちも喜ぶでしょう」
今更ながら、この二人は父であり、母でもある。楊国の次の皇帝になるであろう、皇太子たちの親で、国父と国母なのだ。
しかし、どうやらその自覚があるのは、暁嵐だけのようである。
「……二人で、なにをしていたの?」
美雨は明らかに翠玉の方を見ながら聞いた。
すると翠玉は両手を前で揃え、軽く頭を下げた。
「華殿で少しお話を」
「そう……ずいぶんと親しいようね」
にこやかだが、瞳の奥は笑っていない。
そんな美雨には目もくれず、雲嵐は暁嵐だけを見ていた。
「翠風殿は見目麗しいだけでなく、演舞のような素晴らしい特技をお持ちで、その上察しもよい……兄上が寵愛されるのも頷けます、実に魅力的な女性ですね」
翠玉は低い姿勢のまま、チラッと美雨を見上げる。
すると彼女は信じられないといった様子で、見開いた目に雲嵐を映していた。
美雨にあてつけるように、翠玉を褒め称える雲嵐。
そんな様子に、翠玉の中にある疑惑が、確信になりつつあった。
雲嵐の美雨への気持ちは、とっくに冷めきっているのではないか。
いや、そもそもそこに、情があったかも怪しいと。
「そうであろう、翠風はわしが認めた、わしだけのおなごじゃからな」
考えを巡らせる翠玉をよそに、暁嵐はあえて「わしだけ」を強調して言った。
翠玉は自分の女だと、改めて主張しているのだ。
自信たっぷりに笑う暁嵐に、余裕の微笑で応える雲嵐。
二人の間には、静かな火花が散っているように見える。
その様子を後方で見ていた枕里は、いろんな意味でドキドキしていた。
あんなすごい殿方に取り合いされるだなんて、やっぱり翠風様はすごいと、一人で変な興奮状態にあった。
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