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九、任務遂行

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 雲嵐はまったく動揺しなかった。
 むしろ暁嵐と美雨を見つけると、自ら進んで近づいていった。
 翠玉も雲嵐の後に続くと、四人は旺玖院の道で向かい合う形で立ち止まった。

「これはこれは、兄上と皇后様、お散歩ですか?」

 雲嵐は秋風を凌ぐほどの、爽やかな面持ちで声をかけた。
 まるで一点の曇りもないかのような、堂々とした振る舞いだ。
 これでは疾しいことはないと、勘違いしても不思議ではない。
 弟に話しかけられた暁嵐は、微笑み返しながら答える。

「ああ、天気がよいのでな、散歩がてら、皇太子たちのところに顔を出すつもりじゃ」
「それはよいですね、父上と母上が来てくださったら、皇太子たちも喜ぶでしょう」

 今更ながら、この二人は父であり、母でもある。楊国の次の皇帝になるであろう、皇太子たちの親で、国父と国母なのだ。
 しかし、どうやらその自覚があるのは、暁嵐だけのようである。

「……二人で、なにをしていたの?」

 美雨は明らかに翠玉の方を見ながら聞いた。
 すると翠玉は両手を前で揃え、軽く頭を下げた。

「華殿で少しお話を」
「そう……ずいぶんと親しいようね」

 にこやかだが、瞳の奥は笑っていない。
 そんな美雨には目もくれず、雲嵐は暁嵐だけを見ていた。

「翠風殿は見目麗しいだけでなく、演舞のような素晴らしい特技をお持ちで、その上察しもよい……兄上が寵愛されるのも頷けます、実に魅力的な女性ですね」

 翠玉は低い姿勢のまま、チラッと美雨を見上げる。
 すると彼女は信じられないといった様子で、見開いた目に雲嵐を映していた。
 美雨にあてつけるように、翠玉を褒め称える雲嵐。
 そんな様子に、翠玉の中にある疑惑が、確信になりつつあった。
 雲嵐の美雨への気持ちは、とっくに冷めきっているのではないか。
 いや、そもそもそこに、情があったかも怪しいと。

「そうであろう、翠風はわしが認めた、わしだけのおなごじゃからな」

 考えを巡らせる翠玉をよそに、暁嵐はあえて「わしだけ」を強調して言った。
 翠玉は自分の女だと、改めて主張しているのだ。
 自信たっぷりに笑う暁嵐に、余裕の微笑で応える雲嵐。
 二人の間には、静かな火花が散っているように見える。
 その様子を後方で見ていた枕里は、いろんな意味でドキドキしていた。
 あんなすごい殿方に取り合いされるだなんて、やっぱり翠風様はすごいと、一人で変な興奮状態にあった。
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